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落ちこぼれ騎士の花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》  作者: 茶毛
1-12.落ちこぼれと女騎士

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33-1話「再会」


 燃えている要塞で、賊達は動揺していた。

 


「――な、何が、起こっているんだ⋯⋯」

「い、生き残りはいるか⋯⋯?」

「⋯⋯た、助かった、のか⋯⋯?」

 


 突如、夜空に現れた白と黒の流星。それは地上を目指して落ちていたが、ある場所でそれが激突したのだ。

 

 そして、白い流星が地上に落ちてきて、大爆発。

 その落下地点には、文字通りの大穴が空いている。吹き飛ばされ、未だ燃え続ける捲り上がった地表を見て、彼らは皆一様に世界が終わるのではないかと思っていたのだ。

 


「⋯⋯!! こ、こうしちゃいられねぇ! は、早くここから逃げるぞ!!」

「そ、そうだ! こんな地獄、もう懲り懲りだ!! 早くズラかれ!!」

「帰ろう!! 家族の元に、もう帰るんだ! もう、二度とこんなことはしねえ!!」

 


 そう言って、賊達は燃えている要塞に目もくれず、一目散に駆け出していく。

 ――はずだった。


 彼らの目の前で、“影“が立っていた。それは比喩ではなく、文字通り“影が立っていた“のだ。

 

 その影は、だんだんとその輪郭をはっきりとさせていく。

 ――人の姿。女性特有の肉感的な輪郭(シルエット)。ツインテールの髪。ドレスのような服装。そして、赫と藍の瞳。

 


「――ふふふ。うふふふふ。⋯⋯やられましたわ。⋯⋯やって、くれましたわ⋯⋯!!」

 


 ――“モルガン“が、突如としてそこに現れた。

 


「う、うわあぁああ!!」

「お、お前⋯⋯! なんでここに!?」

 


 姿を現した“魔女“に、恐れ慄く賊達。

 だが、魔女は彼らの話が全く聞こえてないような素振りで、叫び始めたのだ。



 


「ああ! ああ!! なんてこと!! なんて、強大な“魔法(あい)“!! なんて、甘美な“(あい)“なのでしょうか!!」

 

「ああ⋯⋯! ああ⋯⋯!! 美味しい⋯⋯、もっと⋯⋯! もっと、欲しい⋯⋯!!」

 

「素敵⋯⋯! なんと、素敵なことか。なんと、偉大なことか! (わたくし)の“夫“の、なんと素晴らしき事か!!」


 

 


 狂った魔女の様子に、立ち尽くす賊達。なおも彼らを一瞥もせずに、モルガンは続ける。

 


「ふふふ⋯⋯! うふふふふ⋯⋯! でも、流石に力を使い過ぎましたわ。あなた様にお会いするなら、一度身なりを整えませんと」

 

「⋯⋯時間が、かかりそうですわ。もう一度、あれを受けたら⋯⋯。(わたくし)は、幸せ過ぎて、果ててしまいそうですわ」

 

「⋯⋯待っていてくださいまし、レオン様。このモルガン、必ずやもう一度、あなた様の元へと馳せ参じますわ」

 


 モルガンは、虚空に映るレオンを抱くように、空を抱擁する。

 ――が、彼女の脳裏に彼とは別の人間が映っていた。愛しい“だんな様“の横にいた、あの“蛆虫“どもが。


 

「⋯⋯許せませんわ。あなた様を誑かして、騙して、手籠にしようとしているあの蛆虫ども⋯⋯!!」



 

 

「必ず、救ってみせますわ。必ず、助けてみせますわ⋯⋯!! あなた様の愛を頂戴するのは。“運命“を跳ね除けるのは、このモルガン一人で十分ですもの⋯⋯!!!!」



 


「⋯⋯お、おい。もう、行くぞ!」

「あ、ああ。もう、付き合ってらんねえや!!」

「帰るんだ!! 嫁と子供が、家で待ってんだ!!」

 


 口々に魔女から目を背け、逃げ出す男達。

 ――だが、それは叶わなかった。

 

 彼らの足元――先程まで焼けた大地があったはずなのに、それが今は全て“漆黒“に変わっている。

 ――そして、影に呑まれるように。彼らは“漆黒“へ沈んでいったのだ。

 


「なっ、なんだ、これは!!」

 

「し、沈む⋯⋯いやだ!! 助けてくれぇ!!」

 

「や、やめろ! やめてくれ!! 家族が、待っているんだ!! あぁああああ!!!!」

 


 影に沈むのは、彼らだけではない。その要塞にあった全てのものが、その影に沈んでいく。


 



「だぁめ、ですわよ? “魔女“との約束を、破ったら」



 


 要塞全体から響き渡る、男達の断末魔。それは徐々に少なくなり、そして消えていった。

 最後に呑まれた、未だ燃えている“櫓“。その先端まで味わい尽くすように影に沈むと、そこには広い平原と、モルガンただ一人となったのだ。



「――ご馳走様。⋯⋯下水を煮詰めた方がマシですけど、(わたくし)の糧となる事、喜んでくださいな?」



 魔女は、そう言って恭しくドレスを持って一礼する。そして、魔女もまた、“漆黒“へと沈んでいくのであった。



 +



 レオンは、立ち尽くしていた。――ルナとノエルに、体を支えて貰いながら。

 

 地上へと無事に辿り着いた彼らは、愛しい大地の感触を踏みしめるのも忘れ、“彼女たち“の様子に絶句していたのだ。

 


「⋯⋯エリザ⋯⋯⋯⋯?」

 


 レオンが声をかける、燻んだ金髪の少女。

 ――エリザは、蹲ったまま、凍ったように動かない。


 

「エリザ⋯⋯? エリザ⋯⋯!」

 

「あっ、レオン!」

 

「うっ⋯⋯!」

 


 レオンは、エリザの元へと向かおうとした。が、二人の支えを失うとすぐに膝をつく。

 だが、それも構わず、泥だらけにながらも、少年はエリザの元へと這っていった。

 


「エリザ⋯⋯、⋯⋯っ!!」

 


 そして、レオンはエリザの顔を覗き見た。


 ――虚ろな瞳には、何も映っておらず、その感情が全て無くなってしまったかのような虚無の貌を浮かべていたのだ。

 


「エリザ⋯⋯、うそ、だろ⋯⋯? エリザ、エリザ!」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 

 レオンが何度呼びかけても、彼女からの返答は来ない。

 まるで、そこにいるのに、いないような。幽霊を相手にしているような様子であった。

 


「⋯⋯うそだ⋯⋯。そんな、間に、合わなかった、の⋯⋯?」

 

「うそだよ⋯⋯。そんなの、うそだよ⋯⋯! おねがい、エリザ! 僕を見てよ!!」

 

「ねえ、エリザ⋯⋯。エリザってば!!」

 


 少年は、声をかけ続けた。

 ――しかし、彼女は全く反応しなかった。次第に、少年の声も、小さくなっていく。

 


「⋯⋯⋯⋯そんな⋯⋯。⋯⋯そんなぁ⋯⋯!」

 

「――レオンさま!!」

 


 涙を浮かべるレオンに、クロラが声をかけた。

 


「レオンさま、諦めないで!! 声をかけて、抱き締めてあげて!! 大丈夫だから! エリザはきっと、レオンさまの事に気付くから!!」

 

「⋯⋯っ、うん⋯⋯」

 


 レオンは、零れた涙を啜ると、再度エリザに声をかけ、――抱き締めた。

 


「⋯⋯エリザ。エリザ⋯⋯!!」

 

「⋯⋯もう、大丈夫だよ。遅くなって、ごめんね」

 

「⋯⋯エリザにも、たくさん、お礼が言いたいんだ」

 

「ずっと、近くにいてくれてありがとう、って。ずっと、気にしてくれて、ありがとうって」

 

「まだ、伝えたい事がとってもあるんだよ。ねえ、だから起きてよ⋯⋯」

 


 少年は、彼女を抱く力をさらに強める。

 


「エリザ⋯⋯! もう、大丈夫だから。僕が、守るから⋯⋯!」

 

「絶対、もうこんな目に合わせない。約束する。だから、起きて、起きてよ! エリザ!!」




 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯れお、ん⋯⋯?」


 


 

「――!!」

 


 レオンは、すぐに彼女の顔を見た。その翡翠色の瞳に、徐々に光が生まれていく。

 


「!! え、エリザ⋯⋯! 僕だよ⋯⋯? わかる⋯⋯!?」

 

「⋯⋯⋯⋯れ、れお、ん⋯⋯なの⋯⋯?」

 

「ああ! そうだ!! 僕だよ、エリザ。遅くなってごめんね。もう、大丈夫だから⋯⋯!」

 

「⋯⋯レオン⋯⋯。⋯⋯レオン⋯⋯!」

 


 彼女の瞳に、光と熱が宿る。それと同時に、大粒の涙が溢れ始めた。

 


「⋯⋯ごめん、なさい⋯⋯。こわかった。レオン。⋯⋯こわかったよう⋯⋯!!」

 


 そう言って、エリザはレオンにしがみついた。同時に、彼は彼女を強く抱き締めた。

 

 ――彼が今できる、精一杯の強さで。



 


「⋯⋯もう、ダメかと思った。襲われる、って思った。服を破かれて、上に乗られて⋯⋯!」


 

「いい。もういいんだ。思い出さないで。今は、僕がついてるから」

 

 

「⋯⋯でも、もう、だめって、思った時。⋯⋯音がしたの。それで⋯⋯」

 

 

「⋯⋯エリザ⋯⋯」


 


 

「⋯⋯でも、こわかった。こわかったの⋯⋯! こわかったよう!!」


 

 


 ――そう言って、エリザは子供のようにレオンの胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

 

 

 いつでも凛として、堂々とした、気丈な彼女はここにはいない。

 

 

 恐怖に怯え、彼にしがみつくまま泣き叫ぶ彼女を、彼は安心させるように、抱き締める手にさらに力を込めたのだった。



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