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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
1章:「熾火の魔神と五人の花嫁」

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1章:2話「花嫁?」


 全員、凄まじい美貌だった。

 ――だが。

 

 エリザの視線の先を追ったレオンは、全身の産毛が逆立つような感覚に襲われた。

 

 椅子に並んだ五人の少女達。彼女達の視線が、まるで物理的な質量を持ってレオンの体に絡みついてきたからだ。


 

 

 夜よりも黒い、濡れ羽色の長い髪をハーフアップにした髪と同じ色の瞳をした華奢な少女は、鑑定品でも眺めるような無機質で、けれども鋭い眼差し。


 

 膝まで届く美しい白金(プラチナブロンド)の長髪を(なび)かせる、これまた美しい少女は純粋な好奇心で、レオンを丸裸にしようとする空色の輝き。


 

 ピンクブロンドの髪をおさげにした上品な出立ちの少女。その両目は包帯で隠されているにも関わらず、明らかに彼を“視て“いるのがわかる。


 

 炎より赤い真紅の髪と瞳。肌が透けるような薄さのレースのドレスとその体を全て包む黒いタイツが、その悩ましい四肢を強調している、妖艶な少女。


 

 最後の一人は、青みがかった黒髪の癖毛に、灰色の瞳を髪から覗かせている少女。

 ミステリアスな印象にも関わらず、“にちゃ“と粘り気のある、しかしどこか惹かれる笑みを浮かべていた。



 

 殺風景な古い木の椅子に座っているのが信じられない程、全員が芸術作品でも見たことが無い程の美しさだった。――一人、おかしいかもしれないが。


 彼女達のばらばらの感情が、しかし“レオンを離さない“という一点において完全に同期し、彼を射抜いていた。

 

 エリザがいくら言葉を重ねても、彼女達の視線の壁に阻まれて彼の元には届かない。

 保健室という狭い空間の中で、レオンだけが別世界の住人たちに引き摺り込まれていくような、奇妙な疎外感。

 彼が視線を彷徨わせ、助けを求めるようにエリザを見ると、彼女は少女達から逃げるように視線を伏せ、震える手でレオンのシーツを握りしめた。


 

 

「おい、レオン! 何とかしてくれ! 彼女達、お前の知り合いなんだろう!?」


 

 エリザは震えた声でレオンに囁く。首をぶんぶんとふるレオン。


 

「⋯⋯し、知らないよ⋯⋯、こんな、美人さん達。エリザだって、同性なんだから話しやすいでしょ?」


 

 レオンが必死に囁き返すと、今度はエリザが首をブンブンと勢いよく振った。


 

「ダメなんだよ! ここに来るまでに、何度か話したが⋯⋯。ここについてから、一睡もせずにずっとお前の事を凝視しているんだ!」

「⋯⋯!? 嘘でしょ!?」

「本当だ! 外見も神々しいが、何を考えているのかが、全くわからないから本当に女神なのかもしれん。正直怖い!」

「⋯⋯もしかして、彼女達が⋯⋯?」

「そうだ、レオンを助けてくれた人たちだ!」


 

 (⋯⋯こんな美しい人たちに、僕は助けられたの⋯⋯?)


 

 レオンとエリザがこしょこしょ話をしている最中も、変わらずレオンを凝視する彼女達。

 

 あまりの意味不明さに驚愕していたレオンだったが、おずおずと切り出した。

 


「⋯⋯えっと⋯⋯。⋯⋯貴女達が、僕を助けてくれたの⋯⋯?」

「はい、その通りです」

 


 桃色の髪の少女が、脳に響くような、甘く、癒される声で告げる。

 ――その声の奥に、湿度を帯びた“重い感情“が混ざっている事に、彼は気付かなかった。


 

「⋯⋯ありがとう。貴女達のおかげで、僕は生き残ることができました。⋯⋯本当に、ありがとう」


 

 レオンは、精一杯の感謝を言葉にして伝えると、桃色の少女は遊牧民のような衣装を指で弄りながら続けた。


 

「私の名はシルフィード。シルフとお呼びください。そんなに感謝する必要はありません。私は、当然の事をしたまでですから」

「⋯⋯いや、でも⋯⋯」

「私こそ、ありがとうございます。⋯⋯“また逢えて“とっても嬉しく思います♡ “レオン様“♡」

「⋯⋯え? “また“⋯⋯?」


 

 レオンは困惑していた。以前、どこかで会ったことがあるのだろうか? と。

 ――だが、彼は考えをまとめ切る前に、質量のある攻撃を受けた。

 

 白金の髪の少女が短いスカートを翻しながらレオンに抱きつき、押し倒したのだ。

 


「もう、いいよね? いいよね! やったー! “久しぶり“!! レオン!!」

「ぐふっ⋯⋯! 柔らかい⋯⋯。じゃなくて! は、離れて、ください!」

「私、ノエル! もう離さないからね! レオン!」

「ちょっ! 力つよ! 息、できない⋯⋯! もが!!」

 


 ノエルと名乗った少女は、レオンを自分のチュニックを大きく膨らませる豊かな胸に押し付けるように抱きしめる。

 彼はジタバタと悶えるが彼の頭一個分以上あるノエルの上背にはなす術もなかった。


 

「お⋯⋯お前! 何してる!! 離れろ! 一応怪我人だぞ!?」

「あ! やだ! ひどいー!!」

 


 レオンを窒息させるくらい、しばらく抱きついていたノエル。

 だが、顔を真っ赤にしたエリザに力一杯引き剥がされてしまったのだ。


 しゅんとして、ぶー、と口を尖らせるノエルは、遊んで貰えない大型犬のような雰囲気だった。


 

「スケベ。そういった事は、もっと二人でいる時にするものです」

「⋯⋯二人でいる時なら、いいものなの、ですか⋯⋯?」

 


 黒髪の少女が鈴の()のような、澄みきったよく通る声でレオンに告げる。

 

 レオンはといえば、ノエルの攻撃により、今も肩で息をしていた。

 

 彼女は、座りながらも体全体をレオンに向ける。

 その時に見えた、深いスリットから覗かせる足があまりにも白くて、レオンはドキマギしていた。


 

「まあ、いいでしょう。レオンの“伴侶“たるこのルナテイシアは、優しいので許してあげます」

「⋯⋯伴侶⋯⋯?」

 


 そう名乗った少女は、――金色の髪の毛、恐らくレオンのものを握っていた。

 それを宝物のように指で()で、鼻先で匂いを嗅いでから羽織っていた大きな黒いローブのポケット入れながら、眉一つ動かさずに告げた。


 

「ぐふふ、そうだねぇ〜、後でゆっくりと、クロラも一緒に楽しみたいねぇ〜♡」

「⋯⋯い、一体何をするつもりです!?」

「そりゃもちろん、イイコトぉ〜♡ ぐへへへ!」

「いや! やめて!」


 

 クロラと名乗った黒ポンチョの少女は、素早い動作でレオンに跨ると、彼のズボンの紐を緩め始める。

 

 レオンが拒絶の声を上げて抵抗するが、まるで手品のようにいつの間にかレオンの両手がベッドに紐で固定されていて、彼はくねくねと体を動かす事しかできなかった。

 その様子があまりにも可愛らしかったのか、クロラを喜ばせるだけに終わっている。

 


「あらあら、皆さんったら。レオン様に逢えて嬉しいようですね」

「⋯⋯ごめんなさい、僕の事を知っているみたいですけど⋯⋯。僕は、全く覚えてなくて⋯⋯。いや! ズボンを脱がそうとしないで!」


 

 クロラに抵抗しながらレオンは彼女に謝った。シルフは唇に指を当てて考えながら、切り出した。


 

「――そうですね。レオン様は、私たちのことを知らないと思いますが、私たちは、よぉく、レオン様の事を知っていますよ?」

「⋯⋯え? どういう事、ですか⋯⋯?」

 

「たとえば、そうですね⋯⋯。レオン様は、“胸の大きい人が好き“とか?」

 

「なっ⋯⋯!」



 レオンは、思考が停止したのか、口をぱくぱくとさせている。

 

 そのせいか、エリザの表情が激しく歪むのを彼は気付かなかった。

 ――エリザが、自分の胸を一瞥した事にも。

 その表情は、怒りにも、失望にも、悲しそうにも、ドン引きしているようにも見える。

 

 彼も彼で、それを言われてから彼女達の胸を見た。見てしまった。

 五人全員が、“とっても豊かなもの“を持っているのを、確認してしまったのだ。

 

 シルフはさらに挑発するように、自分の豊かな胸を強調するように腕を組み、首を可愛らしく傾げながら続けた。


 

「ここにいる皆様も、大層、とても立派な“もの“をお持ちですし⋯⋯当たってますでしょ?」

「はっ⋯⋯! なっ⋯⋯、何を言い出すんだ、あなたは!!」

「他にも、色々ありますよ? 例えば――」

「ああああ!! やめて!! それ以上やめて!!」


 

 レオンは自分でも意識したことがなかった事を暴露され、顔はおろか耳まで真っ赤にして叫ぶ。

 それを、赤髪の少女が気怠そうに制し、口を開いた。

 


「この程度のことで、取り乱さないでくれるかしら? ヒルデガルダの⋯⋯未来の“旦那様“?」

「⋯⋯伴侶? 旦那様? 性癖? 僕はまだ、夢でも見てるの⋯⋯?」

「さて、私も、“旦那様を頂こう“かしら? 見ているだけでは、退屈だものね」

「ひっ! ま、待って! 待ってください! 止まって!」


 

 クロラの次はヒルダに押さえつけられるレオン。それを見ていた他の彼女達が「あ! ずるい!」「スケベ!」「あらあら」と溢し、その目を獰猛な肉食獣へと変化させていく。

 

 全員が彼のベッドに乗ろうとした瞬間、保健室の扉がバタン! と開かれた。


 

「お前達! ここをどこだと思っているんだ! 治ったんなら、さっさと出ていけ!!」


 

 ――保健室の室長が入り、彼ら全員に雷を落としていったのだ。


 

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