勇者一行、杏の家にお邪魔する。
新年初投稿です。
「は?」
それは突然のことだった。
いつも通りのHR。担任のメガネこと藤間が、終業の鐘が鳴る直前に放った一言。
「お前ら、期末テストで赤点取ったら補習だからな。」
期末テスト。
アレックスは、名優の腕輪のお陰で此方側の世界の知識は頭に入っている。だからその単語の意味も理解している。いるのだが……
「ぜっっっっったい受けたくねェェェェェ!」
鐘と同時に、アレックスの悲痛な叫びが教室中に響き渡った。
「は〜……もうそんな時期かぁ。」
お昼休み。屋上で青い空を見上げながら、田中が呟く。残念ながら、田中はそこまで勉学が得意ではない。
「でも赤点取ったらレギュラー剥奪なんだろ?確か。」
「だからヤベェんだよぉ……。」
アレックスから突っ込まれ、田中は大きく頭を抱えた。彼らが通う高校は文武両道を掲げている。全国大会に出るような部活動であっても、最低限の学力がないと試合や大会に出させてもらえないのだ。
「という訳だ。頼む山田!俺に勉強を教えてく……」
「断る。」
「何でだよ!?親友の危機だぞ!」
昼食の唐揚げを頬張りながら、ツトムは断った。
「杏の家で勉強会するからお前に構ってる暇ない。」
「このリア充金髪野郎がァァァァ!」
「……友情って儚いんだな。」
まあ誰の目から見ても、杏と田中だったらツトムは間違いなく前者を取るだろう。ただ泣いて縋る田中があまりにも可哀想だったので、アレックスは田中に加勢することにした。
「ツトム、その勉強会に田中も参加させてあげたらどうだ?あと俺もこのままだと赤点一直線だから助けてほしい。」
「は?杏の部屋に野郎共を入れる訳ないだろ。」
「「テメェも野郎じゃねえか!」」
前々から思っていたが、ツトムは杏に対して過保護だ。昔杏が誘拐されかけたことがあってのことらしいが、それはそれとして何というか……
「ツトム、独占欲の強い男は嫌われるぞ。」
「なっ……!」
「そうだぞ山田、親友に優しくできない男は嫌われるぞ。」
「お前俺の親友だったの?」
「友達辞めんぞテメェ!」
男共のくだらないやり取りが続く中、軽やかな足音と楽しげな笑い声が聞こえてくる。アレックスたちが屋上の出入り口を見ると、扉から出てきたのは杏と莉花だった。
「あ、いたいた!ツトム、この前話してた勉強会なんだけど。」
「うん、何?」
穏やかな表情を見せるツトムに、明らかに田中の時と態度が違うな……と心の内で思っても言わないのがアレックスの優しさである。田中が文句を言いたそうにしているのを抑えつつ、アレックスは2人のやりとりを見守った。
「折角だから皆でやらない?莉花も一緒にやろうって!」
「……えっ。」
ツトムが杏の提案に固まる後ろで、アレックスと田中はガッツポーズをする。別にザマァみやがれなんて思っていない。多分。
「そーそー!そこの赤点必至のおふたりさんにもこの鈴木様が救いの手を差し伸べてあげようかなーって!」
ツトムの目が点になっているのをスルーしながら、杏の隣で莉花がニヤニヤしながら此方を見る。
「す、鈴木様ァァァァ!」
その言葉に田中はとうとう梨花を拝み出した。いや、確かに自分たちも勉強会に参加できそうだし、きっかけを与えてくれたのは彼女に違いないが。ツトムは莉花をじっと見つめて、思ったことを口にした。
「それは有難いけど。……鈴木、お前勉強できんのか?」
「バッ、お前……!」
瞬間、田中は慌ててアレックスの口を塞ぐ。しかし、時既に遅し。その言葉は既に莉花の耳に入っている。その様子を見た杏は呆れた顔で言い放った。
「アレックス、莉花はうちの学年の首席入学者だよ。」
「は?」
シュセキ……首席?アレックスが混乱していると、ツトムが更に追い打ちをかける。
「ついでに言うと学費3年間免除されてる特待生。中学時代もずっと学年1位をキープしてた才女ってやつだ。」
「え?」
アレックスはギギギ……とまるでブリキの人形のように首を回して莉花を見る。莉花はアレックスにとびきりの笑顔とダブルピースを向けながら言った。
「どーも、才女でーす。」
「……。」
人を見かけで判断してはいけない。それはアレックス自身が1番よく理解していることだ。だってアレックスもよくただの一般人と勘違いされていたのだから。
それでも言わせてほしい。
「ウッッッッソだろぉッ!?」
その後、莉花に土下座して何とか勉強会に参加させてもらうことになったのだった。
「そういえば、ノアたちも勉強会には参加しないの?」
勉強会をしに杏の家に向かう途中、ツトムはふと疑問に思ったことをアレックスに尋ねた。
「あー。そもそもあいつら学年違うしな。ノアはオカ研の奴らと勉強会で、イザベラは元々1人で勉強したいタイプだ。あとシャーロットはクラスメイトとやるって言ってたぜ。」
他3人もそれなりに学生生活を満喫しているのだろう。ツトムはそのことに安堵しつつも、アレックスに耳打ちする。
「……魔物が出てきた時どうする?田中たちには魔法のこと言ってないぞ。」
ここ最近、勇者一行の前に魔物が出現している。基本雑魚でツトムでも倒せるレベルだが、流石に非戦闘員2人を庇いながら……且つ魔法の存在を隠しながら戦うのは厳しい。
「うーん。多分だけど、出ないと思う。」
「えっ。」
「ノアたちとも話したんだけどな。どうにも魔物が出るのは杏と俺たちが一緒にいる時だけみたいなんだ。」
あれだけ魔物が出現しているのだ。てっきり一般人にも被害が出ているのではと思っていた。だが、此方側の魔法使いが集うオカルト研究会のメンバー曰く、ノアに報告されるまでその様なことは聞いたことすらなかったらしい。そして勇者一行が部活動などで杏と共に帰らなかった時、魔物に出くわしたことが誰1人としてなかった。
以上のことから導き出されるのは、
魔物は……杏を狙っている、ということだ。
「杏が一般人と居る時は出てきてないんだよ。奴らは人目を気にしてる。本気でやるなら学校に居る時に襲えば良いしな。」
そもそも本気で命を奪う意志を感じられない。勇者一行が側についているのは敵だって分かっているはずだ。にも関わらず、雑魚の魔物しか寄越してこない。
「(杏の実力を測ってるのか、それとも……。)」
此処からは憶測に過ぎないので、アレックスは敵の真の目的についての考えは胸の内に秘める。そうこうしているうちに杏の家に到着した。
「……という訳で、ご紹介します。佐藤家でーす!」
茶色レンガの洋風の家。ツトムはもう見飽きているレベルだが、田中と莉花は杏の家に興味津々らしい。
「おしゃれだなぁ。すげー。」
「感想が小学生レベルだよ田中……。」
田中を罵倒しながらも、莉花もボーッと杏の家を眺めている。杏の家はガーデニングに拘っているので、思わず見惚れてしまうのも仕方がない。
「なんかジーッと見られると緊張するね。さ、勉強会するんだから早く家に入ろ!」
杏は照れながら家の扉を開ける……と同時に中から小さな影が飛び出してきた。
「姉ちゃんおかえりー!」
「陽、ただいま!」
小さな影の正体は、杏の弟・陽だ。陽は杏に抱きつくとニコニコと天使の様な笑みを浮かべた。相変わらず姉にベッタリな彼は、いつもああやって杏に甘えている。しかし、杏の後ろにツトムが居ることを確認すると一気に顔を顰めた。
「げ、ツトム。」
「げ、とは何だ。げ、とは。」
ツトムの問いかけに完全スルーを決め込んだ陽は、姉に再び抱きついて甘え出した。
「姉ちゃん、勉強教えて!」
「ごめんね、陽。今日はお姉ちゃん友達と勉強会するから、お母さんに教えてもらって?」
「やだぁ!一緒に勉強する!」
「えぇ……。」
困惑している杏からは見えていないようだが、陽は杏の身体の隙間から顔を覗かせ、此方(莉花以外)を威嚇している。
「……なあ、ツトム。何これ。」
アレックスからすれば仔犬みたいで可愛いものだが、それはそれとして初対面でコレは結構傷つく。一方でツトムの方はというと、完全に『無』の表情だった。
「ああ、アレがシスコンってやつだな。杏の家に行く為の通過儀礼だよ。」
「お前、頑張ってたんだな……。」
その表情から色々と苦労してきたことは分かった。
今年も宜しくお願いします!




