27ー3 あっちの店はゴタゴタしているらしい
「ああ、あそこの店? 昼の営業を始めるみたいだね」
開店前の『マジカルシャドウ』。配達に来た、酒屋のオッチャンが話してくれた。いろいろな店に出入りをしている酒屋さんは事情通だ。出入りの業者さんとは、仲良くしておくもんだね。よし、しっかりスマイル0円をサービスしておこう。
「また何か聞いたら、教えてくださいね」
「アオイちゃんに頼まれたら、断れないね~」
酒屋のオッチャンは、ニッコリして帰って……行こうとして、振り返った。
「そうそう、ここだけの話。あの店の注文は、この店の半分くらいだよ」
「えっ?」
「それじゃあね、まいどあり~」
今度こそオッチャンは、台車を押して帰っていった。ありがとう、オッチャン。うしろ姿にもスマイル0円、追加サービスだよ。
「アオイちゃん、いる~?」
この声は『ピンクシャドウ』のチェリーさんだ。酒屋のオッチャンと入れ替わるように、やってきた。一人じゃなくて、女の人を連れてきている。はて、どこかで見たような……。
「アオイちゃん、久しぶりねー」
「え……あっ、ミキさん?」
「そうよ〜。最近、別の名前だったけど、やっぱり、その名前で呼ばれるといいわね」
ミキさんは私が昔働いていた『ハッスルガール』の先輩だ。掃除の途中だったけど、まあ、いいや。フロアのボックスシートに座ってもらった。
「本当に久しぶりですね。2年半くらいですか?」
「アオイちゃんが、仙台の店に移ってから会ってないものね」
「ああ……、仙台の店ではないんですけどね」
「あら、違うの? てっきり仙台に行ったとばかり……」
なんか一部、情報が錯綜している。私が移籍した『ZUNDA』は、仙台から歌舞伎町に進出した店。だから、私が仙台に行っちゃったワケじゃないのよ。そこが過激サービスで問題になって、移ってきたのが『ピンクシャドウ』。で、今は『マジカルシャドウ』だから、私って店を移りすぎじゃん……。
自分の渡り鳥ぶりに、感慨にふけっていると、ボーイの山崎くんが、お茶を淹れてきてくれた。気が利くねぇ。村人Cから出世する日も近いよ、きっと。
「で、チェリーさん、ただ懐かしい人に会わせるために、ミキさんを連れて来たワケじゃないですよね?」
「さすがアオイちゃん、察しがいいわね。前に話したの、覚えてるかしら? 『ハッスルガール』がつぶれたあと、働いていた女の子がどこに行ったかって……」
「……あっ、ひょっとして?」
「ミキは『新宿セクシー女学院』に行ったのよ。気になるでしょ、内部事情?」
「気になる、気になるっ!」
「ミキ、アオイちゃんに、話してあげて」
「そうねぇ、まあ、ロクでもない店よ。景気が良かったのは最初だけね。2週間……3週間くらいかな。いろいろな店から引き抜いて、寄せ集めで始めた店でしょ? 調子が悪くなってくると、人間関係って荒むのよね……」
10分くらいだろうか。ミキさんの話は、ほとんどグチだった。よほど溜まっていたんだろうね。ミキさんは吐き出すだけ吐き出して、お茶を一口飲んだ。
「まあ、もう、辞めるから、どうでもいいけどね」
「辞めるんですか?」
「辞めるわよ。2カ月働いたんだから、もう義理は果たしたでしょ」
辞める……ということは、チェリーさんはミキさんを『マジカルシャドウ』で雇ってほしいのかな? それで、私のところに連れてきたのかな?
「チェリーさん、ミキさんを『マジカルシャドウ』で雇えってことですか?」
「半分当たりで、半分はずれかしらね。ミキは『ピンクシャドウ』で雇うわ」
「えっ、じゃあ、半分の当たりっていうのは何ですか?」
「アオイも聞いたでしょ? 『新宿セクシー女学院』は女の子たちの不満が溜まっているのよ……」
「引き抜くんですか?」
「イヤだわね、聞こえが悪いわね。個人の自由意思で『新宿セクシー女学院』を辞めた女の子が、個人の自由意思で別のお店に入るのよ。たまたま、その別の店というのが『ピンクシャドウ』と『マジカルシャドウ』でしたって、それだけかしら~」
チェリーさんが、フフフッと笑った。笑っているけど、目は笑っていない。チェリーさんも、なかなか怖い人だ。やっぱり夜の世界が長い人は、一筋縄ではいかないね。
「じゃあ、たまたま辞めてきた人を、何人かウチで引き取ればいいんですね」
「そういうことね。本来なら、お店を跨いだ話は店長から社長に具申して許可をもらうんだけど、アオイちゃんに言えば……スグに社長のOKが出るでしょ?」
「ああ……」
そういうことか。社長はアレで、けっこう取り扱いが難しいからね。
「はぁーっ、やっぱり、そうだったんだ。アオイちゃんは社長の愛人だって、言いふらしてた子がいたけど、ホントだったの!?」
「ちょっと、待ってよミキさん。そんなの全然ありませんよ~」
「えっと、じゃあ、イケメンホストの女だって、そっちのほう?」
「そっちも違いますぅ!」
「ふふっふふっ……あはははっはははぁ……」
「笑い過ぎです、チェリーさん!!」
私の情報、どうなっているのよ。ああ、これは、涼子のヤツだな。私のことを「クソビッチ」とか言ってたし。私のどこがクソビッチなのよ。私は清純派だぞ!
それにしても、『新宿セクシー女学院』は迷走しているみたい。舐めたマネをしてたから、バチが当たったんだよ。これって、ざまあ展開なのかな?
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