26ー1 アオイ、開運グッズを買う
4月も後半に入った。今日はウチの会社に、BAKIAから野本くんが来ている。
「だから、ここは在庫の共通化です。実店舗で販売すると、通販の在庫から自動的に消えるようにシステムを……」
ウチの新人くんたちが、野本くんを囲んでいる。今、郷田商会では通販システムを改良中だ。そのあたりを、一緒にやってもらっている。専門学校でコンピューターを勉強した子たちだし、理解が早いと思う。これで私の仕事も、少しは減りそうな気がする。
やったね、週休二日制が近づいたよ!
「先輩、ちょっといいですか?」
中村くん……いや、中村係長に呼び止められた。
「これから商品を物撮りするんですけど、付き合ってください」
「いいよ〜。撮影アシスタントだね」
2階の倉庫。配送作業をするテーブルに撮影用スタンドを組んでいく。物撮りっていうのは、商品など「物」を主役にした撮影。ウチの場合は、通販で売る小物がキレイに見えるように、照明を組んで撮影する。
令和の時代だと、ネットオークションに出品する人向けに、専用キットも売られていたと思う。写真の出来栄えで、売れ行きが変わるからね。写真は重要なのよ。
「こっちはオッケーだよ」
「ちょっと待ってください。電源を……」
コンセントをつないで、電源を入れた。白バックに照明が当たる。
「どれから撮るの?」
「そっちの小物から撮りましょう」
「番号が付いているヤツね……」
ミニチュアの王冠だ。何に使うのかはわからないけど、けっこう売れ筋の商品だったりする。袋から商品を取り出して、照明の当たるポイントに置いた。
「もうちょい正面向きで」
「ほーい」
「じゃあ、撮ってみます」
中村くんがカメラを構える。カメラマンの小山さんから買ったデジタル一眼レフだ。
カシャ、カシャ……。
ノートパソコンにつないで、撮影した画像をチェックする。
「どうです?」
「キレイに撮れてると思うよ」
「じゃあ、ガンガン撮っていきましょう」
「了解~」
ミニチュア王冠を袋にしまって、次の王冠を出して……と、20種類ほど撮影した。
「えーと、次はその貯金箱ですね」
「これ、何種類あるの?」
「40くらいです」
「うへぇ~」
でも、これも売れ筋なのよ。私、貯金箱なんて使ったことないんだけどなぁ……。丁寧に箱から出して撮影。同じように、丁寧に箱にしまう。作業としては地味だけど、仕方ない。
「次はアクセサリーを撮りましょう。そっちのケースです」
「ほーい……って、なんかクセの強いアクセサリーだねぇ」
「パワーストーンや開運グッズ系ですよ」
「開運グッズねぇ……」
ブレスレットにペンダント、置物各種。色使いがケバケバしい。呪いのアイテムじゃないよね?
「あっ、気を付けてください。そのへんは単価が高いんで」
「いくらなの、これ?」
化粧箱に入ったペンダントを手に取って見せた。
「それは、1万6000円ですよ」
「わぁ、高っ……」
「高いんですから、手袋してくださいよ」
「あっ、うん、気を付ける」
えーと、手袋、手袋……あっ!
ドタっ、ドタドタっ……。
手袋を探していたら、積んであったアクセサリーの箱を落としてしまった。
「うわぁ、気を付けてくださいよ、先輩」
「ごめん、ごめん……うん、あれ?」
床に落ちた箱から、アクセサリーがこぼれ出ていた。15センチくらいの金属細工だ。拾い上げてみる。けっこう重い。特撮の変身アイテムで使われそうな形だ。
「これ、なんだっけ?」
「それですか……えーと、リストだと五鈷杵とあります。一応は仏具です」
「仏具? そんなものも売っているんだ」
仏具かぁ……。ママが仏壇にチーンとやっていたのを思い出すね。毎日かかさず拝んでいたもんね。でも、今の唯依に信心深い要素は見当たらない。たぶん、死ぬはずだった葵ちゃんが死ななかった影響なんだろうね。
「まあ、一応は仏具なんですが、開運グッズとして人気なんですよ」
「へぇ〜、開運グッズなんだ。開運ねぇ……あっ、これ買おうかな?」
「ええっ、買うんですか? これ下の店の委託商品なんで、店長に聞いてみてください」
「そうなんだ。撮影終わったら頼んでみよう~」
◆◇◆
商品撮影をしていたら、お昼を過ぎちゃった。階段を下りて1階の雑貨店へ。店長は……店の奥に居た。イスに座って、新聞を読んでいる。
「すみませ~ん」
「あら、アオイちゃん、どうしたの?」
店長は新聞から顔を上げて、私を見た。女性なんだけど、顔が社長に似ている。つまり顔が怖い。郷田一族の遺伝子、強すぎるやろ……。
「あのぉ、さっき撮影した商品に開運グッズがあって……」
「なにっ! 開運グッズに興味があるのかな?」
「えっ、えっ……まあ」
「素晴らしい! アオイちゃんも、開運グッズの魅力に気づいたのねっ!!」
店長はガバっと立ち上がると、右奥の棚に歩き出した。
「こっちよ、こっち、見て、見て!」
「は、はい……」
店長に連れて行かれたのは、開運グッズコーナーだ。パワーストーンにクリスタル、招き猫……。ご利益があるのか、よくわからない品物が所狭しと並んでいる。例の五鈷杵も、バリエーション違いが何種類も並んでいた。数珠や、お鈴、仏具系も、けっこう多い。とにかくカオスだ……。
「アオイちゃんは、どんな運気を上げたいの?」
「うんき?」
「おっ、そこから解説しないといけないね。そもそも運というのはね……」
10分くらい話を聞かされた。運というのは巡り合わせや結果。その結果をもたらす原因が、運気である。だから、運気をコントロールして良い状態へ持っていけば、運も良くなるらしい。それを助けるのが、開運グッズなんだって。
う〜ん、わかったような、わからないような……。
「世の中には科学では証明できないこと、論理的に考えてもわからないことが、たくさんあるわ。だから、開運なんて、バカにしちゃいけないの。本当にね……世の中って、不思議なことが起こるのよ。アオイちゃんも、そう思うでしょ?」
「思います、不思議なことは起こります」
「そうでしょ、そうでしょ! アオイちゃん、あなた素晴らしいわぁ~!」
両手を握られ、ものすごい勢いでシェイクされた。いや、まあ……私自身が不思議な存在だからね。不思議な力を、否定できるわけないのよ。
「社員割引は15パーセントだけど、アオイちゃんは特別。20パーセント引きにしてあげるから、好きなのを買ってってちょうだい!」
「あ、ありがとうございます」
ああ、これは買わずには帰れないなぁ……。
商品棚を見まわした。ユニークな商品が多い。店長の話を聞いたあとだからかな? ご利益がありそうな気がしてきたよ。
パワーストーンを使った数珠があった。色使いもキレイだし、オシャレなアイテムに見えると思う。令和でママも数珠を持っていた。これで南無阿弥陀仏とやっていた気がする。よし、これは唯依にプレゼントしよう。
「これ、おいくらですか?」
「5000円よ。その数珠ね、今なら2本買ってくれたら、1本サービスするわよ」
じゃあ、唯依には、真治とペアにするように言って、1本は私が使おう。
「じゃあ、まとめて買います」
「お買い上げ、ありがとうね~」
私が買ったので、店長はニッコニコだ。これは……売れ残りの、不良在庫の処分だったかな? まあ、いいか。物は良さそうだしね。
そのあとも、五鈷杵やペンダント、水晶の置物など、開運グッズを買わされた。なんか、運気が上がった気がするよ。久々にパチンコでも打ちに行こうかな……って、発想がダメ人間だよ。あっ、そうだ! 開運グッズを沙希っぽに売りつけてやろ〜。
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