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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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6/11

新生活が始まる

いつものようにダリは起き、部屋を整え6時半には裏口に行った。ダリを見かけたハンナは手招きをして厨房に呼んだ。

「これあんたの朝食。先にこっそり食べちゃいな、まだ時間はあるんだろ」

「うわぁ、ありがとうございます」

「いいさ、あんたの食べっぷりを見るのが最後かもしれないし」

ハンナは心なしか沈んだ顔をしている。ダリはなんでそんな顔をしているか理解できなかったが、朝食は美味しい。しかも今朝は出来立てで、ふかふかのパンに挟んだウインナーはプリプリで、噛むとプッツリと音がして肉汁が出てくる。細かく刻んだ野菜が入った赤いスープも野菜の旨味にあふれている。いつまでもこの幸せを味わっていたいところだが、美味しすぎてダリの手と口は止まらずすぐに無くなってしまった。

「はぁぁ、美味しかったぁ。ありがとうございました」

ダリは立ち上がって皿を片付けようとすると、ハンナが止めた。

「今厨房は忙しい時間だから、ここはいいから早く行きな」

奥を見るとヨゼフとハンスが忙しそうに動き回っている。ここで動き回ると邪魔になるとダリは思った。

「わかりました。ご馳走様でした」

ダリはペコリと頭を下げて2階へ向かった。


2階の1番奥の突き当りは主人の部屋。その手前の部屋が坊ちゃまの部屋になる。部屋の前には既にメイド長が立っていた。

「うん、いい時間だ。今日は初日だから私と一緒に仕事をして、覚えてもらいます」

「はい」

ダリは少し多めに息を吸ってゆっくりと吐いた。ダリが後ろに立つと、メイド長はドアをノックした。

「坊ちゃま。おはようございます。起床のお時間です」

メイド長はドアを開けると部屋に入り、ベッドに近づくと掛け布団を少しめくった。ダリはドアの近くに立ったままだ。

「本日のお召し物はどうなさいますか」

「うーん。適当に選んで」

「かしこまりました」

メイド長がダリに視線を向けると、ダリはメイド長に近寄った。部屋の奥の扉を開けると子供用の服や靴がずらりと並んだ部屋があった。

(この部屋、うちの居間ぐらいあるんじゃないだろうか)

ダリはメイド長の後に付いて衣裳部屋に入る。

「入口横の引き出しは下着、靴下、小物類。部屋の手前は薄手のものになっており、奥に行くと厚手のものになっています」

メイド長はさすがに慣れているだけあって、話しながら衣類を右手で取り出し、左腕にかけていく。

一通り取り終わるとまとめてダリに渡した。最後に靴を取り出すと衣裳部屋を出た。

ベッドでは金髪の男の子が足を組み座っていた。歳は8歳くらいだろうか。背はテイの半分より少し大きいくらい。ただテイがあまりにも大きいので比べるのもどうかと思う。


「ねえ、ばあや、それ誰?」

男の子は足をプラプラさせながら言った。

「坊ちゃま、私はメイド長です。ばあやではありません」

「どっちでもいいよ。だからそれ誰」

メイド長はダリに視線を向ける。ダリは一歩前に出た。

「今日から坊ちゃま付きのメイドになりましたダリです」

ダリが頭を下げると男の子が近付き、ダリを見ながらグルリと眺めた。

「ふーん。よろしくね」

主人になる男の子にそう言われたので、ダリはまた頭を下げた。

「よろしくお願いします」

そう言った瞬間、ダリのスカートがバサリと浮いた。

(ああ、スカートがまくれたんだ。だからスースーして嫌なんだよ。ズボンを買っといてよかったな)

デリは全く動じずそんなことを考えていた。その様子を見てメイド長は目を閉じ、こめかみに中指をあててグリグリと押している。そして男の子は最初はニヤニヤしていたが、全く動じないダリに向かって言った。

「おい、なんだよお前。なんで何も言わないんだよ!」

ダリはそんなことを言われても、なんて言ったらいいかわからなかった。

「普通さぁ、スカートをめくられたらキャーとかイヤァとか言うだろ!」

「えっ、そうなんですか」

ダリは大きく目を見開いた。

「それでは、きゃー」

ダリのそれはあくまで普通の話し声のままだ。メイド長は頭が痛そうにしていたのに吹き出し、必死に笑いを堪えていた。

「もういい!」

男の子はむくれてまたベッドに座り込んだ。

メイド長はなんとか持ち直し、男の子に着替えをさせながら言う。

「この娘はメイドの仕事は初めてなんです。それに田舎の出なので屋敷のしきたりや生活も知らないので、坊ちゃまも大変かと思いますが指導をお願いしますね」

自分が指導する立場だと言われ男の子の機嫌が少し良くなった。不機嫌を装いながら、口元が緩んでいる。着替えが終わると男の子は食堂に行くために部屋を出る。ドアの手前で振り返りデリに向かって言った。

「おい、お前。仕方がないからオレが色々教えてやる。朝食の後は学校に行くからちゃんと付いて来いよ」

「はい!」

ダリは学校に付いて来いと言われ嬉しくて満面の笑みで返事をした。男の子は満足した顔で部屋を出た。


ドアが閉まり、しばらくするとメイド長が笑いだした。

「お掃除でいいですか?」

メイド長は笑いながら頷いたのでダリは、リネン室から掃除道具を持ってきて掃除を始める。メイド長は落ち着いたので、重点的に掃除をする場所をダリに教えた。指導しながらだったのでいつもより時間がかかってしまったようだ。掃除が終わりに近づいた頃、男の子は嬉しそうな顔で戻ってきた。部屋に入ると、ダリ達がまだいたのでスッと無表情を装った。

「おい、まだ掃除してたのか。8時には出るからな」

「かしこまりました。お供させていただきます」

メイド長とダリは部屋を出て、従者用の階段があるドアを開けた。中に入りドアを閉めた途端、メイド長はダリの背中を叩きながら言った。

「やっぱりアンタを坊ちゃま付きのメイドにしてよかったよ」

「あ、ありがとうございます」

ダリはなんでそんなことを言われるのかわからなかったが、とりあえずお礼を言っておいた。


◇◇◇


昨日海から帰ったテイと勇作は残っていたパンとスープを腹に流し込みそのまま寝てしまった。

優作が目を覚ますと、テイが残っていたスープに水と野菜を入れ量を増やしていた。

部屋の隅には貝殻の入った籠がそのまま置いてある。

「おじさん、起きたの?」

「ああ、おはよう。オレも何か手伝おう」

「じゃあ、パンを切ってもらえる?スープも温まったし」


優作は朝食を食べながら言った。

「オレに出来る仕事は何かないか?」

テイは少し考えて言った。

「オレ、畑と行商しかしたことないからわからないなぁ。でも仕事なら畑を一緒にしてくれるんだよね」

「それはもちろん。ただなぁ、自分の金で買い物1つ出来なくて、自分の子供と変わらない子に世話になっているばかりじゃ情けないんだ」

優作は眉毛を下げて言った。

テイは考えた。行商をしているので、他の仕事のつてがないわけではない。ただ体は大きくてもまだ子供のテイが大人を紹介するのも何か違う気がする。

「ねえ、おじさん。何か作れる?物置のもの何使ってもいいし、おじさんが何か作ったらオレが行商で売ってくるよ。取り分は折半でどう?」

「いいのかい?」

優作の顔が少し明るくなった。

「もちろん。畑で野菜が採れるようになったら、その売り上げも折半でいい?」

「ああ、いいさ。ありがとう。助かるよ」


朝食を済ますと貝殻を畑に運んだ。勇作は時間が経って脆くなっているものを麻袋に入れた。

「これをどうするの?」

「出来るだけ細かくするんだ。こうやって」

優作は麻袋の上から石で貝殻を砕いた。

「これを畑に撒くんだ。どれくらい必要かわからないから、残りは取っておこう」

優作は麻袋に入らなかった分は、別の麻袋に入れた。

「なあ、昨日店でもらった分はもらってもいいか?」

「うん、いいよ。でもそんなのどうするの?」

「何か作れないかと思ってな」

優作は店でもらった分の貝殻を井戸に持って行き、洗った後並べて乾かした。


「この近くで鶏と牛を飼ってるとこあるかい?」

「うん。あるよ。卵を買ったり牛乳を買ったりしてるし」

「そうか、じゃあ今日は糞をもらいに行こう」

「えー、糞」

テイは顔をしかめた。

「糞はいい肥料になるんだ。でもゴメン、また出費させちゃうな」

「仕方ないよ。その代わりお父さんが作ってた時のような美味しい野菜作ろうね」


テイと勇作はバケツを持って近所の家に来た。テイは卵を買い、糞をもらえないか聞いた。

「いいよ、持ってきな。あんたのお父さんもよく糞を取りに来てたからさ、まとめてあるんだよ」

「おばさん、ありがとう」

テイが礼を言うとおばさんはテイに小声で聞いてきた。

「あの男は誰だい?」

テイは昨日道で倒れてたとも言えず、親戚のおじさんだと答える。ダリが昨日から働きに出たことも先に話したので、

「そうか、心配してきてくれたんだねぇ」

と勝手に納得してくれたのでそういうことにしておいた。


鶏糞と卵を持ち帰ると卵は台所に置き、鶏糞は畑に撒いた。

次は牛糞。牛乳を買い、牛糞をもらう。鶏糞をもらったときと同じような会話をし、持ち帰った。

「牛のは結構匂いがきつい。これも畑に撒くんでしょ」

「いや、牛糞はまだ撒かない。畑の隅でいいからしばらく置いておくんだ」

「すぐに撒かないなら今日もらわなくてもいいんじゃない」

「時間をおいて発酵させてとくんだ。先にまいたのが土になじんでから撒く」


二人は昼食に最後のパンを牛乳に浸して食べた。その後テイは買い物に出かけた。勇作は家の裏にある林に入った。林の中にはシイタケのようなキノコが生えていた。

「食材としてはいいけど、キノコは恐いからなぁ。」

優作がキノコを諦めてそのまま進むと小さな蜂が目の前を通った。

「ミツバチ、なのか?」

優作は距離を取りながら蜂の後を追いかけた。付いて行った先にはやはり巣があった。巣の先には花畑が見える。

「やっぱりミツバチだな」

巣を見ると周りを飛び回っている蜂が多い気がする。

「もしかしたら分蜂が近いかもしれない」


優作は急ぎテイの家に戻り物置に入った。物置の中から木箱と数枚の板、工具を出した。木枠を作り、その木枠が立てた木箱の引き出しになるようにした。それを林の中で見つけたミツバチの巣の近くに置く。

「即席で作ったけど、どうか上手くいってくれ」

優作は祈るような気持ちで家に戻った。午前中に干しておいた貝殻は乾いていた。貝20個分。それを眺めながら勇作は考えた。


2枚貝の貝殻はピッタリと合う組み合わせが唯一なので昔から色々な用途に使われてきた。有名なおもちゃとしては貝合わせ。貝殻の柄を見つけたり、百人一首の上の句と下の句を中に書いてカルタみたいに遊ぶ。どちらも結構数が必要だし、百人一首がここにあるわけない。あとはペアのアクセサリー。この場所の恋愛事情がわからないのでとりあえず保留。あとで兄ちゃんに聞いてみる。

「蜂がうまくいったら使えるからとりあえず取っておこう」


優作は物置から出した工具と残った板を持ってテイが作った水路の入り口に行った。小川の水がテイの掘った水路に分かれて入ってくる。ただ土を掘っただけの仕組みなので水量の調節は出来ない。なので勇作は水路の入り口に石を敷き詰めた。敷き詰めた石の中に板が出し入れ出来る隙間を作った。


「おじさん、何してるの?」

急に話し掛けられて勇作が驚いて振り向くとテイが手元を覗き込んでいた。優作は少しホッとした。

「雨が降ったら川の水が増えて畑に入ってくる水も増えるから、入ってくる水の量を調節出来るようしてみたんだ。この板を普段は上げておいて、雨が降ったり畑に水が要らない時は板を下げておけば余分に水が入ってこないだろ」

テイは目をキラキラさせて頷いた。

「うん、そうだね。水をやり過ぎないように出来るね」

テイは勇作の.知識に関心したと同時に、自分でも何か工夫して作りたいと思った。













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