9-2 アオイ、お客様ノートを始める
お客様ノート。
今はスマホのアプリなんかでやってますが、昔はノートや手帳に書いていました。
8月に入った。
ウチの店では月頭に先月の売り上げランキングが張り出される。
ざわざわ……ざわざわ……。
「うぇ~、ミユが1位かよ」
絵理奈さんがブーたれていた。
すごいなぁ、美由ちゃん。1位だよ!
2位は舞さん、3位は蘭さん。絵里奈さんは4位だ。
売り上げトップ3は社長から表彰される。まあ、要は賞金が出るのよ、賞金。
トップ3常連だったからね……絵里奈さん。気持ちはわからんでもないよ、うん。
えっ、私?
私は6位だったよ。意外とヤルでしょ?
まあ、私は週6出勤のガチ勢。放っておいてもトップ10には入るんだよね。
そこは美由ちゃんと条件は同じだろうって?
そうなんだよね……。なんだろう、この差は。
よし!
美由ちゃんの仕事ぶりを観察して、勉強するのりゃ~。
あ……、ストーカーじゃないからね!
さ〜て、とりあえず控室の美由ちゃんの行動をチェック、チェック!
美由ちゃんは……控室の隅っこでイスに座っていた。今日は普通のキャバドレスだね。
うん? なんかノートを読んでいる。
「何を読んでるの、美由ちゃん?」
「これ? お客様ノートよ」
「お客様ノート?」
「お客様がいつ来たとか、何を話したとか……。葵ちゃん、作ってないの、
「うん、作ってないよ」
「おいおい、アオイ。客ノートも作ってないのか?」
絵里奈さんが、あきれ顔だ。
えっ、これって常識なの?
「あっ、絵里奈さん。みんな作っているんですか、お客様ノート?」
「当たり前でしょ。基本よ、基本! えーと……ほい、これ」
絵里奈さんがロッカーから手帳を取り出す。年季の入ったシステム手帳だった。
「客の名前を書いてだな、名刺なんかを貼っておくんだよ」
「ほぇ~っ」
「絵里奈さんの手帳はルーズリーフになっているんですね」
「ああ、これね。こうやって紙が入れ替えできるから、50音で並べ変えたり、追加したりが……ほれ、簡単だろ?」
「便利ですね~」
なんか私よりも美由ちゃんが熱心に話を聞いているよ……。
「おはようございまーす……って、何を熱心に見てるのよ?」
舞さんがやってきた。
Fカップの爆乳でノースリーブのタンクトップって、これで店まで来たの? 歩く猥褻物陳列罪だよ。マジで一回、逮捕されてほしい。
「ほーっ、客ノートねぇ~」
「舞さんも作っているんですか、お客様ノート?」
「当ったり前じゃん、ほれ」
舞さんがカバンから小ぶりなバインダーを取り出した。絵里奈さんと同じくルーズリーフを整理するタイプだ。ピンク色なのは……舞さんらしいか。
「こうやって、客の名前と、チ○コの大きさと形をだな……」
「なんで、チン○なんですかーっ!?」
「だって、大事じゃん? 男なんて口ではイロイロ言うけどね、○ンコはウソをつかないのよ。男の本音は全部チ○コにあるから!」
南冲尋定! さすがに私も頭を抱えたよ。
「まあ、舞のやり方は極端だけどさ、客の特徴をメモしておくのは大事だよ」
絵里奈さんも苦笑しながらフォローを入れる。
「趣味とか、仕事の愚痴? 家族構成なんかは押さえておくといいよ。アオイは若い客が多いからアレだろうけど、ウチらの客はだいたい奧さんも子供もいるような歳だからね」
「な~るほど」
私が感心していると隅っこで静かに聞いていた美由ちゃんが、自分のノートを開いて見せてくれた。
「お酒の好み? 何を飲んだとか。あとは誰がヘルプに入って、どんな話で盛り上がったかを書いておくといいかしら?」
美由ちゃんのノートを覗き込んだ。私も絵里奈さんも声を失った。小さな文字でびっしり。
来店日、セット数、使った金額。話した内容。服装、ネクタイの色……。
「うわぁ……ミユはヤバいなぁ。さわられた場所とか、さわり方まで記録してるよ!」
「えっ、なになに……!?」
驚きの声をあげた絵里奈さん。舞さんも美由ちゃんのノートを覗き込む。
「エグぅぅ、ミユが1位になるのもわかる気がするわ……」
エロい三連星筆頭の舞さんが驚いていた。実際に見ると、なんというか……生物実験のデータを見ているような感じ。どこか自分の肉体すら突き放しているような気がした。これを書き残せる精神力は尊敬するよ。
「いやぁ~、アオイは変態だと思ってたけど、ミユも変態だなぁ。あっ……ミユの変態は、いい意味の変態だよ」
うんうん……美由ちゃんは、いい意味の変態。アレ?
「私の変態は?」
「そりゃ、文字通り」
「うん、いわゆる変態」
なんでーっ!?
というか、美由ちゃんも、うんうん同意しない! 私のイメージぃーっ!!
まあ、私が変態かどうかはともかく、お客様ノートを作ることにしたよ。
仕事終わりにド〇キに寄って、ルーズリーフとバインダーを買っていこう~。
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次回は、少しエロ~んな話です。




