勇者一行、勉強会に参加する。
珍しく筆が進みました。
結局、勉強会は陽も交えての開催となった。流石に人数が多いので、リビングを借りてやっている。杏の母は邪魔するといけないからと、趣味のガーデニングに没頭中だ。
「おい待て、xだけでも限界なのにyを追加すんじゃねぇ!」
「田中うるさい。」
「お前それ中学のレベルだろ。」
「そんなのもできないの?高校生なのに?」
「小学生にまで罵倒された……。」
とりあえずそれぞれが苦手な科目を勉強し、分からないところはそれが得意な人に聞くというスタイルで進めている。田中は数学が苦手なのだが、どうやら中学の二次関数の時点で既に躓いていたらしい。これは相当力を入れないと赤点まっしぐらだ。
「ねぇ、ツトム。ここの英文の訳なんだけど……。」
「うん、見せてみて。」
杏の成績は上位だが、それでも勉強に手を抜かない。英語が得意なツトムに聞こうと問題集を取り出すと、自然と2人の距離は近くなる。が、
「姉ちゃんに密着するなこの泥棒猫!」
陽がそんな良い雰囲気を邪魔しないわけがない。
「お前何処でそんな言い回し覚えてくるんだよ?」
「多分この前お母さんが録画してた昼ドラ見たせいだ。ツトムごめんね。陽、これ以上邪魔するなら自分の部屋に行ってなさい。」
「……。」
「陽?」
「……ごめんなさい。」
陽に甘い杏だが、怒るところはしっかり怒る。流石に大好きな姉に怒られたのが心にキたらしい。陽は黙々と宿題をやり始めた。……相変わらずツトムに対して殺気は隠せていないが。
そんな様子を見て、アレックスも勉強しなければと気持ちを切り替える。名優の腕輪によるアメリカ人設定のお陰で英語に関してはほぼ完璧だが、それ以外の科目についてはあまり効果がないようだ。今アレックスが挑もうとしているのは国語だが、どうにも手が進まない。
「ンー……。」
アレックスが呻き声を上げていると、隣に居た莉花が問題集を覗き込んできた。
「お、どうしたアレックス?鈴木様が教えたげよーか?」
そう言ってニコリと笑う莉花。きっと自分の勉強をしながら、アレックスや田中のことを気に掛けてくれていたのだろう。現に彼がツトムと杏のやり取りに目を遣っているうちに、田中の二次関数問題は解決していた。アレックスは莉花の気遣いに感謝する。
「おお、頼むわ。ここの『花子の気持ちを答えよ』って問題がイマイチよく分かんなくてさ。国語って答えが明確じゃねぇからどう答えれば良いんだか。」
「ちょっと分かるかも。書き方は人それぞれだし……そもそも他人の気持ちなんて、分かるわけないのにね。」
「?」
「でも問題にはちゃんと答えがある!文章の中から予めキーワードを抜き出すのがポイントだよ。」
そう言って莉花は、問題集の波線部をシャーペンで指し示しながら続けた。
「人物の気持ち、行動に変化を与えた出来事やモノが必ずあるはず。それがキーワード。それを入れつつ、解答を作っていこう。」
「お、おお!」
見た目で勘違いしていたが、莉花は本当に頭が良いらしい。自分で理解するのはともかく、それを他人に分かりやすく伝える、というのは難しい。それを難なくこなしている辺り、ただの暗記ではなく自分の中で上手く消化してモノにしているのだろう。
「鈴木、お前すげーな。」
「えっ。どしたの、突然。」
「俺や田中みたいな馬鹿にも分かるように説明できるって、中々できないことだと思ったからさ。」
ポカンと口を開けたままの莉花に向き合うと、アレックスは改めて礼を言った。
「ありがとな、鈴木。」
「え。あー、うん。どう……いたし、まして?」
莉花は少し照れくさそうにしながら目を逸らした。
「サラッと俺も馬鹿呼ばわりされた……。」
田中の愚痴は誰も聞いていなかった。
「日も暮れてきたし、そろそろお開きしよっか。」
莉花の声で皆は一斉に顔を上げる。時計を見遣ると、勉強会を始めてから既に3時間以上が経過していた。まだまだ空は真っ暗ではないが、あまり長居すると杏の家に迷惑がかかる。
「そうだな。とりあえず部屋の片付けすっか。」
勉強会用にと佐藤家が用意してくれた長机はアレックスと田中が片付ける。その間に、ツトムと杏と莉花で飲み物やコップを仕舞いに行った。
「莉花、今日はありがとう。結局私やツトムまで見てもらっちゃって。自分の勉強は大丈夫だった?」
キッチンで片付けていると、杏が不安そうに莉花を見た。元々ツトムと2人で開催予定だった勉強会だが、あまりにもアレックスが不安で彼も誘おうと考えていたのだ。そこに莉花が参加してくれたお陰で今回のように開催できた。
「だいじょーぶ!人に教えるのって結構勉強になるんだよね。理解も深まるし、自分の弱い所を発見できるから。お礼が言いたいのはむしろこっち。」
そう言って莉花は最後のコップを流し台に置き終える。そして、ちょっとお手洗い行かせてほしいと言ってキッチンから出ていった。そしてツトムとすれ違いざまにこっそりと耳打ちする。
「お家デート邪魔してごめんね♡」
「ででデっ……!」
「?」
そうして2人きりとなった部屋で、ツトムは1人顔を赤くして俯いてしまったのだった。
「菫先輩とノア先輩のお陰で、今度のテストも乗り切れそうです!」
一方で、部活を終えた生徒たちが通る通学路。ノアもオカルト研究会との勉強会を終え、帰宅しているところだった。
「それは良かった。ですが、美園さん。継続して復習しなければ身につかないですからね。」
「は、はい!頑張ります!」
美園はノアの忠告をしっかりと受け止める。ノアとしても、どっかの愚弟と違って素直なのでとても教え甲斐がある。
「上田君とムロ君も、問題を解くスピードがかなり上がってきていました。この調子でテスト上位を目指しましょうね。」
「「はい会長!」」
会長の菫は学年TOP5に入る秀才だ。このメンバーで勉強していれば、まず赤点を取る人間はいないだろう。頭を使ったし、帰りに甘いものでも買って帰ろうかという話になった時だった。
「……先輩。」
室町が声を掛けると同時に、皆の足元が止まる。何故彼が突然皆を呼び止めたのか。此処に居る全員が理解していた。
「ええ分かっていますよ、室町君。……どうやら敵は手段を選ぶのをやめたようです。」
ノアが振り返った目線の先に居たのは、植物らしき何か。毒々しい色合いの鋭い花弁は、まるで金属のような光沢を放っている。そしてその花弁の中心には、旧校舎で嫌というほど苦しめられた赤い球が輝いていた。
「皆さん、甘味処に行くのはコレを倒してから。良いですね?」
そう言って菫は懐から護符を取り出して展開する。すると周囲が清らかな空間に包まれた。
「気休めですが、無いよりかはマシかと。」
「いえ、敵がどのような攻撃をするか分からない以上、念には念を入れた方が良いでしょう。」
今まで襲ってきた魔物たちとは一線を画す殺意の塊、魔核の守護者。
「(アルたちと連絡を取りたいところですが……)」
――ヒュン。
その刹那、ノアの右頬が斬られて血が流れた。どうやら刃の花弁を飛ばしたようである。
「ノア先輩!」
美園は慌ててノアに駆け寄って回復魔法をかけようとするが、ノアはそれを制止した。
「擦り傷です、問題ありません。美園さん、回復魔法はここぞという時にお願いします。」
「は、はい!」
「それと上田君!君は周囲と遮断する結界を展開してください!」
「承知しました!」
「それから室町君。この戦い、僕と君が攻撃を担います。責任重大ですよ。」
「ウス!」
サポート役が多いこの編成では、ノアは攻撃役に回った方が良い。司令塔は菫に任せ、彼は目の前の魔物を見据える。
「(おそらく、僕以外の皆の前にも魔核の守護者レベルの魔物が出現している。早く倒して合流しなければ。)」
「精霊たち、頼みますよ!」
オカルト研究会vs魔核の守護者――開幕。
久々の戦闘シーンが入ります。
ノアとオカルト研究会がどうやって魔核の守護者に挑むのか、お楽しみに。




