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4-6 ハッピーバースデーが言えないじゃん

ネタバレな人が登場です。

 11月30日は美由ちゃんの誕生日。私より一足先に19歳になるんだね。おめでとう。


「ミユちゃん、お疲れ。本指名の星村さん、ご来店。いま5番に案内したから、すぐ入って」

「あ、星村さんが来たんだ! はーい、すぐ行きます」

「アオイちゃん、『うしろ』よろしくね」

「了解! ミユちゃん、がんばってきてね」



 というわけで、今日は美由ちゃん指名のお客様が多いんですわ、いやマジで。指名がかぶった美由ちゃんは何テーブルも掛け持ち。いったりきたりで忙しい。


 ちなみに『うしろ』というのはヘルプ要員。主役の指名嬢が戻ってくるまで、代わりに指名客のテーブルについて、時間稼ぎをする役だ。待っている客を退屈させないよう場をつなぐ。私の売り上げにはならないけど、これも大事な仕事なのよ。



「アオイで〜す。よろしくお願いします」

「あん? ミユじゃないのか」

「あ、どうも、恐縮でござる……」


 ミユちゃんのヘルプで代わりについたテーブル。ブランド物のスーツの男と……、なんかバキバキに童〇っぽい人が座っていた。丸々太った体躯に仕立ての良いシャツ。丸いプラスチックフレームの眼鏡。ちょっとカワイイ。


「なあ、バキ、お前まだ童貞だってな。会社経営してるとか、そんなんじゃねえんだ。女なんてのはな強引に引っ張って、たまに旨いもので食わしときゃ一発よ。はーっハッハッハッ」

 今、バキって呼んだ? この人、バキなの? しかも童貞? 気になるわー。


「おう、ネエちゃんよー。まだかよミユは!」

「申し訳ありません」

 

 とりあえず頭を下げておく。横柄な男。たまにいるんだよねー、こういう客。

 気まずい時間を過ごしていると、ボーイさんが美由ちゃんを連れてきた。


「お待たせしました。本日ご指名のミユでございます。ごゆっくりお楽しみください」

「ミユです。はじめまして、よろしくお願いします」


 美由ちゃんを指名したのはクソ男のほうだった。私はスライド移動。バキさんの横に斜め45度で座りなおした。


「フン……、はじめまして、だとさ」

「はい……?」

「あの、『CLUB REX』の『みゆ』が、こんな店とは。落ちたもんだな」


 むむむっ!? 『CLUB REX』って、歌舞伎町トップクラスのキャバクラだ。私でも名前くらいは知っている。美由ちゃん、そこにいたんだ。スゲーっ!


「覚えてない……ってか? お高く止まってたからなぁ、お姫さま。一度会ったくらいの男は覚えてねえってことか」

「申し訳ございません」


 いや、顔なんて覚えられないよ、一度ぐらいじゃ。1日何人の顔を見ると思ってんのよ。覚えてほしかったら、覚えてもらえるまで通いなさいよ、ねえ?


「まあ、いいや。お前の乳、見てやるよ。金は払うんだ。とっとと乳を出せよ!」


「宮迫氏よ、その物言い。女性に対して失礼ですぞ」

 バキさんが口を開いた。


「あんだよ、バキ、俺に説教か? ちょっと成功したからって、それが先輩への態度か、ああ?」

「宮迫氏とミユ殿の間に何があったのか、拙者は知り申さぬ。されど齢三十を過ぎて、その言動……いささか思慮に欠けるのではあるまいか」

「おい! こいつはキャバクラから落ちぶれた売女だぜ? 客に股でもなんでも開きゃいんだよ!」


 プチーン! 

 私、切れた。


「はぁ?  マジで何言ってんの?  女を見下すことでしか、自分を誇れないワケぇ? どれだけ低いか分かってないの、自分の価値。あんた……死ぬほどダサいんだけど!」

「な、なんだと、この女。テメー……」


 あ、騒動になってしまった。というか、騒動にしてしまった。

 さすがに慌てて飛んできたよ、ボーイさん。こりゃ、マズイかな……。


「宮迫氏、あやまりなされ。人の道を外れたその物言い、浅ましく見苦しい」

「なんだと、この童貞野郎が、女の肩を持つ気か!?」

「拙者は一身を賭して身を立て、今の会社を築き上げ申した。ここにいる彼女たちも、人生を賭して懸命に働く者である。拙者は、そのような彼女らを心より敬いたい」

「てめえ、俺を怒らせたらウチの仕事は、もう出ねえぞ?!」

「構いませぬ! 仕事に敬意を払えぬ御仁と、ビジネスの話はでき申さぬ。立ち去られるがよろしい」



 さんざん悪態をついた挙句、クソ男は店を出て行った。

 あとには気まずい空気だけが残された。ああ……美由ちゃんの誕生日が台無しだよ。


 ハッピーバースデーが言えないじゃん!



「お騒がせいたしました。此度のことはご容赦くだされ。騒ぎの始末は拙者がつけさせていただきます。全テーブルにワインを……お詫びの酒でございます。此度の無礼、どうか笑って許してくだいませ」


 あ、なんか店長が出てきた。「ホントに出しちゃっていいの?」的な顔だ。今、お客さんがいるテーブルは10。ボルドーだと1本3万円だから、30万円。戸惑っちゃう店長の気持ちもわかる。というかウチの店、ワインの在庫あるの? そっちが心配。



「あ、支払いはカードで」

 アメ〇クスのゴールドだ。なんか、ちょっとカッコいい。


「ありがとうございました。おかげで助かりました」

「アオイ殿……でしたかな? 連れが大変ご迷惑かけ申した。それにしても度胸がありますな。拙者、惚れもうした」

「私からもありがとう、アオイちゃん。言い返してくれて……うれしかった」


 感謝されてしまった。騒動を起こした張本人なんだけどな、私。


「あ、そうだ、お名前はバキさんでよろしいんですか?」

「そう呼ばれてますな」

「あの、お仕事のほうは大丈夫ですか? 仕事を出さないとか、言われてましたけど……」

「ああ、彼は拙者が昔いた会社の先輩でござって、安い値段で押し付けてくるゆえ困っておりました。これで切れるなら、むしろ幸い。却って礼を申し上げたいでござる」

 

 なんだろう、なんか、この話し方。なんか既視感がある。

 そうそう、こういう時はキメぜりふがあるんだった。


「では、これにて『一件落着』」


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