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歔欷の契約、Ragdoll始動、サバゲ行方不明者

賃貸を探す人にも様々な理由がある、特に事情が複雑だとかなり困難なケースもある。

そして大概は良い結果につながることはない。

サバゲチームRagdollの再始動。

サバゲーマーの行方不明者が次々と、いったい何が起きてるのか。

第十一話(虚偽の契約とサバゲ行方不明者)

<虚偽の契約>

駅前通り。

陽光がまぶしいほどに降り注ぎ、「幸栄不動産」のショーウィンドウを白く照らしていた。

店内では、進藤麻耶がカウンター越しに一枚の身分証を見つめていた。

そして、その向かいに座る若い女性へと視線を移す。

「……条件、もう一度確認していい?」

麻耶はボールペンの先でメモを軽く叩いた。

「家賃は共益費込みで五万三千円以下。駅からは多少離れてもいい。でも赤ちゃんが生まれるから、防音性は必須……ここまでは問題ない」

一拍置く。

「問題は、連帯保証人が立てられないこと」

女性――佐々木美咲は、小さく息を飲んだ。

そして、すがるような目で麻耶を見る。

「……親とは、その……この子のことで揉めて……勘当同然で出てきました。今は、インスタで知り合った友達の家に居候してますけど……長くはいられなくて……」

言葉が途切れ途切れになる。

「早く……この子と、落ち着ける場所が欲しいんです」

麻耶は黙って聞いていた。

地方から上京。

妊娠中。

保証人なし。

不安定な住居。

――危険信号のフルコンボ。

長年の経験が、警鐘を鳴らす。

だが同時に、目の前の女性の切実さも理解できた。

「……一つだけあるわ」

麻耶は資料を取り出した。

「築年数は古いけどRC造。壁は厚い。家賃は五万二千円。オーナーも事情がある人には理解がある」

美咲の顔が、一気に明るくなる。

「本当ですか……!」

「ただし条件は厳しく確認するわ」

麻耶の声は冷静だった。

 

内見へ向かう車内。

美咲は何度も礼を言った。

和室4.5畳と6畳に3畳分のキッチン、バス、トイレ別の古いタイプの間取り。

部屋を見た瞬間、「ここがいいです」と即答した。

だが麻耶は、慎重に言葉を選ぶ。

「確認するわ。親御さんがここを突き止めて騒ぎになる可能性は?」

「ありません。」

「家賃の支払いは?」

一瞬、沈黙。

「……生活保護を申請します」

「まだ申請してないのね?」

「住所がないと進められないって……」

麻耶は心の中でため息をついた。

――典型的な“順番が逆”のケース。

だが、現実は理屈通りには進まない。

申込書を受け取り、必要書類を説明する。

「契約金と、生活保護の手続きを前提に進めるわ」

美咲は何度も頭を下げて店を後にした。

その背中は、どこか救われたようにも見えた。

だが――

「……こういう時の嫌な予感、当たるのよね」

麻耶は小さく呟いた。

 

数日後。

美咲は約束通り来店した。

契約金も用意されている。

保証会社の審査も、まさかの承認。

書類上は、問題なし。

「生活保護の手続きは?」

「……調整中です。でも引っ越せばすぐ受理されるはずです」

わずかな違和感。

だが、契約は進んだ。

署名、捺印。

そして――鍵の引き渡し。

「おめでとう。でも忘れないで。家賃が払えなくなっても、私たちは守れない」

「はい……頑張ります」

美咲は鍵を握りしめて出ていった。

その足取りは、確かに軽かった。

だが麻耶の胸の奥には、重いものが残っていた。

 

三日後。

店のドアが開いた瞬間、麻耶はすべてを悟った。

美咲の顔が、別人のようだった。

「……どうしたの」

「進藤さん……お金を……返してほしいんです……」

その一言で、確信に変わる。

「契約金を?もう契約は成立してる」

「友達の……旦那さんにバレて……」

美咲は崩れるように座り、泣き出した。

「お金、友達が内緒で出してくれてたんです……それがバレて……離婚騒動になって……返さないと警察呼ぶって……」

沈黙。

店内の空気が一気に冷える。

「つまり・・・」

麻耶は静かに言った。

「あなたは自分で支払えないのに、“友人の支援がある”という前提で契約した。そしてその資金は不透明」

美咲は首を振る。

「違います!本当に助けてくれるって――」

「いいえ、ダメよ」

麻耶は遮った。

「生活保護は未確定。資金は消えた。このままでは家賃も払えない」

一歩踏み出す。

「それだけじゃない。その夫がここに来るリスクもある」

麻耶の目は鋭かった。

「これは“虚偽の申込み”に等しい」

美咲の顔から血の気が引く。

「……今なら間に合う」

「契約を白紙に戻す。私がオーナーを説得する。契約金も返金する」

「だから――鍵を返して、退去しなさい」

 

「そんな……!」

美咲は叫んだ。

「どこに行けばいいんですか……!」

その声は切実だった。

だが麻耶は揺るがない。

「嘘で得た居場所は長続きしない」

静かに言い切る。

「役所に行きなさい。本当の状況を話して、母子シェルターを紹介してもらうの」

「それが最短ルートよ」

 

長い沈黙。

やがて美咲は、震える手でバッグから鍵を取り出した。

カウンターに置かれる。

乾いた音が店内に響く。

――その瞬間だった。

ガタンッ

「え……?」

美咲の体がふらつき、そのまま床へ崩れ落ちた。

「ちょっと!佐々木さん!?」

麻耶はすぐにカウンターを飛び出した。

顔色は真っ青。

呼吸は浅い。

――陣痛?

一瞬、最悪の可能性が頭をよぎる。

「大丈夫!?しっかりして!」

反応が弱い。

麻耶は受話器を取った。

「救急車お願いします!妊婦さんが倒れました!」

住所と状況を的確に伝える。

電話を切ると、美咲の肩を支えながら声をかけ続けた。

「もうすぐ来るから、落ち着いて……大丈夫だから」

数分が、やけに長く感じられる。

やがてサイレンの音。

救急隊員が駆け込み、迅速に状況を確認する。

ストレッチャーに乗せられる美咲。

「付き添いは?」隊員が言う。

「いえ……大丈夫です」美咲は小さな声で言った。

麻耶は一瞬迷ったが、仕事の立場を優先した。

運ばれていく美咲の手を、軽く握る。

「落ち着いたら、この話はまたしましょう」

「来る前に、電話してね」

かすかに、美咲が頷いた。

救急車のドアが閉まる。

サイレンが遠ざかっていった。

 

店内に戻ると、静寂が広がっていた。

つい先ほどまでの出来事が、嘘のように感じられる。

カウンターの上には、返却された鍵。

麻耶はそれを見つめた。

――これが現実。


数時間後。

電話が鳴った。

「幸栄不動産です」 

「あの……佐々木です」

か細い声。

「大丈夫だったの?」

「はい……貧血だったみたいで……大事には至らなかったです」

麻耶は、ようやく小さく息を吐いた。

「そう……よかった」

「ご迷惑……かけてすみません……」

「いいのよ。今は体を優先しなさい」

短い会話だった。

電話を切る。

 

麻耶は静かに鍵を手に取った。

そして引き出しにしまう。

「……問題さえ起きなければ、じゃないのよ」

小さく呟く。

 

不動産業は、人の人生と直結している。

その重さは、時に想像を超える。

情と現実。

その狭間で判断を下すのが、この仕事だ。

麻耶はパソコンに向かい、空室情報を更新する。

「めじろ台、2K、RC造……入居者募集中」

春の光は、変わらず明るかった。

まるで何事もなかったかのように。


〈新たな始動〉

週末。

麻耶は久しぶりにサバイバルゲームフィールドへ足を運んでいた。

ひんやりとしたコンクリートの床と、レンジで鳴る電動ガンの軽快な音。

しばらく離れていただけなのに、懐かしさが胸に広がる。

「オセロット!遅いよー!」

振り返ると、岩見凛が手を振っていた。

その隣には一番合戦葵、そして渡辺未来の姿もある。

「みんな……揃ったの久しぶりね」

「ほんとだよ。やっとだね」

葵が笑う。

未来は静かに頷きながらスコープを覗いていた。

四人が揃うのは、実に半年ぶりだった。

そこへ、龍崎がゆっくりと歩み寄る。

「――Ragdoll、再び始動だな」

その一言に、場の空気が少し引き締まった。

「夏頃にSRUチャレンジがある」

「SRU?」と麻耶。

「簡単に言えば昔のSWATコンペだ。体力、射撃、狙撃、チームワーク――全部でタイムを競う」

一瞬の沈黙。

「……それ、ガチのやつじゃないですか」

凛が苦笑する。

「さすがに男性には勝てないんじゃない?」

「だって走るんでしょ?障害物とかムリだよー」

葵が肩を落とす。

未来も珍しく口を開いた。

「……年齢的にも厳しいわね」

全員が一歩引いた空気になる。

だが龍崎は、あっさりと言った。

「やる前から無理って決めつけるな」

静かな声だが、重みがあった。

「勝つためじゃなくてもいい。楽しむためにやればいい」

「それに、今はブームが落ちてる。こういうイベントで少しでも盛り上げたいんだ」

四人は顔を見合わせた。

そして――

「……ま、そういうことなら」

「やってみる?」

「軽くね」

空気が少しだけ前向きに変わる。

麻耶も小さく笑った。

「いいわ、久しぶりに本気出してみる」

 

その日のメニューはタクトレ。

体力作りと実戦感覚を兼ねたトレーニングだ。

フィールドの中央には四角形にコーンが置かれていた。

それぞれに番号が振られている。

「ルールは簡単だ」龍崎が説明する。

「指示された番号のコーンまで走る」

「到着したら的を撃つ」

「また次の番号へ――それを6回繰り返す」

「距離は一辺8メートル」

「シンプルだけどキツいぞ」

 

最初に手を挙げたのは麻耶だった。

「じゃあ私からいくわ」

42歳。

ブランク明け。

内心、不安はあった。

「スタート!」

龍崎の合図と同時に走り出す。

――思ったより体が重い。

最初のコーン。

的を撃つ。

次の指示。

また走る。

呼吸が一気に荒くなる。

三回目の往復あたりで、足が鈍くなった。

「……キツい……!」

口に出た。

射撃も微妙にブレる。

六回終えた頃には、完全に息が上がっていた。

「はぁ……はぁ……こんなに……きつかったっけ……」

膝に手をつく。

凛が笑いながら拍手した。

「お疲れ様です、オセロット」

「笑えないわよ……」

 

次は凛。27歳。

軽やかにスタートする。

動きは速い。

射撃も安定している。

「さすがね……」

麻耶が呟く。

だが四回目あたりで様子が変わる。

呼吸が乱れた。

「はっ……はっ……」

最後は明らかに息切れ。

ゴール後、その場に座り込んだ。

「無理……これ……地味にキツい……」

 

続いて葵、34歳。

「よーし!」と気合いを入れてスタートしたが――

二回目で既にペースが落ちる。

射撃も外す。

「ちょ、待って、無理無理無理!」

途中で笑いながら崩れた。

「体力も射撃もダメだぁ……」

 

最後は未来、52歳。

静かにスタートする。

動きは決して速くない。

だが無駄がない。

呼吸も一定。

射撃は確実。

終盤、さすがに息は上がったが――

崩れない。

淡々と6セットをこなした。

 

「……さすが」

麻耶が思わず呟く。

未来は軽く息を整えながら言った。

「スナイパートライアルで走り込みしてたからね……多少は」

 

四人は地面に座り込んだ。

春の空を見上げながら、誰もすぐには言葉を発しなかった。

 

やがて、麻耶がぽつりと呟く。

「……これ、本番ヤバくない?」

全員が同時に頷いた。


〈行方不明者〉

フィールドの片隅にある掲示板。

ゲームの告知や中古装備の売買情報、イベントの案内が雑多に貼られているその一角に、見慣れないチラシが並んでいた。

帰り支度の合間、何気なく視線を向けた麻耶は、その紙の異質さに足を止めた。

カラーのコピー用紙。

整然と並ぶ顔写真。

その上に大きく書かれた文字。

――行方不明者捜索

「……これ、何?」

思わず呟くと、近くにいたフィールドオーナーが振り返った。

「ああ、それ?こないだ警察が回ってきてさ。貼ってくれって」

「警察が?」

「なんかサバゲやってる人たちで、失踪した人らしいよ」

軽い調子だった。

だが麻耶の視線は、すでにチラシに釘付けになっていた。

一人、また一人と顔を追う。

年齢もバラバラ。

服装も普通。

共通点は一見して分からない。

だが――

「……え?」

麻耶の指が、ある写真の上で止まった。

「この人……」

見覚えがある。

いや、見覚えどころではない。

「葛城裕太……」

思わず名前が口から漏れた。

フィールドオーナーが覗き込む。

「知ってるの?」

「ええ……うちで管理してた物件の入居者で……つい最近、解約したばかり」

その言葉に、近くにいた龍崎がゆっくり歩み寄ってきた。

「どれだ?」

麻耶が指差す。

龍崎は無言でチラシを見つめ、低く唸った。

「……なるほどな」

その反応に、麻耶は違和感を覚えた。

「どうかしたんですか?」

「いや……」

龍崎は他の顔写真にも目を走らせる。

「これ、全員サバゲーマーか?」

オーナーが肩をすくめる。

「らしいですよ。でも詳しくは知らない。警察もあんまり教えてくれなかったし」

その時、背後から足音が近づいた。

「なになに?」

凛が興味津々で覗き込む。

続いて葵と未来も集まってきた。

四人でチラシを囲む形になる。

「……え、これ本物?」

凛が小声で言う。

「行方不明って……」

葵の声も少し不安げだ。

未来は静かに一枚一枚を見ていた。

そして、ある写真の前で止まる。

「……この人」

「知ってるの?」麻耶が聞く。

「スナイパートライアルに出てた人ね。確か……中堅くらいの腕だった」

空気が少し重くなる。

「え、マジで?」凛が顔をしかめる。

「じゃあ本当にサバゲ関係者ばっかりじゃん……」

葵が急に声を上げた。

「あ!」

全員が振り向く。

「何?」

「この人!」

葵が別の写真を指差す。

「ボウリング場で見たことある!隣のレーンでめっちゃ騒いでた人!」

「どこにでも出没してんじゃん……」

凛が苦笑する。

だが、誰も笑えなかった。

偶然にしては、出来すぎている。

龍崎はじっとチラシを見続けていた。

やがて顔を上げる。

「これ、コピーできるか?」

フィールドオーナーに向かって言う。

「ああ、いいですよ。」

数分後、龍崎はチラシのコピーを手に戻ってきた。

紙を丁寧にカバンにしまいながら言う。

「ちょっと調べてみる価値はあるな」

凛が軽く言った。

「でもさ、地方に行っただけとかじゃないの?」

その言葉に、龍崎は首を横に振る。

「この人数が同時期にいなくなるのは不自然だ」

「しかも、共通点が“サバゲー”だとしたら……」

言葉を途中で切る。

麻耶は無意識に腕を組んだ。

頭の中に、葛城裕太の顔が浮かぶ。

退去の時の曖昧な態度。

「遠くに行くかも……」

あの言葉。

「……まさかね」

自分に言い聞かせるように呟く。

だが胸の奥に、冷たいものが残った。

未来が口を開いた。

「黒木さんにも聞いてみたら?」

龍崎が頷く。

「そうだな。あの人なら何か情報を持ってる可能性がある」

黒木美津子――

ゴーストスナイパーと呼ばれる女。

「未来、連絡取れるか?」

「ええ、あとで聞いてみる」

静かなやり取り。

だが確実に、何かが動き始めていた。

 

夕暮れのフィールド。

人は減り、風の音だけが残る。

掲示板のチラシが、ひらりと揺れた。

そこに並ぶ顔たち。

どれも、ごく普通の人間だ。

だが今は――

誰一人として、所在がわからない。

 

「……なんか嫌な感じだね」

凛がぽつりと言った。

誰も否定しなかった。

 

サバゲーマーの、次々の失踪。

偶然か。

それとも――

まだ、誰もその答えを知らなかった。


賃貸不動産では様々な職業、諸事情がある方が日々来店する。

だが、最適な物件を提供しても入居者自身の問題までは解決できないのだ。

この物語の行く末はどうなるのか、筆者も迷走中である。

読者が楽しみにしてもらえるよう鋭意執筆していきます。

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