表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
1章:「熾火の魔神と五人の花嫁」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/102

1章:閑話1「自己紹介」


 ――時は少し遡り、レオンが校長室へ向かう頃。


 

 さらさらの三つ編み、長く儚い睫毛であどけない顔立ちをした、少女のような少年――レオンは、囁くような甘い声で告げた。


 

「⋯⋯じゃあ、行ってくるからね⋯⋯」


 

 彼は、騎士学校の待合室の扉を、触れれば折れてしまいそうな手で開きながら、そこで待つ五人の少女たちに声をかけた。


 

「⋯⋯絶対に、ここから出ないようにね?」


 

 とても男性とは思えないような、湧き水のように澄んだ声で念を押すように呟くと、彼は扉を閉める。


 ――その時に、彼は慣れないように背中に下げた魔剣を、扉や膝にがんがん、とぶつけていた。

 

 そのおかげで彼がよたよたと出ていく時に、彼の三つ編みにした金髪に雪のように小さく光る玉のような何かが潜り込んでいったのを、彼女達は見逃さなかった。

 


「さて、これからどうしましょうか?」

 


 最初に切り出したのは、シルフだった。


 彼女は、改めて待合室の中を、包帯で隠した目で見るように顔を動かした。

 

 ――ルナ、ノエル、ヒルダ、クロラ。そして、シルフ。彼女達は、レオンを見送った後、お行儀よく備え付けの椅子に座っていた。


 

 剣士然としたルナ。

 冒険者といった様相のノエル。

 女王様といった立ち振る舞いのヒルダ。

 まるで、暗殺者のようなクロラ。

 そして、遊牧民のような刺繍の入った衣装を身に纏った、シルフ。


 

 どこからどう見ても、どんな繋がりがあるのかが分からない五人。唯一の共通点といえば、全員、素晴らしいスタイルを誇っている事くらいだったのだ。

 

 そんな中、ヒルダがシルフの言葉に返すように口を開く。

 


「決まっているわ。貴女、レオンに何か仕込んだのでしょう?」

「あら♡ 気付かれてしまいましたか♡」

「随分と可愛い、スパイね」

「ふふ、だって、気になるじゃないですか♡ 彼が、私たちの事をなんて言うのか♡」


 

 シルフとヒルダは、会話を続けていた。


 

「ふふ、お互い探り合いをしてもしょうがありませんし。⋯⋯ここは改めて、自己紹介でもしましょうか♡」


 

 シルフはそう切り出した。他の彼女達も賛成のように頷く。


 

「ふふ♡ 私の名前はシルフィード。シルフとお呼びください♡ レオン様との関係は⋯⋯。ただならぬものだと、思ってください♡」


 

 シルフは腕を組んでその豊満な胸を強調しながら、ある意味彼女達に宣戦布告にも聞こえるような口ぶりで、自らを紹介した。


 

 瞬間、待合室の温度は急激に下がる。

 ――実際に下がったわけではないのだが、そう感じるほど重い空気が流れたのだ。

 

 しばらく無言の状態が続くと、次に切り出したのは白金の髪の少女、ノエルだった。


 

「じゃあ、次、私ね! 私、ノエルって言うの! よろしくね、みんな!!」


 

 急に立ち上がるノエル。その拍子に彼女の短いスカートが翻えった。


 冷えた待合室の空気にそぐわない、明るく快活な声が響き渡り、部屋の温度を急激に上げていく。

 

 ――だが、次にノエルが言い放った一言で、もう一度凍りつくことになった。

 


「私ね、レオンの未来のお嫁さんなの!!」


 

 空気が凍る。まるで氷点下まで下がったかのように。

 

 この空気を切り裂くように、次に言葉を発したのは、黒髪の少女、ルナだった。


 

「私の名前はルナテイシア、といいます。ルナと、お呼びください」


 

 ルナは、眉一つ動かさずに、鈴のように美しい声を響かせ、続けた。


 

「私も、レオンの伴侶です。⋯⋯よく覚えていませんが、ルナの魂がそう叫んでいます」

 

「⋯⋯なら、私もそういう事にしておくわ」

 


 ルナの次に続いたのは、真紅の少女、ヒルダだった。


 彼女は指で自分の太ももをなぞりながら、気怠げに、しかしどこか官能的な響きを含ませて、告げた。

 


「私はヒルデガルダ。ヒルダでいいわ。レオンは私のものだけど、光栄に思いなさい。貴女達にも、触れる権利くらいはあげるわ」


 

 可哀想だからね、とヒルダは言い放つ。

 

 瞬間、この部屋の空気は止まった。もはや時間が動いていないのではないか、と思える程に衝撃の一言だったのだ。

 

 永遠にも感じる一瞬。それをこじ開けたのは、黒ポンチョを着込んだ少女、クロラだった。


 

「ん〜、私はクロラっていうんだ〜。まあ、喧嘩もアレだし、レオン様は一旦“みんなのもの“ってことにしないかなぁ〜?」

 


 クロラは、黒いポンチョの中から指を出し、頬に当てながら告げた。

 

 彼女の言葉に、周りは怪訝な視線を向ける。しかし、それに構わず話を続けた。


 

「みんなでレオン様を取り合うっていうのもいいけどぉ〜、五人全員でレオン様を囲う、っていう方が、より爛れた関係っぽくて、唆られるんだよねぇ〜♡」


 

 ぐへへ! と笑うクロラ。その話を聞いて、彼女達は『うんうん』『確かに』と頷きながら呟いていた。

 そんな同意の雰囲気を感じながら、なおもクロラは続けた。


 

「だってぇ。みんなも私と同じならぁ〜、ここにいるみんなは、全員“訳アリ“って事でしょ〜?」


 

 部屋の空気が変わる。先ほどの嫉妬のような雰囲気ではなく、ヒリヒリとした、刃物を突きつけ合うような空気だった。


 

 

「だったらぁ〜、独り占めは無理だよ。⋯⋯私も、譲る気はないし」


 

 

 クロラは先ほどまでの蕩けた雰囲気は消え失せ、その灰色の瞳は冷たく光る。

 


「確かに、クロラさんの言うとおりですね」

「一理、あるわね」

「⋯⋯ルナも、そう思います」

「じゃあ、みんな仲良くレオンを大事にする! って事だね!!」


 

 彼女達が思い思いに声を出していく。

 

 騒がしくなってきた待合室を締めるように、シルフが両手を叩いて口を開いた。


 

「では、こうしましょう。レオン様は、ここにいる五人の“共有財産“という事で♡ ⋯⋯抜け駆けはしてもいいですよ? その後は皆さんでレオン様に“平等に同じことをしてもらう“という事にすれば、不公平感も多少無くなりますし♡」

 

「そうね。ほっといたら無茶するから、みんなで“管理“することに異論はないわ」

 

「⋯⋯ルナも、そう思います」

 

「じゃあ、レオンはみんなのお嫁さん! てことで、オッケーだね!!」

 

「彼は一応、男よ。⋯⋯あんなに、可愛いけれど⋯⋯」


 

 悪気が全くない様子でノエルはレオンを嫁扱いし、ヒルダが訂正する。

 ――もっとも、ヒルダも、完全には訂正しきらないのだが。

 

 五人が協定を結んだところで、シルフが目の前に霧のようなものを発現させた。


 

「ふふふ⋯⋯♡ それでは、皆さん。管理者として、しっかりレオン様を“監視“しましょうか♡」


 

 そう言って彼女は、霧の中に映像を映し出す。それは、レオンの髪の中に入っていた光る雪のようなものが見ている光景だった。

 

 レオンの三つ編みの中にあるからか、映像には黒が多いが、話し声はよく聞こえる。

 威圧感のある男性の声と、レオンの可愛らしい声がよく響いていた。

 

 待合室にいた五人は全員霧の前に座り、身を乗り出してよく観察していた。


 

 『――必死になってあの美女達を養ってみせろ。貴様なら出来ると、儂に証明してみせろ!』



 男性はそう言っていた。彼女達は思った。「逆、逆! 私たちが養うの!」と。

 

 レオンは元気よく返事をしていた。彼の普段の様子からは想像もつかない程、ハリのある大きな声だった。

 

 彼女達はレオンが口を開くたび、「可愛い」「好き」「襲う」など物騒な事を言っていた。

 扉が開く音が聞こえたので、こちらに戻ってくるのか、と期待した彼女達だったが、彼はすぐに呼び止められて再度同じ部屋に入っていくようであった。

 


「何か、受け取っているみたいですね⋯⋯鍵、でしょうか⋯⋯?」

「⋯⋯! 待ちなさい。何か、聞こえるわ」


 

 『――だが、気をつけろよ。⋯⋯ヘタをすれば、お前、あの美女たちに食い殺されるぞ? 多分』


 

 なんの話をしていたのかはわからなかったが、失礼な事を言われた彼女達は、男性に対して殺気立つ。

 


「失礼なおじさまね。後で吊るそうかしら」

「⋯⋯ちょっと、斬ってきますね」

「そうですね。食い殺す、とは⋯⋯。“食い散らかす“なら、当たっているのですが⋯⋯」

「あ! それノエルもよくやるー!!」

「ノエルちゃん⋯⋯。それ多分、そういう意味じゃないよぉ〜?」


 

 彼女達が口々に溢す中、レオンが言葉を発した。

 ――その瞬間、彼女達は一斉に姿勢を正す。


 

 『⋯⋯大丈夫、です。彼女達は、僕の恩人です。私には、勿体無いくらい、綺麗で、優しくて、温かい人たち、だと思います。しっかり、彼女達に恩を返せるような、守ってあげられるような立派な男になります!』


 

 レオンがそう言った後、男性が『よく言った!』と褒めていた言葉を、聞いていたものは誰もいなかった。

 

 なぜなら、彼の言葉を聞いて、皆悶えていたからだ。

 


「⋯⋯それは、反則よ。⋯⋯あんな、無垢な声で⋯⋯」


 

 ヒルダは珍しく顔を赤らめて口を覆い、ルナは眉一つ動かさずに頬に両手を添えて「⋯⋯好き。結婚する。ずっといっしょ」と宣い、シルフはシルフで顔を真っ赤に染め上げ、


「⋯⋯ああ、レオン様♡ 素敵です! 一生、カゴの中に閉じ込めていたい⋯⋯!」

 

 と、言い残して、シルフは気絶した。


 

「レオンー!! すきー!!!!」

 

「ああー!! 待って、出ちゃダメだって、ノエルちゃん!!」


 

 ノエルはレオンの元に行こうと、扉を破壊せんばかりの勢いで突撃し、クロラは彼女を羽交い締めにして必死に制していたのだった。

 

 バタバタと阿鼻叫喚と桃色空間が混沌と入り混じる空間の中、その扉がガチャリ、と開かれる。


 

「⋯⋯お待たせ。ごめんね、待たせてしまって⋯⋯」


 

 そう言いながら、レオンが待合室に入ってくると、彼女達は全員聖女のような満面の笑みで口を開く。


 


「「「「「大丈夫です!! どこまでも一緒についていきます!!」」」」」



 

 一糸乱れぬ声。

 そして、眼圧の強すぎる熱を含んだ視線。


 

 (⋯⋯あれ? なんだか、校長室より身の危険を感じるぞ⋯⋯?)


 

 レオンは、小動物のような本能で背筋に寒気を感じつつも、首を傾げながらみんなと出発するのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ