23-3 初めての相手が私なんかでいいのかな?
バキさんの貞操がピンチです。
勢いで来てしまったけれど……ホテルだよね、ここ?
遠くから見えたオレンジはホテルの屋根だった。白壁にオレンジの屋根。それが何棟も立っている。行ったことないけど、スペインとか地中海のイメージ?
21年と3カ月生きてきたけど、私の知っているホテルじゃない。こんなの恋愛リアリティショーでしか見たことないよ。
どう考えても私、バラをもらえず途中で脱落する残念な女じゃん。荷物をまとめて帰らなきゃ……。
「行きますかな?」
車をホテルの人に預けに行ったバキさんが戻ってきた。
「あの……バキさん、ここって?」
「バブルの遺産でござるな。当時の最高級の会員制リゾートホテルとして建てられたのでござる」
「会員制? じゃあ、バキさんも会員なの?」
まあ、バキさんは社長だから、高級リゾート会員でも不思議はないか。ブルジョワジーだねぇ……。
「そうではござらん。大きな声では申せませぬが、数年前に経営破綻しましてなぁ、今は普通に泊まれるでござる。しかも、見た目ほど高くはないのでござる」
「そうなんですか……」
ホテルの敷地を、ぐるっと見まわした。
きれいに手入れされた芝生が広がっていて、敷地の真ん中にドーンとプールがある。さすがに泳いでいる人はいないか、3月だもん。でも、プールだよ、プール! バブルって、すごかったんだなぁ……。
そんなことを話しながら瀟洒な建物に入った。ロビーなのかな? 吹き抜けになっていて、シャンデリアがぶら下がっている。なに、このオシャレな感じ。私、めっちゃ場違いじゃん!
「2名様でございますね」
「予約はしてござらぬが、よろしいですかな?」
「そうですか、そうなりますと……」
「アオイ殿、ちょっとよろしいでござるか、相談が……」
「なんですか~」
バキさんに呼ばれた。まあ、私が寄っていこうって言ったんだもんね。さすがに空いてないかな?
「部屋は空いているようでござる。どの部屋がよいか、選んでくだされ」
「はあ?」
「最上階の海が見えるスイートルームも、ご用意できますよ」
あららっ……。普通にガラガラだったみたい。
ホテルの女性スタッフが笑顔で勧めてくる。見事な営業スマイルだね。見習おう。
「でも、お高いんでしょう?」
「本日は日曜日ですので、お部屋はかなり空いております。せっかくお越しいただきましたので、通常のスタンダードルームの料金のままで、ご提供させていただきます! 」
「いいですか、バキさん?」
バキさんの顔を見る。
「一緒の部屋で、よいのでござるか?」
「バキさんは……イヤなの?」
「よいでござる」
「じゃあ、その部屋でお願いします」
「はい。承りました」
女性スタッフがニヤリと笑ったのが見えた。「将を射んとする者はまず馬を射よ」というけれど、私は馬だったのか……。ちょっと悔しいなぁ。
部屋があるのは別棟。オレンジ色の屋根の建物に案内された。
「こちらガーデンスイートになります。ごゆっくり、ご滞在くださいませ」
案内のスタッフさんがドアを開ける。お洒落な部屋だ。私が見た中で、ナンバーワンに素敵な部屋で間違いない。まあ、ホテルの部屋なんて、旅番組か旅行系ユーチューバーの配信でしか見たことないけどね〜。
「うぅわぁ~!」
ベッドにダイブした。
大きいのよ、ベッド。クイーンサイズ? 私の身長くらいの幅のベッドが2台ある。2年くらいシングルベッドで二人が寝てたからね。大きなベッドはテンションが上がっちゃう。
「本当に同じ部屋でよかったのでござるか?」
この期に及んでバキさんは困惑している。私はデートに誘われた時から、こうなると予想していたんだけど、まだ迷っているのかな? ひょっとして、本当にドライブだけのつもりだったとか?
やっぱり私の倫理観がおかしいのか。ただの色ボケ痴女だもんね、私。あっ……そうか、バキさんは女性経験がなかったんだっけ。初体験だもんね。相手は選ぶか……。
「ごめんねバキさん。大事に守ってきた童貞だもん……。私みたいな商売女が相手じゃ、イヤだよね」
「と、とんでもない!」
「でも、バキさんってIT企業の社長で青年実業家だもん。青年実業家ってアイドルや女子アナと結婚するでしょ? バキさんの周りだって、そんな感じじゃないの?」
「まあ、たしかにそういう話は聞くでござるが……」
ですよね〜。冷静に考えてバキさんってすごい人だもん。ちょっと浮かれてたよ、私。もっと身の程を弁えなきゃいけないねぇ……。
「でも、拙者はアオイ殿が好きなのでござる。拙者は……アオイ殿を妻にしたいと願っておるくらいでござる」
「あ……ありがとう、バキさん」
いやいやいや……妻にしたいとか、プロポーズ? 私のほうが心の準備ができていないって! それは、ちょっと困っちゃうな。ほら、私、未来人じゃん。令和の時代に帰りたいしさぁ……。
「ただ、正直な話、心の準備ができておりませなんだ。今日はドライブをして帰りにキスくらいできれば……と思っておりましたゆえ、何をどうしてよいのかわからぬでござる」
あっ、バキさんも心の準備ができてなかった。よし、セーフだ、セーフ……って、なにがセーフかわからんね。ここは、勢いで押し切ろう! ベッド上に立てば身長差も解決だ。いっきに飛ぼう。大丈夫、バキさんの体重なら問題ない。
「バ~キさ~ん!」
バキさんめがけてダイブした。
「のわっ!」
飛びついた私をバキさんがキャッチ。がっちり受け止めてくれたよ。ちょっとベアハッグっぽい態勢になっているけどね。
「危のうござるよ」
「えっへっへ……」
抱きついたから目の前にバキさんの顔がある。そのまま唇を奪う。ボディはベアハッグされているからリップロックで逆襲だね。
「ねえ、バキさん。シャワー行こう」
「そ、そ、そうでござるな……」
抱っこされたままバスルームへ。
人は失敗から学ぶ。私の初体験は汗臭かったと思うのよ。バキさんに臭いと思われたくないもんね。
すぱぱぱぱーんと全裸になった私。少し遅れてバキさんも入ってきた。
こうして見るとバキさんは、ただの太っちょじゃない。アメリカンドリームと呼ばれた名レスラーを彷彿させる。日本でも活躍したスーパースター・アメリカンナイトメアの父上様で、あのバイオニックエルボーの本家だよ。
しかし、バキさんはタオルで股間を隠している。そこはいけない。こういう時は堂々としよう、堂々と。
「タオルを取りましょう、バキさん」
「そうでござるか……」
バキさんの股間からタオルを取り上げた。
ひゅ~っ。これは立派だ。バキさんの巨体に負けていない。仕事がら何本かの男性自身を見ているけれど、比較にならないレベルで大きい。私がパパのサイズを見慣れていなかったら卒倒するくらいのビッグマグナムだ。
「すごく……大きいです」
「大きすぎるのでござる。『大きすぎて入らない』と言われてきたでござる」
うん? じゃあ、そういう関係になった女性はいるんだ。あっ、男かもしれないけど。
「何度か付き合った女性もおりました。でも、みんな大きすぎてはいりませなんだ。泣かれたこともござった。いっそと思い、風俗店にも行き申した。とても無理だと断れたでござる」
なるほど……。バキさんが童貞だったのは、そういうことか。モテない人じゃないもんね。なんか、いろいろわかったような気がする。
こうなったのも天の導きか、御仏の思し召しか……。見せてやろう、葵ちゃんの無限力をっ!
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