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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第4章 勇者一行、決戦へ。
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勇者一行、魔王の元へ向かう。

大変お待たせいたしました。

エタらないようにすると言った矢先にこれです。

本当に申し訳ありません……。

「聖先生、ただいま〜!」

「戦利品見ます!?新刊最ッ高ですよ!」

「やったあ、結構売れてる!……あれ、藤間先生は?」


 休憩時間中にそれぞれ目当てのものを手に入れた漫画研究会の面々がスペースに戻ると、浮かない顔をした聖が出迎えた。自分たちが死に物狂いで仕上げた作品は既に半分程に減っている。普段の聖ならば満面の笑みで出迎えてくれただろうに、と彼女たちが考えていると聖は重々しく口を開いた。


「藤間先生は気分が優れないみたいで席を外しているわ。少し外の空気を吸ってくるって。」


 藤間が此処を離れてから既に30分は経過しているが何の連絡もない。もしかしたら自分が考えていた以上に具合が悪かったのではないだろうか。会場を移動するにも時間が掛かるのは理解しているものの、先程から聖の胸はざわついていた。


「マジで!?やっぱり初心者にはこの熱気がキツかったかなぁ。」

「藤間先生、朝から設営手伝ってくれてたし疲れが溜まってたのかも。」

「ちゃんと休んでると良いけどねぇ。」


 準備を進めている段階から藤間には色々と手伝ってもらっていた。生徒たちが心配するのは当然だろう。自分の態度のせいで彼女たちまで不安にさせてしまったことを聖は恥じた。


「(大丈夫、よね?)」


最近見る悪夢が頭をよぎり、聖は慌てて首を振る。


そう、あれは夢だ。夢だったのだ。


部室棟に化け物が出現したことも。

目の前で生徒たちが魔法を使ったことも。


 


藤間帝人が自分の胸の中で冷たくなっていったあの感覚も。




 夢と断ずるには生々しい感触がこびりついていながらも、聖はそれを認めようとはしなかった。


「(……認めたら駄目。)」


 何故かは分からない。だが、認めてしまえば()()()()()()()()。そんな気がしたのだ。


「(早く戻ってきてくださいね、藤間先生。)」


 己の中で渦巻く不穏な何かに目を背けて、聖はただ藤間の無事を願っていた。





 

「お前が……()()()()だと?」


 目の前の魔王が告げた言葉を受けて、シャーロットたちは耳を疑う。魔王でありながらあくまで人としての名を名乗ることに驚きを隠せなかったのだ。


「意外ね。人間辞めてるくらいだし別の名前があると思ってたんだけど。」

「元は同じ魂だ。魔王であろうと、私が藤間帝人であることに変わりはない。今までは()が邪魔していたせいで私は行動を制限されていたが……所詮奴は己の血を覚醒させられなかった凡夫にすぎん。」

「(血……?)」


 物言いからして、藤間が魔王の器だったのはやはりどこかで魔王の血が混ざっていたからということだろうか。攻略の為にも過去の魔王について調べておくべきだったとシャーロットは少し後悔した。

 

「さて、無駄話もここまでにしよう。他の仲間たちも此方に向かっているようだが、大人しく待つほど気は長くないものでな。」

「「……。」」


 時間稼ぎをさせてくれるような甘い敵ではなかったようだ。何せこれだけ大きく人が密集する会場である。目的地に辿り着くまで時間がかかるだろう。


「《風神の装い》」


 シャーロットが魔法を唱えると、彼女を護るように風の鎧が現れた。勇者一行は全員揃って初めて真価を発揮する。それまである程度体力や魔力を温存しておきたかったがこうなってしまっては致し方あるまい。風を身に纏ったシャーロットは、その場で何回か飛び跳ねた後魔王へ向かって一気に距離を詰めた。


「《風虎拳》!」


 風の魔力を極限まで高めた状態で放たれた拳は、風圧だけで周辺の木々をへし折り、建物にヒビを入れる。通常の魔物であれば拳が触れる前に荒ぶる風で死に絶えていたであろう。


――しかし相手は魔王。


「この肉体の心配をするとは余裕だな。それとも魔王を前にして怯んだか。」

「……クソッ。」


 その拳はただ魔王の掌に収められていた。人並外れた力でシャーロットの拳を握り締めた魔王は、身動きの取れなくなった彼女目掛けて魔法を展開する。


「《死の指針》」


 死を告げる幾多もの闇の針がシャーロットを貫かんと現れた。黒く染まった針たちはただ1点――彼女の心臓の音を確実に止める為にその瞬間を待っている。


「せめてもの情けだ。一瞬で終わらせてやろう。」


魔王が合図をすると、今まで微動だにしなかった黒針が風を切り音と共にシャーロットへと襲いかかった。


至近距離からの攻撃、躱せる筈がない。


だが――


「《八爪魚(クラーケン)の剛腕》!」


 その攻撃はシャーロットを貫通することなく、突如現れた海の怪物を模した水の腕に吸収される。


「ちょっと魔王さーん、私のこと忘れてもらっちゃ困るんですけどぉ!」

 

 魔法を放ったのはイザベラだった。目の前のシャーロットにばかり気を取られていたことに気付いた魔王は、すぐさま標的をイザベラに切り替える。


「《死の指し……」

「《雷神の装い》」

「ッ!?」


 刹那、魔王の身体に衝撃が走る。衝撃は己の右手から。そしてそれはシャーロットの拳を捉えた手だった。


「貴様こそ随分と余裕そうじゃないか。」

「(身体が動かな……まさかッ!?)」



 

「(初めから()()()()()()()()のか!?)」



 

 感電して身動きが取れなくなった魔王は、シャーロットの表情を見て自分が嵌められたことに気が付く。シャーロットは受け止められること前提で、()()()正面から殴り掛かってきたのだ。


「そうねぇ、いくら魔王だからって油断はしちゃ駄目よぉ。」


 水の八爪魚(クラーケン)を霧散させて此方に歩み寄ってきたイザベラは魔王の顔を覗き込みながらにっこりと笑った。


「《菟葵(アネモネ)の縛り》」


 海を揺蕩う花の様な触手が現れ、魔王が暴れないように四肢に巻き付く。この触手には魔法を封じる毒も含まれている魔法だ。そう易々と解くことはできないだろう。


「貴方が相手にしてるのは魔王討伐に乗り出したイカれた女たちなんだから。ね、シャーロット。」

「サラッと同類にするな!」

「あら自覚なかったの。まぁそんなことはどうでも良いんだけど……」

「おい。」


 シャーロットの突っ込みをスルーしつつ、イザベラは未だ身動きが取れずにいる魔王を見遣る。

 

「〜〜〜ッ!」


 未だシャーロットから離れられない魔王は何か言いたげな表情だが、感電しているので声を出せないらしい。容姿に変化はあれど大体藤間のままなので少し哀れである。そんな姿を見て、イザベラは魔王……()()()が言っていたことを思い出した。

 

「何だかんだで本質は藤間先生なのかしら?」

「ん?どういうことだ。」


イザベラの言葉にシャーロットは首を傾げる。


「だって仮にも魔王でしょ、この人。いくら私たちが全力で戦ったからってこんなあっさり負ける?」

「〜〜〜ッ!」

「本人の前で言ってやるな。可哀想だろう。」

「〜〜〜〜ッ!」

「いや哀れみも結構屈辱だと思うんだけど。」


 踏んだり蹴ったりである。若干目に涙を浮かべ始める魔王を華麗に無視してイザベラは語った。


「なんていうか、どうにも中途半端なのよねぇ。」

「と言うと?」

「うーん、何て言うのかしら。うまく言葉に表せないのだけれど……」




「殺気は感じるんだけど、()()は感じられないのよ。」




 先程の《死界》もそうだ。恐らくあれは触れたら即死の魔法だろう。普通の人間なら即死だろうが、これまで理不尽な強さの敵と何度も戦ってきた自分たちに本当に通じると思っていたのだろうか。現に2人はすぐさま対応して魔法を防いでみせた。


「確かに、本気で殺す気なら魔法を当てる為にタイミングは変えるだろうな。大体あれは相手を拘束して放つべき魔法だろう。あのタイミングで放っても魔法のスピードからして避けられるのは確実だ。」

「〜〜ッ!」

「この人戦い方が下手過ぎるわ。数の不利を一切考えてないもの。シャーロットだけ狙い過ぎなのよ、私のことすっかり忘れてたし。」

「〜〜〜ッ!」

「不意打ちのエキスパートに不意打ちで挑むなど無謀にも程がある。」

「うんうん。」

「……。」


 完全に女子高生(?)の言葉に打ちのめされた魔王は抵抗する力すら失ったようである。ガックリと項垂れた彼を見て、2人は少し笑った。


「自分の命を顧みずに生徒を助けに行くような人だもの。そんな人が生徒を殺せるわけがない。要はね……」




「貴方が藤間帝人である限り、()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。」



 

魔王になろうと結局この人は根っからの教師なのだ。

早く元の藤間先生に戻ってほしい、そう願わずにはいられない2人なのだった。






「あ、ノア!」

「アル、ツトム!ようやく合流できましたね!」


場面変わって会場内。結界班の暗示によって移動してきた人々の波に抗うように進むアレックスたちは中々シャーロットたちの元へ辿り着けずにいた。道中でノアと合流したアレックスたちは、お互いに状況を確認する。


「当然だが誤報……な訳ねぇよな。」

「あの2人がそんなミスをするわけないでしょう。」

「藤間先生……。」


 藤間本来の人格と魔王としての人格の境界が曖昧になってきていたことは分かっていた。だが、アレックスたちの想定よりもずっと早く藤間は魔王として覚醒してしまったのだ。


「つーか勇者()だけ居ても意味ねぇぞ!杏のヤツちゃんと合流できるだろうな!?」

「ああ、ああ。分かった。俺たちもすぐ追いつく……大丈夫だ、杏も既に向かってる。何なら俺たちよりも先に着くと思うぞ。」


 電話を終えたツトムが2人に報告する。場所次第では迎えに行くつもりだったが、杏の方が藤間たちの居る地点に近かったらしい。藤間から魔王の力を引き剥がすには杏の聖女の力である程度弱らせる必要がある。むしろ丁度良かったといえるだろう。

 

「もしかしたら杏はあの2人が合図を送る前には既に気付いていたのかもしれませんね。……アルと違って。」

「そうだな、杏は魔障の感知に関しては人一倍敏感だから。……アレックスと違って。」

「良い加減泣くぞオイ!」


 文句を言ってやりたいところではあるが、アレックスの魔力感知がドのつく下手くそなのは事実なので否定できない。アレックスは不貞腐れつつ先へと進ん……




『《忍び寄る魔の手》』




「「「ッ!?」」」


 突如上から悪意に満ちた気配を察し、3人は慌てて天井を見上げる。


 そこにあったのは光すら吸い込んでしまうような漆黒の(かいな)。それは1箇所から幾多にも生えて触手のように蠢いていた。



 

『《おやおや、まだこんな所に居たのですか?》』




――耳障りな嗄れた声。




その音を届けているであろう()()は人ではない。


一言で形容するならば人間大の蜘蛛だ。

だが蜘蛛と呼ぶのは正直憚られた。


4対の足は全て人間、本来存在する筈の8つの眼はなく、代わりに魔核が妖しく光っている。


見ただけで禁忌だと分かるこの化け物を見たのは初めての筈だった。


だが姿形が変われども、脳内に直接響くその声を彼らが忘れるわけがない。




「お前、あの時の魔人か!?」


 ツトムがその正体に気付いて叫ぶと、大蜘蛛は肯定するように足を動かした。


勇者一行が此方側の世界にやってきた原因。

禁忌に手を染め人の道から外れた存在。




因縁の相手が目の前に居た。

魔王(藤間)に凡夫呼ばわりされている藤間先生ですが、覚醒できなかったのには理由があります。

部室棟のオオヒトクイがツトム1人で倒せるほど弱体化していたのと関連がある……かも?

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