勇者一行、魔人の目的を知る。
「ンン……此処は?」
莉花が目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。いつも通りの普通の部屋。何故自分は此処で寝ているのか。莉花は自身の記憶を辿ろうとするが、靄がかかったようになって思い出せない。
「杏を攫って儀式をしようとして……えっと……」
莉花が頭を抱えて必死に思い出そうとしていたところで、部屋の扉が開く。莉花は一瞬身構えるが、入ってきた人物を見て胸を撫で下ろした。
「メフィスト!」
『おっ、莉花!目ぇ覚ましたか!』
いつもの奇抜な衣装の上に可愛らしいフリフリのエプロンを身に纏う悪魔は、莉花が目覚めたことを確認すると嬉しそうに笑った。
「うん。あの……私どうして寝てたの?」
『ん?覚えてねぇのか。お前、あの魔人に身体乗っ取られてたんだぞ。』
「魔人……あ、何か思い出してきたかも。」
そうだ。アレックスと話している途中で、急に身体の中から出てきた何かに意識を引き摺り込まれたのだ。
「あれ、魔人の仕業だったんだね。助けてくれてありがとう。」
『オレ様は殆ど何もしてねぇけどな。頑張ったのはアレックスたちだよ。……やり方はアレだったが。』
「ん、やり方?」
『……あー、うん。何でもねぇ。』
「ちょっと待って何があったの!?」
意識を奪われた後のことは何故か思い出せない。ただ、生命の危機……的な何かを察知したのは身体が覚えているようだった。メフィストの反応を見ていると、何故だか急に背筋が冷たくなってくる。
『……莉花、世の中には知らないほうが良いこともある。』
「メフィスト!?」
莉花が覚えてないことに気が付いたのか、メフィストは口を噤んだ。これを聞き出すのは骨が折れそうなので、莉花は後ほどアレックスたちに確認しようと誓う。
「そういえば、アレックスたちはどうしたの?」
『お前が目ぇ覚ますまで待ってるっつうから、客室に案内してるぜ。アイツらにもこっちの世界の魔王のこと、詳しく伝えねぇといけねぇしな。』
「……そうだね。そしたら私が客室に行くよ。散々迷惑かけちゃってるし。」
そう言って起き上がろうとしたところで、ドタドタという足音と共に扉がバンと開かれた。
「鈴木ッ!目ぇ覚めたんだな、魔王に聞いたぞ!」
「ア、アレックス!?」
目に入ったのは黒髪に翠の瞳を持つ青年。息を切らしてるのか、肩を大きく揺らしながらアレックスは満面の笑みを浮かべた。
「元に戻ったみたいでよかった!」
『おいコラ!ノックもせずに女子の部屋入んじゃねぇこの野郎!』
「……あ。」
早速部屋に入ろうとしたところで、アレックスの足がピタリと止まる。そして顔がみるみるうちに赤くなり、口をパクパクさせて慌て出した。
「そそそそうだよなッ!じょじょ女子の部屋に勝手に入るのは、その、ダメだよなッ!悪い!」
「……?」
急に挙動不審になるアレックスに、莉花は首を傾げる。何もそこまで慌てなくても……そう思ったところで、彼の姿に既視感を覚えた。
「(あれ、何かこの感じどっかで……あ。)」
――好きなんだ!
「はわ……はわわ……ッ!?」
そこで莉花は漸くアレックスから告白されたことを思い出したのだった。
「もうアレックス速いって!あ、莉花起きたんだね。回復魔法は掛けたんだけど問題は……って何?この状況。」
莉花が目覚めたと知って一気に駆けていったアレックス。彼を必死に追いかけた先で杏が目にしたのは、顔を真っ赤にしてカチコチに固まった莉花とアレックスだった。
茹蛸のようになった2人を見て、メフィストは面白そうに笑う。
『良かったなぁ、アレックス。莉花はちゃーんと告白のこと覚えてたみてぇだぞ。』
「良かった!良かったけどッ!恥ずかしいから言うなァァァァ!」
膝を突いて喚くアレックスは顔を両手で覆い、頭をブンブンと振る。仮にも勇者である青年の情けない姿に、後から顔を出した仲間たちは溜息をついた。
「情緒不安定にも程がある。」
「ピュアねぇ。」
「初恋ですから。そっとしてあげましょう。」
「そんな生温かい目を向けんじゃねぇ!」
アレックスの挙動不審っぷりを楽しみたいところだが、まだ問題が山積みだ。メフィストはコホンと咳払いすると、場を仕切った。
『とりあえず今後のことについて話すぞ。』
「まず此方の世界の魔王については、私が説明したほうが良いだろう。」
そう言って腰に手を当てて踏ん反り返るのは魔王だ。莉花の体調も考え、外で待機していたオカ研メンバーも含めて皆が莉花の部屋に揃っている。初めてその姿を見た室町以外のオカ研メンバーは口を開けて固まっているが、いちいち説明するのは面倒なのでアレックスたちはそのまま話を進めさせた。
「前置きだが、今回の事態は極めて異例だ。本来ならばこの世界に魔王は誕生する筈がない。」
「それは魔素が少ないから……っすか?」
「そうだ。だからこの世界には魔王が存在しない。」
「意図的に生み出さない限り。」
「「「「「ッ!?」」」」」
「い、意図的にって!そんなの可能な訳……あ。」
魔王の言葉に反射的に否定するイザベラだが、言いかけたところで思い出す。
――1人、いる。
イザベラが咄嗟に振り返ると、シャーロットは目を閉じて息を吐いた。
「……だろうな、私の祖先もそうやって魔王になったのだから。」
「シャーロット……。」
「あの魔人が魔王を生み出した、といったところか。」
「その通り。奴は魔王ガダルドの秘術を知っている。それくらい造作もないだろう。」
アレックスは魔人と戦闘した時のことを思い返す。確かに奴は不死身の肉体を持っていた。だが……
「だったらアイツ自身は何で魔王になんなかったんだろうな。どう考えても自分がなった方が良くね?裏で操りたいタイプか?」
言うことを聞くかも分からないヤツを魔王にするなんて、どう考えてもリスクが高すぎる。その問いに魔王は一瞬考え込んだ後に答えを出した。
「いや、違う。恐らくだが奴は……魔王の器ではなかったのだ。」
「魔王の器?」
未知の言葉に皆が困惑する。その様子を見て、莉花は分かりやすく補足した。
「魔王って凄い力を持ってるでしょ?その力を受け止め切れる素質がなきゃ、魔核との融合には耐えられない。だから大抵の人間は死ぬはずなの。シャーロット先輩のご先祖様がオカシイだけだよ。」
「オ、オカシイ……!?」
あんまりにもざっくばらんな言い方にシャーロットは口をポカンと開ける。別に魔王ガダルドについてはどう言われようと仕方ないとは思うが、そんな言われ方をしたのは初めてだった。シャーロットの様子など気にすることなく莉花は続けた。
「要は魔核に適応できちゃう人や魔物……その中でも魔核を完全に支配下における者だけが魔王になれる。そういう者たちのことを魔王の器って言うの。」
「そして魔王になった者の血を引く者もまた、魔王の器であることが多いのだ。魔族に魔王が多いのはそれが理由だな。」
そう言われてみると、確かにそんな気がする。勇者一行たちは納得した。現に魔王ガダルド以外の魔王の大半は魔族と呼ばれる魔物だった。共に聞いていた杏も、エリザベスから聞いていた話を思い出す。確か勇者王バッカスが倒した魔王も魔族だったはずだ。
「……ん?ちょっと待って。」
「どうした、杏。」
そこまで聞いたところで、杏の中に1つの疑問が生まれた。
この世界と彼方側の世界。エリザベスや勇者一行、それに莉花や室町の祖先のように、彼方側から此方側へやってきた者は多い。そして住む世界が変わろうと血は続いている。
「ひょっとして……」
「こっちの世界の魔王って、歴代魔王の誰かの血を引いてる……ってことですか?」
「「「「「……。」」」」」
その問いに、誰もが息を呑んだ。
世界を越えるのは何も人だけではない。現に魔王も転移してこの世界にやってきている。
――ならば、
かつての魔王が此方の世界に来ていてもおかしくはない。
「……そうだ。」
「奴は此方の世界に来た魔王の子孫……新たなる魔王の器を覚醒させ、その身体を乗っ取ろうとしている。」
杏の問いに対し、魔王は眉ひとつ動かさずに肯定した。
メフィストのフリフリエプロンは莉花からのプレゼントです。本人は喜んでつけてます。見た目はどうでも良い、その気持ちが嬉しいんだ……とのこと。




