25ー4 リニューアルオープン~前編~
「あぁ……また、やめる機会を逃しちゃったよ」
「しっかりしろよ舞、もうすぐリニューアルオープンだろ?」
「私……もう若くないんすよ」
「おいおい、歳の話を私の前で言うのか……」
閉店後の『マジカルシャドウ』に舞さんが訪ねてきた。バックヤードで絵里奈さんと話し込んでいる。今『ピンクシャドウ』は休業中なんだけど、新規採用したスタッフ&キャストで、接客の練習をしていたんだって。もうすぐリニューアルオープンだからね〜。
「あーっ、私も結婚しようかなぁー」
「相手がいるのか、舞?」
「そんな男、いるわけないじゃーん」
全身からエロを振りまいている人でも、相手はいないんだね……。
私はパソコン作業中。二人が会話をしている横で、今日の売り上げを入力している。平日にしては多めだ。おもわず笑みがこぼれてしまう。
「ちょっと、アオイ! 私がモテないのが、そんなにおかしいのぉ!?」
「へっ……」
しまった! 笑ったのを勘違いされちゃったよ。
「まあ、いいや、アオイ。男を紹介してよ、男」
「えぇっ……?」
「おい、舞、いい加減にしろ」
「だって、アオイはモテるだろ? 私と釣り合いそうな独身、誰か紹介しろよ」
舞さんと釣り合うような年齢で、独身ねぇ……。あっ、いた!
「社長なら独身ですよ?」
「おお! そうだな、社長は私の2学年か3学年上だから、いいんじゃないか!?」
「パス! パス! パス! それは、パスで」
「社長夫人のチャンスですよ、舞さん」
「いやじゃ、いやじゃ、いやじゃ! 社長夫人でも、いやじゃーっ!!」
「舞と親戚になれると思ったんだけど、残念だったなぁ〜。ハッハッハッハ……」
全力で断られちゃったけど、社長夫人も悪くないと思うのよ。だって、ウチの会社の年商10億円くらいあるのよ。年商10億円の会社の社長夫人って、すごくない? まあ、中身が水商売だから、社会的な信用は微妙だけどね。
それに、見慣れてくれば社長も、かわいい人だと思うんだけどなぁ……。
「で、アオイ、頼みがあるんだが、『ピンクシャドウ』のリニューアルオープン、何人か連れてヘルプに入ってくれないか?」
「金曜ですよね? ウチも忙しいですよ?」
「昼営業だけでいいんだ。夕方で切り上げて、帰ってきてくれ」
「それでいいよな、舞?」
「はい……ええ。アオイ、お願いするね」
「はぁ……」
◆◇◆
『ピンクシャドウ』のリニューアルオープンの日がやってきた。
コンセプトは「真っ昼間から、いちゃいちゃできるキャバクラ」。営業時間は午前11時から深夜12時まで。しかも料金は30分4000円。かなり攻めた内容になっている。
「並んでますよ」
「今日って平日だよな、アオイっち?」
「うん、金曜日……」
ユリアと沙希っぽを連れてヘルプに来たら、すでに行列ができていた。まだ午前10時を過ぎたところだよ? エレベーターホールに10人以上も待っている。
もう少し人数を連れてきたほうがよかったかなぁ……。
行列を横目に店に入る。店長がフロアをウロウロしていた。落ち着かないんだろうね。
「おはようございま〜す。『マジカルシャドウ』からのヘルプでーす」
「ああ、アオイさん!」
「すみません、3人です」
「いや、ありがたいですよ。ほとんどの子が新人なんで、経験者に入ってもらえると助かります」
「はあぁ、夕方までで恐縮ですが……」
業態を変えたことで抜けていったキャストも多いのよ。もともと『新宿セクシー女学院』の引き抜きで、ごっそり経験者が抜けたあとだったからね。残った子のほうが少ないんじゃないかな?
この業界……女の子なんて、みんな渡り鳥だからね。あれ? これ誰に言われたんだっけ。まあ、いいか。着替えて準備しよう。
新人ボーイくんに衣装をもらって更衣室へ。この間、私が整理した衣装部屋にロッカーが並べられていた。ウチの店より広くて、いいね。
久しぶりにキャバドレスを着た。1年ぶりくらいかな?
「アオイさん、その恰好、なんか変です」
「うわぁー、アオイっち、似合わねえ~」
「うるさーい!」
でも、たしかに似合っていないのよ。今さらだけど、水商売に向いてないじゃん、私。おまけに、沙希っぽもユリアもキャバドレスが似合っている。髪が長くて美人だからね。なんかムカつくなぁ。もう絶対、ウチの店はキャバドレスを使わないからっ!
バックヤードの待機所は、すでに女の子たちで埋まっていた。知らない子ばかりだ。店長が言ってたように、新人たちなんだろう。本当に誰が誰かわからない。名札を付けてくれないかな?
「あ、アオイさん、ヘルプありがとうございます」
「神林くん、おっつー」
「アオイさん、ついに僕の時代が来ました! 新生『ピンクシャドウ』の目玉はランチタイム営業です。ランチメニューを考えたんです。オーダーを取ってくださいね」
「う、うん、わかった。オーダー取るよ」
ボーイの神林くんは厨房担当だったね。めちゃくちゃ張り切っている。
パンパンパン!
「は~い、みんな注目!」
手を叩く音に振り返った。副店長に就任したチェリーさんだ。
「まもなく店を開けます。初めて接客する子もいると思うけど、練習の通りにやれば大丈夫よ。困ったことがあったら、すぐにスタッフを呼ぶこと。いいですねー?」
「「「「はーい」」」」
「声が小さいですよ。もう一回、いいですね?」
「「「「「はーい!」」」」」
「はい。その元気を忘れずに、がんばっていきましょう」
チェリーさん、上手いなぁ。女の子たちの不安をやわらげ、気合も入れている。やはり副店長にして正解だね。
「お前たち、準備はいいか?」
「「「はい!」」」
ボーイ中野くんも気合が入っている。主任に昇進したからね。新人くんたちも、がんばれ!
さて、いよいよ開店だ。私らも気合いを入れていこう。
「沙希っぽ、ユリア!」
「はい!」
「任せてちょーよ」
うん……沙希っぽに聞くんじゃなかった。とにかく『ピンクシャドウ』リニューアルオープン。レディーゴーだよ!
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