24ー3 中村くんの潜入レポート『新宿セクシー女学院』
3月20日。例の新店『新宿セクシー女学院』のオープン当日だ。
そうはいっても、私がすることは変わらない。いつものように会社に行って、それから『マジカルシャドウ』に出勤するだけなのよ。
「新しい店ができたみたいだけど、普段と変わらんなぁ」
「ウチの店への影響は、ほとんどないと思います」
「靖国通りの反対側だもんな……」
『マジカルシャドウ』のバックヤード。絵里奈さんと、売り上げデータを見ながら話している。間もなく深夜12時、閉店時間だ。この分だと普段の週末並みか、それ以上の売り上げになると思う。
「しかし……どんな店なのかは気になるな」
「調査が終わったら、ウチの店に寄るように言っといたんですけどね」
特別ミッションを命じたのは中村くん。『新宿セクシー女学院』に客として潜入。見聞きしたことや、体験したことをレポートしてもらう。いわゆる「潜入ルポ」? なんか響きはカッコいいけど、潜入先がエッチなお店だからね……。
「すみません、アオイさん。お客さん……じゃなくて、会社の人が来ています」
「あ、こっちに通して」
調査任務を終えた中村くんが、村人Bことボーイの翔太くんに連行されてきた。
「せ、せんぱ~い……」
「どうしたの、中村くん?」
「おい、どうした、へろへろじゃないか……」
イスを差し出したら、中村くんはソッコーで座った。めっちゃ疲れているじゃん。
「疲れました。とにかく疲れました」
「お疲れ様。で、どうたった?」
「混んでました。7時の開店に合わせて行ったんですが、40分待ちです」
「店内はどんな感じだった?」
「あぁ……なにか書くものありますか?」
「おお、これを使え」
絵里奈さんがコピー用紙と鉛筆を渡した。
「えーと、こんな感じでベンチシートがあって、小さなテーブルが等間隔で並んでいます。こっちのほうはボックスシートになっていて、テーブルの真ん中に目隠しの衝立がありました」
スラスラと中村くんが紙に図を書いていく。さすが、整理整頓が得意なだけはある。密偵に送り込んで正解だったよ。
「こっちは病院の待合室っぽいし、こっちはファミレスか? 変な配置だな」
「これは……よく考えられていますよ!」
「わかるのか、アオイ?」
「以前、体験入店した『ダーティーエンジェル』が、病院の待合室というか、映画館のような座席でした。こっちのボックスの配置なんかは、もろにウチでしょう……」
「たしかに、そうだ、ウチとそっくりじゃないか!」
人気店のいいとこどりというか、パクリというべきか……。
「で、サービスはどうだった?」
「40分8000円、9時以降は1万円。指名は2000円です。あとVIPルームというか別室があって、そこは10分3000円と言われました」
中村くんは見取り図に四角を2つ描き加えた。
「VIPルーム、行ったの?」
「そのへんは順を追って話します」
「ごめんね、話を続けて」
「はい。まず、店内に入るとベンチシートに通されました。ひとつのシートに、お客さんが2人。1列にシートが3つ並んで、これが5列です」
「一人客の席が30となると、こっちのボックスは10、4、4くらいだな」
「そんな感じでした」
店内の配置はわかった。50席クラスの店だ。『マジカルシャドウ』の倍くらいある。そりゃ、女の子をかき集めるわけだよ。
「それで、席に座ると店員が、飲み物の注文を聞いてきます。何か注文しないといけないんです」
「飲み放題のハウスボトルはないのか?」
「そういうのはなかったです。ビールとかサワーが2000円だったかな。僕はウーロン茶にしました。1000円です。ボトルのお酒もありましたが、みんな何万円かでした。あ、12万円のドンペリがありました」
私もメモをしておこう。中村くんの話を整理して、レポートにしないといけないからね。
「女の子はセーラー服っぽい服でした」
「セーラー服っぽいって、セーラー服じゃないのか?」
「丈が短いんです。パンツが見えるくらいスカートが短いし、上もこのへんまでしかなくて……」
中村くんが胸の下とヘソの中間くらいで、手を左右させている。
「おいおい、腹が丸出しじゃないか。デブってたら着れないぞ」
「ああ、お腹がボヨっとした女性もいましたよ」
「いたのかよっ!」
う〜ん、ウチを研究しているというから、コスプレ寄りだと思っけど、かなりエロ寄りみたいだね……。
「それで、どんな接客だったんだ?」
「最初は普通に女の子が横に座っていたんですが、僕が何もしないので、僕の手を取って自分の胸を触らせました。服の下がすぐおっぱいでした」
「下着はつけていないんだな」
「そうなんです。だから脱がせるとかじゃなくて、たくし上げるような感じで出してました。まわりを見ても、脱いでいる人はいなかったと思います」
常時おさわり系で、横に侍って接客する。服は脱がずに、たくしあげて露出させるタイプ……と。うん、イメージが見えてきた。
「女の子は、どんな感じだった? 年齢とか見た目とか……」
「ちょっと年上が多かった気がします。あっ……名刺があったんです、名刺」
中村くんがポケットから名刺を取り出した。
「なんだ、枚数が多いな」
「できるだけ人数を見るように、先輩から言われましたんで……」
1、2、3、4……13枚もある。何時間いたのよ、中村くん……おっと、何かメモが書いてある。
「これ、中村くんの書き込みだよね。ハッスル、ピンク、ゾーン、エンジェル……って、ひょっとして?」
「あ、前の店です」
「なんで聞き出せるのよ!?」
「普通に話してくれましたよ」
「指名はしたのか?」
「はい。えーと……この蘭奈さんですね」
指さした名刺を見る。「上野」とメモしてあった。
「上野?」
「本店が上野で、そこから移籍してきたって言ってました」
「じゃあ、この人とVIPも行ったの?」
「はい。カーテンで仕切られた狭い部屋です。一人掛けのソファーが、ポツンと置いてありました」
「何をしたの?」
「何をしたらいいのか、わからなかったので、何をするのか聞きました」
「あらら……」
絵里奈さんがズッコケた。さすが昭和のお姉さん、見事なコケ方だよ。
それにしても、中村くんには探偵の才能がある。見た目は強面、中身は子供の逆・名探偵、社長とは大違いだね。とても参考になるレポートだったよ。ありがとう!
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