勇者一行、大悪魔の真意を探る。
Q. 田中「俺の出番は?」
A. 調整中。
「お前、そもそも俺らと戦う気ねぇだろ。」
アレックスの言葉によって、辺りは静かになる。一体何を言い出すのか。シャーロットたちはアレックスの意図が読めなかった。
「戦う気はないだと?アル、どういうことだ。この悪魔は私たちを足止めする為に居るのだろう?」
「ああ、そうだな。少なくとも鈴木はそう願ったはずだ。足止めだけしろってな。」
「えっ。」
「俺だって、何ヶ月か鈴木と一緒に居たんだ。アイツがどういうヤツか少しは知ってる。」
アレックスは自分の剣をより強く握りしめる。1度は疑ってしまった。だが、彼女の言動やツトムの話を聞いてそれは違うと思ったのだ。
「やっぱり俺、鈴木は悪いヤツじゃないと思うんだ。」
「ツトムから聞いた。意識を失う直前に、戦わせたくないって呟いてたって。」
「アイツ、すっげえ友達思いなヤツなんだよ。だから思ったんだ。聖女の力を奪うっていうのは、魔王と戦うからって理由が本命じゃねぇ。」
「聖女じゃなくなれば杏が戦わずに済むから、だろ。」
『オメェ……。』
「杏が聖女じゃなくなれば戦えなくなるし、ツトムも無茶しなくなる……なんて考えたんだろ?鈴木は。確かに、ツトムは杏のことになると無茶ばっかすっからなぁ。そう考えるとその方法が1番手っ取り早いか。けどな……」
ほんの少しの付き合いだ。彼女の本心は違うところにあるのかもしれない。
――だが、これだけは間違っていると断言できる。
「鈴木が無茶すんだったら、ツトムも杏も戦えなかろうが絶対アイツを助けに行くに決まってんだろうが!そういう奴らだって、俺よりも付き合い長えんだから分かんねぇ訳ねぇだろ!?天才とか自称してる癖に、やっぱ鈴木もバカじゃねぇか!」
全力で叫んだアレックスはゴホゴホと咳き込んだ。呼吸を整えながら、アレックスは悪魔を見遣る。悪魔は何も言わずにただじっとアレックスを見下ろしていた。
「……なあ悪魔、お前も鈴木と同じだろ。鈴木がツトムたちを戦わせたくないように、お前だって鈴木を戦わせたくないんじゃないか?」
『……。』
「ツトムたちだけじゃねぇ。俺にとっても鈴木は大切なダチだ。悪ぶって無茶してるアイツを俺は放っておけねぇ。」
『……放っておけない、ねぇ。フッ、ククッ。ハハハッ!さっすが勇者様だ!ご立派なことで。』
悪魔というのは人の心の本質を誰よりも理解している。
故に人を惑わし、弄ぶことができるのだ。
だからこそ、悪魔は理解した。
目の前の勇者は本気で莉花を救いたいと思っていることを。
だからこそ、悪魔は笑い飛ばした。
その本気が口先だけのものになると知っているから。
『だが勇者様よぉ。オメェ、あの赤ちゃん魔王を討伐する気だろ?……ならオメェにゃ莉花は救えねぇよ。』
「……どういうことだ。」
『言ったろ?莉花にとっちゃ使い魔たちは家族だって。それは魔王だって例外じゃねぇ。』
『莉花の魔王を殺そうとする奴がどうやって莉花を救う気だ?』
悪魔は心底残念そうに笑った。
莉花の本当の家族はクソという言葉では言い表せないほど酷い奴らだった。碌に働きもせず、犯罪は当たり前。そんな両親のもとで、莉花は虐待を受けていた。
鈴木家は彼方側の世界から迷い込んだ呪術師の家系ではあったが、莉花の両親の代の頃にはその魔法の技術は殆ど失われ、自分たちが呪術師であることすら忘れ去られていた。
だが、ある時金に困った彼女の両親がこの屋敷から1冊の魔道書を見つけたことで運命は大きく変わる。
自分たちが呪術師の家系であることを知った彼女の両親は、黒魔術にのめり込んでいった。そして新興宗教を興し、詐欺のような手口で金を稼いだのである。
そんな環境で育った莉花と出会ったのは1年前のこと。友人の手によって髪を整えて貰った莉花は、家に帰るなり親に折檻された。髪は黒魔術にとって重要な意味を持つ。それをバッサリ切って捨てたと知り、両親は莉花を地下牢に入れて監禁したのだ。
これでも読んで反省しろ、と牢に投げ込まれた魔道書。それは大悪魔メフィストについて書かれたモノだった。莉花は魔法なんて信じていなかったようだが、自暴自棄になって召喚をしてみたらしい。才能があったからか一発で召喚に成功したその悪魔は、莉花に契約を持ちかけた。
『一応オメェみたいなちんちくりんでも、召喚者だ。オレ様を呼び出したからには、よっぽど叶えたい願いがあるってこったろ。』
『で、何が望みだ?億万長者?世界征服?あ、それとも全知全能になりたいとか?オレ様ほどの悪魔だったら、どんな願いだって叶えてやるぜぇ?あ、勿論対価はオメェのたまし……』
「殺して。」
『へ?あー、何だ。アレか?何かスッゲー恨んでるヤツでも居んのか?くぅぅ、ニンゲンってのは恐ろしいなぁ。こんなちんちくりんでも誰かを殺してぇって思うワケかぁ。』
「私を……殺して。」
『おー、オッケーオッケー!オメェを殺せば良いワケね……っておおい!?』
召喚するなり自分を殺せ、なんて言う奴は何千年生きてきた悪魔でも見たことがなかった。
『いやいやいやいや!オメェが死んじゃダメだろ!?命大事よ!?召喚した悪魔に殺してもらうってそんなダイナミック自殺ある!?』
「でも……私、結局ダメ、だった……ッ!せっかく、友達ができ……のに。前向こうって、思った、のに……結局、あの人たちには……逆らえない。そんな自分が、嫌になる……ッ!もうやだ、死にたい。死にたいよ……ッ!」
『えっ、ちょ……あー!分かったから!泣くなって!話聞いてやっから!な!?』
彼女の身の上話を聞いた悪魔は、ある提案を持ちかけた。
『よし、そんじゃあこれからオレ様がオメェの家族になってやるってのはどうだ!?』
「えっ。」
『良いか?オメェみてぇな欲がねぇニンゲンの魂はなぁ、この世界で言う味のねぇガムみてぇなモンだ。もし契約が成立して今のオメェの魂を喰ってもそのガムみてぇに全ッ然美味しくねぇの!』
「は、はあ……。」
困惑する莉花に、悪魔は名案とばかりに宣言する。
『だからこれは先行投資ってヤツだ!オメェが欲深〜い人間になれるようになぁ、一般的な幸せってヤツを教えてやるよ!ニンゲンってのは、幸せになればなるほどあれもこれも欲しくなる!どんどんどんどん欲が深くなる!そういうヤツの魂の味は格別だ!』
『そんで欲が出てきたら契約だ。対価は滅茶苦茶美味そうに育ったオメェの魂。これでどうだ?』
莉花はポカンと口を開けたままだった。今思うといきなり悪魔が現れて家族になろうだなんて言い出したのだから、この反応は当然だろう。だが、莉花はその提案を呑んだ。
だから悪魔は莉花を幸せにしなければならない。
だから悪魔は契約を守らなければならない。
――あのね、メフィスト。私と契約して欲しいの。
――メフィストのお陰で、普通の幸せ?っていうのかな。何か分かってきて。それで欲が出てきた。
――私のお願いはね……
もし目の前の青年が勇者でなければ。
悪魔は心底残念に思った。魔王を倒すという使命さえ負っていなければ、真っ直ぐな彼なら莉花を救えただろう。
だがそれは叶わない。
神に祝福された勇者が、誰か個人の為に世界を犠牲にするなど許されない。
悪魔は目を瞑る。脳裏に蘇るのは、莉花との契約だ。
――私のお願いはね……
――大好きなメフィストたち家族と一緒に、これからもずっと仲良く暮らすこと!……えっと、これじゃダメ?
『……悪りぃな勇者。オレ様たち悪魔は何よりも契約を重んじる。』
悪魔は蝙蝠の翼を大きく広げると、闇の力を帯びた魔力を周囲に展開する。
『まともにやり合う気はなかったが、契約内容に違反するってことになンなら話は別だ。』
『莉花と魔王のところにゃ行かせねぇ。此処で仲良くくたばりやがれ。』
――黒の閃光が放たれた。
魔道書があるのに莉花が魔法を信じていなかったのは、両親が全く魔法を使えなかったからです。そのせいで儀式は悉く失敗し、挙げ句の果てにこの本が間違っているのだと誤った方法で挑戦するばかりでした。




