22ー5 寂しくないとい言ったら嘘になるけど
「これって浮気になるのかしら?」
寮のベッドの上。裸の私を組み敷いている美由ちゃんが言った。
今さら何を言っているのかね……。まあ、でも仕方がない。私も美由ちゃんも倫理観が壊れている。世間の基準がよくわからないのよ。
一応、私は変人としての自覚がある。転生なのか、憑依をしちゃった未来人だからね。いくら今の時代に馴染んだとはいえ、そこは気にしている。気にしているんだよ、それなりに。
「浮気をしている自覚があるの?」
「それが……ないのよ」
「じゃあ、いいんじゃない?」
男の人に抱かれるのと、私を抱くこと。たぶん美由ちゃんの中ではジャンルが違う。ジャンルが違うから浮気にならない。う〜ん……思考がサイコパスだ。まあ、私も同類だけどね〜。
美由ちゃんの顔が近づいてきた。唇が重なる。
初めてキスをしたときも、美由ちゃんからだった。私が美由ちゃんを好きな以上に、美由ちゃんは私を好きなんじゃないかと思っている。そう思いたいだけ……かもしれないけどね、私が。
長い、長い口づけ。なんだかボ〜っとしてきちゃった。
ようやく唇が離れる。
「葵……」
私の中に美由ちゃんが入ってくる。元々は私が買ってきたL字型。それを美由ちゃんは、まるで生まれた時から生えていたかのように巧みに使う。当たり前だけど、男の人相手には、あまり役立たないスキルだと思う、たぶん。使わないよね、男性に??
「ちょ、ちょっ……と、あぁっ」
美由ちゃんが私の両膝を抱える。そのまま深く押し入ってきた。
ベッドの周りには段ボール箱が積まれている。あまり激しいと崩れちゃう。明日は引っ越し業者が来る予定なんだから、気を付けてよ……。
◆◇◆
う〜ん……。
目が覚めた。
昨夜の美由ちゃんは、いつにも増して激しかった気がする。
「葵ちゃん、起きたの」
「あぁ、おはよう」
美由ちゃんは、もう着替えて準備をしていた。ジョギングでも行くようなスエットで、長い髪を後ろでしばっている。やる気まんまんだね。
私も起きなきゃ。というか、私は仕事だ。出勤しなきゃならない。
「ごはん食べましょう」
おいしそうな匂いがする。朝ごはんの用意ができていた。
食卓に向かい合って座る。鶏だしの中華がゆだ。
「ねえ、葵ちゃん。お鍋や炊飯器は置いていくから、お料理してね。外食だけだと栄養が偏っちゃうわよ」
「うん……」
美由ちゃんは栄養バランスを考えて料理を作ってくれていた。こんな仕事のわりに健康を保てたのは、美由ちゃんのおかげだと思う。本当に感謝しかない。
これからは自分で料理しなきゃ。でも私、料理したことないのよ。大丈夫かなぁ……。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
手を合わせて頭を下げる。
約2年。一緒に暮らしていたけれど、本当に美由ちゃんは不思議な人だ。こうしている時は世話焼きのお母さんだけど、ベッドの上では私を弄ぶ性欲モンスターに豹変する。大酒飲みの大食らいでハチャメチャなのに、細かいことをコツコツするのも好きみたい。
たぶん、一生一緒に居ても飽きない人だと思う。
「引っ越し屋さんが来るから、着替えてね」
「うん」
段ボールの山に囲まれて出勤準備をする。
引っ越してくるときは、お金をケチって私たちで段ボールを運んだんだっけ。今は普通に引っ越し屋さんも頼めるようになった。進歩したよ、そこだけでも。
「じゃあ、美由ちゃん。私は出勤するから」
「新居のほうが落ち着いたら連絡するね。遊びに来てよ」
「うん。連絡してね」
目と目が合った。行ってきますのキスも、今日が最後か……。
唇を重ねる。そのまま抱き合った。行ってきますのキスにしては濃厚すぎるけど、最後だからいいよね。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
静かにドアを閉めた。
美由ちゃんは、来月から高円寺の古着屋の店員になる。働く場所は違うけど、同じ会社の一員だ。それなりに顔を合わせる機会はあると思う。
今生の別れでもあるまいし、湿っぽくなるのはやめよう。
まあ……寂しくないと言ったら嘘になるけどね。
翼が片方なくなったみたい。片翼ねぇ……片翼の天使だよ。
あれ? 片翼の天使? それ、強そうじゃん。なんだか闘えそうな気がしてきた。前向きにがんばるとしよう。カラ元気でも元気! 元気があれば、なんでもできる。
元気を出して出勤だーっ! 働け私っ!!
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