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落ちこぼれ騎士の花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》  作者: 茶毛
1-11.落ちこぼれと魔女

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32-3話「“さいきょー“」


 

「イングリッド、さん⋯⋯!?」

 

「――ヒルダ殿からの伝言だ。“エリザたちは、救出した“と」


 

 レオンは、その目を見開いて驚いていた。

 ――ここに来る筈の無い少女が、目の前にいる事に。


 

「ヒルダ殿の“糸“で投げてもらった。中々にスリリングだな、あれは」

 


 イングリッドは、少年の疑問を“心眼“で見通したのか、レオンに答える。

 ――少し頬を綻ばせていた彼女は、そのまま続けた。


 

「――そして、シルフ殿とクロラ殿からも。“援護は任せてください。あんなやつ、やっつけちゃって“、との事だ」

 

「みんな⋯⋯!!」

「さあ、行こうか、レオン。⋯⋯私たちの、“姫騎士物語“の始まりだ!!」

「はい!!」


 

 そう言って、レオンたちは再度、“魔女“へと向き合う。

 ――その瞳に、まるで数百年分の怒りを込めたような、およそ人と思えないような形相を浮かべるモルガンへと。


 

「⋯⋯また、“害虫“が、一匹。どいつも、こいつも、鬱陶しい!!」


 

 モルガンは叫びながらも、その身体から溢れ出る黒い魔力を双剣へと乗せていく。それぞれが異なる輝きを放つ双剣は、自らの輝きを忘れたかのように漆黒に染まっていった。

 それは夜の中でも、形が完全にわかる程の“黒“。

 掠りでもすれば致命傷になるであろう、絶対的な“死“そのものであった。

 


「――決着をつけよう。モルガン」

 


 レオンは、傷だらけの身体をルナとノエルに支えて貰いながら、その両目の僅かな動きで世界に幾何学模様を刻んでいく。

 

 

 ――世界に、彼の気持ちを紡ぐように。“魔神“の再来を、伝えるように。

 

 

 瞬く間に完成する、精緻で複雑な魔法陣。それはどんなに高位な魔法使いであろうと、その一生を描くことに費やさなければならないと思える程緻密で、繊細で、そして巨大であった。

 彼は、その魔剣を天へ捧げるように掲げ上げる。

 

 ――だが、


 

「――っ!!」

 


 ピシ、と彼の“右眼“から響く、硝子の割れるような音。それと同時に右眼から溢れる、赤黒い血。

 そして、彼の身体中の傷。――弾け飛んだ魔導管(エーテル・ライン)から、漏れ出るように溢れる魔力。


 

「レオン!?」

 

「⋯⋯! 魔導、管が、破けて⋯⋯、魔力が、留まらない⋯⋯!!」

 

「そんな!!」


 

 驚愕に目を見開くルナとノエル。二人から分け与えて貰った魔力が、レオンの体内に留まらず、世界に発散されていく。

 徐々に冷たくなる、彼の末端の四肢。折角貰った“魔力(あい)“を受け止めきれない、少年の華奢な体躯。

 


「折角、わけて貰ったのに⋯⋯! このままじゃ⋯⋯!!」

 

「――レオン」

 


 彼らを守るように前に立っていたイングリッドが振り返り、レオンに向き合う。

 ――すると、そのまま彼女はレオンの小さな顔を両手で押さえ、




 

 口付けを、交わした。

 



 

「――!!」



 


 ――国に古くから伝わる、伝統的な砂糖菓子のような、質素で、素朴で、されど歴史の古さを感じさせる、重厚な“味“。


 

 


「――っ!! こっ、これで! 少しは足しになるだろう! やれ! レオン!!」


 

 


 イングリッドはそう言って、空中で身を翻し、レオンの背中を支えるように移動する。

 

 ――一瞬見えた彼女の耳は、赤を超えた紅だった。

 

 レオンの身体に、さらに熱が走る。

 ――その心もまた、暖かく、どんどんと満たされていく。

 少年は、傷だらけの華奢な腕に再度力を込め、魔剣を握り直した。

 


「――ルナ、ノエル、イングリッドさん。ありがとう。もう一度、僕に力を貸して⋯⋯!!」

 


「承知!」

「任せて!!」

「ああ!!」

 


 レオンは、再度魔剣を掲げる。

 ――右手はルナが、左手はノエルが。そして、その背を支え、押してやるようなイングリッドの温もりがそこにはあった。

 


「――負ける気がしない! みんながいれば!!」

 

「ゴミ虫共が集まって、何が出来ますの!? あなたには、(わたくし)が! (わたくし)だけがいれば十分ですの!!」

 


 そう叫ぶモルガンは、レオンたちより一足早く剣を振るう。

 

 ――瞬間、魔女を襲う、光と鉄の矢。

 


「――!!」


 

 すんでの所で身を翻し、矢をかわすモルガン。

 ――地上から、クロラとシルフの妖精が矢を放ったのだ。


 

「どいつもこいつも、一人では何も出来ないくせに! (わたくし)が、“本当の愛“を教えて差し上げますわ!!」

 

「――いらないよ、そんなの」

 


 レオンは、彼女たちに支えて貰いながら、魔剣を掲げ終えた。

 そのまま彼は、溢れる想いが口から漏れ出るように、告げていく。


 


 

「――僕は、もう知ってる」

 

 

「みんながいれば、きっと何でも乗り越えられる。⋯⋯なんたって――」


 

 


 少年は一瞬瞼を閉じる。その裏に流れる鮮明な“彼女たちの笑顔(イメージ)“。


 



「――僕たちは、“さいきょー“だからね!!」


 

  


 レオンの瞳が、ゆっくりと開かれる。

 

 闇夜を照らす程に白く輝く、彼にとって呪いでしか無かった“始祖の眼“で、これからの道を照らし出すように。


 

 

 

 ――かつて、魔神の杖から放たれた、その強大な魔法は、


 

 ――大地に大穴を開け、そこはやがて湖になったという。


 



「――大魔法『魔神の王笏ヴェルテン・ツェプター』!!」



 


 三人に支えられたレオンは、力いっぱい、魔剣を振り下ろす。

 

 粉々に砕ける魔法陣。響き渡る硬質な破砕音。魔力の欠片は双月の輝きを乱反射し、

 

 ――その音は、まるで彼らを祝福する鐘の音のように聞こえた。

 


 同時に、膨大な魔力――炎の奔流。

 それは凝縮されていき、圧縮され、さらに小さくなっていく。

 

 太陽を無理やり圧縮していく様に耐え切れなくなったのか、“白い火球“の周りには、同じように“白い雷霆“が迸り、雷轟を伴って――



 

 

「「「「――いっけえぇええええ!!」」」」


 


 

 ――迅雷のように、魔女へと疾っていく。


 


 

「――!!!!」



 


 魔女は、黒い斬撃を放つ。――禍々しく、世界を切り裂き、飲み込むような、圧倒的な“漆黒“を。


 “白い火球“と“漆黒の斬撃“が空中で衝突し、鍔迫り合いのように激しい火花を散らして夜空を照らす。

 

 空と地上に轟音が響き渡る。

 

 ――まるで神話の戦いが、現代に甦ったかの様相で。


 

 


「――!! 負けま、せんわ!!」

 

 

「――ぐうぅうう⋯⋯!!」



 


 激しく、強大な力と力のぶつかり合い。

 

 ――やがて、少しずつ“漆黒“が押し始めた。



 


 

「「「――レオン!!」」」

 

 

「――!!」

 


「もう“独り“じゃないからね!」

 

「ルナたちがついています!」

 

「そうだ! 地上にだって君を待つ者は大勢いる!」

 

『そうだそうだ! クロラが付いてるからねぇ〜!』

 

『レオン様! 頑張って!』

 

『いきなさい、レオン!!』



 


「――!! ああぁああああ!!」



 


 レオンの“両眼“が、紫電を迸らせて輝く。

 

 それに呼応するように、魔剣全体が激しく光を放った。


 


 

 ――少年はもう一人じゃない。


 

 レオンの身の周りの“もの“たち全ては、彼の幸せをいつでも願っているのだ――




 

「いっけえぇええええ!!」


 



 漆黒の斬撃にヒビが入り、二つに割れた。

 

 白い火球を押し留めていた強大な壁は、遮るものが無くなる。

 

 それは、迅雷のように真っ直ぐに“魔女“へと向かっていった。



 


「――そんな!!」



 


 ――瞬間、世界から音が消えた。そして、地上が噴火する。

 

 否、白い火球が魔女を飲み込んだまま、地に落ちたのだ。

 

 白い焔と稲妻が奔る。――そして、地を揺るがす轟音が世界へと響き渡った。


 

 


「――うわあっ!!」



 


 音と共に訪れた爆風と大地の残骸――煙。

 

 レオンたちは空中で、その脅威に晒された。



 

 

 ――その煙を貫くように、一本の“赤い糸“が空を疾る。

 

 “赤い糸“はレオンたちの周りを何周もした後、彼らをまとめて縛り上げ、地上へと引き戻していく。


 


 

「――うわあぁあああ!!」

 


 情けなく叫ぶレオン。彼は糸に引かれたまま、煙の隙間からかの“要塞“を見た。

 

 ――そこは、まさに地獄。建っていたはずの天幕や壁が、全て更地と化し、燃え得るものには例外なく火が放たれている。

 

 

 その中で、彼は見た。――あの忌まわしい“櫓“が燃え、地に堕ちようとしているのを。

 

 それを見つめていたレオンに、ルナが声をかけた。


 

「あの女、やったのでしょうか⋯⋯?」

 

「⋯⋯わからない。でも――」

 


 糸に引かれていたレオンたちに、地上が見えてきた。

 

 そこには、飛び跳ねながら手を振るクロラ。安心したように息を吐くシルフ。妖艶な仕草で彼らを引くヒルダ。

 

 傍には、蒼穹の盾(アズール・シルト)の団員たち。




 

 ――そして、エリザの姿が、そこにはあったのだ。



 


「――エリザたちを、助けた。それが、僕たちの勝利だ⋯⋯!!」



 

 

 レオンは団長らしく、みんなに向けて“勝利宣言“を行なったのだった。


 

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