エピローグ「エレオス神話」
太古の昔、天地の間に、ひとつの楽園ありき。
その名を“アエテルナ“
万物が調和し、種族の垣根なき黄金の時代なり。
エルフは森の叡智を歌い、
ドワーフは岩の鼓動を打ち、
セリアンは大地の力を誇り、
フェアリーは風の如く舞う。
そして「竜」は、天を覆う翼にて万物を庇護し、絶対なる安寧をもたらしたり。
人の子は、小さき腕にて土を耕し、
礎を築き、
繁栄の「和」を繋ぐ者なり。
彼らは、この光あふれる調和が永久に続かんことを願い、その地を永遠の意味を持つ“アエテルナ“と呼称せり。
されど、光あるところに影あり。
深き闇の底より、混沌を統べる「魔竜」と、
その眷属たる「夜に棲まう者」現る。
彼らは光を忌み、
混沌を愛し、
人の子らを凌駕する力を持つ者なり。
その数、星の如く。その魔力、深淵の如く。
その牙、鋼を砕き、その悪意、毒の如く心を蝕む。
彼らは、人の子の心に「疑念」と「憎悪」の種を蒔きたり。
友は友を討ち、兄弟は血を流し、世界は混沌の坩堝と化す。
これこそが、魔竜と夜の眷属が望みし地獄なりき。
世界が絶望の帳に包まれし時、
天より「原初の光」降り立つ。
竜は嘆き、そして決意せり。
巨大すぎる混沌を封じるため、
竜は自らの御身を五つに分かち、
世界の柱とならん。
天を導く「聖竜エレオス」。
地を浄化する「火竜ヴルカーノス」。
悪を凍てつかせる「氷竜ゲルニクス」。
正義を断つ「剣竜ヴィルディウス」。
海を抱く「海竜オケアラーサ」。
――五つは一つ、一つは五つなり。
五柱の竜は、未だ善き心を失わぬ人の子らを選び、告げたり。
『我が血肉、我が力、汝らに分け与えん。光を手に、夜を払え』
竜の契約により、
勇気ある者たちは剣を取り、
魔法を放ち、
五竜と共に闇を裂けり。
火は穢れを焼き、
氷は暴虐を封じ、
剣は悪を断ち、
海は傷を癒やし、
光は道を示した。
長き戦いの果て、夜は明け、魔竜とその眷属は彼方へと去りぬ。
勝利の暁、光は戻りたれど、代償はあまりに大きかりき。
竜たちは、その力のすべてを子らに与え、長き眠り、あるいは果てなき封印の戦いへと身を投じたり。
民は涙し、五竜の盟主たる聖竜の御身を抱きて、大地の中央に白亜の塔を築けり。
これ即ち、聖都の礎なり。
人々は塔に集い、
眠れる竜へ「力」を返さんがため、
祈りを捧げたり。
その祈りは、いつしか「感謝」へ変わり、やがて「永遠の平和」を願う誓いへと昇華せり。
故に、人はこの大地を、竜との誓いを込めて再びこう呼ぶなり。
――“アエテルナ大陸“、と。
+
このアエテルナ大陸に伝わる、聖竜エレオス神話の一節。
エレオス教の教えは、全てこの神話をもとに定められたものであると同時に、この地に広く伝わる最も古い歴史書のひとつでもある。
闇の眷属との戦いを終え、聖竜エレオスが眠りについてから、一二七五年の月日が流れた現在。
"五竜は一つ"という教えのもと、本来ならば手を取り合うべき人類が、いまや信仰の解釈の違いや、大国同士の戦力の拮抗による“永遠の平和“を意味するようになったのは、歴史の皮肉であろう。
――その愛すべき"永遠"に、致命的な綻びが生じている事に、
――気付いている者は、まだ、多くはなかった。
〜第一章・完〜




