6-5 和風セクシーパブは癒しでいやらしい
当時の歌舞伎町2丁目には、いろいろ不思議な店がありました。
銭湯に来ているよ!
お風呂だから、もちろん全裸、すっぽんぽん。そして隣には美由ちゃん。
えっ、なんか同じような展開だって? 仕方ないじゃん、身体を洗いたかったんだもん。
『ダーティ・エンジェル』はとにかく疲れた。
口をすすぐ時間もない。
客がペロペロなめたのに、おっぱいを拭き取る時間もない。
もう店を出て銭湯までダッシュしたよ。12時で閉まっちゃうからね、銭湯!
「いやあ、まさか同じ銭湯に1日2回も来るとは思わなかったなぁ~」
「ごめんね、葵ちゃん。私が気になるなんて言ったばかりに……」
「気にしなくていいよ。私が行こうって決めたんだし」
「やっぱり時給5000円以上、全額日払い補償なんてムシがよすぎたかしら……」
「まあ、稼げるのは間違いないと思うよ。指名のバックも高いし」
「でも、私、慌ただしいのは苦手」
「そうだね美由ちゃん。次は、まったりした店にしよう」
今日も美由ちゃんとズブズブしたかったけど、やめておこう。あまり外泊が続くとママに怒られちゃうもんね。
残念だけど、銭湯を出たところでチューして解散。大人しく電車で帰ったよ。
◆◇◆
さて、さて、さて、次の体験入店先を見つけてきたよ。
美由ちゃんの希望を容れた、まったり系の店だ。
和風セクシーパブ『イクっのほそみち』!
ホント、この業界ってダジャレが多いよね。
「おっかしいなぁ、このへんなんだけど?」
電話で聞いた店の場所は新宿区歌舞伎町2丁目。
歌舞伎町は花道通りを境に、靖国通り側が1丁目、職安通り側が2丁目になっている。
私たちが働くような夜の店は、だいたい1丁目側。
2丁目側はホストクラブやラブホテルが多かったりする。
だから歌舞伎町で働いている私でも、2丁目のことはよくわからない。
そうそう……、令和の時代で大久保公園の立ちんぼが問題になってたでしょ? あのへんも歌舞伎町2丁目なんだよ。
まあ、そのくらいカオスなのが歌舞伎町2丁目ってこと!
「あ、葵ちゃん、あそこに看板」
格子戸に暖簾。隠れ家然とした佇まい。セクシーなお店には見えないけど『イクっのほそみち』と書かれた看板がある。
「ねえ美由ちゃん、ここ名前が変なだけで普通の店じゃないの?」
「和食というか、割烹かしら?」
どうしたものかと思案していると、格子戸から店員さんが出てきた。ボーイさんとか黒服じゃなく「店員」さん。紺色の作務衣なんだもん。
「体験入店のお二人ですね。そろそろ来るかと、待っていたんですよ。どうぞどうぞ」
「「はい……」」
作務衣の人は店員というか、店長さんだった。
店内に入ると、さらに和食の店っぽさが増す。
靴を脱いで上がる畳敷きの半個室が10くらい。
なんか、こういう感じの店に家族で行ったことあるなぁ……。
「ここは割烹居酒屋だったのを、そのまま居抜きで使っているんです。ほぼ全席が小上がりだったんで、それもそのまま使っています」
「まだ厨房は生きてるんですか?」
「それがもう、機材は持ってかれた後で、何も残っていませんでした。だから、こんな見た目の店ですけど、フードは全部レンチンなんです、はっはっは……」
「そうですか、寂しいですね……」
私たちが店長の説明を聞いていると、奥のほうから和風の「なんちゃって着物」の女性がやってきた。
「体験入店の連絡くれた方ね。私は紫乃。この店のチーママ?」
「あ、あの、私の妻です。女性陣の取りまとめをしています」
「まあ、そんな感じ、よろしくね」
「「よろしくお願いします」」
紫乃さんの説明によると、この店は常時おさわりOKで、キスあり、下半身なし。基本的には寝そべってイチャイチャするスタイルらしい。
衣装は紫乃さんも着ている丈の短い「なんちゃって着物」。
ちょっと胸元を開ければ、おっぱいポロリンってワケ。
私は青、美由ちゃんはピンクの着物を選んだ。
名札をつける。ひらがなで「あおい」と「みゆ」にした。
接客シミュレーションをしているうちに、夜7時。
オープン時間となり店内BGMが流れ出す。J-POPの琴アレンジ曲だった。
完全に小料理屋だよ、ここ。
「あおいちゃん、三番。みゆちゃん、四番に入って」
「「は~い」」
オープン後15分、最初のお座敷がかかった。
30代くらいのサラリーマン二人連れだ。ヤセ型が私、ポチャが美由ちゃんに当たった。
「あおいでございます」
三つ指ついてごあいさつ。別にここまでやらなくてもいいけど、こういうのはノリ! 気分って大事だもんね。
畳敷きの小あがりに、ちゃぶ台と座布団。ちゃぶ台を少し寄せれば横になり放題だ。
あ、さっそく隣は横になっている。展開早いな!
「なんか食べる?」
「はい?」
「メニューを見たら、食べ物がいっぱいあるんだよ。夕飯まだだから、なんか食べようかと思ってさ。おススメある?」
う〜ん、さっき全部レンチンだって言ってたしなぁ……。
まあ、いいか。紫乃さんを呼ぼう。
「紫乃さ~ん、注文で~す!」
ウッキウキで柴乃さんがやってきた。
紫乃さん曰く、おススメは和風御膳弁当。もちろんレンチンなのは内緒だ。お値段4000円なり。
たっかー、冷食なのに。
そして朗報! ヤセ型ニキが私のぶんも頼んでくれた。場内指名まで入れてくれた。
まだ私、なにもしてないよ。食事メニューを注文しただけ。
なんて、いい人! ありがたや、ありがたやー、お客様は神様です。
「おまたせしました」
作務衣の店長が注文した和風御膳弁当を持ってきた。
それっぽい配膳盆の上に松花堂弁当みたいな六仕切りの箱。それぞれ料理が盛りつけられている。ゴマをふったご飯、お吸い物。
なんか4000円に見えるよ!
ヤセ型ニキは「うまいなー」って食べている。
レンチンだって聞いてなかったら騙されちゃうね。
私が和風御膳弁当を食べている間に、隣は選手交代。美由ちゃんがジト目で見ながら控えに戻っていったよ。お腹空いてるな、美由ちゃん。
「お弁当おいしかったよ」
「ごちそうさまでした。おいしゅうございました」
食事のあとは休憩。弁当ニキと並んでごろ寝。太ももで小股をグリグリしといたよ。このくらいはサービス、サービスぅ~。
弁当ニキは延長もしてくれて、9時半ごろ帰った。
私が店の前まで送ったよ。サンキュー弁当ニキ!
で、控えに戻ろうとしたら、美由ちゃんがお客さんと焼うどんを食べてた。
おねだりしたね、美由ちゃん。やっぱり、食欲モンスターなんじゃん?
10時近くなって忙しくなってきた。
女の子の人数が少ないんで、常にフル回転している感じだ。
私と美由ちゃんが体験入店で増えてコレ。普段は大丈夫なんだろうか?
1時の閉店まで、ほぼ休憩なしでの接客だった。
まったり系のサービスなんで、そこまで疲れないけれど、忙しいことは忙しい。
「いやあ、お疲れ様。二人とも大活躍でしたね!」
「よかったら正式にウチで働かない?」
「ありがとうございます。でも今は、まだ勉強して回っている途中ですので、お返事できません」
「そう……。でも、気が変わったら連絡してね」
「はい」
なんとなく名残惜しげな店長夫婦をあとに、私と美由ちゃんは家路についた。
「ねえ、葵ちゃん」
「うん……?」
「冷凍食品、買って帰ろうか」
「だねぇ~」
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