11-1 初恋の人と恋のキューピッド。あ、私じゃないよ~
ご都合主義です。
10月に入った。
月の頭といえばウチの店『ピンクシャドウ』恒例、先月の売り上げランキング発表だ。
バックヤードの壁に結果が張り出されている。
8月は負傷欠場の影響で1位どころかトップ3から陥落した美由ちゃんだけど、9月は1位に返り咲いていた。2位は絵里奈さん。なんと私も3位に入ったのよ!
「アオイが3位か、やるなぁ! なんか火事のあと落ち込んでいたから心配したけど、頑張ってるじゃないか」
「あの時は絵里奈さん、ありがとうございました」
「もう大丈夫なのか? 私らもニュースを見て、思うところがあったからね……。まあ、心配とか不安があったら相談にのるからな!」
絵里奈さんは面倒見のいい先輩だ。私のことも気づかってくれている。なんというか、ウチの店のママさんみたいな感じかな? ママさんにしてはエロいし、肉食系過ぎるけどね〜。
「そういえば、アオイは社長賞もらうの初めてだよな。賞金出るぞ」
「賞金って、いくら出るんですか?」
「3位だと3万円だな」
「あぁぁ……、はい」
ビミョーな金額だった。でも、1位は10万円、2位は5万円だってさ。10万円は大きいよね。私も10万円もらえるように、がんばろう!
◆◇◆
その日の夜は、バキさんが来てくれた。
10月なので私のセーラー服も衣替え。紺の長袖にしたよ。紺色のセーラー服に赤いスカーフ。これは……スケバン? いや、少女コマンドーだ。少女コマンドーAOIじゃん! わかってくれる、バキさんなら、たぶん。
「バキさ~ん」
「アオイ殿、セーラー服でござるか。これは……反逆同盟ですかな?」
(そっちかーい!)
バキさんは若い社員と、もう一人、初めて見る男性を連れてきていた。20代後半くらいかな? いい身体をしている。絵里奈さんや舞さんが舌なめずりしちゃうくらいの、さわやかな男前だ。
「バキさん、そちらのお客様は?」
バキさんに抱き着いて、小声で聞いた。バキさんの取引先で、どこかの出版社の人らしい。じゃあ、聖羅に付いてもらおう。若手社員は新人の涼子でもいいかな? 目で二人に指示をしておこう。
「アオイ殿の3位にカンパーイ!」
「バキさんのおかげだにょ~」
いや、ホント。バキさんのおかげ。一人じゃなくて何人か連れてきてくれるもん。神様、仏様、バキ様でござるよ〜。
私がバキ様を拝んでいると、ボーイの中野くんがやってきた。
私? あ、違うみたい。
「大変恐縮なのですが、こちらの聖羅に他のお席からお声がかかりまして……。お出かけさせていただいてもよろしいでしょうか?」
聖羅に指名か〜。聖羅も人気が出てきてよかったね。お姉さんうれしいよ。あっ、同い年だけどね。
「広石殿、よろしいかな?」
「あ、僕は大丈夫です」
バキさんが確認してくれた。いい身体の人は広石さんっていうのか、覚えておこ〜。
「じゃあ聖羅さん、移動お願いします」
中野くんに促されて聖羅が席を立った。
「聖羅がんば~、ピース」
「ピース」
ふっ……かわいいヤツめ。今度は私が本物のピースを教えてあげよう。本物はね「アヘ顔Wピース」っていうんだよ〜。
インカムでやり取りしていた中野くんが、私の横に来た。そっと耳打ちする。
「代わりのヘルプ、ミユさんが空いているみたいなんで、入ってもらいます」
「えっ、いいの? ミユちゃんだよ!」
「そこはBAKIA様ですから……」
バキさんのほうをチラっと見る中野くん。
この対応は私の顔を立ててくれた形だ。途中でヘルプが抜ける。でも、代わりに付くのがウチのナンバーワンとなれば失礼にならない。それどころか私の株も、私を侍らせているバキさんの株も上がっちゃうって話。
中野くん、グッジョブ!
「当店ナンバーワンのミユでございます」
ほどなくして美由ちゃんが到着。
「ミユです。よろしくお願いしま……」
はっ?
なんか、美由ちゃんがフリーズしている。
何、何、何? 美由ちゃんってマイ〇〇ソフト製OS?
「け……健斗お兄ちゃん!?」
美由ちゃんは、いい身体ニキを見つめている。えーと……広石さんだっけ? ケントお兄ちゃん? 美由ちゃん、兄弟いたっけ??
「美由です……美心飯店の美由です!」
「……あああっ! 大きくなったね~」
「うん……」
美由ちゃんが目を閉じた。涙がこぼれて頬を伝う。
「私……大きくなりました」
ちょっと、ちょっと、ちょっと! なに、この展開? 急にどうしたのよーっ!?
◆◇◆
「なんと広石殿は、ミユ殿の初恋の人でござったか!」
「はいっ、憧れの健人お兄ちゃんですっ!」
いい身体ニキ改め、健斗お兄ちゃんの隣に美由ちゃんが座っている。
近い、近い、近〜い! ちょっと距離が近すぎますよーっ! 腕をつかんでピトっとか……あなた、美由ちゃん、そんなキャラじゃないでしょ? なに急に甘えん坊の妹キャラになってるのよーっ!?
「で、広石殿とミユ殿は、どこで知り合ったのでござるか?」
「僕が昔バイトをしていたコンビニ近くにあった中華料理店のお嬢さんなんです」
「広石殿がバイトとなると大学生でござるかな? じゃあミユ殿は、まだ……」
「私は小学生でした」
「……広石殿、それは犯罪でござろう」
「もう〜バキさん、そんなのじゃありませんよ。本当に憧れのお兄さん」
あれ? なんか、そんな話を聞いたなぁ。美由ちゃんはバイトのイケメン目当てでコンビニに来ていたって……。う〜ん、イケメンっていうには、ちょっと中性的かな? 優しいお兄さんって感じ。でも、身体は鍛えられていてソフトマッチョ。私のBLレーダーが、やらないかオーラを感知しているよ!
「はっはっは……冗談でござるよ。ミユ殿も、そんなに拙者を睨まないでくだされ」
「そうだよミユちゃん。広石さんを連れてきてくれたのはバキさんだよ。バキさんが恋のキューピットだよ……」
「も~う『恋のキューピット』って、アオイちゃんまでぇー」
あっ、キューピットって背中に羽が生えていて全裸だよね? バキさんがキューピットかぁ、うん……想像しなかったことにしておこう。
(あっ、そうだ……!)
ボーイの中野くんに手でサインを送る。OKの返事。
ひっひっひっ……。われながら、いいアイデアだと思う。
「ねえ、バキさん……」
こっそりバキさんに耳打ちした。
「広石殿とミユ殿、つもる話もあるでござろう。ここは二人きりというのが、よいではござらんかな?」
「ミユちゃん、広石さんと二人でVIPに行っといで〜」
「再会した二人への、お祝いでござるよ」
ボーイの中野くんに先導されて、美由ちゃんと広石さんはVIPルームに消えていった。
「行きましたね」
「さようでござるな」
「キスくらいしますかね?」
「広石殿は真面目な御仁。ミユ殿次第ですかな」
「だったら、もうアレですね。ひっひっひっ……」
「で、ござるか。ふぉっふぉっふぉっ……」
うん、バキさんも悪い笑顔だ。お代官様と越後屋だね、私たち。
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