13ー1 新春ドッキリ? えっ、パパの就職先ってバキさんの会社!?
2002年最初の営業は1月4日だった。イッテンヨン、ドームに行けないじゃん。暗黒期前、最後のドームなのよ。今年は大量に退団するんだから……。見たかったなぁ、生で。
というか、私の未来知識って偏りすぎでしょーっ! 役に立たないじゃん……。
さてさて、新年一発目の出勤。最初の仕事は、店宛に届いた年賀状の仕分け。控室のテーブルに、輪ゴムで束ねられた年賀状がドサッと置かれていた。
正直、驚いた。年賀状が山盛りになっている。
年賀状って、こんなに届くものなんだ!
「おう、アオイ、ミユ、ぼーっとしてないで仕分けるぞ」
ドン、ドン、ドン……と、絵里奈さんが私の前にハガキの束を置いた。1000枚どころの話じゃない。2000枚とか3000枚あるんじゃない?
「とりあえず、店宛と店長宛は一緒でOKな。あとは、個人名で分ける。もう居ない子宛も届くから、わからないのは別にしといて」
「ほーい」「はい」
3人で黙々と仕分けをする。
業者さんからの年賀状が多い。酒屋さん、おしぼり業者、清掃、ドレスショップ、スカウト、求人誌、案内所……。聞いたこともない会社がほとんだ。年賀状とは名ばかりで、ダイレクトメールみたいなもの?
個人宛は業者からというより、お客様からが多い。令和のようにSNSなんてないからね。私らキャストがお客さんに年賀状を書きまくるのよ。その返事が届くってわけ。
「絵里奈さんは何枚くらい年賀状を出したんですか?」
「私か? 客宛だと200枚くらいだな」
昭和から業界に居るだけのことはある。仕分けていても絵里奈さん宛が多いもん。
「お前らは何枚出したんだ?」
「私は100ちょっとかしら?」
「私なんか50枚だよ……」
がんばって書いたつもりなんだけど、私なんかザコだったよ。年賀状なんて、スマホのスタンプでチョイだったから、手書きでハガキって難しいのねん。
「あ、みなさん仕分けをすみません」
仕分けを続けていると、店長がやってきた。壁にA3の紙を貼る。月頭恒例の売り上げ成績の発表だ。
「12月の1位はミユさん、2位はアオイさん、3位は絵里奈さんでした。あとで賞金を渡しますすので事務所に来てくださいね」
「おい店長、ちょっと待った。売り上げトップ3に年賀状の仕分けをさせていいのかよ。普通こういうのは、もっと若い子がやるだろ?」
「……まだ、他の子が来てませんし」
「ちっ、みんな正月ボケかぁ……」
「絵里奈さん、そこは私たちが働き者がトップ3だと思いましょう」
「おっ、やっぱりミユはいいこと言うね。さすがナンバーワンだ」
実際のところ、ほかの子たちが遅いのは帰省したりしているから。正月休み明けだもん、ゆっくりになっちゃうのは仕方ないよね。
私と美由ちゃんは帰る場所がない。なんなら一昨日から社長にコキ使われていたから、普通に早く来ちゃった感じ。絵里奈さんも、私たちと似たような境遇なのかね?
「あけおめ~って、なんだよ年賀状の仕分けかよっ」
舞さんがやってきた。舞さんは売上4位だ。やっぱり働き者の順だったのか……。
渋々ながら舞さんも仕分けに入って、30分ほどで作業が終わった。
「ほい、これアオイ宛な」
「ありがとうございます、絵里奈さん」
輪ゴムで止めたハガキの束を渡された。50枚くらいかな?
う~んと、小野寺唯史/依子。仙台のおじいちゃん、おばあちゃんだね。まあ、葵からしたら親切な近所のおじさん&おばさんだけどね。田中容一? うわぁ、借金取りの田中さんか! ママからは……ないな。そういうところだよ、ママ!
大工原真治。おお、パパだ。なになに「就職先が決まりました。株式会社BAKIAという最先端のモバイル……」。
はぁぁっ!?
◆◇◆
土日を挟んで月曜日、バキさんが社員を引き連れて来てくれた。
年末年始は8連休だったらしい。なんたるホワイト企業。正月2日から私をこき使うウチの会社とは大違いだね。
「アオイ殿、あけましておめでとうござる」
「あけおめでござる~」
当社担当(!)の野本くんを筆頭に、若くて元気ビンビンな社員さんたちをVIPに連行。もちろん私はバキさんの隣だよ。
「で、バキさん! ちょっと聞いてもいい?」
「なんで、ござろうか?」
「バキさんの会社の入社内定者の中に、私の知り合いがいるんです。『大工原真治』さんといって、私の親友の彼氏で、たぶん……いえ、確実に結婚する感じの人なんです」
「左様でござるか……」
バキさんは考え込むように腕を組んだ。
「では、あれでござるな、アオイ殿の親友の婚約者となれば、この店に連れて来ぬほうが良いでござるかな……」
「あっ……ありがとうございます」
予想外の返答だった。そういうつもりで聞いたんじゃなかったけれど、たしかにパパがこの店に来ちゃったら気まずい。ナイス配慮よ、バキさん!
「あの……ひょっとして私の知り合いだから採用しました?」
「それはござらん。アオイ殿の知り合いだとは今、初めて知り申した。大工原くんは拙者の大学の直系の後輩。学生時代の恩師から優秀な学生がいると推薦されたのでござる」
「バキさんも理工学部の大学院なんですか!」
「いや、拙者は学部卒でござる。わが社としては初の院卒。大工原くんには期待しておるでござるよ」
なんかパパの評価が高い。だよねー、だよねー。小さい会社とはいえ令和の時代は社長だもん。優秀なんだよ、パパ。もう、なんでパパは私のパパなんだろう? そうじゃなかったら、ママじゃなくて私が結婚したいよ。ぐっすん。
う〜ん……でも、気になるなぁ。パパは私が中学生だったときに起業したんだけど、その前の会社ってBAKIAじゃなかったのよ。なんかもっと長い社名だった気がする。私のせいで、本来の歴史では就職するハズじゃなかったバキさんの会社に就職したのかも?
私、また何かやっちゃいました?
……と、ボケている場合じゃない。今回に関しては、本当にわからないのよ。とりあえず、パパにも話を聞いてみなきゃ!
次回は「ガサ入れ」です。
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