23ー4 初めての朝帰り、というか昼帰りと強面兄弟
「バキさ~ん、早く行かないとレストランが閉まっちゃいますよ~」
「ま、待って欲しいでござる」
3時過ぎくらいにチェックインしたのに、もう夜7時半だ。急がないとグルメバイキングが終わってしまう。「いい運動」をしたから腹ペコなのよ。
えっ、いい運動って何かって? それは、ご想像の通り。少しはバキさんも、やせたんじゃないかなぁ〜。
客室棟を出てレストランに向かった。ライトアップされたガーデンを抜けていく。
「私、外国には行ったことがないけど、こういう南国でゆっくり暮らしてみたいなぁ……」
「南国でござるか……なーんご~くとーさをあとにしーて~」
「歌うと思ったぁ」
「歌いたい気分でござるよ」
魔法使いになる資格を失っても、バキさんはバキさんだね。安心したよ。
「さ~て、食べましょう!」
「お腹がすいたでござるな」
レストランのバイキングってワクワクしちゃう。海の幸はもちろん、お肉も野菜も並んでいる。そして……デザートも食べ放題なのよ!
「イチゴぉ、パイナップルぅぅ、ケーキぃぃぃ〜」
「いきなりデザートばかりでござるな……」
「だって、食べたいんだもん! そういうバキさんは……お肉と卵料理ばかりだよ」
「たんぱく質を補充するでござるよ」
たんぱく質……ああ、そうか。あれって、ほぼ水分だと思うのよ。まあ、たんぱく質を摂って悪いことはないか。私もプロテインを飲んで筋トレしているし。
「じゃあ、いっぱい食べなきゃね」
「あ……あははっ……」
なんか顔を赤くしているよ、バキさん。かわいいね。
お皿にフルーツを山盛りにして席に着いた。大きなガラス窓からライトアップされたガーデンが見える。
「ああ……そうだった、バキさん、お誕生日おめでとうございます」
「拙者も忘れていたでござる。それどころじゃなくなってしまいましたからな、はっはっはっは……」
「こんな素敵なホテルと、おいしいご飯。なんか私の誕生祝いみたい」
そういえば……この時代に来てから、誕生日は働いていたもんね。まあ、それも私の誕生日じゃなくて葵ちゃんの誕生日。私の誕生日は、誰も知らないのよ。1・2・3……ダーっ!
「バキさんは明日、仕事じゃないんですか?」
「半休にし申したから、大丈夫でござる」
「社長の権限ですね。私も午後から仕事なんで、帰りもお願いします」
「お任せくだされ。帰りも安全運で参りまするぞ」
「ありがとう、バキさん」
「はっはっはっは……さて、おかわりしてきますかな?」
「私も、おかわり~」
このあと……むちゃくちゃ食べちゃった。
お腹いっぱいだよ。
◆◇◆
「運転お疲れ様」
「アオイ殿もお疲れ様でござる」
バキさんの運転で新宿に到着。道の駅に寄ったので、お昼を少し過ぎてしまった。でも、お土産も買えたし、みんなに配ろう〜。
「ありがとう、バキさん」
助手席からバキさんにチューをした。
「今日も、お仕事がんばってください」
「アオイ殿も……」
ドアを開けて車を出た。軽快なエンジン音を響かせて車が発進する。手を振って見送った。やっぱり、いい車だね。私も運転したくなっちゃった。免許を取ろうかな?
ふらりふらふら、ビルの街を歩く。今日もいい天気だ。房総半島の先っぽで見る青空は素敵だけど、ビルの隙間の青空も趣があると思うのよ。
「おはようございま~す」
「ああ、アオイくん。コーヒーを頼む」
「ほーい」
会社に行ったらピンク店長が来ていた。ソファーで社長と話している。強面ブラザーズのツーショット。楽しい気分から、現実に引き戻されたよ。
私は料理はできないけど、コーヒーくらいは淹れられる。美由ちゃんみたいに、ちゃんとした料理ができないってだけね。基本的に家事能力は高めだよ……って、なんのアピールよ、私。
というわけで、サクっとコーヒーを淹れて運んでいく。ついでに、おみやげで買った焼き菓子も付けよう。「菜の花」をイメージした黄色いあんこが入っているらしい。
「前の店の勤務状況を調べたが、なかなか優秀だ」
「背後を調べたのか?」
「問題はなかった。借金もないし、キレイなもんだ」
「だからといって、勝手に雇わないでくれよ」
ハッスル店長……もとい、徳井さんの話みたいだ。
「おっ、アオイくん、お菓子付きかね?」
「昨日お休みだったので、房総半島に菜の花を観に行ってきました」
「そいつは羨ましいな。一人かね?」
「あっ、それは……」
「おい、兄貴……」
ピンク店長が社長と私に割って入った。
「気をつかえよ、兄貴。傷心旅行だろ」
「傷心旅行?」
「付き合ってたんだよ、女同士で……」
「えーっ!?」
小声で話しているつもりなんだろうけど、聞こえているよ。なんだかんだで、ピンク店長は私と美由ちゃんの関係に気づいていた。お店では、いちゃいちゃしてなかったんだけどなぁ……。そのへんは夜の店の店長だけのことはあるね。
「ん、うん……そうか、そうか。寂しかったら気軽に話しかけてくれたまえ、アオイくん」
「はぁ……」
「あぁ……そういうとこだよ、兄貴は」
ピンク店長が頭を抱えた。社長は男女の機微に疎いからね。というか、見た目は大人、中身は子供の逆・名探偵だから仕方ないか……。
「え~と、私のことはどうでもいいんですが、ハッスルの徳井さんの話をされませんでしたか?」
「ああっ、そのことだが……身辺調査をしたが、徳井さんも奥さんもキレイなもんだったよ」
「さっそく今週から店に入って、慣れてもらいます」
「ありがとうございます、店長」
「いきなり副店長とはいきませんが、様子を見て考えます。まあ、話してみた感じだと奥さんのほうがしっかりしています」
「それは私も同感です」
徳井さんは完全にチェリーさんの尻に敷かれてたからね。『ピンクシャドウ』も副店長は女性になりそうな予感がするよ。
「それで、あとはアオイくんが言ってたように、男性スタッフの増員だ。職安への手配をして、あとは求人広告は出すが、HPとモバイルの告知はやってもらえるか?」
「はい。募集の原稿をもらえれば、私のほうでやっておきます」
「頼んだよ、アオイくん」
「あっ……そうだ。そろそろスカウトに行く予定なので、男性もスカウトしてきていいですか?」
「それは構わんが……俺も行っていいか?」
「え〜っ……」
なんか、面倒なことになりそうだなぁ〜。
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