14ー2 二刀流(意味深)と動き出した新たな店の計画
しばらく新店関係の話が続きますが、お付き合いください。
4月。新年度になった。
今年(2002年)は平成14年度。この時代に来たのは平成12年度だったから、月日が流れるのは早いものだね……。
月頭といえば、この人。借金取りの田中さんだ。
西新宿の喫茶店。私が出した、今月の返済分を数えている。
「今日の返済で残りは……1227万7161円か。あと2年で完済ってところかな」
「う~ん、なかなか減らないなぁ……」
「はっはっはっ……、こんなハイペースで返しているのは佐藤さんくらいだよ。もう少し自信持ってもいいぜ」
そう言われてもねぇ……。借金なんか、とっとと返して自由になりたいじゃん。私、借金返済がなければ、かなりのリッチガールだと思うのよ。おなかいっぱい食べたいじゃん、回らない寿司とか!
「あ、そうだ……。新しい名刺ができたんだ。はい、田中さん」
「ほう、社員になったのかい?」
田中さんは、私の新しい名刺を眺めている。
「給料は上がるのかい?」
「額面は増えそうだけど、いろいろ引かれて……手取りは同じくらい?」
「そうか……。でも、まあ身分の保証があるってのは、いいことだ。佐藤さんは、しっかりと自分の居場所を作ったね」
「自分の居場所、ですか?」
「ほら、この名刺。昼間の仕事。本名だろ? もう佐藤さんは、夜の街を渡り歩く根無し草じゃないってことさ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんだよ。世の中の人は、そんなもんが欲しくて必死になるのさ。じゃあな、また来月」
田中さんは席を立った。
私も行こう。会社に顔を出さなきゃ……。これが居場所ができたってことか。あれ? 私って給料据え置きのまま、仕事が増えて忙しくなっただけでは!?
やられたー!
◆◇◆
「アオイくん……いや、佐藤さん?」
会社に顔を出したら、社長が私の呼び方で迷っていた。
「アオイでいいですよ」
「そうか、じゃあ、アオイくん」
私は「佐藤葵」だけど、中身は「大工原碧唯」。だから「アオイ」と呼ばれるのが落ち着く。「佐藤」と呼ぶのは借金取りの田中さんだけにしてほしい。
「これから物件を見るんだ。一緒に行こう」
「物件?」
「新しい店を出そうと思ってね」
「ああ……。高円寺ですか、中野ですか?」
「歌舞伎町。セクシーパブの2号店を出すんだよ」
社長にくっついて新宿を歩く。行き交う人が道をあけてくれる。
ウチの社長は顔が怖い。ビンテージデニムに、黒の開襟シャツとモノトーンのスカジャン。着てる服からしてカタギに見えないのよ。
まあ、そう言っている私も社員割引で買ったスカジャン。けっこう似合うんだよ、私。葵ちゃんはヤンキー娘だからね〜。
私と社長は歌舞伎町の中を闊歩する。ずんずん歩いて、区役所通りと花道通りの交差点を超えた。あのゲームの主人公みたい。気分は一馬か一番だよ。
「おう、ここだ」
「このビル……ですか?」
住所的には歌舞伎町2丁目。新宿バッティングセンターの近くだった。
歌舞伎町といっても、私たちのような夜の女が働く店は1丁目に集まっている。2丁目はラブホテルやホストクラブなどが多い地域だ。
「場所的には、ちょっと微妙ですよ」
「だから空き箱が出てくるんだろうな。とにかく中に入ろう」
少し古めのビル。裏口へ回る。管理人事務所で社長がカギを借りた。
店の物件は4階らしい。エレベーターで上っていくと看板が見えた。「隠れ家ダイニング」「しゃぶしゃぶ割烹」と書かれている。
「なんですか、この店?」
「大人向けというコンセプトで、プライベート感を重視する作りにした店だ。まあ、なんだ……ちょっと仕切りをつけて個室感を出して、ボッたくろうって考えたんだろうな」
「元も子もない言い方ですね……」
たしかに店内は見通しが悪い。窓から差し込む光が、柱や間仕切りで陰になっている。 こういう半個室みたいな雰囲気はセクシー系の店に合うかもしれない。
「なんで閉店したんでしょうね?」
「狂牛病じゃないか?」
「あ……雪〇の牛肉偽装事件! やってましたね、テレビで」
「あんな大きな会社がつぶれるんだ、しゃぶしゃぶ屋だって閉店するさ」
店内を見て回った。だいたい運び出せるものは撤去されている。残っているのは大きなテーブルや椅子など、重くてかさばる物くらいだ。厨房を見ると、調理器具も持ち去られている。やっぱり、残っているのは大型調理台など運び出せないものだけだった。
「何も残っていませんね」
「ひどいもんだな、居抜きってワケにはいかんな」
そういえば体験入店した『イクっのほそみち』で店長が言ってたっけ。機材は持ってかれた後で何も残っていなかったって。やっぱり、そんなものなんだね……って、あれ? これってレンチンOKの案件じゃん!
「片づける手間が省けたと考えましょう」
「やっぱり前向きだな、アオイくんは。連れてきた意味があったよ。この店のコンセプト。アオイくんに考えてほしい」
「……えっ?」
なんか、エラい仕事を押し付けられた気がする。
「それ、給料出ますか?」
「出すよ、一応」
「一応ですかーっ!」
「これがアオイくんを社員にした理由だからね。がんばってくれたまえ。あっ、もちろん残業手当と休日出勤手当は出すよ」
う〜っ、やっぱり仕事だけ増えて給料増えないパターンだった。ウチの会社は蟹工船かな?
まあ、いいや……いや、よくない。よくないけど、仕事だ。ヤリたいじゃん、楽しそう。
ズルいよなぁ、大人って。私がヤリたがるのわかって話をしているもんね。
「受けますけど、どうなっても責任取りませんよ」
「責任は俺がとる」
はいはい……。まあ、肩書に恥じない仕事はしようと思う。「社長室付き企画経営補佐」? なんだかわからない肩書だけどね。
まあ、せっかくできた私の居場所だ。楽しい居場所にしてやろうじゃないの!
eP.46で社長が言った「手伝ってほしいこと」は新店でした。かなり早い時期から社長は、葵に目をつけていたんです。
筆者からの、お願い
みなさんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどが力になります。
続きを書くためにも、どうか評価をよろしくお願いします。




