メリル父との商談
勇作が畑から戻るとテイとメリル、メリルの父がテーブルを囲んでいた。
テーブルの上にはリモネが6個と空瓶が6個置いてある。
「あれ?どうしたの?」
勇作は少し驚きながら聞いた。
「サク、メリルとお父さんが話があって来てくれたんだよ」
テイは隣の椅子を引いて勇作に座るように促した。勇作は上着を脱ぐとその椅子に腰かけた。
それを見てメリルがく口火を切った。
「ご注文の品が2つ出来ました」
「えっそうなの?ありがとう。それでお金の話?」
メリルが頷くと隣の父親が話出した。
「実は試作を何回かしていて材料費が結構かかっちゃったんです。村にある物じゃ足りなくて外の冒険者の人達に頼んだりして。金額にすると白金貨6枚にはなります」
「うわぁ」
テイが思わず口にした。勇作は金額の大きさがわからずテイに耳打ちした。
「ねぇ、白金貨って金貨どれくらいなの?」
テイはテーブルの下で両手を広げた。最近勇作はテイと一緒に買い物に出かけるようになりおおよその金額の検討はついてきた。勇作の中では金貨1枚1万円くらいだと検討している。すると台車と一輪車の材料費が60万になると検討がついた。
「高級車だ」
勇作は呟いた。金額を聞いて茫然とする2人にメリル父は話し出した。
「材料費は私の趣味もあって、つい色々試作してしまったっていうのもあって相談に来たんです」
勇作は背筋を伸ばして話を聞く。
「他に作って売ってもいいっていってたじゃないですか?それで麓のギルドに1つ白金貨3枚で、私の設計図もつけて作成と販売の権利を売ったらどうかと思いまして」
「それって」
「ええ、それで材料費は回収出来ます」
勇作は胸をなでおろした。だがそれではメリル達の儲けがない。
「最終的に完成したものは原材料をかなり抑えていますし、高い材料はラバルの樹液くらいですが、強度を上げるためにいろいろ混ぜて使う量も減っています。その強度を上げる方法もギルドに売るつもりです。それにあれ便利ですし、売れますよ」
メリルの父の話ではそれで充分儲けが出るので、材料費はいらないとのことだ。
(タダより高いものはない)
何か代わりに要求をされるのではないか、勇作は考えた。
「そこでお願いがあるんです」
来た!と勇作は身構える。
「この前メリルがいただいたリモネの蜜漬の作り方を教えて下さい」
メリル父が頭を下げる。
テイと勇作はテーブルの上のリモネと瓶に納得し、ホッとした。
「メリルちゃん、そんなに気に入ってくれたんだ?」
メリルが小さく頷くと泣き出した。
「お父さんに少し分けてあげたら、美味しいっていっぱい飲んでメリルのが無くなっちゃたの」
「すみません。私お酒が飲めなくて、つい。ハチミツとか砂糖水とかメープルとかでいろいろ作ってみたんですけど、あの味は再現出来なくて」
テイは勇作を見た。
「サク、まだ蜜ある?」
「あんまり。ハンドクリームのこともあるからそろそろ取りに行こうかと思ってたところ。でもまだ明るいしちょっと今行くのは厳しいかな」
テイがメリル父に言う。
「あれビームの蜜なんです。だから今用意するのはちょっと」
「刺されるからですか?」
「はい」
勇作が答えるとメリル父が笑った。
「それなら私に任せて下さい」
メリル父が手を突きだし何かを唱えると緑色のキラキラした光に全身が包まれた。
「私、エルフらしいです」
メリル父はふんわりと笑った。
勇作、テイ、メリル父、メリルの4人は畑の裏の林を歩いている。
勇作は一番最初に設置したビームの巣箱に向かっている。
到着すると巣箱の周りはビームがワンワンと飛び回っている。近付いてもビームは緑の光に弾かれて刺すことことが出来なかった。
勇作は巣箱の木枠を2つ抜き取ると、持ってきた空の木枠を代わりに差し入れた。抜き取った木枠はすかさずテイがバケツに入れた。
「他のも見てみよう」
勇作がテイに言うとゾロゾロと巣箱を回った。なぜみんなで回るのかというと、メリル父から離れると緑色の光が外れるからだ。
家に戻り樽で作った撹拌装置に木枠を1つ取付ると、勇作はゆっくりと取手を回した。樽の下にある口からトロリと蜜が流れ始める。テイが瓶で蜜を受け止めている。木枠を取り換えながらメリル達が持ってきた瓶に蜜を半分ほど詰め、瓶を交換する。6個の瓶に詰め終わると、テイは家の瓶に詰め始めた。
全ての木枠の撹拌が終わると、勇作は大鍋に木枠を入れ、コンロに置いた。中に水を入れると火を着ける。
「今日はここまでかな」
蜜が入った瓶をメリルが嬉しそうに眺めている。テイがテーブルの上のリモネを洗って切りだすと、メリルとメリル父がニコニコと瓶を持って待ち構えている。テイが切ったリモネを瓶に入れる。
テーブルの上にリモネの蜜付けが6個出来上がった。
ニコニコとメリルとメリル父が瓶を見ている。
「メリルちゃん、気に入ってくれたんだね」
勇作が言うと「うん」とメリルが頷いた。
「子供はやっぱり甘いものが好きなんだね」
勇作がこぼすとメリルから笑顔が消え、頬を膨らませて言った。
「メリル、子供じゃない。20歳だもん」
「「えっ」」
勇作とテイは同時に声が出た。
メリル父がメリルの頭を撫でながら話出した。
「私、実は親方より年上なんです」
「「はっ?」」
勇作とテイは固まった。メリル父は話を続ける。
「昔、村の先で魔獣に襲われていた時、親方に助けられたんです。本当の親とか仲間とか全く覚えていなくて見た目はまだ少年で、そのまま親方の世話になったんですが、実はその時点で私50歳超えていたんです」
メリル父は笑っている。
「そのうち親方のところに娘さんが産まれ、とてもいい娘で私のことを好いてくれて結婚しました。ただやっぱり種族が違うせいかとても難産で妻はその時に亡くなりました」
「それは大変だったですね」
勇作が言うとメリル父は首を横に振って答えた。
「親方も奥様も、村の皆さんもとてもよくしてくれて大変なことなんてなかったですよ。ただメリルが私の血のせいか見た目の成長が遅くて」
「そうなんですね」
勇作はメリルに向かって頭を下げた。
「ごめんね、メリルちゃんなんて言って。メリルさんて言わなくちゃね」
「いいよ、メリルで。おじさんはね。でもテイはダメ」
メリルはテイの方を向き、顔をしかめて舌を出した。
「メリル!」
メリル父に諫められてメリルは舌を引っ込めた。
勇作は以前ダヒューズと話したことを思い出して聞いてみた。
「あの、もしかして町の時計台を作った人のことを知っていますか?」
「ああ、もしかしてイトさんのことですか?」
「すみません、名前はわからないですけど、エンジイアと言われている人です」
「ああ、ならイトさんだ。知ってますよ。私に図面の書き方や合金のことをを教えてくれた人です」
「図面とか残っているんですか?」
「ええ、イトさん、私が長命種だと知って沢山の書類を預けてくれました」
「そのイトさんはその後どうなったんですか?」
「わかりません、ただある日いろんな覚書とか図面とか、私にはわからない言語で書かれた書類を持ってきてそれっきりです」
「そうなんですか」
勇作はそのイトさんのその後が気になったが、これ以上はわからないらしい。
「今度、その図面とか書類を見せてもらえませんか?」
「それはいいですけど、今まで理解出来た人はいませんよ」
「構いません!」
「わかりました。その代わりと言ってはなんですが、あのビームの蜜の箱とその樽の原理を教えてくれませんか?」
「そんなことでよければ」
メリル父がニッコリ笑って言った。
「では交渉成立ですね」




