14ー3 ママの初仕事とコスプレとMMORPG元年
作中の時間は2002年4月ですが、2002年は日本のMMORPG元年でした。5月に『F○11』がコンシューマー機でサービス開始、11月からはPC版もサービス開始します。12月からは『ラグ○○クオンライン』もスタート。本格的なMMORPG時代が始まります。
ママの初仕事が決まった。事務所に入ってスグなのに、仕事がもらえたのよ。イベントの司会だって。すごいじゃん!
というわけでイベントがある日曜日、ママの仕事を見学に秋葉原に来たよ。
この時代に来て初の秋葉原。恥ずかしながら初体験よ。
令和の私も秋葉原は数えるほどしか来たことがない。だから今昔を比較できるほど詳しくはないんだけど……。
(なんじゃこりゃぁー、どこの国の街じゃぃぃ!?)
私の知っている日本じゃない……。
まず駅の雰囲気からして不穏。外に出たら雑然とした感じ。大きなビルはないけど、ケバい看板。歌舞伎町とは違う意味で、街がカオス。
私の本拠地・新宿とは山手線の反対側。ここにもヤバい街があったわ……。
会場は家電量販店の8階、イベントスペース。すでに100人以上のお客さんが詰めかけていた。
「チンホーオンラインプレゼンツ、MMORPGコスプレコンテストぉー!」
パチパチパチパチパチ……。
会場は前のほうが一段高くなってステージになっている。芸人さんかな? ハデなジャケットの男性、続いて……ママだ! ゲームキャラのコスプレ……ギリシア神話系? 露出多すぎ。おっぱい出ちゃいそう! エロいよ〜。コンプラ的に大丈夫?
「アシスタントのユイで~す」
ママが前かがみのポーズをとる。カシャカシャカシャ! 一斉にカメラのシャッター音が鳴り響く。
なるほど……。新人のママに仕事が来たのは、こういうことね。声優としての評価でもらった仕事じゃないみたいだけど、仕事は仕事よ。がんばれ、ママ。ボインボインなのも才能なんだから!
「ねえユイちゃん、『MMORPG』って何かわかる?」
「えむえむおーあーるぴーじー? なんだろ~」
「MMORPGっていうのはね、たくさんのプレイヤーが同じ広大な世界で同時に冒険するオンラインRPGなんだよ」
「すっご~い」
うん……ママって、こういうアホっぽいキャラが意外と似合う。新たな発見だね。しかも、お客さんにウケてる! だってもう、カメラを持った輩がママを撮りまくっているもん。とりあえず、私も撮っておこう。ママの晴れ姿だ。210万画素のコンパクトデジカメだけど、光学3倍ズームが付いている。
がんばれママ、人気者への道のりは長いぞ!
「それでは、みなさんお待ちかねコスプレコンテストだ〜っ!」
「エントリーナンバー1番……」
ゲームキャラクターの衣装を着た女性。いわゆるビキニアーマーだ。この子もボインボイン。素人っぽくない。どこかの事務所のタレントさんかな?
カシャカシャカシャ!
カメラを持った輩が撮りまくっている。けっこうフィルムのカメラも現役だ。カメラマンの小山さんが使っているような一眼デジカメは、まだまだ一般レベルでは普及していないのかな?
コンテストというわりに出場者は5人。全員が一通りポーズを極めたあとは、モニターに向かってゲームを始めた。ゲーム画面が壁にプロジェクターで映し出される。
「さあ、5人の戦いはゲームの中に突入しました〜。いきなり魔法が出ました。大爆発ぅ~」
ママが実況している。ただのエロい人じゃなくて、声優としての評価もあったじゃん! なんか……がんばれママ!!
◆◇◆
「チンホーの広報、服部と申します」
「唯依の友人で佐藤です」
1時間ほどでイベントは終了。私は広報のお姉さんと名刺を交換した。
30歳くらいの人かな? 100人規模とはいえ、現場を仕切っているんだからすごい。私もこういう、しっかり仕事ができる女になりたいね。
「郷田商会さん……ですか?」
「輸入雑貨や古着を販売しております。最近ウチで扱っている香りのポプリなんですが、いかがですか?」
すかさずサンプル商品を手渡す。夜の店で培った腰の低さ、思い知るがいい!
「当社携帯サイトの通販でご購入いただけます……」
携帯でウチの店の通販サイトを見せる。顧客一人ゲットだぜぇ!
「こういうコスプレイベントは、よくやるんですか?」
「そうですね。まだ日本ではMMORPG自体が浸透していないんで、エッチなコスプレでもしないと人が集まらないんですよ」
へぇ〜。今(2002年)だと世間に浸透していないのか。じゃあ、まだ「ネトゲ廃人」もいないんだ。平和だね……うん? 逆にいうと、これからネトゲ廃人が出ちゃうくらい爆発的に流行るんじゃん!
あら、じゃあ、このお姉さんも出世するかも? 仲良くしておこう。
「これウチのゲームのチラシです。よかったら、お店に置いてください」
「はい……」
う〜ん、なんだろう、これうまいこと商売につなげられないかなぁ……。帰ったら社長に相談しよう。
ついでだ、コスプレコンテストに参加した女性陣もサンプルを配っちゃおう。しっかりと通販サイトの宣伝をしなきゃ!
地味な無地のカットソーを着ているけど、エロいビキニアーマーだった子だ。私と同じくらいの歳かな?
「あのビキニアーマーって、際どかったですね」
「このくらいは余裕だよ。普段の水着は、もっと布面積が小さいもん」
わぁ……そういう世界なんだぁ。芸能って大変だね。
「ああいう衣装を着てゲームをすると、燃えるっていうか、入り込んじゃう。自分が主人公になった感じ? 楽しかったかなぁ」
「なるほど……そうなんですね」
いい話だ。私も豹のマスクをかぶって戦おう。あ、格ゲーね!
なんというか、没入感? ゲームの世界に入って出られなくなるアニメが大ヒットしたくらいだもん。出られなくなるのはイヤだけど、ゲームの世界に入れたら楽しいに決まっている。
あれ? そういえば原作が連載を開始したのって2002年だったかも? 今まさにMMORPG元年じゃん!
「まったく……葵ったら、私の応援に来たと思ったら会社の営業?」
「これが社会人というヤツよ。ねえ、このあとヒマ? ご飯でも行こう」
「う~ん、この衣装を返しに行かないといけないのよ……」
「どこ? タクシー出そうか?」
「いいの! 助かる~」
タクシーを拾って10分程度。言問通りから一本裏手に入ったところ。事務所……というよりも倉庫みたいな建物だった。看板も出ていない。
「おつかれさまで〜す、ケンスケプロダクションの小野寺で〜す。衣装をお返しに来ました~」
しばらくして「はーい」という声。奥からエプロン姿の女性が出てきた。30手前くらいかな? キレイなお姉さんだった。
「えーと、衣装のパーツは……全部あるわね。汚れも……ない。キレイに使ってくれたみたいね」
「ありがとうございました」
ペコリと唯依が頭を下げる。よし、そこに便乗だ。サッと名刺を差し出す。
「あの、すみません。私、こちらの唯依の友人なんですが、衣装に興味がありまして……」
「社長室付き企画経営補佐……お若いのに?」
「いえいえ、小さな会社ですから」
よくわからない謎の肩書だけど、なんとなくハッタリが効く。大事だね、肩書。
ここで、すかさず携帯の通販サイトを見せちゃおう。
「へぇ~、すごいもんだね」
「いちおう、実店舗も中野と高円寺、吉祥寺にございまして……」
お姉さんが興味をもってくれた。ああ、私、詐欺師の才能ありそう。
名刺をもらった。話を聞くに、ここはハンドメイドでコスプレ衣装を作っている工房らしい。
あれ? なんか社名に記憶があるなぁ……。令和の私の記憶だよ。
え〜と……あっ、私が小学生の時にダンスの発表会の衣装を作ってくれた会社だ!
「ありがとうございます、その節は大変お世話になりました」
「はっ?」
いかん、心の声が出てしまった。えーと、えーと、えーと……あっ、ごまかそう!
「唯依がお世話になりました、どうも……」
「いえいえ、仕事ですから」
ごまかせた? ごまかせたよね??
とりあえず……残っている香り付きポプリを全部渡しておこう。賄賂だわっしょい!
チンホーオンラインは台湾企業、『清浩線上娛樂股份有限公司』の日本法人という設定です。
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