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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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16/20

意外なヒット商品

「うーん、これが1本あるだけで違うなぁ」

勇作は畑にしゃがみ込んで草を取っている。


ドワーフの親方に頼んだ手ガンナと立ちガンナだが、1週間後に行ってみたところかなりの数が出来上がっていた。基本の形は同じだが刃の大きさや曲がる部分の角度がまちまちだ。持ち手の木の部分は自作して付けようと思っていたが、そこまでやってくれていた。

勇作は刃の部分は使い込んだり研いだりすれば変わってくるので、持ち手の部分が持ちやすいものを選んできた。せっかくドワーフに頼んだのに残念な選び方だ。

勇作は奥方に頼まれ使い方を見せたところ。奥方も実際に使ってみてカンナを非常に気に入ってくれた。代金は見習い仕事だから、と大銅貨2枚ですんだ。勇作が選ばなかった物は奥方が売り捌くそうだ。

「見習い仕事だけどドワーフ印だからね」

と言った奥方の黒い笑顔を2人は見なかったことにした。


「これで草取りも少しは楽になる」

勇作は畑の見回りにはカンナを持って行き、雑草を見つけたらサクサク取っている。テイが買って来た苗もカンナで穴が掘りやすくなったので、どんどん植えることが出来る。勇作は大満足で草取りをしている。


「ねえ、どうしてこんなに草を取るの?」

テイが勇作に聞いてみた。

「せっかく頑張って野菜が育つように肥料を上げたのに、雑草がその栄養を持ってって野菜に栄養がいかなくなったらイヤじゃない?」

テイは牛糞や鶏糞、腐葉土を運んだことを思い出し渋い顔をした。

「うん、それはイヤだ」

テイは握り拳を作り、頷いた。因みにテイは立ちガンナで草取りをしている。

ダリが好きなポイ草はすくすくと育ち、テイが植えたポメトの苗も生き生きして陽の光を浴びている。水路から時々迷い込んでくるフログも緑色だ。あの草が生えてくる一角は、勇作が囲いを作った。今まで何もしてこなかったのに生えてきたのだから、とその一角は何もしないことにした。


ドワーフの集落に行ってから1ヶ月が経った頃、メリルがやって来た。

「こんにちわー」

「いやぁ、よく来たね」

勇作は畑の草取りを終えて井戸で手を洗っていた。扉を開けてテーブルへ案内する。テイは山沿いの村へ野菜の仕入れに出ている。勇作は前にダリが作っておいてくれたリモネの(ビーム)蜜漬が入っている瓶を取り出し、中に入っているリモネを1枚カップに入れ水を注いだ。メリルは椅子に座り、その様子をじっと見ている。同じ物をもう1つ作るとそれらをテーブルに置いた。

「暑かったでしょ、よかったらどうぞ。私もちょうど休憩したかったんです。もうすぐテイも帰って来ると思うよ」

勇作は自分の前のものを一気に半分飲んだ。それを見たメリルは初めて見る飲み物に、ドキドキしながら一口そっと飲んだ。酸っぱくて、甘くて、冷たい飲み物にメリルは目を見開き、あとは一気に飲み干した。

飲み終わると少し寂しそうな顔をして、残ったリモネを口に放り込んだ。甘く柔らかくなった皮の部分と甘酸っぱい果肉にメリルはまた目を見開き、今度は溶けそうな笑顔で租借している。

「気に入ってくれたみたいだね。お替りはいる?」

勇作が聞くとメリルは無言のまま何度も頷いた。その様子にクスリと勇作は笑いお替りを作った。

メリルは今度はゆっくりと味わうように飲んでいる。


「ところで今日はどうしたの?」

勇作は聞いてみた。

「あっ、忘れてた」

ニコニコ笑顔でリモネを味わっていたメリルが顔を上げた。

「おばあちゃんが、あの見習いの作ったやつのことで話があるって言ってた。あと頼まれてたやつ、試作をしてみたから見て欲しい」

「わかった。お使いありがとう。テイが帰ったらいつ行くか相談してみるよ。それでもう1杯飲む?」

勇作が聞くとメリルは少し照れて頷いた。


メリルが4杯目のリモネを食べているとテイが帰って来た。

「ただいまー」

「お帰り」

「あれ?メリルどうしたの?」

「お使いに来てくれたんだよ」

「そっかぁ」

テイが椅子に座ると、勇作はテイにもリモネ水を出した。テイはそれをグビグビ飲み終わるとメリルに言った。

「じゃあ、行こうか」

「えっ今から?テイ、帰ってきたばっかりだよ」

「平気、平気。今日はいい野菜を仕入れてきたから、売りに行こう」

テイがそう言って立ち上がろうとしたとき、勇作が止めた。

「ちょっと待って。すぐ終わるからもう少し待って」

勇作は急ぎ台所に向かった。半分くらいビームの蜜が入っている瓶を出すと、水洗いしたリモネを薄切りにしてその中に入れた。

「はい、お使いありがとう。これお駄賃ね」

勇作は瓶をメリルに渡した。

「今漬けたばかりだから、2、3日経ってから食べてね」

メリルは頬を赤くして笑顔になり、その瓶を大事そうに両手で抱えた。



「よく来てくれたね」

奥方が笑顔で迎えてくれた。

「おや、テイちゃん。籠を持ってるってことは野菜を持ってきてくれたのかい?」

「うん。あんまり沢山じゃないけど結構いいのが手に入ったから」

テイは籠を下すと奥方の前に置いた。奥方は籠から野菜を取り出し、1つ1つ見るとテイの言い値で全部買い取ってくれた。


テイと勇作はテーブルの案内された。

「実は話があってね」

メリルはリモネの瓶を抱えて「また後で」と言って奥に入っていった。

「あのカンナっていうやつ。よく売れてね。これからも作らせてほしくてさ」

「それは構わないって言ったじゃないですか」

勇作が答えると奥方は首を横に振った。

「それがさ、薬草や魔草を採取するのにいいってんでよく売れてさ。あと麓の鍛冶屋でも作らせて欲しいって言ってきてさ」

「はあ」

「この前材料費もらっちゃったし、今度はちゃんと権利を買わせてもらいたいんだよ」

意外な奥方の言葉に勇作は驚いた。カンナと立ちガンナは複雑な形状をしているわけでも、特殊な材料を使っているわけでもない。

「サク、いい話じゃない?」

「ああ、でもそういった時の相場は俺にはわからないしなぁ」

「それなら任せて」

テイはニヤリと笑った。

「おばさん、じゃあその話はこっちでしてサクは頼んでたのの試作を見に行っていい?」

「ああ、いいさ」

奥方はメリルを呼ぶと奥からメリルが顔を出した。勇作はメリルに近付き話し掛けた。

「じゃあ試作品を見せてくれるかな?」

メリルは頷いて裏庭に案内してくれた。


案内された裏庭には身長は親方の1.5倍はあるだろう、スラリとした知的な男性が立っていた。

「初めまして、メリルの父です」

にこやかな笑顔と見た目は完全にドワーフの集落の中では浮いているだろう。

「お呼びだてしてすみません。新しい物なのであまり人目に晒さないほうがいいかと思いまして」

メリルの父親の横には、勇作の依頼した一輪車と台車の試作品があった。

形状と大きさはほぼ依頼通り、だが実際に持って押してみると荷台は空なのに重い気がする。

「うーん」

勇作は使っていたものと何が違うのか考えた。こちらの世界にきて何度か馬車を見たが、車輪は木だった。でもこの試作品はゴムのようなものを使っているので動きはスムーズだ。なのに何かが違う。勇作は隅々まで眺め、持ち手のゴム部分を見た時に気が付いた。


「あの、この棒の部分空洞になりませんか?」

勇作は父親に言ってみた。だが父親は作業に関しては解らないようで、メリルの顔をみた。

「なんでそんなことするの?」

「なんだか重い物を運ぶのに、この本体が重いんだよ。強度の問題もあるからなんとも言えないんだけど、この棒の部分は中が空洞だったら軽量化するんじゃないかな」

メリルと父親は右手を顎に当て同じポーズで考えている。やっぱり親子なんだな、と勇作は微笑ましくなる。


「なるほど、中を空洞にすればその分軽量化出来るし、その分材料も少なくて済む。素材も特にこだわらなくてもよさそうだ。

メリル、技術的には難しくなるけど出来るかい?もちろんお父さんも色々方法を考えてみるよ」

「やる!じいちゃんがメリルの腕は確かだって言ってくれた。お父さんも一緒に考えてくれるならきっと出来る」

勇作は二人の様子を見て、娘の幼かった頃を思い出し少し涙ぐんでしまった。


勇作が戻るとニコニコしたテイがいて、対照的にちょっと悔しそうな顔をした奥方がいた。

「はい、これがサクの取り分」

テイに渡されたのは金貨3枚だった。

「えっこれはどうしたの?」

「カンナと立ちガンナの作成の権利1枚ずつ。それともう1枚は権利の転売の権利」

勇作はハンドクリームを作りテイに売ってもらって小銭を稼いだが、海沿いの町で二人で買い食いをしたらなくなった。今手にしたのは、この世界に来て初めてのまとまった金額だ。

「えっ、こんなに?」

「うん、サクが考えて作成を依頼したんだから当然の金額だよ」

「そうなのか」

勇作は元々お金に執着する人間ではなかったが、この世界にきてテイに世話のなってばかりだったので、やっとお金を手にすることが出来て嬉しかった。


帰り道、二人で歩く。

テイは上手く奥方と話が出来たようでホクホク顔だ。勇作は受け取った金貨をテイの前に差し出した。

「えっ、何?」

「今まで世話になってばかりだったから、これを受け取ってくれないか?」

「いやぁ、それは大丈夫だよ。サクだって必要な物もあるだろうし」

「そう言わないで受け取ってくれないか?」

テイは少し考え、金貨3枚を受け取った。その中の1枚を勇作に渡した。

「これはサクの考えた物の権利を売った報酬ね」

「そしてこれはオレからの依頼料」

テイはそう言って2枚目の金貨を渡した。

「依頼料?」

「うん、サクの作ったハンドクリームが評判良くてさ、もっと欲しいとか、話を聞いた人が自分のも欲しいって言ってきたりしてるんだけどもう無いからさ、また作ってほしいんだよ。こんどは沢山。だからこれで作って。あと畑のことも教えてもらってるしね」

勇作はテイに丸め込まれたような気がしたが、「わかった」と言って金貨を2枚握り閉めた。

テイは残りの1枚を指先でつまんで見せる。

「じゃあ、これでなんか買って帰ろうか」

「そうだな」

「うーん、野菜は買い込んできたし、ハムやベーコン、あとチーズもほしいね」

「野菜の苗や種も買っとかないか?」

「いいね。あっそうだサク、今度散髪に行かない?まだ行ったことないでしょ」

「散髪かぁ、いいなぁ」

その日はとりあえず食材を買い込んで帰宅した。









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