26ー6 仁義なきホストクラブ対抗野球大会
連休も終盤。私は野球の応援に来ている。東京ドーム? 神宮球場? 違う違う、新宿区内の公園の野球場。ホストクラブ対抗の野球大会にキヨミヤの店が出ているのよ。
グラウンドを囲むように、両店の応援団が貼り付いていた。お姉さま方、おばさま方の黄色い声が飛び交っている。
「あ、姐さん、こっちっすよ、VIP席っすよ~」
カナメくんが手招きしている。私の席はキヨミヤ軍のベンチの中。太客が招待されるVIP席だった。太客の、お姉さま方の視線が痛い。「誰だよ、お前?」だよね。だって私、キヨミヤの店に行ったことがないから! さすがに、それでVIPヅラは図々しいと思う。
「ねえ、カナメくん、ここに私が座っていいの?」
「姐さんは、客じゃないけどVIPです。勝利の女神なんですから、堂々としていてください」
「は、はぁ……」
「ほら、キヨミヤさんの打席っす。応援するっすよ!」
『6番レフト、キヨミヤ』
バッターボックスにはキヨミヤ。縦じまのユニフォームが微妙に似合っていないぞ。
♪かっとばーせキヨミヤ~
「ねえ、カナメくん。なんで、今年は野球なの?」
「去年、ウチが勝っちゃったからっすよ。キヨミヤさんはインターハイに出てますからね。サッカーじゃウチに勝てないと思って野球に変えてきたんすよ」
「うぁわ、相手の店も勝手だね」
「向こうは大型店っすからね」
バッターボックスのキヨミヤが、派手に空振りをした。サッカーは上手いけど、野球は下手くそみたい。それに、相手のピッチャーが変化球を投げてきている。
「ピッチャーのレベル高すぎでしょ!」
「元・高校球児らしいっすよ」
「球も速いし、打てるワケないじゃないよ……」
もう、こうなったらフォアボールでも、デッドボールでもいいから塁に……あっ!
ボコっ!!
「いってぇ~っ!」
剛速球がキヨミヤの頭に直撃した。ヘルメットに当たったボールが大きく跳ね上がる。ホントにデッドボールだったよ……って、そんなこと言っている場合じゃない。軟式とはいえ頭だよ。危ないじゃん!!
「キヨミヤーっ!」
「キヨミヤさんっ!!」
キヨミヤの子分たちがベンチを飛び出した。もちろん私も飛び出す。バッターボックスのキヨミヤに駆け寄った。キヨミヤは頭を押さえて、うずくまっている。えっ、ヤバいじゃん!?
「キヨミヤー、しっかりーっ! 傷は浅いぞーっ!!」
「大丈夫だ、アオイ。オメーの声のほうがうるせえよ……」
「大丈夫じゃないでしょ、ヘルメットをかぶってなかったら大ケガだったよ!」
続々と周りに選手が集まってきた。キヨミヤチームはもちろんだけど、相手のチームの選手もベンチを出てきている。なんというか……不穏な空気だ。
「おい、キヨミヤさんに謝れよ」
「あのくらい避けられるだろ〜? おめーんところの大将がトロいんだよ」
すでに口論が始まっている。これは乱闘になるパターン? ホストって基本は体育会系だから、みんな血の気が多いんだよね……。
「どうするキヨミヤ、ベンチに下がって休む?」
「いや、このまま試合に出る。俺が出なくてどうするんだよ」
なんかカッコいいな、キヨミヤ。漢気を感じるよ。
「おい、マツオ、ヒロト、騒ぐな! これは野球なんだ。ケンカじゃねえ。勝負は野球でつける。いいから、ベンチに戻れ!」
「……はい」
キヨミヤの子分たちは渋々ベンチに戻っていく。それを見て、相手チームの選手もベンチと守備位置に戻っていった。
「アオイも戻れ」
「うん」
「俺は大丈夫……ありがとな」
キヨミヤは一塁に向かって歩いていった。その背中を見て、私もベンチに戻る。背中が男だね。キヨミヤの漢気、受け取ったよ!
パン! パン!! パン!!!
「さあ、キヨミヤをホームに返すよ! キヨミヤに当てたピッチャー、ボコボコにしてやりな!」
「「「「おーっ!!!!」」」」
「やってやる! やってやる!!」
ベンチに戻って、子分たちに気合を入れた。殴られたら、殴り返す。倍返しだ!
あっ、野球でね。暴力はんたーい!
◆◇◆
「バンザーイ! バンザーイ!! バンザーイ!!!
パチパチパチ……パチパチパチ……!
勝った! 11対4で勝ったよ。元・高校球児のピッチャーをボコボコにしてやったぞー!!
「まあ、これも俺のデッドボールのおかげだな」
「デッドボール以外は、三振だったけどね~」
「もうちょっと労わってくれてもいいだろ、アオイ……」
たしかにキヨミヤの言う通り、デッドボールから打線が爆発。そういう意味では功労者なんだけどね。
「このあとは、お客さんたちと祝勝会?」
「ああ、そっちが本番だからな」
「じゃあ、私は帰るね。仕事だから」
今日も休みじゃないのよ。帰って、お店に出ないと……ね。おっと、忘れるところだった。カバンから封筒を取り出し、キヨミヤに渡す。
「はい、キヨミヤ。ご祝儀」
「おっ、おおお……すまんな、アオイ」
「これで子分たちに、飲ませてあげてね。すっごくがんばったよ、みんな」
子分たちから、ヒュ〜ッと歓声が上がる。
「あざーす」「姐さん、ありがとうございます」「あざーす、姐さん」
子分たちに手を振って、グラウンドをあとにした。ご祝儀の中身、去年よりも10万円増やしておいたんだけど、気づくかな? キヨミヤは来年もホストをやっているか、わからないもんね。今年が最後かもしれないし、サービスだよ。サービス、サービスぅ~。
まあ……そういう私も、来年は何をしていることか。もうすぐ借金も完済するし、これからどうしようかなぁ~。
筆者からの、お願い
みなさんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどが力になります。
続きを書くためにも、どうか評価をよろしくお願いします。
誤字脱字の報告も、ご協力くださいませ。




