27-2 缶バッジと不穏な動き
ガチャ! ガシャン!
ガチャ! ガシャン!
5月も半ばになった。今日も私は朝から、会社で作業をしている。缶バッジを作る機械が、安かったので買っちゃったのよ。
「何をやっているんだね、アオイくん?」
「缶バッジを作っているんです」
来ると思ったよ。社長は、こういう機械が好きだもんね。
ガチャ! ガシャン!
ガチャ! ガシャン!
私が作業する様子を、興味深々でのぞきこんでいる。
「社長も、やってみますか?」
「いいのか? どうやるんだ??」
「まず、このアタッチメントに上ぶたを置いて、そこに写真とフィルムを重ねて……」
社長が私の横に来た。少し不器用な手つきで金具の上に部品を置いていく。
「このレバーでガチャンか?」
「乱暴にしちゃダメですよ、丁寧にしてください」
ガチャ!
「あれ、出てこないじゃないか?」
「裏面も作るんです。こっちのアタッチメントに部品と、裏ブタを安全ピンの穴がまっすぐになるように置いて……」
「これで、ガチャンでいいのか?」
ガシャン!
「おお、できた!」
「意外と簡単でしょ?」
「おもしろいな、これ。売るのか?」
「試作品で反応を見て考えます」
「たしかに、売るには小さいもんな、これ」
「一応、大きなサイズも作れますよ。こっちが大きなサイズです」
社長は大きさの違う缶バッジを、それぞれ手に取って眺めている。小さいほうは37ミリ、大きいほうは75ミリだ。
「大きいほうなら、売れるかもしれないが……せいぜい1000円だな」
「そうなんですよ。あまり、儲かる気がしないんです」
「まあ商品のバリエーションがあったほうが、客は飽きない。いろいろ新しい商品を出していくのはいいんじゃないか?」
「なるほど……」
たしかに社長の言う通りだ。儲かるかどうかよりも、お客さんが飽きないように新商品を出していくことが大事かもしれない。あれ……そうなると、私なんかは自分が商品だ。飽きられないように新商品に変身するワケにもいかない。飽きられたら、そこで商品として終わりなのかな? なんか、急に怖くなってきたよ……。
◆◇◆
夕方、『マジカルシャドウ』。さっそく試作品の缶バッジを見せて、感想を聞いてみた。
「アオイ、なんだこりゃ?」
「缶バッチです」
「売るのか?」
「試作品で様子を見て考えようかと」
バックヤードの休憩テーブルに、大きさの違う缶バッジを並べてた。絵里奈さんと店長は、手に取ったりしながら見比べている。
「ねえ、あなたはどう思う?」
「由美子のバッジを付けちゃうおかな」
「やだなぁ、もう、そういうことじゃなくて」
もう絵里奈さんも店長も、隠す気がない。お熱いことで、まったく……。
「アオイ、これは、どうやって作るんだ?」
「専用の機械で加工します。意外と簡単ですよ。このへんのは社長が作りました」
調子に乗って社長が、何個も作っちゃったのよ。
「ちょっと写真が曲がっているなぁ……」
「まあ、そのへんは、ご愛敬です」
「そうだな、社長らしくていいか。はっはっはっは……」
私が作ったバッジも、けっこう曲がっているんだけど、それはナイショね。
そんな話をしていたら、沙希っぽと翔太くんが入ってきた。
「ねえねえ、翔太くん。この缶バッジ、どう思う?」
「えっ、この缶バッジですか? 原価っていくらなんですか?」
「100円ちょっとかな?」
「じゃあ、ドリンクのおまけに付けます」
「おまけ?」
「ペットボトルに、おまけが付いてますよね? あんな感じです」
「それ、いい! 翔太くん、ナイスアイデア!!」
今(2003年)だと、ペットボトルのキャップに、フィギュアが付いていたりするのよ。去年(2002年)なんかワールドカップだったから、コーラのキャップにサッカー選手のフィギュアが付いていた。缶バッジも種類を多くしてコレクションできるようにしたら、集めたくなると思う。これならイケそうだ。
「な~るほど、安い商品を、高い商品を売るためのダシに使うってことか。これは、おもしろいな」
「これから暑くなるから、ビールに付けたらいいんじゃないっすか?」
「そうだなぁ……。ウチの生ビールは大ジョッキだと2000円だ。おまけくらい付けてもバチは当たらんか」
「それは、いいアイデアですね! ゆ……副店長」
さすがの熟年バカップルも、私以外のスタッフの前では「副店長」呼びだった。まあ、ちょっと危なかったけどね。
「よし、方向性は決まった。キャンペーンの内容は私と店長で考えるから、アオイは缶バッジをデザインしてくれ」
「了解でーす」
「じゃあ、会議は終わり。開店準備だ!」
「ちょ、ちょ、ちょ……待った、待った、待った!」
沙希っぽが割り込んできた。そういえば、居たんだっけ。忘れてたよ、ごめん。
「なんだ沙希、用か?」
「話があったんすよ、絵里奈さん。もう、翔太もさぁ、頼むよ……」
「ごめん、ごめん。じつは沙希から報告があります。『新宿セクシー女学院』の件です」
「『新宿セクシー女学院』の件だと? 何かあったのか!?」
にこやかだった絵里奈さんの表情が険しくなる。店長の怖い顔が、さらに怖くなった。
「スカウトされたんすよ」
「引き抜きか?」
「いや、そういうのじゃなくて、パチ屋に並んでたら声をかけられたんす。『稼げる仕事あるよ〜』みたいな感じで。で、話を聞いてみたら『新宿セクシー女学院』でした。一応、スロ仲間の女に聞いたら、けっこう声をかけられたんです。だから、わりと見境なく声かけてるんじゃないっすかね?」
「あの店は、そんなに女の子が足りないのか?」
おかしい……。『ピンクシャドウ』をはじめ、いろんな店から引き抜きまくっていたのに、女の子が足りないなんて変だ。大量離脱でもあったのかな?
「どうも、昼間ヒマな若い子を探しているみたいでしたね」
「なに? 昼間だと!?」
これは……昼営業を始める気だ。またパクるんだ、ウチを。
まったく、騒動のタネを増やすなんて、許せん。スタッフもキャストも増えて、ようやく週休二日制が見えてきたっていうのに、また休めないじゃん! えっ、そこ? だって、休みたいんだも~ん!
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