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令和のオタク女子大生が西暦2000年に転生したら借金少女だったので歌舞伎町で働きます  作者: 昼夜兼行


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15ー3 街から人が消えた? ニワカづくりのスポーツバー

すみません、ちょっと長くなってしまいました。

「な〜に~!? ミユはベッ〇ムの試合を見てきたのか!?」

「イングランド対スウェーデン?」

「ベ〇カム?」

「よくチケット取れたな?」


 ざわざわざわざわ……。


 6月に入って最初の月曜日。ウチの店『ピンクシャドウ』のバックヤードは少々かしましい。ニワカファンでも、ベッカ〇は見たいもんね。


「昨日は健斗お兄ちゃんの誕生日で、バースデーデートだったの」


 あっ、健斗お兄ちゃんというのは、ミユちゃんの恋人・広石健斗さんね。めっちゃラブラブなのよ、ムカついちゃう。


「あ~、男かよ」

「いいなぁ、ミユは……」


 羨望と、ため息。ウチのお姉さま方は私生活が寂しい。まあ、私生活が寂しいから、この仕事をしているとも言えるけど。

 私も他人のことは言えない。

 まったく……リア充爆発しろっ!


「それにしても、ヒマだな」

「ですね……」


 夜7時を回った。開店時間は過ぎている。普段なら美由ちゃんが、のろけ話をしているヒマなんかないハズなのに、お客さんが来ない。


「ねえ、美由ちゃん、今日は日本戦ないよね?」

「日本戦は明日かしら?」


 日本戦がなくても、この静けさ。さすがにヤバいかもしれない。何か考えなきゃ!

 お客さんが来ないのはテレビでサッカーを見ているからだ。じゃあ、サッカーが見られたら、店にくるんじゃないだろうか?

 そういえば、日本のスポーツバー文化は2002年のワールドカップから始まったって、誰かの動画配信で見たなぁ……。思い出すのが遅いよ、私。でも、まだ間に合う。やれば、できる!


「店長ーっ!」


 緊急提言が通った。とりあえず、ドン〇にダッシュだ。

 テレビを買うのよ。この時代のテレビはブラウン管が主流。液晶テレビもあるんだけど、まだ高いし、サイズも小さい。とりあえず……28型でいいか。店員さんに聞いたら、在庫があるというので2台買う。


「テレビは買えたかしら?」


 接続に必要なケーブルや分配器を買っていたら、美由ちゃんがボーイの中野くんを連れて来てくれた。買ったテレビを二人がかりで台車に積み込んでいく。ブラウン管テレビって重いのよ。美由ちゃんが力持ちで助かった。力こそパワーだね〜。


 店に戻ってテレビの接続していたら、舞さんに話しかけられた。ヒマらしい。


「アオイは器用だな。えーと、あれだ、『ツナグくん』だ」

「なんですか、それ?」

「テレビやビデオ、オーディオとか面倒じゃん、配線とか? そういう接続を『つないでくれる』男な。アオイも、アッシーとか、メッシーとか、聞いたことないか?」

「はぁ……」

「おいおい、舞。アオイは20歳だぞ。そんな古い話、わからないと思うぞ」


 絵里奈さんが参戦してきた。どうやら昔話らしい。ゴンギツネかな?


「いつごろの話なんですか?」

「何年くらい前だろうね。平成に入って、スグくらいか?」

「小学校に入ったくらいですよ、私」

「さすがにそれじゃ、わかんないよな」


 いや、実際には生まれる遥か昔のことだよ。碧唯としての私は、今(2002年)ですら生まれる前だからね……。


「おっ、映った!」

「試合やっているじゃん」


 イタリア対エクアドル戦が始まっていた。


「札幌ドームですか!?」

「おお、札幌ドームだ。キレイな会場だなぁ」

「あ、ええ……」


 なんだか複雑な気持ちになってしまった。これから札幌ドームに訪れる未来を知っているのよ、私。サッカーの国際大会というのも、罪作りだよね……。


 ◆◇◆


 テレビも設置完了。ウチの店『ピンクシャドウ』は、ニワカづくりのスポーツバー状態になった。

 というわけで、今日の私は区役所通りに立っている。


『本日、日本戦』

『テレビ見れます』


 大急ぎで作ったよ宣伝ボード。厚紙にマジックで書いた。ウチの店が入っているビルの前で呼び込みよ、呼び込み!


「アオイさん、こんなんで効果あるんですか?」

「ある、きっとある、いや、あると信じて、やるのよ聖羅!」


 サッカーのユニフォームを着た女子が「ワールドカップ見れるよ」と呼び込みをしているのだ。お客さんの一人や二人、キャッチできる……と思うのよ。


「なんだアオイ、客引きか?」

「おはようございます、姐さん!」


 子分を連れたキヨミヤだった。


「今日は早いな、まだ6時前だろ?」

「日本戦のキックオフに合わせたの! ヒマでしょ、寄ってよ?」

「オレまだメシ食ってないし、これから、こいつとメシ行くんだよ」

「じゃあ、ウチで食べていきなよ」

「高いだろ、おまえんところ……」


 ぶつくさ言っているキヨミヤ一行2名を連行した。


「おっ、ちゃんとテレビを置いてスポーツバーみたいだな」

「昨日やったのよ突貫で」


 口開けの客だったので、一番テレビが見やすいテーブルに案内した。サービスだよ、キヨミヤ。試合終了まで延長しておくれ。サービス残業、大歓迎だよ。


「ねえ、キヨミヤの店は忙しくないの?」

「うん? ウチはサッカー中継が終わる夜11時以降が本番だからな。それに、こういう事態を想定してな、わざわざサッカー大会なんかやってエサを撒いたんだよ」

「な、なるほど……!」


 アレって、そういう意図もあったのね。

 赤い人も言ってたよ「戦いとは、いつも二手三手先を考えて行なうものだ」って。さすがキヨミヤ。通常の3倍の早漏だけのことはある。見直しちゃったよ。


「おーっ、来てるじゃん!」


 なぜか舞さんがヘルプにやってきた。キヨミヤの子分の隣に座る。子分の顔色が悪い。なんか気まずそうな雰囲気。キヨミヤの顔を見た。


「うん……まあ、そういうことだな」


 食われたのか。ご愁傷様。

 エロい人界のエロ担当による強制的なイチャイチャが始まったけれど、それは見ないことにしよう。キヨミヤとテレビを見ながら、ピザをつまむ。


 少しずつお客さんも入ってきている。通りで客引きをしていた聖羅も、サラリーマンを捕まえて入ってきた。まもなくキックオフだ。


 試合が始まった。一進一退の攻防だ。

 いつもならイチャイチャしてくるキヨミヤが真剣にテレビを見ている。いや、キヨミヤだけじゃない。ほかのテーブルのお客さんも同じだ。エロい店だということを忘れてテレビを見ている。


 前半を0-0で折り返した。

 なんか空気が重い。


「おしいところまで行くけど、点が入らないね。

「チャンスはあったんだがな……」


 あれ? 舞さんとキヨミヤの子分がいない。キョロキョロしていたら、ボーイの中野くんがVIPを指さしてた。あっ……そういうことね。はい、はい。


 後半が始まった。

 10分くらい経過したところで、ベルギーが先制。


「なに、今の?」

「オーバーヘッドキックだよ!」


 うわあ、名前は聞いたことあるけど、初めて見たよ。サマーソルトキックみたいで、かっこいいね……って、感心している場合じゃない。先制されちゃった。どうなるの、負けちゃうの? 結果を知らないのよ、私。未来人なのに。だって、サッカーに興味なかったんだもん。


 先制された直後だった。日本の18番からのロングパスが、ベルギー守備の裏をついた。


「いけ!」


 キヨミヤが吠える。フォワードの選手の足が……届いた。ボールが転がる……入ったぁ!


 オオオオオオオオッ!


 ふだんウチの店では聞こえないような歓声が響いた。なんか、楽しいね!

 さらに後半20分過ぎ。

 パスを受けてドリブル。そのまま左足でシュート! 日本が勝ち越した。


「勝てるぞ、初勝利、イケるぞ!」

「えっ、初勝利?」

「日本はワールドカップで勝ったことがないんだ。というか、今回でワールドカップに出るのが2回目だからな」

「そうなの?」

「なんだ……アオイはサッカーに詳しくないとは聞いたけど、ホントに何も知らねえなぁ」

「アハハッ、そうなの……うん」


 たしかに詳しくないのは、その通りなんだけど、ちょっと違うのよ。私だってスポーツニュースくらいは見るからね。ただね、私が知っている日本代表はワールドカップの常連。アジアでは敵ナシ。女子なんか世界一になっているのよ。

 う〜ん……この時代の日本は弱かったのね。サッカーにも歴史アリだね。


「うぁぁ〜。やられたぁ……」


 キヨミヤが、がっくりしている。後半30分くらい。ベルギーがゴール。同点に追いつかれた。そのまま、試合終了。引き分けに終わった。


「まあ、引き分けだけど、よくやった。勝ち点はゲットしたんだ」


 パチパチパチパチ……。


 客席から拍手がわき出した。

 ありがとう日本、がんばれ、次も応援するよ。


 しかし……なんの店なんだウチは? 全然エロくないじゃん。エロい店なのに。


「じゃあ、アオイ。オレらは仕事にいくわ、お~い」

「は……はい」


 舞さんに連行されてキヨミヤの子分が戻ってきた。なんかゲッソリしている。サッカーの試合は長いからね。舞さんは、たっぷり若さを吸収できたみたい。お肌にツヤが出ている。


 店先までキヨミヤを送った。

 サッカー中継が終わったせいか、街を歩く人が増えた気がする。

 

「ありがとね、キヨミヤ」

「こっちこそ、この間、スゲーもらっちまったからな」

「ふふっ……持ちつ持たれつでしょ?」


 若手1人あたり1万円計算で20万円にしたけど、ひょっとして包みすぎだったかな? ホストの推し活相場がわからんのよ……。


「じゃあな、埋め合わせは今度」

「期待しないで、待ってるね」


 区役所通りを歩いていく背中に、私は軽く手を振った。

次回もワールドカップの話です。



筆者からの、お願い


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