23-2 ドライブだGO!GO!~春の房総半島~後編
私とバキさんはドライブデートの真っ最中。車は房総半島を南下していく。
海岸沿いの狭いところを掘削して作ったような道路。片側一車線で歩道もない。景色はいいけど、運転するバキさんは大変かもしれない。幸い渋滞もなく、車は順調に流れている。
「日曜日にしては、車が少ないですね」
「早い時間は渋滞するそうですぞ。もう昼近くでござるからな」
だよね〜。新宿を出発してから2時間くらい経つもんね。けっこう広いよ、ちーばくん。
いくつか短いトンネルを抜けていくと、だんだん家が増えてきた。大きな看板も出ている。『ようこそ館山へ』。館山の市街地に入ってきた。
「お昼にするでござる」
「は~い」
国道を外れて、脇道に入った店に車を止める。こじんまりとした建物。お寿司屋さんみたいだ。バキさんにくっついて、お店に入る。
「おや、バキさんじゃないかい?」
「ご無沙汰でござる、大将」
のれんをくぐるなり、店の大将が声をかけてきた。
「連れがいるとは珍しいねー。そのカワイ子ちゃん、恋人かい? バキさんも隅に置けないねぇ」
「いや……まあ、はぁ……」
恐縮しているバキさんと、並んでカウンターに座る。「カワイ子ちゃん」だって、私。見る目があるよ、大将。イエーイ!
L字型のカウンターに10席ほどの店。私たちのほかに、お客さんは2組。観光客っぽくないから、地元の常連さんかもしれない。
「あら、バキさん久しぶりじゃない」
奥から割烹着の女性が出てきた。女将さんかな? カウンターに、おしぼりと箸を置いていく。
「あらまあ、素敵なお嬢さん。バキさんにも春が来たみたいねぇ~」
「女将さん……」
今度は「素敵なお嬢さん」って言われたよ。最近ほめられないから、気分いいね。ニヤニヤしちゃう。
「バキさん、今日はサヨリの、いいのが入ってますよ」
「東京湾のサヨリでござるな」
「えっ、東京湾で獲れたんですか?」
「今朝上がった魚だよ。お嬢ちゃん」
「えぇ~、すごーい」
東京湾で獲れた季節の魚。おもいっきり堪能しちゃったよ。
「この店、よく来るんですか?」
「ドライブの時に立ち寄るでござる」
「車が車なんで峠を攻めに行くのかと思ったら、湾岸なんですね」
「ハハハハッ……拙者には峠を攻める勇気はござらぬよ」
お寿司屋さんをあとにして、車は海とは反対側の内陸方面へ。今度は太平洋側をめざすらしい。小さな山というか丘陵地帯をすり抜けていく。
「バキさん、ドライブが趣味なんですか?」
「独り者でござるからなぁ、気のむくままに車を走らせてござる」
「気ままにハンドルを握るって、素敵だと思います」
「そ、そう言っていただけると、うれしいでござるな」
運転しているバキさん、少し誇らしげだ。横顔がカッコよく見えるよ。
車は丘陵地帯を抜けて田園地帯へ。さらに住宅街に入っていく。信号を右折した先は海沿いの道路らしい。でも、防風林の真ん中を突っ切っているので、海は見えない。太平洋が見えないよ〜。
少し走ると左手が開けてきた。海が見える。海水浴場なのかな? 砂浜が広がっている。
「うひゃぁ〜、波が荒い……」
「近くで見れる場所があるでござる」
「見たいです!」
「では、寄るとしますかな……」
国道なのかな? 歩道のない道路をバキさんは安全運転で抜けていく。バキさんの運転は信頼できる。左手に海岸線を見ながら、しばらく車を走らせた。
「見えてきましたぞ」
「えっ……?」
「左、前方でござる」
「あぁ……灯台?」
青空に白い灯台がそそり立っていた。
バキさんが車を駐車場に入れた。車を降りて歩いていく。
「野島崎灯台っていうんだ……」
参観料金を払って、資料館に入る。灯台の歴史みたいなものが展示されていた。日本で二番目に古い洋式灯台なのか……。
「灯台に登れますぞ」
「登りましょう!」
実際に登れる灯台というのは珍しいらしい。これは、もう登るしかっ!
というわけでGO! らせん階段をぐるぐる回って、一番上の展望台に出た。
「いやぁっは~っ!」
展望台からの眺望は圧巻だった。目の前に広がる大海原。天気がいいから水平線の向こうまで見えちゃいそうだ。鉄柵に沿って反対側に歩いていくと、房総半島の山が見える。360度の大パノラマだよ。
「ここは房総半島の最南端、一番の先っぽでござる」
「あ、本当だ。たしかに足の裏ですね」
バキさんと二人、並んで水平線を眺めた。
「喜んでもらえましたかな」
「ありがとう、バキさん! あっ、でもバキさんの誕生日なのに、私ばっかり楽しんじゃって……」
「よいのでござる。アオイ殿が楽しんでいる姿が見られて幸せでござるよ」
いい人だよ、バキさん。でも、ちゃんとプレゼントはしないとね。帰ったら、何か考えよう。
「さあ、帰りのドライブでござる」
「うん。お疲れさまだけど、安全運転でがんばってね」
「いつも心に安全運転でござるよ!」
軽快なエンジン音を奏で、車は再び走り出す。海岸線にそって10分ほど走ったあと、まっすぐな道に入った。
「あぁ……黄色ぉ」
道の両側が黄色に揺れている。菜の花かな? まっすぐな道路の両側、すごい量! ずっと続いている。
「一足早い春でござろう?」
「ホントだバキさん……春だよ、春!」
きれい……というより、すごい。ずっと、続いているんだもん。
菜の花の花言葉は「将来の希望」だったかな? 希望の色。明日の黄色をつかみたい。
菜の花畑を走り抜けていく。右前方に鮮やかなオレンジ色が見えてきた。
「ねえ、バキさん、あれは何?」
「あそこはホテルでござるよ。高級リゾートというヤツでござるな」
「ほえぇ〜、高級リゾートかぁー。あんなところに泊まれる身分になってみたいねぇ……」
バキさんがフッと笑った。そうだバキさんって社長だったんだ。ブルジョワジーだね。プロレタリアートの私とは階級が違うのよ。いつか革命を起こそう。いや、維新のほうがいいかな? 平成維新軍を結成するしかっ!
「寄っていきますかな?」
「うわぁーい、寄ってく、寄ってくぅ!」
そんなの、もちろんじゃん。見せてもらおうか高級リゾートの実力とやらを!
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