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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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海に来た

「わぁ、海だ!」

テイは海を見て喜んでいる。テイは体がその辺の大人よりも大きいがまだ13歳。久しぶりに見る海には喜んでしまう。

「家からそんなに遠くないのに海を見るのは初めてなのかい?」

勇作が聞くとテイは首を横に振った。

「見るのは初めてじゃないけど、前にきたのは母さんの行商に付いてきたときだからずいぶん前かな」

「そうか、じゃあ海水浴とかしたことがないんだ」

「海水浴?何それ」

「海の浅いところで泳いだり、水遊びしたりするんだよ」

「おじさん、そんなことしたら魚に食べられちゃうよ」

テイの必死の形相に勇作は笑った。

「そうか、そうか、それじゃ海には入れないな」

勇作に笑われたことに少しムッとしてテイは言う。

「じゃあ何しにここまできたんだよ」

「畑の栄養になるものを取りにきたんだ」

勇作は砂浜を下を見ながら歩きだした。時々しゃがんでは何かを拾っている。

「何を拾ってるの?」

「これさ」

勇作は拾った貝殻をテイに見せた。

「こんなクズみたいなやつ?」

「ああ、そうさ。沢山必要だから頑張って拾おうな」

テイは勇作に言われ貝殻を探したがなかなか集まらない。慣れない砂浜を.二人で歩いて疲労だけが積み重なっていく。するとどこからかいい匂いが漂ってきた。二人はそれにつられるように匂いの方へ向かう。

向かった先には市場があり多くの露店が出ていた。生魚、焼き魚、燻製、干物、海藻。威勢のいい声で呼びかける店員。村では見ることのないほどの人出。

二人は露店をゆっくり見て回った。そしてその中の1軒の前で勇作が立ち止まる。

「焼きハマだ」

勇作がポツリと言うと、テイはその店は手のひら半分くらいの大きさで、丸みを帯びた三角の石のようなものを網の上で焼いていた。

「うちのホビ貝は大きくて身が詰まってて、なんせアタシが焼いてるから美味いよ」

恰幅のいいおばさんが笑いながら言ってきた。

その石のようなものは何度かひっくりかえされるうちにポッカリと上下に分かれた。下には身と透明な汁がグツグツとしている。

「ほら、これなんか食べ時だ」

二人のお腹は同時にグーと音をたてた。

「おじさん、食べようよ」

「オレ、お金持ってないんだよ」

「オレが払うから大丈夫だよ」

「いや、子供に払わすなんて出来ない」

そう言いながらも勇作の腹はまた鳴った。

テイは笑いながら2個注文した。

「中銅貨2枚だよ」

テイは胸元に手を入れ財布を取り出し支払い、2個受け取った。1個を優作に渡した。二人はハフハフしながら一口で食べる。

「美味しい」

「うん、美味いなぁ」

二人の顔が綻ぶと店主は自慢げな顔で笑った。

優作は食べ終わった貝殻を見て店主に言う。

「この貝殻もらって帰ってもいいですか?」

「そんなの持って帰ったって困るだろ。この木箱に入れてくれればいいよ」

店主が示した木箱には食べ終わった貝殻が入っていた。テイはそれを見て勇作の方を見る。勇作もニコニコと頷いている。

「おばさん、この箱の中の貝殻どうするんですか?」

「どうもしないよ。捨て場に持ってくだけさ」

テイは中銅貨を1枚出して店主に渡す。

「お願いします。その捨て場を教えて下さい。あとこの箱の中身もください」

店主は変わり者もいるものだと呆れた顔をした。

「いいよ、持ってきな」

「ありがとうございます」

テイと勇作は頭を下げた。

店主は大声で男の子を呼ぶと、テイから受け取った中銅貨を渡し、テイ達を貝の捨て場に案内するように言った。今度は男の子が不思議なものを見るような目でテイ達を見る。

「こっちだよ」

と歩き始めた男の子に二人が付いて行く。

市場の隅に勇作に背丈ぐらいに積みあがった貝殻の山があった。

貝殻の山は腐ったような匂いを発していたが、それは上の方だけだった。下側は乾燥していて匂いはない。二人は男の子に礼を言うと下の乾いている部分を集めて背負籠いっぱいに入れた。

真上にあった陽が傾き始めた頃、二人は家に帰ることにした。

「うん、大分集まったな。今回はこれくらいでいいだろう。いい場所を教えてもらったし、またそのうち来よう」

「そうだね、急いで帰らないと真っ暗になっちゃう」

「そりゃ、大変だ、急ごう」

二人は出来るだけ急いで歩き出した。帰りながら勇作はここでの生活のために先ずはお金を稼がないといけないと決心した。

(子供に世話になってばかりじゃいけない。お金を稼いでちゃんと返さなきゃな)



◇◇◇



ダリはテイと別れた後、勇作のことを思い出す。

(変わった格好をしてたけど悪い人じゃなさそうだし、テイも気に入っているみたい。お父さんくらいの歳だし、お父さんみたいに思ってるのかな)

そんなことを考えながら歩き、昨日寄った服屋に寄った。

「こんにちは」

「はい、はい。あら昨日のお姉ちゃんじゃない。どうしたの?今日はそんな恰好で」

「ちょっと家に帰るつもりだったんで」

「そうなの?で今日はどうしたの?」

「あの、膝上くらいのズボンが欲しいんです」

「色は?」

「何色でもいいです。スカートは履きなれなくて下に履きたいんで。だから安いのでいいです」

「それじゃあ、こんなのでどう?」

服屋の女性が黒の半ズボンを出してきた。木綿の薄い生地だが縫製はしっかりしている。ダリが履いてみるとズボン丈は足の付け根と膝の真ん中くらいになった。

「これいいですね。おいくらですか?」

「銀貨1枚だよ」

「じゃあ、2枚下さい」

何かあった時のためにと、テイが小袋に銀貨を5枚入れて渡してくれていた中から2枚を出した。

「ごめん、テイ。姉ちゃん頑張ってちゃんと働くから。お給料が出たらちゃんと補充する」

ダリは心の中でテイに誓った。


ダリは昨日あまり見ることの出来なかった町を見て回った。土地勘はないが、お屋敷は教会の近くなので、教会の時計に向かって行けば着くことは解っていた。そして夕方には帰ってきた。裏口からダリが入ると、洗濯物を取り込んでいたハンナが迎えてくれた。

「おや、お帰り。早かったね」

「はい、家に向かう途中で弟に会えたんで話が出来ました」

ニコニコとダリがハンナと一緒に洗濯物を取り込みながら話している様子を、窓辺から執事が見てホッとしていた。

洗濯物をハンナと一緒に運んでいるとメイド長がやってきた。

「ダリ、明日から坊ちゃま付きのメイドになるんで、部屋に案内しますよ」

「えっ、お部屋移るんですか?」

「あの小屋じゃ色々不便でしょ」

「いや、全然不便じゃないです。とても快適です」

「そう?じゃあ移らなくてもいいの?」

「はい」

「ならいいわ。毎朝7時。坊ちゃまをお起こしするから、それまでに身支度を整えて坊ちゃまの部屋の前にいて頂戴。しばらくは私が付き添いますから」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

ダリはペコリと頭を下げた。

メイド長が去るとハンナは心配そうな顔でダリに言った。

「あんた、坊ちゃま付きのメイドになるのかい?」

「なんか、そうらしいです」

「坊ちゃま付きのメイドになった子は今まで何人も辞めてるんだよ」

「そうなんですか」

「あんたも気をつけなよ」

「わかりました。気を付けます。せっかく勉強させてもらえることになったから辞めたくないです」

ダリは勇作に褒められたことを思い出し、勉強をするために頑張ろうと心の中で誓った。









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