13ー3 古着のモデル撮影と、思いがけない糸口
おしゃれな古着屋さんが多い高円寺の街。
郷田商会が経営する『fool G』は、そんな古着屋さんの一軒です。
朝から高円寺に来ている。古着の通販用の撮影だ。
高円寺駅の南口。商店街の中ほどにウチの会社がやっている古着屋がある。
え〜と、店名は……『fool G』。
フールジー……ダジャレだったよ。
カシャッ、ピピピピ……。カシャ、ピピピピ……。
所せましと服が並ぶ店内の一角に照明が立てられて、臨時の撮影スペースになっていた。
私は今回、モデルじゃない。カメラマンの小山さんについて、撮影アシスタントみたいなことをしている。簡単に言えば、小間使いだ。
モデルになっているのは、絵里奈さんと舞さん、聖羅、杏奈っち。
かわいい系は聖羅、20~30歳向けは杏奈っち。30代向けは舞さん。おば……じゃなくてミセス向けは絵里奈さんが着て写真を撮る。
カシャッ、ピピピピ……。カシャ、ピピピピ……。
カメラの前で聖羅がポーズをとる。カラフルでポップな1960年代ファッション。聖羅はアイドル好きだから、かわいいポーズをとりたがる。でも、ゴメン、今回は服が主役だ。服がよく見えるようなポーズをしてくれ。
「はいOK、次の服~」
「ほーい。絵里奈さん出番で~す、お願いしま~す」
「あいよー!」
聖羅と入れ替わって、絵里奈さんがカメラの前に立つ。
同じように1960年代ファッションだけど、なんだろう、もろに昭和だ。違和感なさすぎだよ絵里奈さん!
撮影が終わった聖羅は、古着屋のお姉さんから次の服を渡され着替える。脱いだ服には、撮影番号とデータを書き込んだタグが付けられて、ハンガーに並んでいく。
今日の撮影は、この繰り返し。夕方までに1人10パターンくらい撮影しなきゃならない。カーテン仕切りの試着ブースはあるけど狭い。モデルの4人は、そのへんで普通に脱いで着替えることになる。
というか、舞さんが下着姿でウロウロしているんだけど……。
「アオイーぃ、腹減った~」
「朝ごはん食べてないんですか、舞さん?」
「あったり前じゃん、午前中だぞ? 普段なら、まだ私は寝てるんだ。早起きしてきてやったんだからメシくらい食わせろよ~」
まったく、このエロい人は、性欲だけじゃなくて食欲も旺盛なんだから……。
「いやあ、撮影は順調かな?」
社長がやってきた。おしゃれなレザージャケットだけど、顔が怖いせいで反社にしか見えない。両手にいっぱいマ〇クの袋を提げている。
「そろそろ昼メシだろ? マ〇ク買ってきたぞ」
「おおっ社長、いいところに!」
古着屋のお姉さんが、折り畳みのテーブルを出してくれたので、マッ〇の袋をドンッ、ドンッと置く。これ、何人分? めっちゃ量多いじゃん……あっ! この間、美由ちゃんがハンバーガーをドカ食いしたせいだね、たぶん。
「はい、じゃあ、午前の撮影は、ここまで〜。お昼休憩にしまーす!」
「よっしゃ~、メシだ、メシぃ!」
「おい、舞、なんか着ろよ。社長も来てるんだ」
さすが絵里奈さん。エロい人界の常識人だ。でも、絵里奈さんの注意も上の空で、舞さんはビッグ〇ックに食らいつく。
ひょっとして……性欲モンスターって、みんな食欲モンスターなの?
◆◇◆
「へ~、声優っていうのは学校を出たあと、オーディションで事務所に入るんだ」
「卒業公演がオーディションを兼ねているんです」
ランチタイムの話題はママの声優学校の話になった。ママから聞いた声優学校のシステムを、みんなに説明している。卒業公演でお芝居と歌を見せて、事務所とかレコード会社からのスカウトを待つ。声優学校は、そんなシステムになっているようなのよ。
「なるほど、いわゆるスター誕生システムだな」
「スター誕生システム?」
「昔テレビで放送していたオーディション番組だよ」
絵里奈さんの言葉に舞さんと社長が頷いている。古着屋のお姉さんも頷いた。お姉さん意外と年上なのね……。
「じゃあ、どこの事務所にも入れなかったら無職になるのか?」
「そうなんです、それが問題なんですよ……」
今は就職氷河期だ。令和の時代に大学の講義で習ったけど、就職氷河期の中でも最悪だったのが2002年。つまり、今年だよ、今年! 大卒就職率が55%。大卒でも二人に一人しか就職できないんだから、声優科卒のママが就職するのは難しいと思うのよ。
このままいけばママは無職になる。でも、無職だからといってママを見捨てるパパではない。だからママは結婚して専業主婦になった。
う〜ん、令和の我が家の謎は解けた……けど、謎が解けても問題は解決しない。
「無職になったら通販の発送で雇うか。アオイくんのおかげで、だいぶ忙しくなってきたからな……」
おっ、社長。ありがたいねぇ……というか、そのくらいの貸しはあると思うのねん。
「いやあ、アオイの友達だったら、ウチの店でいいんじゃね? 巨乳なんだろう? 絶対に人気出るぞ!」
「ちょっと舞さん! 唯依は結婚前提の彼がいるんですよーっ!」
さすがはエロい人界のエロ担当。言うことが違う。面構えが違う。
でも、ママなら人気者になりそうな気も、ちょっとするんだよね~。
「今の話なんですけど……」
隅っこで話を聞いていたカメラマンの小山さんが口を開いた。
「えっ、巨乳の話か? いつでも撮っていいぞ。なんなら脱ぐぞ」
「いいえ、そっちじゃなくて声優の話なんだけど……僕、声優雑誌で撮影してるんですよ」
「えっ!? 声優に詳しいんですか?」
「僕はカメラマンだから詳しいワケじゃないけど、編集部の人なら詳しいから相談してみたらどうかな?」
声優雑誌! そうだ、この時代にも声優雑誌があったんだ。創刊30周年の号を読んだんだよ、令和の私。何年前だっけなぁ……って、令和の時代に30周年ってことは、もちろん2002年の今も存在しているじゃん。これは大チャンス!?
「紹介していただけますか!」
「いいよ。お店に連れていったらいいかな?」
「はい。マ……その、声優になりたい親友、唯依を連れて来るので、よろしくお願いします」
あ、なんか、つながった気がする。
なんとか、しよう。未来の私のためにも!
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