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第113話 いざ最終決戦の地へ!超絶加速の盾で、鉄壁の防空網をぶち抜け!

ローズマリーが振る舞った、魂を震わせるほどのヤバい豪華な食事は、仲間たちの疲弊した心と身体を確かに癒し、次なる決戦への熱い英気を(みなぎ)らせた。


胃袋の底からマグマのような活力が湧いてくる。


一体どれだけヤバいスパイスを盛ったんだ。


スターダスト・レクイエム号は、一路、コンドル星系へとその古びた船首を向けていた。


亜空間を滑る艦内は、宴の後の心地よい倦怠感と、目的地が近づくにつれて高まる、カミソリのように鋭い緊張感に包まれていた。


スターダスト・レクイエム号のブリッジ。


メインスクリーンには、コンドル星系の三次元星図が青白い光を放ちながら静かに回転している。


空気中には、ユウキが淹れたコーヒーの焦げたような苦い香りと、電子機器のかすかな作動音。


そして、この狭い空間に集まった仲間たちの、熱を帯びた呼吸の音が混じり合っている。


「さて、と」


俺はキャプテンシートに深く腰掛け、腕を組みながら、切り出した。


「アルベルトの野郎を止める。目標は、ヤツが起動させようとしている『星の遺産』だ。問題は、ヤツがどこでそれをやろうとしているか、だ」


ディスプレイには、ナビィが集約した膨大な情報が表示されていた。


コンドル軍の最新の配置状況、既知の『星の遺産』関連施設のリスト、そしてローズマリーやミンクスがそれぞれの裏ルートで収集した、断片的ながらも重要な情報。


「アルベルトが、リリーナを『星の遺産』の力で蘇らせようとしている、と仮定するなら……」


情報の羅列を睨みつけながら、頭の中でパズルを組み立てる。


「ヤツがその『儀式』を行う場所として最も可能性が高いのは、やはりコンドル本星の首都、王宮の周辺ってことになるか……?」


「ええ、可能性としてはそれが一番高いでしょうね」


ミンクスが、静かに頷いた。


「コンドル王国の首都は、古代からの『星の遺産』の上に築かれた巨大なエネルギーノードとも言える場所。特に王宮周辺には、強力なフォワードエネルギーを放つ遺跡が数多く眠っているとされているわ。しかし……アルベルト王子がその中のどの遺跡を利用しようとしているのか、それを特定するのは容易ではない」


彼女の声には、故郷コンドルへの、そしてかつての友への複雑な想いが滲んでいた。


「そうですわね」


ローズマリーが、仮面の下で同意するように頷いた。


「わたくしも独自に調査しましたが、アルベルト王子の動きは極めて巧妙に隠蔽されていますわ。ですが、ミンクスさん」


彼女は、ミンクスへと探るような、どこか挑発的な視線を向けた。


「アンドロメダ正教会ならば、コンドル星系内で観測されたフォワードエネルギーの異常変動データをお持ちではないかしら? あなた方、他国のエネルギー監視には異常なほど執着がおありですものね」


彼女は優雅に問いかけながらも、その言葉にはミンクスの『聖騎士としての仮面』を剥がそうとするような鋭い響きがあった。


「……!」


ミンクスはローズマリーの指摘に一瞬息を呑んだが、すぐに深呼吸をし、冷静さを取り戻した。


「ええ。教会は銀河各地のフォワードエネルギー変動を常に監視しています。ここ半年間のコンドル星系内の詳細な観測データならば、ここに。……ナビィさん、データを転送します。メインディスプレイへの表示をお願いできますか」


「了解いたしました。データ受信完了。解析、及びメインディスプレイへの表示を開始します」


ナビィが、コンソールを白い指で滑らかに操作する。


メインディスプレイの星図の上に、新たな情報が重ね合わされる。


それは、フォワードエネルギーのまるで生き物の脈動のような、複雑で、どこか禍々しい動きを示す流体のシミュレーションデータだった。


そしてそのエネルギーの奔流は、コンドル首都圏内のある一点へと……まるで巨大なブラックホールに吸い込まれるかのように収束し、(うごめ)いていた。


「……! この場所は……?」


俺は、そのエネルギーの特異点に目を凝らした。


「ナビィ、マップを最大限まで拡大しろ!」


「了解。拡大します」


ナビィが画像を拡大していく。首都の街並みが詳細に表示される。


そして、エネルギーの渦の中心が表示された瞬間。


「ここは、コンドル王宮じゃ、ねぇ……? いや、待てよ……。この区画は……?」


俺の脳裏に、遠い過去の記憶の断片がフラッシュバックする。


そして、俺とミンクスは、同時に電撃に打たれたかのように、その場所の名を叫んだ。


「「―――ビックサム学園!!!―――」」


かつて、俺たちが青春時代を過ごした、思い出の学び舎。


リリーナと、アルベルトと、そして仲間たちと笑い、語り合い、剣を交え、馬鹿みたいに青臭い夢を語り合った……かけがえのない場所。


胸の奥が、ギリッと音を立てて痛んだ。


「ミンクス。あの学園に、遺跡なんてあったか……?」


「表向きは、なかったわね」


ミンクスは、記憶を探るように目を伏せた。


「でも、覚えてる? 学園の、あの当時使われてなかった古い演習場の、さらに奥にあった『巨大な廃ドック』。あそこには地下深くに続く謎の穴があるって、噂があったでしょう? 当時は学園七不思議の一つなんて、面白がって言われていたけれど……」


彼女はさらに、自分の記憶の奥底から重要な情報を引っ張り出した。


「そして、もう一つの噂。あの廃ドックはかつて、人々がコンドルから初めて宇宙(そら)へと旅立つために使われた超巨大な質量加速器……マスドライバーの発射場の跡地だった、というものよ。もしその噂がどちらも真実だとしたら。学園の地下に、古代の『星の遺産』が巨大なエネルギー源と共に眠っていても、何ら不思議はないわ」


「……! まさか、あの気味の悪いお化け屋敷みてえな廃ドックに、そんなとんでもねぇモンが眠ってたってのか……!」


俺の頭の中で、バラバラだったパズルのピースが急速に組み上がっていく。


ミューが入っていた、あの白い棺桶のようなコンテナ。


ガルムの脅迫めいた言葉。


アルベルトの、ミューを『実験体』にしたというおぞましい証言。


そういうことかよ……!


俺は、アルベルトの狂気の計画の、その冒涜的な全貌をようやく確信した。


「ナビィ!」


俺は声を張り上げた。


「俺たちがバルバラ基地でガルムから『積み荷』を受け取った、あの秘密ドックの座標! それを今のマップに重ね合わせてくれ!」


「承知いたしました。座標データ、オーバーレイ表示します」


ナビィがコンソールを滑らかに操作する。


そして、表示された座標点は……。


「おいおい、嘘だろ!」


俺は愕然とした。


「座標が、完全に一致してやがる! あの廃ドックだ! クソッ! あの時、もっと注意深く見ていれば……! いや、待てよ? 俺たちが行った時には、学園の建物なんざ影も形もなかったはずだが……?」


「ベレットが知らないのも無理はないわ」


ミンクスが静かに補足した。


「あなたがコンドルを追われた後、ビックサム学園は老朽化と再開発計画のために、別の場所へと完全に移転したのよ。まあ、私もその後コンドルを出たから、後の詳しいことまでは知らないけどね」


「なるほどな。つまり、アルベルトは移転後の『廃墟』となった旧学園の地下で、人知れず『星の遺産』を起動させる準備を進めている。そういうことか……!」


全てのピースが嵌まったそのおぞましい絵図に、戦慄と、どうしようもない怒りを覚えた。


「その可能性が、極めて高いわ」


「よし、決まった!」


俺は立ち上がり、力強く宣言した。


「俺たちの最終目的地は、コンドル本星、旧ビックサム学園跡地だ!」


もはや迷いはなかった。


進むべき道は示された。


「ナビィ! 航路を設定しろ! コンドル軍の防空網が可能な限り手薄なルートを探し出せ!」


「了解いたしました。最適潜入航路の構築を開始します」


ナビィが膨大なデータを処理し、演算を開始する。


「ベレット様」


ローズマリーがすかさず、自身の情報端末を操作しながら言った。


「わたくしが掴んだ最新のコンドル軍の内部情報によりますと、主力艦隊の大半は未だ、コンドル王立監獄襲撃事件の後処理と、周辺宙域の封鎖任務に当たっているようですわ。奇しくも、わたくしたち自身の先の『救出作戦』と、ミンクスさんの『派手な足止め』が、本星の守りを手薄にする結果となっているようですわね」


彼女は、ミンクスに視線を送りながら皮肉な笑みを浮かべた。


「ですから、コンドル本星への侵入経路としては、こちらの第7衛星軌道を経由する『軌道からの強行突入ルート』が、最も発見されるリスクが低いかと存じますわ」


ローズマリーはディスプレイに、具体的な航路と大気圏突入計画の概要を提示した。


「ああ、それでいこう」


俺は彼女の的確な分析に頷いた。


「ナビィ、ローズマリーの提示したルートで、ワープアウト座標と最終アプローチの計算を頼む」


「承知いたしました。航路データ、及びワープジャンプのシークエンス計算に移行します」


「さて。問題は、そこからどうやって旧学園跡地の地下、『星の遺産』のある場所まで辿り着くか、だな」


俺は腕を組み、作戦の最も困難な部分について思案を巡らせる。


大気圏突入、そして敵の真っ只中への地下深くへの潜入。通常の手段じゃ、蜂の巣にされて終わりだ。


「ふふ、ベレット様。それについては、もう『準備』が整っておりますわよ」


ローズマリーが、絶対的な自信に満ちた、悪魔のような笑みを浮かべた。


「ユウキさん? いよいよ、『アレ』をお披露目する時が来たようですわね!」


彼女は、ブリッジの隅でコーヒーを飲みながら退屈そうに会議の様子を窺っていたユウキに話を振った。


「ブブーッ!! え、ゴホッ! ゴホッ! ア、アレって……! ま、まさか! あの悪趣味極まりない、『フェリガーイージス』のこと!?」


ユウキは飲んでいたコーヒーを危うく噴き出しそうになりながら、素っ頓狂な声を上げた。


「そうですわ!」


ローズマリーは胸を張り、得意げに宣言した。


「わたくしがコンセプトを考案し、ユウキさんに無理を言って特別に開発していただいた、最新鋭の大気圏突入用、兼、拠点強襲用、超高速シールド加速装置!」


「なんだ? その仰々しい名前の代物は……?」


俺は聞き慣れない言葉に、興味と若干の、いや、かなりの胡散臭さを感じながら尋ねた。


「『フェリガーイージス』! それは大質量の隕石さえも受け止める戦艦クラスの超重装甲シールドと、クリムゾン・ローゼス改の神速の推進力を合体させた、まさに最速にして最強の『盾』! あらゆる敵の防御網を紙屑のようにもろともせずに突破し、目標地点へと到達するための、わたくしが授ける祝福の翼なのですわ!」


ローズマリーは芝居がかった情熱的な口調で、そのとんでもない代物の説明をする。


「いやいやいやいや!」


ユウキが即座に、全力でツッコミを入れた。


「一応、あなたの無茶苦茶な要求に応えて設計して試作機は作ったけど! あんな重すぎてバランスが悪くて、空気抵抗も何も考えてない、頭の悪い悪趣味なだけの『盾付きロケットブースター』を、本気で使うつもり!? 正気なの!? しかもあれ、設計上、あなたのクリムゾン・ローゼス改の推力じゃないとまともに制御できないでしょ!」


「そんなことはありませんわ」


ローズマリーは平然と言ってのけた。


「皆さんには、ほんの少しだけ……加速Gに耐えていただく必要がございますけれど。愛と勇気があれば、きっと乗り越えられますわ」


彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「あんたの言う『ほんの少し』は、普通の人間にとっては内臓が口から飛び出る致死量レベルなのよ! そもそも、クリムゾン・ローゼス改のあの異常な加速に耐えられるあんたの身体の方が普通じゃないんだから! あたしたちと一緒にしないでくれる!?」


ユウキは呆れ果てながらも必死に警告する。


「あらあら。ですが、コンドル本星の厳重な首都防衛網を安全かつ迅速に突破するには、これが最も確実な手段の一つではなくて?」


「そ、それは……そう、だけど……でも!」


ユウキはぐうの音も出ないといった表情で、渋々認めざるを得なかった。


「ユウキ」


俺は、確認するように尋ねた。


「その『フェリガーイージス』とかいうふざけた名前の盾は、4機分あるのか?」


「……! 一応、予備も含めて格納庫にはあるけど」


ユウキは目を見開く。


「って、え!? モルモット! 本気であんな自殺行為みたいな装備、使うつもりなの!?」


「ああ」


俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべて頷いた。


「ローズマリーの言う通り、それが目的地に一番手っ取り早く、確実に辿り着けそうだ。使えるもんは、猫の手だろうが悪魔の翼だろうが、何でも使わねえとな! 俺たちは上品な騎士様じゃねえ、宇宙海賊だぜ?」


「モ、モルモットがそこまで言うなら……」


ユウキは完全にあきれ果てた表情で、大きなため息をついた。


「もう、知らないわよ! Gでゲロ吐いても、絶対にどうなっても知らないんだからね!」


「へっ、心配すんなって。ここにいるヤツに、そんなヤワなヤツは一人もいねぇさ」


自信を持って答えた。


「では、決まりですわね!」


ローズマリーは満足げに声を弾ませた。


「それではユウキさん。早速ですが、わたくしの『フェリガーイージス』だけ、あの美しい情熱の赤色に塗装し直していただけますかしら? 塗料はもちろん、わたくしの特注品でお願いね!」


彼女はここぞとばかりに、ユウキにさらなる無茶なリクエストをする。


「はあ!? 塗るわけないでしょ! 絶対に塗らないわよ! 性能なんてこれっぽっちも変わらないって、何度言ったら分かるのよ!」


「塗っていただかないと、わたくしの魂が戦場で最高に輝かないのですわ!」


「知らないわよそんなこと! 決戦前で各機体の最終メンテナンスもあるんだから! そんな無駄なことに構ってる暇なんてこれっぽっちもないの!」


「塗ってくださいまし!」


「嫌よ!」


ローズマリーとユウキの不毛な押し問答。


その光景を、俺はやれやれと肩をすくめながら横目で見つめた。


……やれやれ。どいつもこいつも、我が強すぎる。


だが、悪くない。


俺はブリッジに集う女たちの顔を、一人一人見回した。


いつも冷静沈着な相棒のナビィ。


不器用だが天才的な頭脳を持つユウキ。


狂おしいほどの情熱で俺を求めるローズマリー。


そして、過去を振り切り共に戦うことを選んだミンクス。


皆、俺みたいな薄汚れた宇宙海賊には勿体ないくらい、真っ直ぐで、重くて、眩しい想いをぶつけてくる。


昔の俺なら、重荷に感じて逃げ出していただろう。


だが、今は違う。


「ミュー」


俺は、隣で心配そうに議論を見守っているミューへと、真剣な眼差しを向けた。


「これから、困難で危険な作戦になる。だが……それでも、俺と一緒に来てくれるか? お前のその力が、俺たちにはどうしても必要だ」


ミューは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに満面の太陽のような笑顔で、力強く答えた。


「もちろんよ、ベレット!」


ミューは胸元のペンダントを強く握りしめた。


「私のフォワードは、いつだってあなたと共にある! それに、アルベルトをこのままにしておくわけにはいかないわ! 彼と、ちゃんと決着をつける! それが、今の私にできることだから!」


その瞳には、かつての泣き虫だった少女の面影はない。


星詠の巫女としての、そして一人の女性としての、揺るぎない決意の光が宿っていた。


「ああ、期待してるぜ、ミュー!」


俺たちの最終目的地、そして突入方法が決定した。


それぞれの決意と、それぞれの過去。


そして、未来への想いをその胸に深く刻み込んで。


「全システム、オールグリーン。目標座標、コンドル本星。ワープジャンプ、カウントダウンを開始します」


スターダスト・レクイエム号は、ナビィの静かな声と共に、最後のワープシークエンスへと移行していく。


目指すは、コンドル本星。

全ての始まりの地であり、因縁の地でもある旧ビックサム学園跡地。


そこで俺たちを待ち受けているものがどんな地獄だろうと……この厄介で、最高に愛おしい仲間たちと一緒なら、必ずぶち破れるはずだ。

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