5 仙台に帰省。帰省で合ってる?
仙台帰省編。
少しだけわかる葵の過去。
暮れも押し迫った12月30日。
私が働く歌舞伎町のセクシーパブ『SEXY CLUB ZUNDA』も年末年始休業に入った。
この休みを使って私……というか、葵は仙台に帰省する。
葵ちゃんは家なき子。
クズ母・今日子が男と逃げて、すでに実家は消滅済み。帰る家など存在しない。
それでも行かなきゃならないのは、諸々の手続きが残っているから。あ〜面倒くさい。
「アオイちゃん出発するよ、乗って~」
「は~い、店長、すみませ~ん」
普段はキャストの送りで使っているステ〇プワゴン。今日は特別、仙台行きだ。
『ZUNDA』は仙台から東京に進出した店。お姉様方3人と店長は仙台から単身赴任している。お正月に帰省するというので、私も店長たちに便乗することにした。
ママ(唯依)も実家は仙台。一応、碧唯も半分は仙台っ子だ。
この時代の、おじいちゃん&おばあちゃんにも会ってみたい。
12月29日の営業終わり、日付が変わって30日の午前3時前。歌舞伎町を出発した。
夜明け前の東北道を車はひた走る。
6時前に安達太良サービスエリアで休憩。みんなで、あだたらラーメンを食べた。あっさりした醤油味でおいしい。こういのでいいんだよ、こういうので。
福島県から宮城県に入るあたりで日が昇ってきた。ゆっくり白んでいく空を見ていたら、眠気も覚めちゃったね。
8時半過ぎには仙台駅に到着。
「俺たちは国分町の本店に寄るから、これで」
「アオイちゃん、よいお年を」
「みなさんも、よいお年を~」
店長、運転お疲れ様でした。走り去る車に手を振って見送ったよ。
さて、葵ちゃんには帰る家がないんだけど、行く先はある。
一足先にママが帰省しているのよ。ママの実家、つまり仙台のおじいちゃんの家だ。
仙台駅からJR。愛子駅まで30分弱。電車を降りて15分ほど歩けば到着する……んだけど、寒い。寒いよ、仙台の冬をなめてたね。
令和の時代より建物は少ないけど、愛子駅の周辺は開発が進んでいる。でも、おじいちゃん家は駅から15分。まだまだ田んぼと畑に囲まれていた。
(このへん、家だらけになるんだよなぁ……)
「葵~っ!」
家の前でママが待っていてくれた。
おじいちゃんの家は古い平屋で昭和な感じ。
昔は大きな農家だったみたいで、敷地に納屋とか離れがある。あっ、でも豪邸とかじゃないよ。
「葵ちゃんが来たの? おとうさん、葵ちゃん来たっちゃ!」
「おお、葵ちゃん。久しぶりだっちゃなぁ。元気だったが?」
おばあちゃん、おじいちゃん……若い! そりゃ、若いよね。まだ50くらいだもん。
「いつも唯依さんにはお世話になっております。いろいろとありがとうございます。また、私が東京で事故にあった際には、治療費を立て替えていただき、ありがとうございました」
「そんなこと気にしなくていいのよ。葵ちゃんは私らの娘だと思ってんだから」
「そんな水くさいこと言わんで、お昼でも食べっぺ」
うわぁ……。なんか、涙出そう。おじいちゃん&おばあちゃん、やさしい〜。
「あ、こちら東京のおみやげでございます」
「うちの娘は土産も買ってこねぇのに、葵ちゃんはよくできた娘だっちゃねぇ」
「葵、そういうとこは、ちゃっかりしてるよね」
ママ……、おみやげくらい買って帰ろうよ。
お昼に、ずんだ餅と納豆餅を食べた。おいしいね!
食後はママの部屋に移動。離れを改装した元・子供部屋で、中央にコタツが置いてある。
暖かい。日本の冬はコタツだね。
「よいしょ……っと、隣におじゃま」
というか、4面あるのに、なんで並んで入ろうとするの、ママ。
「ねえ、葵、この部屋に見覚えない?」
「う~ん、思い出せない」
「そうかぁ……。葵の記憶って戻らないのかなぁ〜。この部屋でイロイロやってたのよ、中学のころから」
なんか不穏な言葉があったね。イロイロやってた? 中学のころから?
「葵のお母さん、今日子さんが部屋に男を連れ込むから居場所がないって、しょっちゅう泊まっていったじゃん? それも覚えていないんだ……」
いろいろ、ごめん。私、葵ちゃんじゃないの。ママの娘の碧唯なのよ……。
「ねえ、葵。ここでセックスしたら思い出すかなぁ?」
コタツの中で、ママの手が私の太ももを撫でまわしている。
(やれやれ……、仕方がないママだこと)
私もママの太ももを撫でまわす。お付き合いだ。
ちゅぅっ……。
唇が重なる。身体を引き寄せ、ゆっくりと倒れこんだ。
ママのボインボインがやわらかい。私も巨乳になってみたかった。やっぱり世の中は不公平だよ。
このあと滅茶苦茶……っと、夕食の時間までイチャイチャしたくらいだよ!
夕食は鍋、せり鍋だ。令和の私も大好きな仙台名物。せりがサクサクでおいしい。最後は雑炊にするんだよ。これが、もう……たまらんのです。
「それで、葵ちゃんは住民票の転出手続きに?」
「そうなんです」
「で、とりあえず東京の私のアパートを住所でいいよね、お父さん?」
「んだ、いいとも。仕事するさも住所が東京にないと不便だっちゃねぇ」
あっさりOKがもらえた。これで用事は半分終わり。年明けに役場が開いたら手続きに行こう。
「免許証も手続きしないとねぇ」
「えーと……、免許は転入手続きをしてから、東京のほうで警察署に行けばいいみたい」
「葵ちゃん、よく乗り回してたもんね」
「あ、んだんだ! 葵ちゃんあんまりバイクばっかり乗ってるもんだがら、そのうち暴走族にもなるんでねぇかって心配してたんだよ」
うわぁ……、知らない話が出てくるなぁ。
葵ちゃんって、けっこう荒れてたのね。ヤンキーだった?
「あ、そうだ、納屋に原付あったよね。アレ、葵に乗らせてもいい?」
「んだ、葵ちゃんバイク乗ってみっちゃ」
「はぁ……」
なんか明日はバイクに乗ることになってしまった。
葵ちゃんはバイクを乗り回していたみたいだけど、碧唯としての私は無免許。
エンジンのかけ方だってわからない。運転できるのかな? できないにしても、ケガしないかな?
心配だったけれど、東京からの移動で眠り損ねちゃった私は、夜になると早々にグー。朝までガッツリ眠ってしまった。
◆◇◆
スーパー〇ブだった。
原付っていうから、スクーターだと思うじゃん? まさかの〇ブ。生産終了したってニュースになっていた記憶がある。この時代だとバリバリ現役車種なんだね。
手袋にヘルメット。準備はOK。
さあ〜て……キーを入れて、足でペダルをシャコッ!
スカッ……シャコッ、ブォン! ……ツツツツツツツツツ……
あれれ? なんで、できるの私。
そのままホイっとまたがって、かるーくアクセルを開けるとゆっくり動き出す。
乗れる、乗れるじゃん、私!
なんか、テンションあがって、納屋の前から、ゆっくりと庭を一周しちゃった。
「やっぱり、身体は覚えているのね、葵」
「うん、なんか乗れた。ちょっと、そのへん走ってみる」
「あ、駅前のコンビニでテレビガイド買ってきて」
「あいよ~」
ガチャン……ツツツツツツツッ、バァァーーーーン……
走ると風が冷たい。真冬だよ、今。アホじゃん、私ぃ!
「さーむーいーっ!」
駅前のコンビニ。アホは私だけじゃなかった。バイクが数台停まっている。
それにしても、何も考えなくても駅前のコンビニに到着したよ。身体って道順まで覚えてるものなの? 驚いちゃうよ。
頼まれたテレビガイドと、顔が寒いからマスク、あとはスナック菓子でも買っていこう。
会計をして店を出たら、バイクの前でたむろしている男の子たちと目が合った。
「あ……葵さん」
「葵さん!?」
「うぇっ、葵さん!」
「「「ち、チース!」」」
少年たちに直立で礼をされてしまった。
えっ、やっぱ葵ちゃんって、そっち系? だよね、この反応だもん。
キュルル、トトトト……。
バイクのエンジンを響かせながら、アクセルを軽くブォンと煽った。
「お前ら気合入れてけよ!」
「うぃっす! あざす!」
直立不動で見送られた。
◆◇◆
元日。2001年になった。
起きたら、少し雪が積もっていた。どーりで寒いと思ったよ。
「あけましておめでとうございます」
おじいちゃん&おばあちゃんに新年のあいさつ。
あ、葵ちゃんにとっては、やさしい近所のおじさん、おばさんだけどね。
「葵ちゃん、あけましておめでとう。はい、お年玉」
きれいなポチ袋が私の前に差し出された。
「え……っ? あ、あの、私、もう18歳ですし、東京で働いてますから、そんな……っ」
「何言ってんの。二十歳前なんだし、まだ子供だっちゃ。お正月なんだがら、ありがたくもらっておきなさい」
「ありがとうございます」
おじいちゃん&おばあちゃん、ありがとう!
なんか、涙が出ちゃった。
もし令和に戻れたら、必ず仙台に来て祖父母孝行するよ、私。
その後、お昼ぐらいに初詣、諏訪神社に行った。少しだけど露店も出ていて、初詣って感じがするね。
また葵ちゃんの後輩に合うんじゃないか……と、ちょっぴり心配したけど、誰にも会わなかった。
なんだかんだで、三が日はダラダラと過ぎていった。
あ、テレビで見ていた箱根駅伝が、おもしろかった。強い学校の顔ぶれが全然違ってる。青〇学院大学が出てないの!
なんか、こんなところでタイムスリップを実感しちゃったよ。
で、私とママは東京に戻るんだけど、その前に本来の目的を果たそう。
市役所の支所で転出手続き。これで私も晴れて、住所不定から脱却だ。
いろいろあった仙台。来てよかったな。あっ、葵ちゃん的には、帰省だったね。
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