9-4 美由ちゃんがブチ切れたら、私が男を締め落としたんだけど?
やはり暴力……! 暴力はすべてを解決する……!!
お盆休みを前にした週末。
私が働いている『ピンクシャドウ』は大忙しだ。口明けから、お客さんが途切れない。
「今日は混んでますね~」
指名のツヨたん。最近よく来てくれるお客さんだ。
「お仕事、お疲れさまでした」
おしぼりを渡した。ツヨたんは豪快に顔を拭く。
こういう時、男はうらやましい。まあ、私も……というか、碧唯だったらやってるけどね。
ツヨたんは普通の勤め人。というか、どうもウチの店の向かいの建物が職場らしい。たぶん24、25歳だと思うんだけど、地方公務員って給料いいのかな?
「来週は、お盆休みの会社が多いからヒマになりそう」
「ウチは休みなんか、ないですよ」
「じゃあ、来週もきてくれるかな?」
「いいともー」
この普通のノリがいい。私のお客さんは奇人変人が多いからね。ツヨたんみたいに普通っぽい、お客さんが貴重に思えてくるよ。
えっ、類は友を呼ぶ? うっせぇわ!
「さあ、ここからは私のスーパーデラックスな乳をもむのりゃ~!」
私が衣装のセーラー服を脱ぎかけた時だった。
「もういっぺん言ってみろ、このクソ女が!」
あっちのほうが騒がしい。
なんか酔っぱらった男が立ち上がっている。
美由ちゃんのテーブルだ。
あっ、美由ちゃんも立ち上がった。
にらみ合ってるよ……。
パチーン!
フロアに乾いた音が響く。
酔っ払いの右手が、美由ちゃんの左ほほにヒットした。
でも、美由ちゃんは吹っ飛ばない。
デカいからね。
「機車! 」
あ、やばい。美由ちゃんから、なんか意味不明な言葉が出てきた。これはキレてる。
ドン! ガッシャーン!
酔っぱらいに飛び掛かった美由ちゃん。そのまま二人まとめてテーブルに倒れこむ。
ゴスッ、ズブッ……。
「ウグッ、ガハッ……」
「はぁ、はぁっ、はぁ……」
取っ組み合いの乱闘になっている。
これはイカん、止めなきゃ!
「まて、まて、まて、待てーい!」
飛び出したよ、私。でも、どう止める? 考えてなかった? えっ、マジで考えてなかったの!?
えーい、ままよ! とりあえず割り込めっ!
必殺……ドラゴンストップ!
「ワグワグワワァ……」
ダメだ、通じない! 見てなかったのか、イッテンヨン。今年だったでしょ〜!?
「じゃまだ!」
ドンッと、酔っ払いに突き飛ばされた。うしろに倒れる私。尻もちをついた。
ざっけんなよ! こっちは止めに入ってるんだ。もう許さんっ!
起き上がった私は、酔っ払いの背後に回った。スッと首に腕を伸ばす。アゴの下にヒジを入れて……がっちりスリーパーホールドよっ!
締めたほうと反対の手で、酔っ払いの頭をグイっと押し込む。テコの原理? 非力な葵ちゃんボディでも、ポイントさえ極まれば男だって締め落とせる。
さあぁ〜、か・ぜ・に・な・れっ!
「アオイさん……アオイさん! もうやめてください」
「落ちてる、落ちてる、もう落ちてるからっ!」
ボーイの中野くんが店長を連れてきた。厨房担当の神林くんまで来ちゃってる。
店は、もう大騒ぎさ!
えっと……私、またなんかやっちゃいました?
いや、そういう使い方じゃないから。普通に事件を起こしているでしょ、私。
なんか……もう、楽しく飲むという雰囲気ではない。そりゃそうだ。グチャグチャだもん。
「大丈夫、美由ちゃん?」
「このザマよ……」
美由ちゃんは顔を腫らしていた。左の頬が赤くなっている。
「病院、行ったほうがいいよ」
「うん……」
私が締め落とした酔っ払いは、ボーイの中野くんに担がれ連行されていった。
いつもは厨房担当の神林くんがテーブルや散乱したグラスを黙々と片づけている。
店長は……各テーブルを回って頭を下げていた。
「控えに戻ろう、美由ちゃん」
「大丈夫、一人で戻れるわ」
美由ちゃんは少し足を引きずりながら、控えに下がっていった。
私は自分のテーブルに戻る。
「ツヨたん、ごめんね」
「いや、僕はいいけど、アオイちゃん、ケガはない?」
「私は大丈夫よ。それよりも、せっかく来てくれたのに騒がしくしてゴメン」
空気が重い。
こういう時は、どうしよう?
えーい、踊ってしまえ〜!
「店長~!」
お客さんに頭を下げていた店長に耳打ち。うなずいた店長がバックヤードに走る。
「聖羅、杏奈っち、踊るよ!」
所在なさげにしていた二人に声をかけた。
この事態を想定して揃えたワケじゃないけど、二人ともセーラー服。私を入れて三人セーラーで、なんたら娘みたい。
店の中央。通路が交差してスペースが空いている。3人くらいだと、ちょうどいいステージだ。
♪Hey ya! yoh……
いいタイミングでミュージック。店長ナイス! さあ、ダンスの時間だ。
こんなこともあろうかと……練習していたよかったよ!
♪Woo~
腕をーくるくる〜大きくまわして、OH!YES、タンタン、右左、右左。
インドの映画が教えてくれた。困ったときは踊れば解決!
♪トゥトゥトゥトゥ……ドン!
ヒュ〜ヒュ〜!
パチパチパチパチ……
盛り上がった! お店の雰囲気をガラッと変えられたよね?
暴力よりもダンスよ、ダンス。ダンスはすべてを解決する! 文部科学省は正しかったよ。
「アンコール~アンコール~」
アンコールに応えて、娘系を何曲か踊った。
ちょっと脱ごうとして、聖羅と杏奈っちに止められたよ。なんでやねん。うちの店、エッチな店じゃん。脱がせろや〜!
酒は飲んでも飲まれるな、ですね。
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