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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第3章 勇者一行、魔王と相対す。
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勇者一行、聖先生を追う。

田中は地区予選大会で大忙しの為、当分出番ないかも(ファンの方居たらごめんなさい)。

 聖撫子(ひじり なでしこ)。ツトムたちが通う高校の数学教師、28歳女性。ほんわかとした雰囲気と面倒見の良い性格から、生徒たちからの評判も良い人物だ。



「はい、それでは次。この問題。期末テストにも出てきた確率の問題ね。」


 夏休みに入ってすぐ、高校では単位が危ない生徒たちの為の集中補講が開かれる。この日も黒板に丁寧な字を書きながら、聖は生徒たちに解き方を説明していた。この補講を受けるのは、テストで赤点を取ってしまった生徒たち。補講の後に受ける追試の結果次第では留年確定なので、普段不真面目な者も真剣に授業を受けている。


 しかし、この教室の中にただ1人。右から左へと受け流す者が居た。

 

「(ふぁ〜……、眠い。)」


 大きな欠伸をしたのは勇者アレックス。期末テストを全教科31点で赤点を回避した猛者である。本来彼はこの補講に参加する必要はないし、そもそもこれは2年生向け。アレックスが習っている範囲外の補講だ。

 

「こらそこ欠伸しない!……ってあれ、誰もしてない?ごめんなさい、私ったら。空耳かしら?」


 欠伸の気配を察知した聖が振り返るが、視界に映るのは真面目に授業を受けている生徒だけだった。聖は首を傾げながら補講を再開する。


「(あ、あっぶねぇ!)」


 アレックスは慌てて口を押さえた。そう、聖はアレックスの姿を()()()()()()()。イザベラに不可視の魔法を掛けてもらう事で、アレックスは彼女に気付かれないように監視しているのだ。


「(メガネ先生といい、聖センセイといい、何で後ろ向いてんのに気がつくんだよ!?)」


 何故此方側の世界の教師は魔法も使わずに気配を察知できるのか。いや、彼女が件の呪術師(シャーマン)だったならば魔法を使っているかもしれないが、仮にそうだとしてもメガネ先生について説明できなくなる。やはり此方側の世界の教師は皆達人級の気配察知能力があるのだろう、とアレックスは納得した。


 その後も補講は続き、ひと段落ついたところで終わりを告げる鐘が鳴る。アレックスは途中何度か意識を飛ばしかけたが、何とか監視を終えたのだった。



 

「お疲れ様です。……寝てませんよね?」

「寝てねぇよ!つか、なんっで俺が補講中の監視役なんだよ!俺が1番向かねぇことくらい少し考えりゃ分かるだろーが!」


 補講後、教室を出たアレックスを出迎えたのはノアだった。開口一番に寝落ちしなかったかと確認する彼に、アレックスは文句を言う。


「恨むなら負けた貴方自身を恨んでくださいよ。()()()ジャンケンで決めたでしょう?」

「心理戦で俺を嵌めたくせに何言ってやがる!」


 1から話すと長くなるので割愛するが、簡潔に言うと、アレックス以外が「グーを出す」と宣言した癖にパーを出してきた。負けた。……である。


「人を無条件に信じる人間が愚かなんですよ。」

「仮にも勇者一行の1人なんだよな?お前。」


 こんなことを平然と言う奴が世界を救う為に立ち上がったのかと思うと、アレックスは泣けてきた。そんな彼を励ますかのように、ノアは弁当を差し出す。


「とりあえずお疲れ様です。お昼ですし、ご飯でも食べましょう。今はシャーロットさんたちが聖先生についてますし。」

「それもそうだな。あー疲れた。」


 2人はそのまま廊下を進む。適当な空き教室を探して2人は歩いて行った。





 

「聖先生、お疲れ様です。コーヒーでもいかがですか?」

「藤間先生。有難うございます。」


 藤間が差し出した缶コーヒーを受け取りながら、聖は礼を言う。今はお昼休み。職員室には補講を終えた教師たちが各々昼食をとっていた。


「どうですか、補講は。」

「流石に皆気合い入ってますねぇ。留年はしたくないでしょうし。」

「アハハ、そりゃそうだ。うちの子たちも似たようなもんです。」


 実際のところ、学校側としても留年する生徒を出したくはない。だから追試の問題は本当に基礎的なものばかりだ。集中補講はそういった基礎で躓いてしまった生徒を教員側が把握する場でもある。


「聖先生はこの後漫研ですか?」

「はい。補講であまり顔を出せてなくて……。」

「無茶しすぎないでくださいよ。貴方が倒れたら生徒たちが悲しみますから。もっ、勿論わた」

「そうですよね!程々に頑張ります!」

「あ、はい……。」



 

 藤間のアピールに全く気がつくことなく流す聖。そんな2人の会話を盗み聞きしていたシャーロットとイザベラは思わず藤間に同情してしまった。


「(聖先生は天然だからな……。可哀想に。)」

「(あの野暮ったいメガネ先生、聖先生のこと好きなのねぇ。可愛い♡)」


 勿論2人はアレックス同様不可視の魔法が掛かった状態で職員室に居るので、誰にもバレてはいない。結局聖たちは談笑しながら昼食をとり、何事もなく昼休憩は過ぎていったのだった。






「みんな〜、遅くなってごめんねぇ〜。」


 昼食後、聖が向かったのは部室棟の4階12号室。()()オカルト研究会の隣の部屋が漫画研究会の部室だった。彼女がガラッと扉を開けると、オカルト研究会に引けを取らない澱んだ空気が勢いよく外に流れ出る。

 

「あ、先生!補講お疲れ様です!」

「待ってたよ先生!助けてぇ!」

「ちょっと誰か!13p目が見当たんないんだけど知らない!?」

「いやぁぁぁぁ!インクこぼしちゃったぁぁぁ!」


 澱んだ空気の発生源である漫画研究会の部員たちは、各々必死に手を動かしながら作業を進めていた。いつも通りの光景に、聖はニコニコしながら対応していく。


「もう皆頑張りすぎ!空気が悪くなってるから換気をして1度休憩しよう。」


 そう言って彼女は一人ひとりの肩を叩きながら部室の中を進んでいく。


「その前にインクこぼしちゃったのをなんとかしましょうか。どれどれ……良かった、こぼした範囲はそこまで広くないわね。」


 生徒の1人が汚してしまった机周りを瞬く間に片付けていく聖。その手際の良さに、生徒たちは感嘆の声を上げる。原稿については一旦乾かしてからホワイトで修正することにして、聖は机の下から落ちていた原稿を拾った。


「はい、13pの原稿。書き終えたら一旦保管箱に入れなきゃダメでしょ〜。」

「ご、ごめんなさい……。」

「それと、ここの展開についてはもう1度練り直した方が良いかもね。休憩しながら話し合いましょう。」

「流石先生!神〜!」



 

「「(す、凄い……ッ!)」」


 そんな聖の様子を監視していたツトムと杏は心の中で叫ぶ。ほんわかした雰囲気からは想像がつかない程のテキパキとした対応に、2人は驚きを隠せなかった。


「そうそう、皆に差し入れ持ってきたわよ!頭と手を動かしたら糖分補給しないとね。」


 皆が机の上を片付けて席に着いたのを確認すると、聖は鞄の中から小さな包みを取り出した。可愛らしくラッピングされた袋の中には、プレーンとココア味のクッキーが沢山入っている。それを見た生徒たちは目を輝かせて喜んだ。

 

「あ、先生のクッキー!やったあ!」

「そうだ紅茶!紅茶持ってきます!」

「紙皿とコップも出さないとね!」


 きっとこれがいつもの漫研の活動なのだろう。生徒たちは慣れた手つきでティータイムの準備を始めた。それまでの澱んだ空気は消え去り、部室は穏やかで楽しそうな雰囲気に包まれる。


「(ねぇツトム。)」

「(何?)」

「(本当に、聖先生は呪術師(シャーマン)なのかな?)」


 魔法道具による通信で、アレックスやシャーロットたちからは特に不審な点は見られなかったとの報告を既に受けている。そして今、漫研での活動の様子を見ても彼女がそんなことをする人間には思えなかった。


「(……分からない。本性を隠すのが上手いだけかも。大人は俺たちよりもずっと取り繕うのは得意だし。)」

「(……そう、だね。)」


 所詮自分たちは何の力もない子供だ。ツトムは誰よりもそれを理解していた。大人たちに良いように利用されないよう、知識や経験を積んでいくしか対抗する術がない。そして、それは現時点のツトムたちが持ち得ないものだった。


「(監視はこのまま継続。油断しないでいこう。)」

「(うん。)」


 2人は警戒を怠らないよう、再び気を引き締めた。






「……何故此処に来た。」


 旧校舎の多目的ホール。昼間で窓が多いからか日光が差し込み、ホール内は明るく照らされていた。


「貴様には当分校内への立ち入りを禁じた筈だが。」


 ホール内の舞台に立っている男は、客席に居る老人を見下ろしながら告げる。その殺気立った声色から男の怒りを感じた老人は、冷や汗をかきながら頭を下げた。


「申し訳ございません。ですがどうしてもお伝えしたいことがございまして……。」

「……チッ、手短に話せ。」

「御意。」


 何とか首の皮が1枚繋がった、と老人は内心でホッとする。以前、自身で改造した魔物を実験として勇者一行やその関係者、そして呪術師(シャーマン)の元へと送り込んだのがバレて、危うく殺されそうになったのだ。


「(とっとと邪魔者たちを殺せば良いものを。)」


 老人は心の奥底で独りごちる。老人としては聖女は実験台として興味があるくらいで、それ以外はどうでも良い。だが、目の前の主人(甘い男)はいつも殺しを避けようとする。


「(此方側で生まれ育つとどうにもいけない。)」


『人を殺してはいけない』等、此方側の世界のルールに主人は毒されている。そう思いつつも、老人は目の前の男に従った。


「屋敷から魔王と鈴木莉花が消えました。」

「……所在は?」

「現時点では不明です。」

「……ついに動き出したか。」


 それまで全く動きを見せなかった呪術師(シャーマン)陣営も何やらするつもりらしい。男は溜息をつきながら老人に告げた。


「1番避けたいのは、勇者一行と魔王が手を組んでくることだ。そうなると我々に勝ち目などない。」




「……今日勇者一行と聖女が学校に来ている。隙を見て聖女を連れて来い。」


 男の言葉を受け、老人は気味の悪い笑みを浮かべたのであった。

ジャンケン時のアレックスの思考


え、皆グー出すのかよ!?

とか言って俺にパー出させてチョキで勝つパターンだろ!

よし、じゃあグーだな!


先に宣言されちゃうと色々こんがらがりますよね……。

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