勇者一行、大悪魔と遭遇する。
新キャラ登場です。
「……さぁて、此処がこっちの世界の魔王城かぁ。」
アレックスたちは破壊された扉の向こうへと足を踏み入れる。挨拶代わりの一撃だったが、玄関を見渡すと既に事切れた魔物が何体か居た。
「お、よっしゃ。手間が省けたな。」
周囲に魔物の気配はなく、辺りは静寂に満ちている。しかし、喜んでいるアレックスに対してシャーロットは溜息を吐いた。
「……バカ、もう1体居るぞ。」
「え。」
「それも相当な強さのヤツねぇ。」
「マジで?」
「アル……いやもう良いです。突っ込むの疲れました。」
「そこは何か言ってくれよ!?」
『ハッハーン?話に聞いた通りまーじで魔力探知クソ以下なんだなオメェ。』
「いや言ってくれとは言ったけどそれは言い過ぎ……ッ!?」
ソレはごく自然に、勇者一行たちの背後に居た。アレックスが咄嗟に身体を捻って剣撃を放つが、ソレはヒラリと躱して宙に浮く。
「……悪魔、それも結構上のヤツだな。」
先程菫たちが倒した雑魚とは明らかに格の違う存在。まるでピエロのような赤くて派手な格好をした容姿に反し、その身に纏う魔障は死の臭いで満ちている。
『結構、じゃなくてめちゃくちゃ上だ馬鹿野郎!ったく、最近の勇者は悪魔の階級すら知らねぇのか、あ゛あ゛ん?』
「興味ねぇな、ンなモン。全部倒しちまえば同じだろうが。」
『ケッ。やっぱ勇者様が言うことはひと味違ぇなぁ、オイ!』
悪魔は宙でゲラゲラと笑うと、一転して勇者一行たちを見下ろす。その眼はまるで何かを見定めるかのようだった。
『まぁせっかくだ。冥土の土産に教えてやんよ。』
『オレ様は大悪魔、メ……ッ!?』
……一瞬の筈だった。悪魔が瞬きしたその一瞬、視界から勇者が消えた。
『(どこ行っ……)』
「《摩天斬》!」
『ッ!?』
勇者はすぐ背後に居た。悪魔が気付くより早く振り下ろされた剣は、悪魔の右腕を肩から持っていく。
「(クソッ、ズラされた!)」
アレックスは内心で悪態を突いた。心臓ごと斬り裂くつもりが、悪魔の反応速度を見誤ったらしい。
「(そんじょそこらの悪魔とは訳が違えってか。)」
めちゃくちゃ上という言葉はあながち嘘でもないようだ。体勢を崩すことなく着地したアレックスは、未だ宙に浮き続ける悪魔を睨みつけた。
『……。』
対して悪魔は暫く失われた右腕を観察していた。斬られた箇所は既に再生を始めているが、未だに黒い血がボタボタと垂れている。
『(……ちっとばかし治りが遅ぇな。これが勇者の力か。)』
本来上位の悪魔になれば、心臓を潰されでもしない限りすぐに身体は再生する。大悪魔である自分なら一瞬だ。それだというのに……
『(まぁ、遅ぇってだけだが。この程度なら問題ねぇな。)』
悪魔が怪我した部位に魔力を集中させると新たな腕が生えてくる。悪魔は何度か腕を回したり、掴んだり離したりしながら感覚を再確認していった。そして問題ないことが確認できると、こちらを睨みつけるアレックスを見下ろして口を開く。
『おい勇者……』
『人が名乗ろうとしてる時に襲ってくんじゃねぇよ!オメェ悪魔か!?よくも右腕持ってってくれたなぁ!?』
「悪魔はテメェだし俺は人間だこの野郎!頭からいきたかったのに避けんじゃねえよヴァァァァカ!」
お互いに中指を立てる勢いで罵り合うアレックスと悪魔にシャーロットたちは呆れていた。
「ガキかアイツらは。」
「なんかノリが似てますね、アルとあの悪魔。」
「楽しそう。」
『あ゛あ゛ん!?楽しかねぇよッ!』
「つか何呑気に眺めてんだ!?お前らも加勢しろよ!」
あれだけ罵り合っていたというのに、3人の会話は聞こえていたらしい。
「「「(やっぱり似てる……)」」」
とは思いつつ、シャーロットたちは戦闘態勢に入った。
「アルの言う通りだな。我々はさっさと魔王を倒して杏を救わなければならない。貴様のような魔王の配下如きに時間を割く暇などあるものか。」
杏救出に関してはツトムたち別動隊に任せているが、それを悟られる訳にはいかない。そう思ってのシャーロットの発言だったのだが、それを聞いた悪魔がピシッと音を立てたかのように固まった。
「あれ、固まっちゃいましたね?」
「何、シャーロット石化魔法なんて使えたの?」
「いや使ってないしそもそも使えないが。」
「あー分かった!シャーロットにビビったんだろ!お前に睨まれるとちびりそうになるからなぁ……っておいシャーロット冗だギャアァァァァァ!」
シャーロットがアレックスに技を決めている中、ずっと固まっていた悪魔はようやくその口を開いた。
『誰が……』
『誰が魔王の配下だゴラァァァァッ!!』
「「「「え。」」」」
思わず目が点となった勇者一行。だが悪魔はそんなことを気にする余裕はなく、両手で自身の顔を覆うと叫んだ。
『何がどうしてあんなぽっと出の魔王の配下扱いになんだ!?何千年生きてるオレ様からすりゃあ、あんなの生まれたての赤ちゃん魔王だコンチクショウッ!』
『莉花も莉花だぜ!?オレ様という存在がありながら、あの魔王ばっかりに構いやがるッ!だって目を離したらまた変なこと口走りそう?ああ、そうだな!オレ様もそう思うッ!アイツこの前なんか道端の婆ちゃんに自分は魔王だって自己紹介してたもんなッ!婆ちゃん困惑しながら魔王に飴あげてたよ!居た堪れねぇよ!』
『分かるか勇者!オレ様がッ!アイツにッ!どれほど……どれほど苦労を……ッ!ウッ、ウッ……』
「「「「(な、泣いてる……)」」」」
悪魔はどこからかハンカチを取り出し、鼻をかみだした。アレックスたちは困惑しながらも、頭の中で話を整理する。魔王のとんでもない話があったような気がするが気のせいだろう。うん。
「ん……?魔王の配下ではないということは、貴方は莉花さんに召喚された使い魔ということですか?」
何とか頭の中を整理したノアが悪魔に問いかける。ある程度叫んでスッキリしたのか、悪魔は少し落ち着いたらしい。ノアの問いにもしっかりと答えた。
『ああ、そうさ!キッカケは偶然だがなぁ。オレ様と契約してから莉花は呪術師になった。丁度……1年くらい前か。』
「えっ、1年!?それであの実力かよ!」
偶然とはいえ、これほどの大悪魔の召喚に成功するとは。彼方側の世界でも稀に見る天才に違いない。アレックスは驚愕した。
『そりゃあオレ様が呪術師のイロハを叩き込んだからなぁ!当然!……と言いたいところだが、』
そう言うと悪魔は目を細めて穏やかに笑う。
『あそこまで大成したのは莉花の才能と努力の賜物だなぁ、ありゃ。流石オレ様の契約者。』
「……鈴木のこと随分と気に入ってるんだな。」
『当然だろ!あれほど使い魔と真摯に向き合う呪術師はそうは居ねえ。アイツにとっちゃ使い魔は家族なんだ。』
「家族……。」
まさか悪魔から『家族』などというハートフルなワードが飛び出すとは。先程の表情といい、アレックスの中で目の前の悪魔のイメージが変わりつつあった。
「悪魔。お前……」
「なんか鈴木の父ちゃんみてぇ。」
『誰がお義父さんだ!オメェみてぇなちんちくりんにゃ莉花は渡さんッ!』
「やっぱり父ちゃんじゃねぇかッ!?」
アレックスには両親の記憶がないので親子関係というのはよく分からない。だが、孤児院で自分たちを愛情深く育ててくれた院長と目の前の悪魔が重なって見えたのだ。……いや、院長はこんなに口悪くないが。
しかし、そう考えると何となく腑に落ちる部分があるのだ。その何となくを確信へと変えるべく、アレックスは話し続けた。
「なぁ、悪魔。鈴木たちはこっちの世界の魔王が黒幕だって言ってた。アイツらだけで倒せんのか?」
『どうだろうな。魔王を殺せるのは勇者とその加護を受けた仲間、あとは聖女だけだ。莉花はあの杏っつー聖女からその力を奪って戦うつもりみてぇだが。』
「杏から聖女の力を奪うですって!?そんなことできるわけ……」
『できンだよ。まぁ色々手間は掛かるがな。』
イザベラの反論をバッサリと切り捨て、悪魔は語る。しかしどこか不服そうな表情に、アレックスの中の疑問が確信に変わりつつあった。
「聖女の力奪えば魔王倒せるってのに随分と不服そうじゃねえか。自分のご主人様が魔王倒したら箔がつくってもんじゃねえの?」
『……別に、呪術師的にどうなんだって思うだけだよ。つか莉花はご主人様じゃねえ!対等な契約相手だゴラ!』
「……。」
アレックスは無言で悪魔を見つめる。出会ってからの行動、言動、そしてその表情。
全てのパーツがパズルのように組み合わさり、
――ある1つの結論を導き出す。
「違うな。」
『は……?』
「さっきからおかしいと思ってたんだ。俺に斬られてる癖に全ッ然反撃する気配がねぇ。」
『別にこれくらいの怪我ならすぐ治る。反撃する価値もねぇ。』
「いいや違うね。」
そう言ってアレックスは真っ直ぐ悪魔を見据える。口と態度が悪すぎて分かりづらいが、この悪魔は……
「お前、そもそも俺らと戦う気ねぇだろ。」
悪魔は莉花が学校に行っている間、ずっと魔王の面倒を見ていました。誰がどう見てもお父さんです。




