4-4 ふたりは閨蜜! 美由ちゃんと私
「閨蜜」は中文で女性同士の親友を指すそうです。
美由ちゃんの初日は散々だった……らしい。「らしい」と不確定なのは、私が美由ちゃんをケアできなかったから。こんな日に限って、私に指名のお客さんが続いちゃって、あまり見てあげられなかったんだよね。
最初は私と同じテーブルについた。でも、そのあとは先輩お姉さまたちのヘルプ。ダウンタイムも何度か出ていたと思う。隣の席を見よう見まね。美由ちゃんなりに、がんばっているように見えたんだけどなぁ……。
「う、……っ、うう……っ」
むせび泣く声が聞こえる。 美由ちゃんだ。床に座り込んで、両手で顔を覆っていた。 手のひらの隙間から涙が流れだし、床にボタボタと落ちている。
閉店時間を過ぎた。ボーイさんが掃除を始めている。お姉さんたちは着替えが終わった先から店を出ていく。飲みに行く人、帰る人。仕事が終わった店に長居する人はいない。
私は美由ちゃんの隣に腰を下ろした。
身体の大きな美由ちゃんが、膝をかかえて小さくなっている。小刻みに肩が震えていた。なんて声をかけよう? 気の利いた言葉なんて、見つからない。自慢じゃないけどコミュ障だよ、私!
こういう時は捻っちゃダメだ。考えすぎると失敗する。
素直な気持ち、そう! 素直に今、思っていることを口にしよう!
「あ~っ、おなかすいたよー」
うん、たしかに素直な気持ち。
でも、それ今、目の前で泣いている女の子にかける言葉じゃないね。
T・P・O! 知ってる? 空気読もう、空気を!
「………へっ?」
泣いていた美由ちゃんが顔を上げた。私の言葉、あまりにも斜め上だった? ポカ~ンとした表情。美由ちゃんの思考がフリーズ中。今だ、チャンスだ、行け、私!
「ごはん、行こっ。おごるよ」
「……うん」
結果オーライ、なんとかなった。
深夜の2時過ぎ歌舞伎町。
朝までやっているカラオケ店になだれ込む。令和の私も何度か来てた、食パン一斤使ったドデカなハニートーストがある店だ。
「あまーいっ!」
「う~ん、むむむぅむ~」
私と美由ちゃんは今、2000キロカロリーを深夜に食べる罪悪感を共有している。
気にするな、甘いものは正義だ!
だいたい、人間は空腹だとロクなことを考えない。昔のエロい人も言ってたよ。腹が減っては戦はできぬ。栄養って大事。
まあ、2000キロカロリーは摂りすぎだけどね!
「ふ〜ん、キャバクラって、そんなに厳しいんだ。美由ちゃんのルックスでも稼げないの?」
「そこそこは稼げてたと思うんだけど、借金を返すには足りなくて……」
「美由ちゃんも、借金あるんだ? 私もあるよ、2000万円。オカンが借金こさせえて男と逃げたの~」
「うちも同じ……爸爸の借金。中華料理店やってたんだけど、人に騙されちゃってね……。お店はパーで爸爸も死んで、残ったのは借金だけ。もう半年は返しているのに、まだ4000万近く残っているの」
「なにそれ! 金利だけで……月60万とか、そんな感じじゃない?」
「え……と、金利は安いの。台湾華僑仲間の身内融資だから今の金利は2%くらいかな? 元々はヤバいスジの借金だったのを、父の知り合いに頼み込んで借り換えさせてもらったんだ……」
「美由ちゃん華僑だったんだ! えーと……ウォー アイ ニー。チン ゲン ウォー ジエフン 」
取っててよかった、第二外国語。「我愛你。請跟我結婚」。けこーんしてよね、アイラブユー。
「いや、私、東京生まれ東京育ちだから台灣華語はしゃべれないよ。逆に葵ちゃん、なんでしゃべれるの?」
「中ご……ぁ、中文ができたら友達増えるかな~って」
「できなくても友達は増えるよ。葵ちゃん、友達になってくれる?」
「よろこんで!」
あ、また即答しちゃった。でも、いいよね? 私、なる、なる、ともだちんこ~!
「私と美由ちゃん、これから朋友、友達だね!」
「女の子同士だから閨蜜だよ、葵ちゃん」
このあと、めちゃめちゃ……話しこんだ。
私が記憶喪失だって話はバカウケだった。すべらない話でイケるな、うん。
それと、私と美由ちゃんは誕生日も近かった。えっ、葵と碧唯、どっちの誕生日と近いかって? どっちもよ! 私(碧唯)は12月3日、私(葵)は12月12日。美由ちゃんは11月30日。ほら、どっちも近いでしょ!
それにしても、このボディの持ち主の葵ちゃんは不幸な子だと思ったけど、美由ちゃんも不幸レベルが高い。ついでに、いきなりタイムリープしてしまった私も不幸だ。
美由ちゃん不幸や、葵も不幸や、私も不幸や、三人そろって、ふふふふんふん、不幸だ〜。
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