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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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12/20

旦那様との話

旦那様とキースが帰ると3人は小さくため息をついた。


「じゃあ、ここを片付けたら林に行ってくるよ」

勇作が食器を井戸に運び始めた。

「いいよ。片付けと掃除はやっとくから畑をお願い」

ダリがそう言って勇作から食器を奪った。

「そういうわけには」

「まあ、いいから林に行こう」

テイが勇作を止めた。

「サク、遠慮はなし」

テイは勇作の手を引いた。

「じゃあ、姉ちゃん頼むね」

「ああ、任しとけ」


勇作とテイは小屋からバケツとスコップを持って林に入った。勇作は腐葉土によさそうな場所の目星は付けてあったので、すぐに土を取ることが出来た。土を取り畑に運ぶ。何度か往復しているうちに昼近くになった。


「ネコがあればなぁ」

勇作がポツリとこぼすとテイが食いついた。

「猫?」

「ネコ車、手押し車だよ。手で押して運ぶから一度に運べる量も違うし、なんせ肩や腰が楽だ」


勇作はしみじみ思う。異世界に来たって自分の体は変わらないから、普通に疲れる。耕運機、トラクター、ショベルカー、なんて便利だったんだろう、と。ガソリンや電気がないから無理なのはわかっている。でもせめて一輪車はほしい。


「じゃあ、作ってみる?」

「いやぁ、金属を加工しなきゃいけないからなぁ」

テイは少し悪そうな笑みを浮かべて言った。

「金属の加工なら、ドワーフのおじさんをその気にさせればいいんだよ。でもサク、もし作れたとして他の人も使いたいって言って、他の人にも作るのは平気?」

「もちろんさ、みんなが少しでも楽になるのはいいことだと思う」

「じゃあ、今度ドワーフのおじさんのとこに一緒に行こうよ」

「俺も一緒に行っていいのかなぁ」

「一緒に行かないとどんなのかわからないよ」

テイが笑う。

「それもそうだ」

そして勇作も一緒に笑った。


井戸で手を洗い家に入るとダリがスープとパンを用意しておいてくれたので、3人で食べた。


「じゃあ、これ片付けたら.お屋敷に戻るね」

「うん、気を付けて。じゃあオレは苗とか種を買いに行ってくる。パンも無くなっちゃったし」

「俺はもう少し土を運んどくよ」

「一人で大丈夫?」

「うん、大丈夫、大丈夫」

「サク、野菜期待してるね」

「おお、任しとけ」



ダリはダヒューズに言った通り夕方には屋敷に戻った。

屋敷に戻ると執事のハリルがすぐに小屋にやってきた。

「ダリ、旦那様がお話があるそうだ。一緒にきてもらえないか」

「わかりました」

ダリは着替える間もなくハリルと一緒に旦那様の部屋に行った。

ダリは家で何か失礼なことをしてしまったのか不安だった。考えれば考えるほど思い当るふしが多過ぎる。


「ダリ、戻ったばかりで疲れてるところ悪かったね。まあ座って」

予想外のダヒューズの態度にダリは驚き、言われるまま椅子に座った。


「ダリ、春になったらキースは上級学校に行く予定なんだが、ダリも一緒に行かないか?」

「付き添いですね。わかりました」

ダリは快諾した。

「いや、そうではなくてダリも上級学校で勉強しないか?」

予想外の言葉にダリは驚いた。上級学校はこの町の隣だが、村とは反対方向にある。町からは馬車なら通えるが、ダリには馬車で通う費用も学費を支払う費用もない。ましてや上級学校に通うということはこの仕事を辞めることになる。

「旦那様、申し出は大変有難いのですが、私には学費も、通学にかかる費用も用意出来ません」

「費用のことは気にしなくていい」

「それはどういうことでしょう?」

「通学はここからキースと一緒に行けばいいし、帰ったら私の研究の手伝いをして欲しいんだ。あと上級学校は優秀な生徒は学費を免除してくれるし、飛び級制度を使えば3年通うところを短縮することが出来る。まあ学校で何か研究をしたい生徒は3年以上在籍する場合もあるが」

ダヒューズの申し出にダリは飛び上がって喜びたいくらいだったが、何故そこまでよくしてもらえるのか疑問だった。

「旦那様。とてもありがたいお申し出なのですが、私には御恩をお返しする術がありません」

「まあ、そうだろうね」

ダヒューズはそう言って笑った。

「これから話すことは妻と執事のハリスしか知らないので黙っていてほしいのだがいいかい?」

ダリは黙って頷いた。


「私は君の家に生えるあの草の研究をしているんだ。以前は生のものを刻んで汁を絞って使っていた。今使っているのは乾燥させたものなんだが、保存が出来るし生のものよりも多くの成分が取れる。乾燥することを考えたのはダリ、君なんだって?」

「はい」

「長年研究してきた私には若干の耐性があるが、他に耐性があるのが君たち姉弟しか私の周りにはいないんだ。だから上級学校に通っている間は手伝ってほしいし、学校で薬の扱い方や研究方法を学んだ後は一緒に研究をしてほしいんだ」

「そういうことでしたら、ただ坊ちゃまに引き継がせることはしないのですか?」

「ああ、キースには耐性がないし付けさせるつもりもない。それに妻はキースには医者として学んでほしいと思っている。私はキースに他に学びたいことがあれば別に医者に括らなくてもいいと思っている。

この研究は私の医者としての仕事とは別なんだ」

「少し考えさせて下さい」

「うん、よく考えて返事を夏の終わりまでには返事を聞かせてほしい」


ダリは小屋に戻り着替えることなくベッドに寝転んだ。

上級学校に行けるかもしれない。坊ちゃまが剣術の稽古をしている間勉強をさせてもらっている。それだけでも破格の待遇なのに、上級学校に行かせてもらえる。ダリには信じられないような有難い申し出だ。

この家に働きに来てよかった。ダリは勇作に初めて会ったときに言われた言葉をつぶやいた。

「知識は財産」

ダリは勉強が好きだ。勉強というより新しいことを知ることが好きだ。旦那様の申し出を受けよう、そしてせっかくの申し出が無くなってしまわないようにしっかりと働こうと心の中で誓った。

ただ今度は付き添いではなくなることをキースはどう思うのだろうか、とダリは心配になった。


「ダリー、帰ったのかー」

キースが小屋にやってきて、ドンドンと扉を叩いた。

「坊ちゃま、ここに来たらダメですよ」

ダリはそう言って扉を開けた。するとキースはペコリと頭を下げて言った。

「ダリ、せっかくの休みにゴメン」

いつも生意気なキースが殊勝なことを言うので、ダリはくすりと笑ってしまった。

「なんだよ、笑うなよ」

キースが口を尖らせ、目を逸らして言った。

「私は大丈夫ですよ。でももう黙って出てくるなんてしないで下さいね」

「しないよ。母様が泣いてしまったし、父様には女性を泣かせるなんて男として恥ずかしいことだって叱られたし」


(旦那様、叱るところそこなんだ)

ダリは内心ガッカリして少し遠い目になってしまった。

「坊ちゃま、奥様が泣いてしまった理由はわかりますね?」

「うん」

「奥様は、坊ちゃまがケガをしたり、悪い人に連れてかれたりしないかとても心配したんだと思いますよ」

「わかってるよ」

キースはぶっきらぼうに答える。

「じゃあ、謝ったからな」

「はい。今度はちゃんと旦那様や奥様に話してから一緒に行きましょうね」

ダリが笑っていうと、キースは途端に明るい顔になった。

「いいのか?」

「はい」

キースは目を見開き、頬を赤くして話しだした。

「ダリの作ったスープ美味しかったぞ。あとヨーグルトも」

「ありがとうございます」

「ビームの蜜も美味しかったし、畑も面白かった」

「今度弟達に言っておきます」


キースは少し言葉を潜めておずおずと言ってきた。

「春になったら一緒に上級学校に行こうな」

今度はダリが目を見開いた。キースはダリの返事を待っている。

「いいんですか?」

ダリはおずおずと聞いてみた。

「今度は一緒に勉強するって母様が言ってた。わからないところがあったら教えてやるからな」

「はい、ありがとうございます」

ダリは満面の笑みで答えると、キースは満足気にパタパタと走って母屋に入って行った。








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