25ー2 突然の新人歓迎会というムチャ振り
30分後に新入社員の歓迎会をするから、14人で入れる飲食店を手配しろと指示されたよ。ムチャ振りだよね、これ?
おまけに『マジカルシャドウ』に入ったボーイの山崎くんも呼べって。今日、彼は普通に仕事で、今ごろ出勤途中だよ。
ざっけんなよっ、社長ぉぉーっ!!
とりあえず店の手配だ。歌舞伎町の仲見世通りにある昭和レトロな町中華は、2階があって団体でイケるのよ。急な頼みだったけど、OKしてもらえた。社長と店長にメールを送信。お店の問題はクリアできた。
あとは絵里奈さんに電話して許可をもらおう。
プルルルル……。
『どうした、アオイ?』
「ああ、絵里奈さん、ちょっと困ったことになりまして……」
社長の思いつきで歓迎会になったことを説明した。
『今日は店長も翔太もシフトが入っているから手は足りている。歓迎会が終わり次第、出勤してくれればいいぞ。月曜だし、忙しくはないと思う。アオイも歓迎会に出るんだろ?』
「はい、すみません」
『社長命令じゃ、仕方ない。ただし、二次会はナシで頼む。年度初めで飲み会の会社もあるだろうからな』
年度初めで飲み会……。まさにウチの会社だね。まったく……無計画すぎるよ、社長! でも、なんとか調整してもらえた。絵里奈さん、すまんでござる。
よし、今のうちに料理を頼んでおこう。餃子、唐揚げ、焼きそば、かに玉……。私とチェリーさん以外は男だから、いっぱい食べちゃうよね? オヤジさん、大量注文でごめん。飲み物はビールと紹興酒、あとはウーロン茶でいいか。こちらも準備しておいてもらおう。
手配を済ませて、お店の前で社長たちを待つ。先に『ピンクシャドウ』一行が来た。近いもんね。店長、徳井さんとチェリーさん、ボーイの中野くん、神林くん。あとは最近ボーイに採用した専門学校卒の3人。名前なんだっけ? あとで聞かなきゃ。
少し遅れて社長たちも来た。こちらは5人。社長と中村係長、新入社員の3人だ。山崎くんは後から来るとして、とりあえず店に入ろう。
「おばちゃ~ん、みんな来たんで、2階に入りますよ~」
「ビール何本だねー?」
「10本くらい上げといてください」
「あいよー」
私を含めて14人。ぞろぞろと階段を上っていく。すでにテーブルには、コップと小皿が並んでいた。適当に別れて座る。
ピーと音がして、壁の配膳用エレベーターが開いた。ビールが10本並んでいる。
「おおっ、すごいな」
「また兄貴は……」
社長が、さっそく反応している。やはり今日も見た目は大人、中身は子供の逆・名探偵だ。
「じゃあ郷田商会の新入社員と『ピンクシャドウ』に入ったスタッフの歓迎会を始める。みんなビール回ったかー」
「はーい」「おおっー」
「よーし、じゃあ乾杯しよう。グラスを持って……カンパーイ!」
「「「「カンパーイ」」」」
料理も次々と上がってくる。まさかの焼きそばが最初に来た。大皿が2皿。配膳エレベーターから出して、テーブルに並べる。さっそく男の子たちが小皿に取り分けていく。空になったエレベーターが下がっていくと、すぐに折り返しで上がってきた。今度はザーサイと、からあげだ。こちらもテーブルに並べた先から、男の子たちの胃袋に消えていく。
新入社員も新人ボーイも専門学校を出たばかりの20歳。そりゃ、食べるよね。そういう私も21歳。先輩ヅラしているけど、まだまだ若いのよ。というわけで、私も食べる!
「すみません、遅くなりました……」
山崎くんが階段を上がってきた。
「急に呼び出して、ごめんね」
「いえいえ……副店長からも、行くように言われたので」
「お~い、やまさき~」
新人ボーイたちが呼んでいる。山崎くんも、彼らのテーブルに座った。同じ声優科だったもんね。うんうん、仲善きことは美しき哉……。
「な、なっ、なにぃーっ! おっぱい丸見えぇ!?」
「えっ、山崎の店は違うのか?」
話の内容が穏やかじゃなかった。こっちのテーブルの新入社員くんたちも、反応しちゃってるじゃん。やっぱり若い男の子は、おっぱいが好きなんだねぇ……。
ピー、ガチャン。配膳エレベーターが開く。山盛りの餃子が到着した。
「はーい、餃子が来たよ~」
各テーブルに、山盛り餃子を配っていく。いつのまにか私が、給仕係になっちゃっているよ。
「アオイさん、ウチの店は脱がないのに、なんで『ピンクシャドウ』は脱いでいるんですか?」
「同じ会社だけど、お店によって方向性が違うのよ。ウチはソフト路線。『いちゃいちゃできるキャバクラ』みたいな感じ。『ピンクシャドウ』はセクシー路線の店だったのよ。あれ、山崎くんも、おっぱいみたかったの?」
「えっ、あの……見たかったです」
山崎くんが顔を赤くした。こういうところは、かわいいね。
「でも、もう『ピンクシャドウ』も脱がなくなるよ。リニューアルするから」
「そうですよね。短い間だけど、おっぱいが見られてラッキーでした!」
「お前たちだけ、ずるいぞーっ!」
なんというか……正直で、よろしい。ボーイの新人くんたちは、みんな元気だね。そんな元気なボーイくんたちとは対照的に、こっちの新入社員くんたちは大人しい。
「今林くんたちは、あっちの山崎くんたちと同じ学校だったでしょう? 面識ないの?」
「学校行事の時に、顔を見たことがあるくらいです」
「そうなの?」
「勉強する内容が別物ですし、あんまり仲良くなるタイプでもありませんから……」
なんとなくだけど、言わんとすることはわかる。声優をめざす人って、けっこう陽キャが多いんだよね。だから接客業向きなんだけど、合わない人には合わないと思う。
えっ、私? 私はバリバリの陰キャだよ!
「いいよな、お前らは。気が合おうが合わなかろうが、同期がいるだけ、うらやましいよ」
中村くんがグチをこぼす。いちおう私は同期なんだけどなぁ……。
ピー、ガチャン。あっ、かに玉とチャーハンが届いた。各テーブルに配って回らなきゃ……。
「高梨、坂井、今林、先輩を働かせちゃダメだよ」
「あっ……」「えっ、やります」「すみません」
中村くんに言われて、新入社員くんたちが立ち上がる。配膳エレベーターから料理を取って運んでいった。
「ふ~ん、係長らしくなってるじゃ~ん」
「からかわないでくださいよ、先輩」
「同期でしょ、私たち?」
「先輩は……先輩ですよ」
グイっと、中村「係長」はビールをあおった。照れること、ないのにねぇ〜。
さて、そろそろ私は行かなければ……。
「あっ、社長、店長。私は仕事があるんで、お先に失礼します」
「兄貴が無理を言って、すまなかったね」
「おぉ? 俺が無理を言ったか??」
「無理を言ってるだろ、兄貴……」
うん、やっぱり愚兄賢弟説に一票だね!
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