おじさんは語り合う
キースが眠ったあとのおじさん達の語らいです。
ダヒューズがベッドに入るとその胸にダイブするようにキースが満面の笑みで飛び込んだ。
「父様とこうして寝るのは初めてです」
「うん、そうだな」
「今日は初めてのことばかりですごく楽しかったです」
「そうか、それはよかったな。でもキース、母様を始め家中のものが心配したんだ。もちろん父様も。それは反省しなくていけないよ」
「はい.」
「あの、やっぱり私は居間に行きますね。親子水入らずで休んでください」
「いや、それは...」
ダヒューズが言いかけるとすかさずキースが勇作に言った。
「おじさん、遠慮するなよ。おじさんのおかげで赤いフログの秘密がわかったんだから」
キースは父親にピッタリとくっつきベッドの半分を空けた。
「ほら」
キースがベッドの空いたスペースをポンポンと叩いた。
「じゃあ、すみません」
勇作はそっとベッドの隅に入った。
ふふっとキースが笑った。
「やっぱりすごく楽しかったなぁ」
そうつぶやくとスーと寝息をたて始めた。
「ここまで歩いてきて、畑にも行って。流石に疲れたんでしょうね」
「そうですね。私も息子とこんなに向き合えたのは初めてかもしれません」
「男の子もかわいいものですねぇ。元気で楽しくて」
勇作はキースの寝顔を見ながら言った。
「おや、ユーサクさんにもお子さんが?」
「ええ、娘が一人。可愛くて可愛くて。ただ大きくなるとだんだん離れていって寂しいもんです。
ああ、あとサクでいいですよ。こちらの世界では勇作って言いづらいみたいですから」
ダヒューズはクスッと笑った。
「サク、こちらの世界って、まるで本当に別の世界から来たみたいじゃないですか」
「ええ、実はそうなんです。気が付いたら林の木の下にいてテイに助けてもらったんです」
ダヒューズはウトウトとしかけていたが、勇作の言葉に目が覚めてしまった。
「サク!あなたは大先生と同じなんですか?」
「えっ、大先生って誰です。もしかして、私以外にも別の世界から来た人がいたんですか?そういえばさっきそんなこと言ってましたよね」
そして勇作も目が覚めてしまった。
ダヒューズは語り始めた。そして勇作は天井を眺めながら聞いていた。
「大先生は上級学校を作った人です。『エンジーイア』と言ったそうです。それが名前なのか職業なのかは私にはわかりません。
私の父が子供の頃、その方は別の世界からきて子供達に算術を教え、文字を学ぶことの大切さを教えました。そして私の町にある時計塔を作りました。最初は周囲に笑われていたそうですが、時計塔が出来たことで人々の暮らしが徐々に整ったと聞きました。そしてその時計塔は結界を発していて人々を魔獣の被害から今でも遠ざけていると聞いています」
勇作は考えた。
エンジーイア、時計を作った。それはきっとエンジニア。技術者。過去に転生者がいたのではないだろうか。
「旦那様、その人に会えないですか?」
「サク、私のことはヒューでいいです。ただごめんなさい。さっきの大先生の話は私の父から聞いた話なんです。そしてその大先生は既にいません」
確かに自分の父親が子供の頃の大人なら年齢的にもかなりになる。こっちの世界で天寿を全うしたのか、元の世界に帰ったのか気になるところだ。それと魔獣の被害と言っていた。テイと暮らして魔法のようなものは見たことがないけど、魔獣がいるのだろうか。
「魔獣なんているんですか?」
「いますよ。結界の外には。多分。子供の頃からこの村の先は行ってはいけないと言われていましたから。
結界の中にも小さな魔獣の類はいます。ビームやフログもそうです。結界の端に近付けば出現する魔獣も大きくなり、外側には私達では対処が出来ないほどの大型の魔獣も出ると聞いています。あと数年に一度くらいですが、大型の魔獣が空を飛んでいくのを見ます」
勇作はダヒューズの言葉でここはやっぱり異世界なんだと実感した。魔法もない。ステータスも表示されない。獣人やドラゴンもいない。ただの田舎に来てしまったように感じていた。でも実際は違うのかもしれない。
「ヒュー、ありがとう。こちらの世界のことを全く知らなかったからすごく助かった」
「いいえ、私こそありがとうございます。キースが出会ったばかりの人にこんなに懐くのは初めてです。それにサクは大先生のようにきっと私達の知らないことを沢山知っているんでしょうね」
「いやぁ、大先生とは比べないでください。きっとその人は知らない世界に来て大変な思いをしながら自分の持つ知識や技術を伝えたんだと思います。オレはそんな知識や技術は持ってないし、テイに助けてもらってなかったら野垂れ死んでましたよ」
勇作が乾いた笑いを浮かべた時、キースが寝返りをした。横向きで父親に張り付くように眠っていたが、一気に腕と足が伸ばされ、足が勇作の腹を直撃した。
「うっ」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけです」
勇作はそうは言ったものの、無防備な状態だったのでかなりの衝撃だった。
「きっとキースに、早く寝ろって叱られたんですよ」
「そうかもしれませんね。サクは朝早いのですか?」
「いつも目が覚めたら起きる感じですかね、時間に縛られない生活なんで気楽なもんですよ。ただねぇ、年を取るにつれ目覚める時間が年々早くなるんですけどね。
ヒューも明日には帰って、またすぐ仕事をするんでしょう?」
「ええ、まあ。患者さんが来たら仕事ですかね。時間があればあの草の研究もしたいですし」
「それじゃあ大変だ。じゃあそろそろ寝ますか」
「そうですね、お休みなさい」
「おやすみなさい」
ダヒューズは目を閉じた。勇作も目を閉じたが考えは続いていた。
勇作は眠ろうと目を閉じたが頭の中は考えが次々と飛び出してきた。
ヒューの話だと結界の境目が曖昧になっているような気がする。
結界って見えない壁のようになっていて境界がハッキリしているものだと考えていたけど、ここでは違うのだろうか。話では結界の端に近付くほど効果が薄くなっているようだし。
大先生と言われている人物がもし自分の考え通りだったら、結界は魔法的なものではなくて技術的なものなんじゃないだろうか。
結界を作っている時計塔が出来てから何年経っているんだ?もしも機械的なものだとしたら経年劣化が考えられないか?
もしも本当に経年劣化していたとして俺に何が出来る?田舎の農家で生まれて育ち、普通高校をでて大学も商学部、商社に勤め脱サラで田舎に戻って農家。
そりゃあ農業をする中で必要な機械いじりや木工もやってきたけど、エンジニアと言われる人達に比べたら足元にも及ばない。
いや、待て時計塔が経年劣化しているとは限らないし、もししていたとしても俺がなんとかしなきゃいけないわけでもない。
ああ、でもその可能性に気付いてしまって知らないフリが出来るのか?
勇作はグルグルと頭の中で考え始めてしまった。
キースとダヒューズの寝息が聞こえる。
何度も考えるのを止めようとしたが、結局まとまらない考えが何度も沸いてきて少しウトウトしては目が覚めることを繰り返し、結局窓の外が明るくなってしまった。




