勇者一行、テストに挑む。
第2章最終話です。
「「襲撃を受けた!?」」
ボロボロになって帰宅したノアたちからの報告を受け、アレックスとツトムは驚愕した。各々勉強してたにせよ、随分と帰りが遅いとは思っていたがそんなことがあったとは。
「その反応を見るに、アルたちは襲撃を受けなかったんですね?」
「ああ。」
「「「……。」」」
アレックスの返答を聞いて、ノアたちは顔を見合わせる。
「あのね、ダーリン。私たち、外に居たから戦闘中に他の場所でも魔物が襲ってることには気が付いていたの。」
「特に強い気配を感じたのはノアのところだったが、その次に強い気配を感じたのは……杏の家付近だ。」
「「えっ!?」」
つまり自分たちの近くにも魔物が発生していたことになる。だが、その話を聞いてツトムは疑問に思った。
「けど、化け物が出たとか襲われたとか……魔物が発生していれば騒ぎになりそうなもんだけど。そんな話聞いてないし、田中と鈴木は連絡くれたよ。」
解散する時、もしものことがあってはいけないと田中と莉花には家に着いたら1度連絡してほしいと伝えてあったのだ。そして2人とも無事に家に帰っていることは確認済みだ。
「……つまり、俺たちが居ないところで誰かが魔物と戦って倒してたってことか?」
「おそらく。何者かは分かりませんが、敵にとって始末しておきたい存在だったんでしょうね。僕たちが襲われたことも踏まえると、敵は分散した戦力を叩こうと前もって計画していたのでしょう。」
今回アレックスたちが襲われなかったのは、結界の影響が大きい。エリザベスの魔法によって、山田家は外部の攻撃から常に守られている。そして杏の家も、杏が聖女として覚醒したあの日から、その溢れ出る魔力で聖域と化してしまった。雑魚の魔物であれば触れただけで消し炭となってしまう為、容易に近づけないのだ。
「今回の襲撃が魔王と呪術師によるものなのか、それとも黒幕によるものなのかは分からない。どちらにせよ警戒をしなければ。」
「人知れず魔物を倒したのが誰なのかも気になるわねぇ。ま、今日はもう遅いし、明日気配があった辺りを捜索しましょ。何か手掛かりがあるかも。」
このまま話していても結論は出ないだろう。5人はモヤモヤした気持ちを抱えたまま解散したのだった。
しかしそれから1週間。魔物の襲撃など無かったかのように穏やかな日々をアレックスたちは過ごしていた。
「結局なーんも分かんなかったな。」
「いっそのこともう1回襲撃してくれないかしら。」
「それは勘弁してほしいんだけど……。」
襲撃の翌日、アレックスたちは朝早くから魔物が発生した地点へ向かい調査を行なった。だが案の定魔法を使った痕跡は見られたものの、誰がやったのか結びつく手掛かりはなかったのだ。更にそれまでぼちぼちあった襲撃がパッタリと止み、テストも近いからとなあなあになってしまった。
そして今日はテスト当日である。
「アレックス、お前本当に大丈夫なのか?赤点は勘弁してくれよ?」
莉花の指導もあって初期に比べたらかなりマシにはなっていたようだが、それでも他国……それも異世界のテストなど難易度が高いだろう。アレックスが頑張る姿をずっと見ていたツトムとしては、何とか結果に結びついてほしいところだった。
「ツトムお前なぁ……。」
そんなツトムの心配をアレックスは鼻で笑う。どうやら自信があるらしい。ツトムが半信半疑な表情をしていることに気が付いたアレックスは胸を張って宣言した。
「安心しろ。30点は取れるようになったからな!」
「……ハァァァァァァァァ。」
期待した自分がバカだった。ツトムは大きな溜息をついた。
「何溜息ついとんじゃお前ェェェェェ!」
「そこは誇らしげに言うことじゃないですよアル。見なさい、ツトムの顔から生気が失われているじゃありませんか。」
「30点だと赤点だぞ、アル。」
「ダーリン……ご愁傷様。」
「見てろよお前ら絶対赤点回避して見せるからなぁッ!」
朝の通学路で、アレックスの声は大きく響き渡った。
テストは3日間に渡って行われ、何事もなく終了する。最終的な順位が掲示されるのは1週間後。赤点は30点以下で、赤点科目がある者は夏休み期間中の集中補講に強制参加させられる。そしてその後に行われる追試で赤点以下だと留年確定だ。
「みんな大丈夫か……?」
職員室では教師たちによる採点が行われている。ツトムたちの担任であるメガネこと藤間は、自分の担当である数学を採点しながら呟いた。
今回の内容は基本中の基本。ここを抑えておかないと、今後の授業はまずついていけないだろう。特に藤間のクラスには少し……いや、かなり不安な生徒が2名居る。
「(アレックスと田中……アイツらとは夏休み期間中も顔を合わせることになりそうだ。)」
2人とも決して地頭が悪い訳ではないのだが、日本のテストを受けるのが初めてのアレックスと、野球部の練習で疲れてるのか授業中爆睡している田中。残念ながらあまり期待できない。クラスの優等生たちと共に勉強していたようなので、きちんと報われてほしいところではあるのだが……。
「あら藤間先生。眉間に皺寄せて大丈夫ですか?跡ついちゃいますよ。」
「ひひひ聖先生ッ!?」
優しく包み込むような声がする方を見遣ると、2年の数学教師である聖と目が合う。ひとつ上の先輩にあたる聖には着任当時から世話になっている。彼女のほんわかした雰囲気に何度救われたことか。藤間は慌てて眉間の皺を伸ばした。
「ふふ、藤間先生は相変わらず面白いなぁ〜。採点、大変そうですねぇ。」
「はは、はい。皆頑張ってるのは伝わってくるんですが、少々心配なのが2名おりまして……。」
まだ問題児2名の採点はやっていない。藤間は胃が痛くてしょうがなかった。
「そういえば、藤間先生のクラスにも留学生の子が居ますものね。アレックス君……だったかしら?」
「ええ。日本のテストってだけでハードルが高いのは重々承知しているのですが、ルールはルールですから。後は田中がどこまでできるか……。」
「田中……ああ、野球部期待の新人君ですね。でも、流石に大丈夫じゃないですか?ほら、集中補講って思いっきり夏の地区大会予選と被ってるでしょう。試合に出られなくなる事態だけは避けると思いますよ。」
「……だと良いんですけどねぇ。」
藤間は胃を痛めながら採点を続けた。
そして、テストの順位が掲示される日がやってきた。学年掲示板の前に総合の順位と各科目の順位の書かれた紙が貼られていく。皆が一斉に集まるので、下の方の順位は全く見えない状態だ。
「さっすが莉花。あれだけアレックスたちの勉強に付き合ってあげてたのに全科目1位って……。」
分かりきっていたことだが、学年総合も各科目も1位は莉花が独占していた。しかも殆ど満点。唯一満点を取れなかった国語も98点だ。
「ふっふっふ〜。もっと褒めていーよ!……国語はもうちょっと頑張らないとなぁ。」
「まだまだ高みを目指しますか。莉花のそういうとこ、凄いと思うよ。私ももっと上を狙っていかなきゃだねぇ。」
見た目こそギャルの彼女だが、勉強熱心なのは杏をはじめ皆が知っている。そう呟いた莉花を見て、杏も現状に満足せずもう少し苦手科目を克服しようと思った。
一方の男性陣はというと……
全体的に成績が良いツトムは、どの科目も上の方に載っているのですぐに分かる。総合も10位以内に入っていた。
「俺は……6位か。まあまあだな。」
「死ね。」
「ゴブリンに身包み剥がされろ。」
友人からの温かい祝福をツトムは意に介さない。正直自分より隣の2人が心配なのだ。周りの生徒がテスト結果に一喜一憂しながらだんだんと引いていく隙をついて、ツトムたちは前の方へと入り込んだ。
「アレックスアレックスアレックスアレックス……」
「田中田中田中田中田中……」
「ブツブツ呟くな怖い。」
まずは数学。2人は死に物狂いで自分の名前を探す。そのまま下の方へと目線を移していくと、だんだんと赤点ラインが視界に入ってきた。
「頼むからラインより上!ラインより上ェェェェェ!」
「赤点取ったら殺されるゥゥゥッ!」
あまりに2人が叫ぶので、ツトムたちは周囲から奇異の目を向けられていた。やめてくれ、コイツらと同類扱いは嫌だ。そう思ったツトムであったが、2人が死にそうな顔で抱きつかれているので手遅れである。とっとと離れてほしいので、彼は赤点ラインの真上から見ることにした。
「……あ、あった。」
「「どこ!?」」
「ほらここ。」
そう言ってツトムが指差したのは、赤点ラインの境目。恐る恐る2人が見ると、確かに名前があった。
430位 田中 勇 31点
アレックス・スミス
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431位 赤井 修 30点
「「よっしゃああああああ!」」
正直魔王倒すことよりずっと嬉しいかもしれない、なんて思ってしまうほどアレックスは歓喜した。
正直中学最後の大会で逆転満塁ホームランを打った時より嬉しいかもしれない、と田中は思わずガッツポーズをした。
赤点を回避した2人は涙し、熱い握手を交わし、抱擁する。漢の友情がそこにあった。
「……何やってんの、アイツら。」
「と、とりあえず赤点回避したのかな?」
その様子を遠巻きに見つめる杏と莉花は、一緒に行動してなくて良かったと安心する。一方で色々と諦めたツトムは、先に他の科目の2人の成績も確認していく。
「え……まじか。」
そう呟いたツトムの言葉は、騒がしい2人の耳には届かなかった。
「よう、31!」
「お、今日は31ダブルで登校かよ!贅沢だなぁ。」
「おい31、今日の日直お前だろ。」
「「だから31って呼ぶんじゃねぇよ!」」
1学期期末テスト。結果として、アレックスと田中は全教科赤点を回避した。そう、全教科31点で。
「つうかアレックス、お前何で英語まで31点なんだよ!?英語圏のアドバンテージはドブに捨てたのか!?」
「仕方ねぇだろ!解答欄ズレちまったんだから!」
そう、アレックスがあれだけ余裕ぶっこいていた英語。解答自体は合っていたのだが、途中から解答欄が1つずつズレていたのである。
……という訳で全教科31点、赤点ボーダーラインをスレスレで突破した彼らは『31のダブル』という不名誉な渾名が定着してしまった。
次のテストはもっと真面目に勉強しよう。そう心に誓った2人なのであった。
「お帰り。てすと……だったか。結果はどうだったんだ。」
時は少し遡り、テスト結果が張り出された日のこと。少女が古びた洋館に帰ると、魔王が顔を出した。漆黒の黒髪に、恐ろしいほど美しい赤い瞳。相変わらずこの世のモノとは思えない、畏怖さえ感じさせる美貌だ。実際彼女……いや、彼は此方側の世界の住人ではないのでこの表現は間違っていない。
「いつも通りだよ。私、手は抜かないもの。」
少女は鞄の中からテストを取り出して魔王に見せる。
丸で埋め尽くされた解答用紙。名前の横には殆ど同じ数字が並んでいた。
「勉強も、魔法も、青春も、それから友情も……私はいつだって全力だよ。」
少女は目を閉じて1週間前の魔物の襲撃を思い出す。勉強会の帰り道、突如として現れた魔物に襲われたのだ。恐らく、以前召喚陣に細工をした奴らが犯人だろう。あれから襲撃は止んだが、あれだけ堂々と姿を現したのだ。今後敵が何をしてくるか分からない。
だから少女は決意した。奴らは自分たちだけでなく、大切な友人たちも傷付けようとしている。もう、迷っている暇はない。
「それを邪魔する奴は誰であろうと許さない。」
少女――鈴木莉花は、静かに呟いた。
Q.何故テスト期間中の襲撃はなかったのですか?
A.黒幕「試験勉強に集中して欲しかったからです。」




