25ー1 新年度のスタートはバタバタと……
週明けの月曜日。会社に行ったら、人が増えていた。まだ3月31日なんだけど、わが郷田商会は今日から新年度だ。
「おはようございます!」
「おはようございます!!」
「おはようございます!!!」
この春から採用した新入社員たち。えーと……坂井、高梨、今林だったかな? 中村くんの部下ということになる。
「縁あって、キミたちを社員として迎えることなった。小さな会社だ。仲良くやってほしい」
社長の訓示に新人さんたちがとまどっていた。「仲良く」って言われても怖いもんね。でも、慣れてくると楽しい人だよ、社長って。
「みなさんの直属の上司となります、係長の中村です」
あ、主任から係長に昇進したしたんだった。おめでとう、中村くん。責任が増えたけど、がんばれ〜。給料も増えると、いいね!
「えーと、私は……社長室付き企画経営補佐の佐藤です。みなさんの直接の上司じゃないけど、いろいろと仕事をお願いするかもしれません。その時は、よろしくね」
「「「よろしくお願いします」」」
いい返事だ。私を見習わずに、素直に育ってほしいね。
「なんで、アオイくんにだけ、いい返事するんだよ」
「人徳です」
「まあ、先輩は見た目だけなら、かわいいですからね……」
「見た目は、かわいいって認めてくれるんだ」
「中身は鬼ですけどね……」
ちょっと、ちょっとちょっと、中村係長。新人さんたちに間違った意識を植え付けないでよ。やさしい先輩だからね、私は!
「さて、俺は『ピンクシャドウ』の改装を見に行かないとな。新人の指導は中村係長に任せる。アオイくんは、俺と一緒に来てくれ」
「はい」「はーい」
『ピンクシャドウ』は、昼から営業する「昼いちゃキャバ」にリニューアルする。オープン予定は4月11日だけど、それに合わせて、店内を一部改装している。まあ、そのままやってもいいんだけど、社長は改装とか、工事が好きなのよ……。
というわけで『ピンクシャドウ』に向かう。
業者さんが入って工事をしている……と思って来たら、違った。店長以下、スタッフ総出で荷物を運んでいる。工事というより、部屋の模様替えみたいな感じかな?
「よお! 様子を見に来たぜ」
「アニキか……いいところに来たな。衣装部屋のコスプレ衣装を持っていってくれないかなぁ」
「要らないのか、衣装?」
「もう、コスプレはしないからな。衣装部屋をつぶして更衣室にする」
「そうか……わかった。アオイくーん」
「はーい」
衣装部屋を片付けることになった。この衣装部屋に入るのも久しぶりだ。
「うへ~っ、ぐちゃぐちゃ!」
「ああ……最近、整理してませでしたからね~」
「ちょっと、神林くん!」
「じゃあ、よろしくお願いします」
ボーイの神林くんに逃げられた。まったく……私が離れて8カ月で、ここまで雑にしちゃうかねぇ〜。まあ、私が抜けたくらいから、コスプレ衣装を着る子がいなくなったんだろうね。使わなければ整理もしないし、ぐちゃぐちゃにもなるか……。
仕方ない。衣装の整理だ。どうしよう、普通のキャバドレスは残していったほうがいいかな? ドレスを借りる子もいるもんね。洗濯やクリーニングは、後回し。とにかく、選別して段ボールに入れていこう。
◇◆◇
「うぅぅーっ、終わった……」
引っ越し用の段ボール11箱。午前中から始めたのに、もうすぐ2時だ。お昼も食べずにやったから、お腹すいちゃったよ。
さて、どこに持って行こう? 『マジカルシャドウ』は倉庫がないし、会社に持って行くしかないかぁ……。
「衣装の整理、終わりました~」
フロアに出たら、徳井さんが床掃除の真っ最中だった。業務用機材でカーペットを洗浄している。すごいな徳井さん、どこから持ってきたのよ。
感心しながら見ていたら、チェリーさんに声をかけられた。
「あ、アオイちゃん、終わったの?」
「一応、整理して箱に入れました。ほかの人たちは、どこに行きました?」
副店長候補のチェリーさん。今日は作業着なので、おば……いや、年相応に見える。
「社長と店長は事務所。ボーイのみんなは、厨房とVIPの片付けしているわよ」
「新しく入ったボーイの子たちも、コキ使われてますね……」
「せっかく若い男の子がいるんだから、遊ばせておくのはもったいないでしょ? 『ハッスルガール』なんて、だいたいのことは自分たちでやっていたのよ?」
「それで徳井さんは、あんな機材が使えるんですね」
「まあねー。長いことやっていると、いろいろできるようになっちゃうのよ」
考えてみたら、いろいろ私もやらされているからね。きっと徳井さんも、そんな感じだったんだろうなぁ……。ちょっとシンパシーを覚えちゃうよ。
「おっ、アオイくん、終わったのかね?」
「ちょうどよかった社長」
バックヤードから社長が出てきた。
「ちょっと遅いけど、昼メシか?」
「そんなに腹ペコに見えますか、私? まあ、お昼は食べてませんけど」
「おお、じゃあ、メシ行くか?」
「いや、そうじゃなくて、衣装を段ボールに詰めたんですが、11箱ありました。私じゃ運べません」
「そうか……じゃあ、係長を呼ぶか」
社長は、携帯を取り出して電話をかけた。
「もしもし、社長の郷田だ。中村係長に代わってくれ。おお、俺だ。荷物があるから取りに来てほしい。段ボールで11箱だった。台車を持って来れるだろ? 下の店にも台車あるから、そう、それも借りて。若い子を使えよ、若い子を……」
電話の前で困惑している中村くん。映像が浮かんでくる。昇進すると大変だね。中村くんも若いのになぁ……。
電話から15分くらい。新入社員の坂井くんと高梨くんを連れて中村くんが到着した。
「早かったね~」
「ダッシュで来ました」
とりあえず重そうな箱から台車に積んでいく。3台あるから、一度で運べそうだ。中村くんが指示をして、荷崩れしないように紐で縛っている。
「じゃあ、店長。私たちは会社に戻ります」
「アオイさん、お疲れ様でした」
「社長も、行きますよ~」
なんか社長が考え事をしている。
「おおっ、それ運んだら歓迎会をやるか?」
「歓迎会? なんの歓迎会ですか?」
「決まっているだろ、新入社員だよ。それにほら、徳井さんたちや新しく入ったボーイの子たちも、やってないだろ?」
「たしかに、そうだな。兄貴にしては珍しくいいアイデアだな」
「ええぇ……」
なんか、急に新人歓迎会をやることになってしまった。社長の思いつき、いやんなっちゃうよ……。
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