勇者一行、藤間の実家にお邪魔する。(2)
無口で恥ずかしがり屋の祖父が異世界を混乱に陥れた元魔王だった件について〜爺ちゃんのせいで俺まで魔王になっちゃったんだけど!?〜(ラノベ風)
藤間が魔王の器となった要因である魔王とは誰なのか。その答えはすぐ目の前にあった。
――藤間ユウジ。ツトムたちの担任教師である藤間帝人の祖父こそがかつての魔王だったのだ。
「じ、爺ちゃんが……魔王?」
藤間はただ呆然としていた。その魔王は何百年も前くらいの存在だと思っていたのだ。まさか3等親以内に居るとはこれっぽっちも考えが及ばなかった。
「そうですよ、帝人。昔話したでしょう、お爺ちゃんは昔悪い人だったって。」
「そういえばそんな話してたかも……いやしてたかもしれないけど想像してた悪い人と大分違う!爺ちゃん何したんだよ!?」
藤間が祖父に向かって叫ぶと、魔王だった老人は申し訳なさそうに告げた。
「せ、世界征服……。」
「悪い人で片付けちゃダメなヤツ!」
とうとう藤間は頭を抱えて黙り込んでしまった。彼の祖父もそんな孫の姿を見てアワアワとしており、この調子では全て聞き終えるまでに日が暮れてしまいそうだ。勇者一行は2人を放置して、まだ話ができそうな祖母の方に話を振った。
「えっと……お婆ちゃん、聞きたいことは山程あるんだけど、お爺ちゃんの本当の名前は何?」
真っ先に尋ねたのはイザベラだ。彼等の様子を見るに藤間の祖父が魔王というのは間違いないのだろうが、それでも疑わずにはいられなかった。
「(だってお爺ちゃん、魔力が殆どない。)」
魔王どころかその辺の雑魚モンスターレベルの魔力量しか目の前の老人からは感じられなかった。魔力量を誤魔化す魔法もあるにはあるが、そんなモノはイザベラの前では通用しない。
藤間の祖母は慌てふためく夫と孫の様子を微笑ましく眺めた後、何処か懐かしむように話した。
「……魔王ユージーン。」
「今から50年程前に世界を混乱に陥れた魔王、と言えば伝わるかしら。」
「「「「ユージーン!?」」」」
「「「ユージーン?」」」
藤間の祖母から告げられた魔王の名に、勇者一行は驚きの声を上げた。一方で彼方側の世界に疎いツトムたちは首を傾げる。魔王がどのくらいの頻度で出現するのかは分からないが、50年程前というと割と最近の魔王ではないだろうか。ノアは彼らの不思議そうな表情に気が付き、説明する。
「ああ、そうか。3人には馴染みがない魔王ですよね。魔王ユージーンは今の魔王さんの先代に当たる魔王です。」
「先代勇者と激戦を繰り広げ、相討ちになったと聞いていたんだがな……。」
――神秘の勇者、ハンナ・トールマン。彼女の剣技を以ってしても、魔王ユージーン相手に打ち勝つことはできなかったというのか。シャーロットたちが考え込んでいると、藤間の祖母は不思議そうに尋ねた。
「あら、勇者と魔王が相討ちってどういうこと?」
「……?いや、そのままの意味ですよ。魔王ユージーンと神秘の勇者は決闘の末に命を落とした……と。現代ではそのように伝わっていますが。」
ノアが答えると、藤間の祖母はますます訳が分からないという顔をする。その表情を見て、ツトムはとあることに気が付いた。
「(そういえば、藤間先生のお婆さんって勇者と魔王の話について妙に詳しいな……。)」
経緯はともかく、長年夫婦として連れ添ってきたのだ。ある程度の事情を知っていてもおかしくはない。おかしくはないのだが……
「(何だろう、この違和感。)」
何というか、この人の話からは人伝に聞いたという感じが全くしないのだ。
――まるで、実際に見てきたような……
ツトムが思考を巡らせる横で会話は続く。確かに藤間の祖母がその言い伝えに疑問を持つのは当然だ。何故なら実際に魔王は生きていて、彼女の夫となっているのだから。
「お婆さんは魔お……旦那さんからはどのように聞いていらっしゃるのですか?」
「聞いたも何も、私たちがユウジさんを倒したもの。勇者なんかピンピンしてたわよ。どうして相討ちなんて話になっているのかしら?」
「なるほど。確かにご自身で倒されたのならそう思うのも無理は……何て言いました今!?」
「え、勇者はピンピンしてたわ……」
「「「その前ッ!」」」
「え〜っと、私たちがユウジさんを倒したって話?」
「「「「……。」」」」
「婆さん勇者一行の1人だったのかよォッ!?」
「あら言ってなかったかしら?」
一体何度この人に驚かされれば済むのだろうか。アレックスの反応を他所に、藤間の祖母は相変わらずニコニコとしたままだ。
「婆ちゃん俺も初耳なんだけど!?婆ちゃんも異世界からこっち来たのか!?」
当然孫である藤間も寝耳に水だったのか、ぐるりと顔を此方に向けて叫んでいる。次から次へと情報が浴びせられたせいか、藤間は若干涙目になっていた。これ以上は彼の心がもたないかもしれない。
「いいえ?私は正真正銘この世界の人間ですよ。私はある日召喚されて彼方の世界へ行ったの。聖女としてね。」
「えッ!お婆ちゃんも聖女だったの!?じゃ、じゃあ……先輩って呼ぶべきかな?」
その言葉に誰よりも反応を見せたのは杏だ。目の前に居るのが先代の聖女だと知って、杏の背中はピンと伸びる。杏が急にカチコチになってしまったので、藤間の祖母はクスクスと笑い出した。
「ふふっ、確かに先輩かもしれないけれど、私は役目を終えてしまったから今はもうただの一般人よ。そんなに畏まらないで。」
「は、はい!」
微笑ましい光景にツトムと莉花は笑顔だ。しかし一方で、今度はアレックスたちが首を傾げていた。
「……なあ、神秘の勇者の時代に聖女はいないよな?」
聖女というシステムが確立された後も、聖女が召喚されたという記録は殆ど残っていない。おまけに聖女の召喚方法は長い年月の中で失われてしまったものだから、これほどまでに聖女の数が少ない理由が分からないのだ。その為、そもそもの召喚条件が厳しかったから、召喚した聖女に問題があって廃れていったから……今でも数多くの歴史研究家がこの謎について様々な説を唱えている。
そして、少なくともここ200年近く聖女は召喚されていない。
「え、ええ。そもそも聖女自体歴史上でも数える程しか居ない筈です。こうして同じ時代に聖女が3人も集まるなんて歴史家たちが見たなら泡吹くんじゃないですか?」
「相討ちでもなかったというし、何故ここまで話がズレているんだろうか。」
彼方の世界の人間なら誰もが1度は耳にしたことがある神秘の勇者の物語。多少脚色されていたとしても、魔王はともかく勇者まで死んだことになっている点には疑問が残る。藤間の祖母が歴史に残らなかったこともそうだ。
「一体何がどうなってやがん……」
『そんじゃあ答え合わせタイムにでも入っか?』
「「「「「ッ!?」」」」」
声がしたと同時に、長机に置かれた皿の間を縫うように赤い男が寝そべっていることに気がついた。ニヤニヤと笑うその赤を、勇者一行たちは知っている。
『よぉ、ガキども。ごきげんよう。』
「おま、メフィ……ッ!?」
――アレックスがその名を最後まで呼ぶことはなかった。
「机の上に寝そべるんじゃありません。」
メフィストの首に刃を当てながらその人物は告げる。
感情が一切感じられない声だった。
羽虫を潰すが如く、淡々と。
その目はただ命を刈り取る為だけに向けられている。
「「「「「……。」」」」」
誰も声を発することができなかった。
たった一瞬でメフィストを制圧した圧倒的強さ。
魔王と戦った勇者でさえ震え上がらせるその冷徹さ。
そして何より……
「……美しい。」
こんな雰囲気の中で只1人、元魔王・ユージーンはうっとりとした表情で呟いた。
「その剣技、私を殺した時より洗練されている。」
「あら、褒めても何も出ませんよユージーン。それに……昔に比べたらやっぱり衰えたわ。」
そう言って手にした剣――刀を光へと変えた藤間の祖母・ハナはニコリと笑ってみせる。
――神速の剣技を披露した死神を前に、皆が萎縮してしまったのだった。
『すみ゙ま゙せん゙でした。』
「次は斬りますからね。」
『ひ、ひぃ……。』
畳の上で首を垂れる悪魔を背にし、アレックスたちは改めて藤間夫妻と向かい合う。
先程から噛み合わない神秘の勇者の物語。そして何よりも彼女が見せた剣の実力は、勇者一行にとある仮説を立てさせるには十分だった。
それを確信に変えるべく、アレックスはハナに最後の質問をする。
「なあ、婆さん。俺たちの世界では、婆さんたちの時代の勇者は神秘の勇者って呼ばれてんだよ。そいつの名前、教えてくれねぇか?」
「あら、名前すら伝わってないの?だから神秘だなんて二つ名が付いてしまったのかしら。」
私だったら絶対にそんな二つ名は付けないわ、と笑いながらハナは告げた。
「クライド・ブルックス、それが彼の名前よ。」
「「「「……。」」」」
その言葉で最後のピースが当てはまった。
クライド・ブルックスは勇者一行の1人だ。
心優しく、弱き者の盾となる勇者一行の守護者。
アレックスたちは彼のことをよく知っている。
ただし勇者ではなく、博愛の二つ名を持つ、聖騎士として。
そして、アレックスたちが良く知る勇者の名は……
『勇者ハンナ・トールマン。あっちだとオメェの名前はそう伝わってんだよ、ハナ。』
首を摩りながら、悪魔メフィストは確かに告げた。
藤間ハナ→ハナ・トーマ→ハンナ・トールマン
彼方側の世界ではあまり聞き慣れない名前だったせいで、違う名前で伝わってしまったようです。




