1章:9話「あまあま攻撃」
(⋯⋯本当に、この道であっているの⋯⋯?)
レオンはそう思いながら、ベルケ校長に案内された道――というより、獣道を先頭に立って進んでいく。
彼は自分の服がボロボロになるのも構わず、トゲのある草花を払い、後ろを付いてくる彼女達の衣服が汚れないように道を切り開いていた。
――その健気な姿に熱っぽい視線を送る美少女達。
視線に気が付いたようにレオンは振り返ると、彼は申し訳無さそうに俯き、目を伏せながら話を切り出した。
「⋯⋯みんな、ごめんね。僕のせいで、こんな場所を歩かせてしまって」
「なにも謝ることはないですよぉ〜♡ 私にとっては、レオン様のいる場所はすべて絶景ですからぁ〜♡」
申し訳なさそうなレオンの言葉に、とても嬉しそうに返答するクロラ。
彼女は、黒ポンチョから腕を隠したまま、先ほどの声と同じく嬉しそうにぴょんぴょん、と草木を避けて歩いていた。
(⋯⋯みんな、本当にごめんね。僕じゃなければ、もっといい所に住めただろうに⋯⋯。)
彼は、相変わらず自分を責めていた。
校長には勢いに乗せられて大きいことを言ってしまったが、実際彼には何もない。
そんな中で、不便をかけてしまう彼女達には本当に申し訳なく思いながら、先頭に立って道を進んでいた。
そんな彼の思いを知ってか知らずか、ノエルが元気な声をかけてきた。
「ねえ、レオン! お引越し先、楽しみだね!!」
「⋯⋯そうだね、ノエル。不便をかけて、ごめんね?」
「大丈夫! レオンと一緒だから!!」
「⋯⋯ぎゃ!」
ノエルは屈託の無い純粋な笑顔でそう言うと、そのままレオンに抱きつく。
彼女の健康的な汗の匂いが、彼の鼻腔をくすぐり、その抱きついた時の衝撃もあって情けない声が出るレオンだった。
(か、可愛い⋯⋯。とっても。⋯⋯でも、苦しい⋯⋯!)
「の、ノエル⋯⋯! 歩きづらいから、離して⋯⋯」
「ええー!? じゃあ、後でいっぱいぎゅー! ってしてね!」
「⋯⋯そ、それは、ダメ⋯⋯」
「ええー!? なんでよー!!」
ノエルの提案に、顔を真っ赤にして断るレオン。
彼が断るのも無理はなかった。彼がノエル、ひいては彼女達に抱きつこうとすれば、彼のその小さい顔は彼女達の豊かな胸の位置に完全に収まる。
彼にとっては、抱きつくとは、彼女達の胸に顔を埋める事と同じだったのだ。
(⋯⋯そんなの、絶対にダメだ。はしたなくなっちゃう⋯⋯!)
そう思っていると、今度はシルフから声をかけられる。
「あまり、元気がなさそうですね。もしかして、疲れちゃいましたか? おんぶしてあげますよ♡ それとも、手を繋いで歩きましょうか?」
「⋯⋯わっ!」
彼女は、レオンの肩を軽く撫でた。その拍子に、彼はビクッ、と体を大きく震わせる。
――人と触れ合わず、人を避けるように生きてきた彼は、自身の体を触られることに慣れておらず、少し触れられるだけでも過敏に反応してしまうのであった。
「⋯⋯だ、大丈夫、だよ。シルフ。心配、かけてごめんね⋯⋯」
「大丈夫です♡ 無理、なさらないで下さいね? いつでも、私に頼っていいのですからね♡」
「⋯⋯はぅ!」
それを知っているかのように、上品な口ぶりで熱っぽく話していたシルフのその指先が、突然レオンの頸に触れた。
――彼はまたも変な声を出してしまった。
「⋯⋯と、突然、撫でないで! ⋯⋯びっくり、するから⋯⋯」
「あら♡ いいではありませんか♡ 初々しい反応、最高ですよ♡」
「⋯⋯よくない!」
そう思いながらも、彼は彼女の姿を見ながら一人思う。
(⋯⋯綺麗な、人。お姉さんみたい。⋯⋯甘えたく、なる⋯⋯。)
そう思ったレオンは、自分のやましい気持ちを吹き飛ばすように首をぶんぶんと振った。
今度はシルフの話を聞いていたルナが、レオンに話しかけてくる。
「⋯⋯スケベ。おぶるなら、ルナがやります。ルナなら、どこを触っても大丈夫ですよ」
「だ、大丈夫だって。でも、ありがとう。ルナ」
「はい。なんでも言ってください。ルナは、レオンのものなので」
「⋯⋯わかった。ありがとう。ルナ」
「ちなみに、レオンもルナのものです」
「⋯⋯ひぅ!」
ルナは眉一つ動かさないまま、レオンの耳元で甘い吐息の混ざった言葉を囁いた。
――そのせいで、少年はまたもや甘い声を出してしまう。
(⋯⋯カッコいい、綺麗な人だな。⋯⋯肩、ちっちゃい。⋯⋯胸、あんなに大きいのに⋯⋯。)
またもレオンは雑念を振り払うように首をぶんぶんと振る。
それでも、彼は体を抱きしめられた時の柔らかい感触を忘れることはできなかった。
「レオンは、耳が弱いのかしら。覚えておくわ」
「い、いや、覚えなくていいよ、そんなの⋯⋯」
「貴方の事は、全部“支配“したいの。直々に“堕として“あげるから、楽しませてちょうだいね?」
「⋯⋯ひゃぁ!」
ヒルダはルナと同じように耳元で囁いた後。
――あろうことか、レオンの耳を舐めてきた。そのせいで、一際大きい声をあげてしまう。
――彼は気付いていなかったが、レオンが可愛い悲鳴を上げるたびに、彼女達の瞳は獰猛になっていった。
(⋯⋯全身をタイツで包んで、その上から薄いドレスを着てる⋯⋯。えっちな、人だ⋯⋯。)
レオンは再度首を振った。そのせいでくらくら、としてしまい、よろけるように歩いてしまう。
そんな彼をクロラは優しく受け止め、抱き締めた。そのまま彼女は、レオンの耳元で囁く。
「ぐふふ、レオン様、いい声で鳴きますね。クロラ、唆られちゃいますぅ〜♡」
「⋯⋯ご、ごめん、クロラ。でも、恥ずかしいから⋯⋯、もう、やめて⋯⋯」
「ぐへへへ♡ レオン様、可愛いくて、いいニオイ〜♡ もう、我慢できない♡ 食べちゃう♡」
「⋯⋯んぁ!」
クロラは、抱き締められ逃げることができないレオンの耳を甘噛みする。
――もう声は出すまいと、口を結んで耐えようとしていたレオンは、そのせいでとびきり変な声が出てしまったのだ。
(⋯⋯黒いポンチョで身を隠した、ミステリアスな人。⋯⋯とっても、柔らかい⋯⋯。)
レオンは、一旦首を振るのをやめた。
これ以上振ると、冗談抜きで歩けなくなりそうだったのだ。
「⋯⋯!! もう、早く行くよ! それと、僕の耳に近付くの、禁止ね!」
「「「「「やだ」」」」」
彼女達は、こういう時だけ、息がぴったりなのだった。
「⋯⋯え?」
「ヤダ!」
「⋯⋯嫌です」
「嫌です♡」
「嫌よ」
「ヤダよぉ〜♡ それとも、新しい場所、開発しちゃう〜?」
「⋯⋯! いい、考えね!」
ヒルダとクロラは、それぞれレオンの右腕と左腕を拘束し、その小さい体を浮かして、身動きを取れなくした。
「⋯⋯! や! ちょっと待って!」
足を無様にばたばたと振るレオン。
「レオン様? どこがいいのですか? 教えてくださらないと、進めませんよ?」
「や! はなして! やめて――」
――そんな中、レオンの“眼“が、紫色に妖しく輝く。
同時に、彼はその"眼"で魔力の動きを捉える。
視界がモノクロになり、色を失った世界で煌々と赤く脈動する凶悪な魔力。それが五つ、素早い動きで動くのをはっきりと見た。
それまで脳を支配していた彼女たちの甘い香りと熱が、一瞬で凍りつき、鉄錆のような殺意の臭いへと塗り替えられた。
――真っ直ぐ、レオン達に殺意を持って向かってくる。
「――!! みんな、離れて!!」
レオンは、必死に抵抗し、彼を掴んでいたものを突き飛ばし、庇うように前へ出る。
――瞬間、彼は“赤い獣“に体当たりをされ、後ろに吹っ飛ばされた。




