12ー1 帰る場所がある人は幸せなんだと思う。帰る場所がなくても幸せはあると思う
葵というか碧唯は格闘技が好きなワケではありません。碧唯が好きなのは格闘ゲームです。プロレスが好きなのは、父親の真治の影響です。
今年(2001年)12月は28日が金曜日。官公庁や多くの企業が28日で仕事納めだった。ウチの店『ピンクシャドウ』は29日(土)が仕事納め。30日(日)から1月3日(木)までお正月休みとなった。
♪ビーー、ビーー、ビーー、ビブベー
ママからのメールだ。なになに『仙台の両親に何を買ってったらいい?』。おみやげねぇ、ちゃんと今年は買って帰るんだ。去年は買って帰らなかったから、進歩はしているね。えらい、えらい……って、上から目線じゃダメじゃん。未来のママ、親だよ一応。
たしか去年の私は仙台に帰省する店長の車で……。そうか、去年は『ZUNDA』で働いていたんだ。ずいぶん昔のような気がする。いろいろあった気がするけど、まだ1年だよ。
まあ、いいや。とりあえず返事しておこう。
『アパート近くの壺〇の和菓子。あそこ美味しいからいいんじゃん』メール送信~。
しれっと住宅街にあるけど、江戸時代から続く老舗なのよ。仙台のおじいちゃん&おばあちゃんは甘い物が好きだから喜ぶよ、きっと。
「葵ちゃん、今年は仙台に帰らないのかしら?」
「今年は帰らないよ。だって仙台に家なんてないもん。去年は住民票の問題とかあって帰っただけよ」
「そっか、葵ちゃんも家なき子なのね……」
「そういう美由ちゃんは広石さんとこに行かないの?」
「健斗お兄ちゃんは山口の実家に帰省。昨日の夕方、飛行機で帰ったって」
飛行機といえばキヨミヤが成田だった。まあ、空港の地元だけど飛行機どころか、成田エクスプレスで1時間半だけどね。そういえばバキさんも飛行機で帰省するって言ってたなぁ。九州の……どこだっけ? ちゃんと聞いておけばよかった。
「みんな帰る家があるんだね……」
「いいわね……帰る家がある人は」
私と美由ちゃん、お互いの顔を見る。
目と目があった。手と手を取り合う。
「夫婦水入らずで過ごそうね」
「私は夫かしら、妻かしら?」
「両方……」
唇が重なった。長い長いキス。
思い起こせば初めてキスをした時も美由ちゃんからだった。私が好きな以上に美由ちゃんは、私のことが好きなのかもしれない。
じゃあ、じゃあ、じゃあ、なんでさー男と付き合っちゃうのよ……。
「ねえ、美由ちゃんは私と広石さん、どっちが好きなの?」
「えっ……葵ちゃんは好きっていうよりも、特別な人かしら?」
「特別?」
「だって、こんな仕事よ? 私、男なんて何人キスしたか覚えていないもん。でも女の子は葵ちゃんだけ。世界で一人。特別な人……それが、葵ちゃん」
「特別なんだ、私。う~ん……ケーキは別腹みたいな?」
「ふっ……ふっふふ、それはちょっと例えが違うんじゃないかしら?」
「だよねー、だよね~っ」
おもわず笑ってしまった。でもねー、でもねー、私、甘くておいしいの〜。ケーキみたいにおいしいの。いっぱい、いっぱい、食べてね美由ちゃん。
◆◇◆
美由ちゃんにアヘアヘさせられていたら、大みそかになっていた。
美由ちゃんって、ホントは男なんじゃないかな? 時々そんな気がする。ベッドの上の振る舞いが男にしか見えないの。もうL字型が身体と一体化しているし、男認定してもいいよね?
で、大晦日の夜といえば何? 正解は格闘技中継。
知ってた? この時代ってね、大みそかは格闘技中継なんだよ! 今年(2001年)は、さいたまスーパーアリーナから生中継。というわけで美由ちゃんと二人、テレビを見てるってわけ。美由ちゃんは格闘技が大好きだ。やっぱり、男なんじゃないかな?
「おおおおおっーっ! なんで引き分けなのぉぉ!」
横で美由ちゃんが騒いでいる。気持ちはわからんでもない。第1試合から第4試合まで引き分け判定なのよ。文句を言いたくもなる。
第5試合はエキシビジョンでプロレスの試合。大会名・番組名になっている偉大な御方が登場した。私が中学生の時に他界された方なので、試合が見られるのは貴重だ。というか尊い。だって私の誕生日は12月3日。1・2・3なのよ。テレビに向かって「ダーッ!」しちゃったよ!
でも、紅白仮面って何?
「ねえ美由ちゃん、年越しそば、カップ麺でいいよね?」
「うわぁ~、秒殺かよ」
まるっきり話を聞いてないね。美由ちゃんは試合に夢中だ。テレビではプロレスラーがキック一発で倒されていた。〇田さんっ……。
まあ、いいや。お湯を入れよう、緑のた〇き。どん〇衛派じゃないのよ。
そばを食べながらメインイベントを見る。
メインイベントは元お相撲さんのプロレスラーとフランスのキックボクサーの闘い。下馬評では圧倒的に不利だったプロレスラーが大逆転。ギロチンチョークで勝った。
「や〇だーっ! よくやったよ」
リング上で娘を肩車して男泣きする姿。美由ちゃんも感動したみたい。
「葵ちゃ~ん!」
ガシっと美由ちゃんに抱えられた。そのままベッドに連行される。
「うぎゃぁぁーっ、お゛え゛ぇぇっ!」
……って、ギロチンチョークはやめれ! マジあぶない。
ホント、やることがガキんちょ。美由ちゃんは男じゃなくて「男の子」じゃん。中2だよ。
「だ・か・ら、テレビで見た技をやらない!」
趣も情緒も何もない年越しになったよ。
なんか、2002年も騒がしい年になりそう……。
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