25-5 リニューアルオープン~後編~
「お待たせしました。新装開店『ピンクシャドウ』。営業スタートです!」
店長のマイクで、入口のドアが開いた。お客さんが入ってくる。続々、続々、続々と……って、どれだけいるの? 平日の午前11時だよ!?
「週明けから連続で夕刊紙に広告を出していたからね。効果てきめんだよ!」
徳井さんが得意顔だ。あっ、ダジャレじゃないよ。本当に得意顔なの。徳井さんはマネージャーだったかな? イベント企画とか広告・宣伝を担当するみたい。だから広告の効果が出ているのは、うれしいんだろうね。
「昼営業を強く推したのは、アオイちゃんだよね? 目の付け所が違うね!」
「区役所の目の前だし、靖国通りも近いから、昼間でも人は来ると思っていたけど……」
正直、ここまでとは思っていなかったよ。これ、女の子が足りないんじゃないかな?
「徳井さん、『マジカルシャドウ』に連絡して、今からでも来れる女の子を回してもらいましょう」
「ああ、そうだね! よしっ、店長に言ってくるよ」
「お願いします」
徳井さんは小走りで去っていった。バックヤードでは、中野くんが次々と女の子を送り出している。私の出番も、時間の問題だ。その前に絵里奈さんに連絡しておこう。えーと、携帯、携帯……。いつものコスチュームみたいに収納ポケットがついていないから、不便なのよ。
プルル……。
『おお、アオイ、どうした?』
「ヘルプに来ているんですが、お客さんが多すぎて女の子が足りないんです」
『そんなに混んでいるのか!? よし、早く来られそうな子に連絡をしてみる』
「店長には、こっちの店長から応援要請が行くと思います」
『ああ、先行して動いておく』
「お願いします」
ピッ……。
「アオイさん、16番。フリーです」
「は~い」
電話を切ると、すぐに名前が呼ばれた。私も出番だ。
店内の配置が変わっている。団体席を減らして、一人客用の席を増やした。私が着くのも一人客用の席だ。
「いらっしゃいませ〜。初めまして、アオイと申します」
お客さんに、おしぼりを渡して横に座る。
「お酒は、おつくりしても、よろしいですか?」
「薄目で頼むね」
「は~い」
ヤセ気味でメガネの男性。30前後かな? ハウスボトルでドリンクを作る。
「お店に入るのに行列で、お待たせしちゃいました?」
「いやあ、驚いたね。開店の30分前に来たのに、もう並んでるんだよ」
「30分前から〜! 大変でしたねぇ。ありがとうございます」
少し大げさに驚いてみせる。まあ、10時に私たちが来た時でも、10人くらい並んでいたからね……。
「夕刊で見てさ。おもしろい店だと思って来たんだよ」
「おもしろいですか! ありがとうございます」
「夜勤でさ、俺。9時に終わるから、ちょうだいいんだよ。メシ食って二軒目」
「そうなんですか~」
これは勉強になるね。そこまで深く考えてなかったけど、夜勤のライフスタイルと合致しているのか……。
「なんの、お仕事なんですか?」
「ああ、俺? 製本ってわかる?」
お客さんが手を開いて見せた。手荒れをしている。
「えーと……戸田のほうですか?」
「おっ、詳しいね。埼京線で一本だから来やすいってワケよ」
お客さんの手を、優しく包むように握った。見た目以上に、カサカサしている。紙って手が荒れるんだよね……。
お客さんの目を見た。少し驚いたのかな? 目が震えている。
「キミを指名で延長するよ」
「ありがとう、ございますぅ……」
しまった。ヘルプで来ているのに指名獲っちゃったよ。いかんいかん……。
◆◇◆
午後になっても、客足は途絶えなかった。想定を上回る来客に、女の子は全員フル回転だ。
「おはようございまーす。『マジカルシャドウ』から来ましたー」
「ありがとお~、助かったぁ」
茶髪がサオリとジュンコ、リアンを連れて来てくれた。これでかなり楽になる。とりあえず、なんとかなりそうだ。
「アオイさん、副店長からの伝言です。アオイさん、沙希さん、ユリアさんは戻ってウチの店に出てください。代わりの応援はなんとかするそうです」
「はぁ……だよね。了解」
沙希っぽもユリアも『マジカルシャドウ』では人気者だ。さすがに金曜の夜に出勤しないワケにいかない。こっちにかまけて、本末転倒だもんね。
「じゃあ、こっちはケイに任せるからね」
「任せてください」
茶髪も、責任感が出てきたね。職場恋愛で店への忠誠心が増したかな? なるほど、社長が社内恋愛をOKにしている理由はこれか……。いや、ちょっと待てよ。沙希っぽは適当にやっている気がする。う〜ん……関係ないな、たぶん。
「うぃ~、アオイっち、帰るぞ~」
「先に着替えてきました」
沙希っぽとユリアは、とっくに着替えてるじゃん。なにそれ……。
とにかく急いで帰り支度をしよう。
ダッシュで更衣室に行ったら、茶髪がキャバドレスに着替えている最中だった。
「ああ、アオイさん! このドレス……着ないとダメですか?」
「なんかエロいというか、恥ずかしいですよ」
「あっ……そうか。みんな、キャバドレスは初めてだっけ」
ウチの店のコスプレ衣装のほうが、露出度は高いと思うんだけど……。まあ、慣れの問題なんだろうね。
「まあ、こういうモノだと思って、諦めて着てよ」
「アドバイスになってないっすよー!」
「とにかく、早く着替えちゃおう。仕事が待ってるよ」
「はーっ、はいはい……」
私も着替えて帰ろう。私は私で、仕事が待っているからね!
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