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母と妻と女の狭間で・・・   作者: 透明ゆき
3/7

留学・青春・出会い編 P40-P59

Tel・Tel・Tel ・・・


 突然電話が鳴って、とてもびっくりした!


〈もしかしてあさひ?〉


「Hello?」


 私が電話にでると、


「起きた?」


 寧子だった。


〈あさひが、うちの番号知ってるわけ無いか〉


「なに?どしたの?」


 私が答えると、


「教会で、紗季のH・ファミリーに会って

まだ、紗季が寝てるって聞いたから、

電話したの」


「え、寧子は朝普通に起きたの?」

 

 私が聞くと、


「そうだよ、朝の礼拝に行かないと夜出るの

禁止になっちゃうもん」


 寧子はもともとクリスチャンだったから、

日本にいる時から、日曜礼拝に行っていたから、

違和感はないみたいだった。


〈やっぱり寧子は、お嬢様だ!〉


「寧子はえらい、真面目だね」


 私は素直に感心した。

そしたら、寧子は続けて、


「モール行こうよ!」


 私は驚いた。

この辺の田舎っぷりは半端無くて、

ショッピングモールなんて聞いたことがない。


「そんなのあるの?誰と行くの?」


 続けざまに質問すると、


「うちのママが、連れてってくれるって。

で、紗季の話をしたら、一緒にどうって?」


 その誘いは素直に嬉しかったけど、

昨日のあさひの図書館での光景が目に焼き付いていて

正直、そんな気分になれなかった。

 

 それで、返事に困っていると寧子が、


「昨日別れ際、急に元気なくなったから、

ちょっと心配になったの」


〈ああ、寧子は心配してくれてたんだ〉


 そう思うと、ふっと心が10gぐらい軽くなって

急に元気が出てきた。


「ありがと、じゃあ行こっか」


そして、寧子が迎えに来てくれる事になった。


P41


 モールね、モール。


 それは、私が住んでるLewistonから、

ハイウェイ(高速道路)をひたすら走って、

2時間くらいの所。


 日本だったら、東京から清里くらいかな。


 普段私が住んでるLewistontって所は、

食料品と、洋服が売ってるくらいの、

ショッピングセンターがあるくらいで、

日本だったら、コープとしまむらが

並んで立ってる、そんな感じのところが

あるだけ。


 だから、ブランド品や、ちょっと難しい物は、

少し離れた、ってか、日本の感覚で言うと、

「一日掛けて、お出かけしよう!」って言うくらい

私の住んでるLewistonから離れてる、おっきな都市

Spokenに行かなくちゃならない。


 そうねー、日本だったら、アウトレットモール

に行く感じと似てるかも。


 モールに付いたのは、午後一時近く。

モールの名前は、”NorthTown Mall”



 ここは、今でこそ日本でもポピュラーな

ショッピングモールだけど、その時の私には

本当に珍しくて、お金がなくて買い物とかは

しなかったけど、一日楽しく過ごせた。


 後で寧子に聞いたんだけど、じつはこのモール行き、

寧子が「親友の紗季が元気がなくて・・・」って

寧子のママに相談したのがきっかけだったんだって。


 そしたら、ママが


「そんなの、女の子だったらショッピングに行けば

すぐに元気が出るわよ!」


 って、誘ってくれたんだって。

寧子のママには前にも会ったことがあったけど

(寧子がホームシックで、ママに呼ばれたことがある)、

あんなに長い間一緒にいたことがなかったし、

寧子の親友ってだけで、そこまで私のことを、

考えてくれたなんて、涙がでそうになった。


P42


 本当に楽しく過ごして、帰ってきたのは夜8時過ぎで、

ご飯までごちそうになって、私はあさひの事なんか、

全然忘れるくらい、Enjoyできて、ほんと感謝の一言。


 別れ際、ママが


「紗季、どんなに些細な事でも、

心配事があったら、寧子と私に話してね。

紗季と寧子は、大事な私の娘なんだから」


 って言ってくれた。

その言葉を聞いて、こらえていた涙が、

一気に溢れた。


 本当に素敵な一日を過ごして、

とにかく一生懸命勉強しよう!

そう、あらためて心に誓った。


 翌朝、久しぶりに気持ちのいい朝を迎えて、

いつもは一番早く起きる末っ子のJoyよりも

先に起きた。


 コーンフレークで簡単な朝食を摂ると、

さっそく、今日の授業の予習を始めた。


 と、言っても、いまだに日本なら中学校で

勉強するような、初歩的な授業だから、

真剣に机に向かったものの、10分もすると

飽きて、日本から持ってきた漫画を読んでたら、

電話が鳴った。


〈誰だろう?って、どうせ寧子でしょ〉


 そう思いながら、電話を取ると、

受話器の向こうから、寧子の元気な声が聞こえた。


「ね~知ってる?

また、今日から新しい生徒が来るんだって!」


 気が付くと、ここLewistonに来てから、

すでに、2ヶ月が過ぎていた。


 ここの授業は、1クール2ヶ月で、

2ヶ月毎に進級&卒業がある。


 だから、今回の日本からの学生は私達の後に

やってくる、新入生って事になる。


「へー、知らないよ。

何人ぐらい来るんだろうね」


 そう答えると寧子は、


「楽しみー♪」


 と、弾んだ声を残して電話を切った。

私も、どんな人が来るのか、

とても楽しみで、学校に行くのが、

いろいろな意味で、楽しみだった。


P43


 学校に行ってみると、クラスメートがみんな

新入生の噂をしていた。


男の子は口々に、


「可愛い娘いるかな?」


 当然女子が来るもんだと決めてるみたい。

とは言っても、女子達も似たようなもんで、

かっこいい人を待っていた。


 そろそろ授業が始める時間が近づいてくると、

みんなの期待はMaxで、教室のざわつきが、

最高潮に達した頃、唐突に見知らぬ女性が入ってきた。


「はじめまして、田中春美です」


 そこに立っていたのは、ストレートの

ロングヘアーで、女子と言えないほど

大人の雰囲気で、それでいて、

男前な性格を漂わせる女性だった。


 私でも思わず、


〈きれい〉


そう感じさせる人だった。


 晴美の後ろから、Dr.Nortonが入ってきて、


「She studies together from today.

彼女が、今日から一緒に勉強します」


と言った。


 晴美は、24歳。

大学の英文科を卒業後、普通に大学院も考えたが、

それよりも、もっと生きた英語を勉強したくて、

ここを選んだらしい。


「両親と、兄がいます」


晴美が言ったので、


「ああ、だからなんとなく快活で、

強さが見えるんだ」


 私はそう思うと同時に、

不意に嫌な予感がして、少し寒気がした。


P44


 男子達が、


「めっちゃきれい!いいなー」


とかって、みんな絶賛して騒いでいるから、


「そんなの、教室に先生よりも前に入って、

いきなり自己紹介なんて、ただ気が強いだけでしょ!」


 と、私は思った通りの印象を言った。

それを聞いた男子達は、


「晴美ちゃんが綺麗だからって、

まなくてもいいって」


 って、変な励ましをくれた。

でも、それを聞いたって嫌な予感は消えなかったし、

なにより、きれいなことは間違いないから、

それ以上、コメントはしなかった。


 それから数日は何事も無く過ぎたけど、

1週間が過ぎた頃、授業の終わりに、晴美が突然先生に、


「ここの授業は簡単すぎて、時間がもったいない!

もっと上級クラスに変えて欲しい」


 と言い出した。

私だって、前から授業が簡単だって感じてたけど、

だからって、学校のスケジュールだってあるだろうから、


「上級クラスに変えて」


とは言えなかった。


 それに、今ではクラスメートが、みんな仲の良い友達だし、

上のクラスに上がるなら”みんな一緒に”って思ってた。

それなのに、たった一週間で、


「上級クラスにして欲しい」


 とは、相当気が強いんだなって思った。

それを聞いた先生は、


「その事は、後で話しましょう」


 と言って出て行った。

すると、晴美はそれでは納得せず、

先生の後を追って、教室を出て行った。

 私はそれを見て、


〈ああ、アメリカってこういう所が、

日本と違うのかな〉


 って、晴美は日本人なのにアメリカ人みたいで

ちょっと感心した。


P45


 結局、晴美はその後も授業には来ないで、

そのまま、ランチタイムになった。


 みんなで、カフェテリアに行って、

ランチをしながら、晴美の事を話している所へ、

ちょうど本人が、


「あ、いたいた!」


 って言いながら、ピンクの可愛い小さな花がらの

ランチBOXを持ってやってきた。


 いち早くミチ君が見つけて、


「晴美ちゃん、それでどうなった?」


 と聞くと

「『うん、あの後、校長先生のDr.Christinaと

ずっと話してて、『すべてのクラスを上級に

することは出来ないけど、いくつかの

クラスは、上にできるわ』って言われたのよ」


 って、晴美が心から嬉しそうに答えた。

みんなは本当に喜んで、


「さすが晴美ちゃん、よかったね~」


 と、晴美と一緒になって喜んだ。


〈なにが、さすが”晴美ちゃん”よ!

白々しい〉


 私は、自分が思ってもやらなかったことを、

いい加減にせず、最後までやり通した

晴美がちょっと妬ましかった。


〈私だって、やれば出来たよ!〉


でも、おもいっきり負け惜しみ。

 

 ただ、自分の意思を通した、

晴美に驚ろかされたのも事実で、


〈凄い!晴美は本当に英語が勉強したいんだな!〉


 と、少し嫉妬しながらも、妙に感心していた。

そしたら、晴美が、


「みんなとは短い間だったけど、これからも

友達でいてね。どこかで見かけたら声をかけてね」


 そう言って微笑んだ。

その顔があまりに可愛いので、男子達は

思わず見とれて、その場に固まっていた。


P46


 その間1分少々。その静寂を破ったのは、

寧子だった。


「だいじょぶ、すぐに追いつくから、

待っててね」


 そう言うと、ミチ君に軽くパンチをした。

その寧子のパンチで、男子達は我に返って、


「そうそう、すぐに行くよ!」


と、寧子と同じ言葉を繰り返した。


〈アホ!、あんた達の頭じゃ、

死ぬ気で勉強しないと。

今のままじゃ無理でしょ!〉


 私は、心の中で、つぶやくと、

今度は晴美がどこのクラスに行くのかが、

気になった。


〈もしかして、あさひのクラスに行くのかな?〉


 そう、晴美が上級者クラスに行くことに

不満はないし、むしろそれだけ一生懸命なんだから、

上のクラスに行くのは、当然だと思った。


 それは良いんだけど、問題なのはそのクラスに

あさひがいたら。


 あさひは、この前の金髪の女の子と一緒にいたけど、


〈付き合っている確証はなかったけど、

私はあの気ブロンドの娘が彼女だと思う〉


それは、私が来る前からなんで、仕方がないから

もしも別れたらチャンスだと思えた。 


 でも、もしも金髪の女の子と別れて、

私よりも後から来た晴美と付き合いだしたら、

私だってチャンスがあったわけだから、

すっごく後悔すると思った。


P47


 晴美は本当に魅力的で、晴美がクラスに来てから、

まず、欠席者がいなくなった。


 なによりその勉強に対する真剣な姿勢は、

周りの人も巻き込んで、それまで授業に

いい加減だった男子達も、突然先生に質問をする

くらい、授業を真剣に受け始めた。


晴美が来てから、クラス全体の雰囲気が、


「とにかく勉強したい!」


 って感じに変わったのを、先生達は、良く


「晴美のおかげね」


なんて冗談を言うくらい、好意的に見ていた。


 先生達は熱意ある生徒を評価するけど、

まわりの生徒まで、変えてしまう生徒は、ほとんど

いないから、先生達にとっても、晴美は特別だと

考えていたみたい。


 晴美の明るい性格は、男女問わず誰からも好かれて、

授業が終わってから、カフェで勉強していると、

いつの間にか、晴美が座っている白く丸いテーブルが、

勉強する人で一杯になって、誰も無駄口を叩くこと無く、

真剣に机に向かう光景が、当たり前に見られた。


 そんな光景を見ていると、少し嫉妬したくなるものの、

晴美のことは嫌いじゃなくて、誰からも愛される晴美に、

妬ましく思ったことはなかった。


 そんな晴美を見ては、


「美人は得だね!」


 と、一言。


 私も同感だったけど、けっして美人だからってわけじゃ、

ないと思っていた。


「ちょっと悔しいけど、晴美ちゃんは良い人だもん。

当たり前だよね」


 私と寧子は、2人でため息を付いた。


P48


 翌日、もしかしたらと思って早めに教室に入ると、

いつもは一番先に来てるはずの晴美が、いなくて、

そこには誰もいない、クリアーな空間が

広がっているだけだった。


〈は~、やっぱりいないか〉


 私は、わかってたことだけど、はるみがいない現実を

目の当たりにすると、やっぱりショックだった。


〈当たり前だけどさ〉


と思ったとたん、いきなり賑やかな声が聞こえてきた。


「あ!、やっぱいねーか。

なんかやる気なくなったなー」


 その声が聞こえると同時に、ミチ君をはじめ、

男子全員が入ってきた。


「ちょっとどうしたの?、

いつもなら遅刻寸前に飛び込んでくるのに!」


 私が、聞くと


「そりゃ紗季ちゃん、

もしかしたら、晴美ちゃんが授業前に、

寄るかもしれないじゃん!」


〈あ、やっぱり同じこと考えたんだ〉


「ばっかじゃないの?

そんな事あるわけ無いでしょ!」


 私は笑いながら冷やかしたけど、

ほんとは同じこと考えたんだけどね。


「だよなー、晴美ちゃんいないなら、

帰ろうかな」


 ミチ君が言うと、男子達がいっせいに、


「とりあえず、カフェでも行くか」


 って、教室を出ようとしたところで、

寧子が入ってきた。


「ちょっとあんた達、もしかして

晴美ちゃんがいないから、帰ろうとしてない?」


 ミチ君達は、図星だったから、しどろもどろで、


「いや、そういう訳じゃないけど・・・」


 って答えた。

そしたら寧子が、


「あんた達、晴美ちゃんに

すぐ同じクラスに行くって、約束したんじゃないの?」


「それは、そうだけど・・・」


 ミチ君達は、バツが悪そうに、答えた。


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 そしたら寧子が、


「だったらちゃんと勉強しなさい!」


 なんと、クラスで一番年下の寧子に、

ミチ達男子が、お説教された。


 しぶしぶ納得したミチ君達は、仕方なしに、

席につくと、教科書を出し、勉強の準備を始めた。


 私は寧子に、


「貫禄だねー、さすが寧子!」


 って、声をかけると、


「ほんとに男ってバカだよね!」


って、寧子から返ってきた。


 私も、それには思わず吹き出しそうになりながら、


「ほんとほんと、救いようが無いよね!」


 って、答えた。

晴美がいない凍えそうな教室が、寧子のおかげで、

すこし、昨日の暖かさを取り戻した。


私は、寧子と話しながら、


〈晴美は、あさひのクラスに行ったのかな?〉


 それが、どうしても気になった。


P50


 この所、晴美の事なんかで、正直あさひの事は

忘れてた。


 って、言うか、考えないようにしていた。

なにしろ、ここに来た目的、まずは


「勉強」

 

 確かに、あさひは気になってたけど、

私の目標は、あくまで


「アメリカ永住」


 日本でのお父さんや家族のことは、

ただの厄介事で、できるだけ関わらないように

したいことだもん。


 こっちに来てからは、自由だし、自分のやる気で次第で、

なんでも出来る、それが嬉しかったし、そのために

日本を捨てる覚悟で来たから。


 そのために、まずは大学に入って、就職して、

アメリカ人と結婚。


 グリーンカードを貰って、そのまま永住。

そのために来たんだもん。


 今のところは、大学に入る前の段階。

まだ、夢の入口に立っただけで、歩き出してないんだから、

あさひの事を考える暇があったら、まずは勉強。

それが、夢への第一歩になるから。


 そう考えて、できるだけあさひの事は、

考えないようにしたんで、晴美がクラスに

来たことは、私とっては本当に感謝だった。


 あさひの事を考えなくて済んだし、

晴美の勉強する姿勢は、ミチ君だけじゃなく、

私にとっても、最初の目的を思い出させてくれる、

大事な時間になった。

 


【グリーンカード:米国永住者または

条件付永住者の資格、 永住・条件付永住者カード】


P51


 晴美がいなくなって、一週間たったけど、

良かった事がある。


 晴美は教室からいなくなって、

上のクラスに行ったわけだけど、

そのクラスが、すぐ隣りだったんで、

廊下では、ちょくちょく会えることだった。


「なんだ、がっかりして損した」


 それは、私達の教室みんなの意見で、ちょっと考えれば

すぐわかることだった。


 でも、言い換えれば、それに気が付かないくらい、

動揺し、落胆したわけで、それくらいみんなは、

晴美が好きだったわけ。


 晴美はどうやら、新しいクラスでも、

国籍問わず同じように人気者で、

晴美と同じクラスの男子は、

浮足立って、それでいて、

みんなが授業に集中するという、

不思議な空間になっていた。


「やっぱり・・・、さすが晴美」


 みんなで感心していたものの、私の心の中は

ひとつ心配があった。


 それは、晴美のクラス替えが決まった時に、

感じたことで、晴美のクラスのひとつが、

あさひとダブっていたことだった。


〈晴美は勉強に真剣で、恋愛なんて眼中にないよね?〉


 私は、授業中の真剣な晴美の顔を思い出して、

少し安心した。


〈それに、あさひは日本人と付き合わないし〉


 それだけならば、晴美とあさひを結びつける

接点がないのだけれど、日本人とは思えない

くらい、授業に真剣って事は、2人に共通している。

 

 それが、紗季の心の中に黒い雲を吐き出していた。


P52


 晴美が、クラスからいなくなって最初の週末、

私達の、晴美がいなくなった寂しさがピークに達した頃、

また、Int'l student party があるって聞いた。


〈ああ、これに晴美は来るかな?〉


 みんなで、Int'l スチューデントパーティーに

行ってから、日本人で英語が話せなくても、

みんなすっかり常連で、他の国の留学生とも、

挨拶を交わす程度には、仲良くなってた。


「確か、晴美が来てからはじめての

パーティーだよね?」


 寧子に聞くと、


「そうそう、晴美ちゃんは、まだ会場で

見たこと無いよ」


 と言った。


 私は、


〈よし、明日のパーティーに晴美を誘おう〉


 そう決めて、授業が終わった後、寧子と2人で、

晴美を誘いに行った。


 晴美を探してカフェに行くと、真っ白なテーブルが

並んでいる中に、一箇所だけカラフルなジャケットが

テーブルを囲んでいる所があった。


〈あ、いるいる〉


 晴美のいるテーブルだけは、いつも人だかり。

だから、簡単に見つかる。


 さっそく私は、


「今週末、他の国から来た留学生主催の、

Int'l student party があるんだけど、

みんなで一緒に行かない?」


 当然、他の国の学生が主催のパーティーだから、

晴美も、乗り気でパーティーに参加するよね。


 晴美の答えは、


P53


「ごめん、うちのホスト、夜出るのとか、

けっこううるさいんだ」


 って、返ってきた。


「え!、そうなの?」


 私は、意外な返事で、心の底から驚いた。

普段から、他の国から来た留学生と英語で

コミュニケーション取ることに、積極的な晴美が、

多くの留学生が集まる、Int'l Partyに参加しないなんて、

とても考えられなかった。


「だから、今までそういうやつ、行ったことがないのよ」


 晴美がそう言ったので、


〈あー、ついこないだまでの私達と同じなんだな〉


 私はそう思うと同時に、


〈それなら、こっちは慣れたもんだね〉


 と、心の中は真っ青な空のように

晴れ晴れとした気持ちになった。


「この前ね、まったく行ったことがなかった、

ミチ君達とね・・・」


 私が説明を始めると、それを遮るように、


「ごめん、それにね、ほかに用事があるのよ」


 と、晴美が一言。

それが、少し強い口調だったから、

私は思わず、晴美の顔をまじまじと見つめた。


 すると晴美は、スッと視線を外して、もう一度、


「ごめんね、ありがとう」


 と、お礼を言って、カフェを歩いて出て行った。

晴美の、なんだか不自然な断り方に、

私も、かなり違和感を感じたけど、

それ以上、詮索しても仕方がないから、


〈じゃあ、しょうが無いよね〉


 って、納得するしか無かった。


 さっきまでの、青く晴れ晴れとした心の中は、

一瞬で、真っ黒な雲に覆われて、

今にも泣きそうになった。


P54


 私は、晴美の意外な返事が、頭の隅に小さく

残ったまま、金曜日の夜のパーティーに出かけた。


 会場では、先にミチ君達が来ていて、

すでに真っ赤な太陽のように、爆発的に盛り上

がっていた。


 寧子が、


「晴美ちゃん来ないんだって?」


って、お酒を飲んで、陽気な気分で聞いてきたから、


「そうなんだよ、なんか用事があるらしいんだ」


 そう答えると、


「そうなんだ。

でも、さっきミチさん達がお酒を買いに、

ダウンタウンに行った時、2人で歩いてる

晴美ちゃんを見たってよ?」


 寧子が、言った言葉にほんとに驚いて、

頭の隅で真っ黒い煙をあげながら燻ぶっていた、

小さな火種が、いきなり轟々と真っ黒な煙を上げて

燃え始めた。


〈あさひと晴美だ!〉


 私は、寧子が”誰と一緒だったか言う前に、

晴美の相手があさひだと確信した。


「それって、Ashでしょ?」


そう私が質問すると、寧子は、


「え?なんでわかったの?」


 寧子が不思議そうに答えた。


「だって、晴美とAshってなんとなく似てない?」


 私がそう言うと、寧子は初めてそれに気がついた様子で、


「そう言えば、お似合いだよね」


そう言って、無邪気に笑った。


 その寧子の笑顔を見て、私の心が、真っ青に燃える

激しい嫉妬の炎が燃え広がった。


「悔しい・・・」


P55


 私は、もとともと負けず嫌いで、激しい性格だったから、

自分が晴美に負けて、あさひを晴美に取られたことが、

どうしても我慢できなかった。


 寧子が、


「どうしたの?だいじょぶ?」


 って声を掛けるまでずっと、

2人の姿が心の白いスクリーンに映し出されて、

そこから目が話せなかった


「ん?ああ、だいじょぶよ」


 私が笑顔で答えると、寧子はすべてお見通しって感じで、

一言、


「たいへんだね」


 そう言いながら心配そうな顔を残して、

その場を離れていった。


 

 寧子に話を聞いた時は、私自身少し驚いたけど、

自分で驚くくらい冷静で、かえってそれが辛さを増した。


〈晴美がクラスを移るって言った瞬間から、

なんとなくわかってた事だもの〉


 そう、一番驚いたのは、晴美がクラスを変わりたい!

って言った瞬間。


 あの時は本当に驚いて、目の前が真っ暗になったけど、

それは、あの時すでに、こうなることがわかっていたから。


 あの時に確かな証拠があったわけじゃなく、

きっと晴美自身もそんな事は、まったく考えていなかった

はずだけど、ただの、勘、そう、ただ漠然とした雰囲気を

感じただけ。


 南の海の、どこまでも透き通る深い水の底にあって、

目の前に見えるのに、絶対に触れないような、

そんな感覚。

 

 晴美が、クラスを変わりたいと言った時に感じた事。


 P56


 私は、その場からすぐに走って、確かめに行きたい

衝動にかられたけど、なんとか気持ちを落ち着かせ、

今は、ここで楽しむことにした。


 それから、しばらく飲んで、騒いでいたけど、

いくら飲んでも、酔えないで、つねに頭の中では、

晴美とあさひが手をつな位で歩いている姿が、

真っ白なスクリーンに映り出されていた。


 一時間くらい経った頃、寧子が


「お酒無くなったから、買い出しに行くけど、

一緒に行く?」


 って、聞いてきた。

たぶん、いつまでも様子がおかしい私に

気を使ったんだろう。


 その気持は嬉しかったけど、もしも

本当に2人が手を繋いでる場面を見てしまったら、

もうここにはいられない気がして、断った。


「ううん平気。気をつけてね」


 寧子は、ちらっと心配そうな表情を見せたけど、

「そう、わかった」とだけ言い残して、すぐに

出て行った。


 私は、晴美が本当のことを言わなかった事と、

あさひが、日本人とでも、気軽に食事に行った事が、

ショックだった。


 もちろん、ここには勉強に来たんだから、

あさひと付き合うとか考えたことはなかったけど、

それでも、いつもあさひの側にいたい、

いつも、あさひの顔を見ていたい、

そう思う気持ちは、偽れなかった。


 その日は結局かなり飲んだけど、

酔えなかったよ。


P57


 土曜の朝、きつい頭痛で起きた。


「いたたた、痛い!」


 あきらか二日酔い。

お酒は強いほうだけど、昨日はいくら飲んでも

全然酔わなかったから、二日酔いになるなんて、

考えてもいなかった。


 それなのに、頭の痛みで起きるなんて!

時計を見ると、とっくに10時を回っていて、

当然、H’ファミリーは、日曜の礼拝に行って

留守だった。


〈ああ、また教会行かなかった〉


 私は昔、英会話を習いに近所の教会に通ってたけど、

いつの間にか、遊ぶことが優先になって、

行かなくなってた。


 それ以来、日曜礼拝なんて行ったことは

無かったけど、アメリカに来て改めて、


〈教会に行く!って決めたのに・・・〉


 心の中がチクっと痛んだ。

でも、今はもっと大きな心の傷口が開いて、

真っ赤な血が流れていたから、教会に

行かなかった痛みは、そんなに、

気にならなかった。


 こんな気持は中学校以来。

これまでは、なんか未来に失望っていうか、

とくに目的も感じなくて、ただ一日が過ぎれば

それでいいと思ってただけだけど、

あさひと会ってから、毎日がドキドキの連続で、

まるで、私のまわりがパステルカラーに色づいた

そんな感じ。


 でも、そんな幸せな気分も晴美が来てから、

徐々に色失せて、今は薄いグレーになっちゃった。

でも、晴美が嫌いなわけじゃなくて、

ただ、自分のやらなきゃいけない勉強に、

気持ちが乗らない、それが重しのように、

心を押しつぶしているだけ。


P58


 散々な気分で週末を過ごし、やっとの思いで

月曜のクラスにやってきた。


「おはよう!」


 朝から素敵な笑顔で寧子が声をかけてきた。


「金曜日は荒れてたねー」


 寧子は何の遠慮もなく、直球で質問してきた。

そんな所が寧子の天真爛漫なところで、

いつの間にかみんなと仲良くなる秘訣何だけど。


「うん、私Ashが好きみたい」


 私も、寧子の直球にたいして、直球で返した。

寧子は普段の私だったら、はっきり言わないで、

なんとなくごまかすのに、はっきり答えたことに

驚いた様子で、それだけ真剣なんだって、

理解したみたい。


「うん、わかってたけど」


 寧子は、そう短く答えると、ギュッと私を

抱きしめた。それはまるで、母親に抱きしめられる

ような安心感。


「諦めちゃダメだよ?

がんばってね」


 その言葉とHugが、私にたくさんの勇気を

与えてくれた。


〈ああ、これが寧子の魅力なんだな〉


 私から見て、お世辞にも綺麗とは言いがたい

寧子だけど、逆に愛嬌があって可愛いとは思ってた。


 でも、寧子が太陽なら、私は月で、それは、

私と妹のようで、なんとなく嫌感じ。


 そんな思いは、私の心の中に、すっきり晴れない、

黒い霧をかけていた。


 だから、明るくて、料理ができて、みんなから

好かれる、


 寧子が、嫌になることもあったけど、

今の寧子のハグが、私の心をどれだけ

救ってくれたのか考えると、やっぱり

寧子は親友だって、あらためて教えてくれた。


P59

 

 晴美が来てから、1ヶ月が過ぎた頃、

あれだけの決心をした、あさひへの気持ちも、

これと言って何の進展もなく、ただ平凡な毎日が

過ぎていった。


 私は、アメリカの大学に入るための試験”TOEFL”を

毎月受けていたけど、どっかの大学に受かるための

最低ライン”450~500点”を取れなくて、なかなか

大学の入学許可が、下りなかった。


 もちろん、毎回500点を目指して試験を受けるものの、

やっと400点を超えるのが精一杯で、最近では試験を

受けても、どうせダメだよねって、諦めの境地。


〈点が取れなくても、ここに居られるんだから、まいいか〉

 

 そんな感じで、妥協していたけど、なるべく考えない

ようにしていた。


 そんな時、晴美がネヴァダの大学に移動するって

噂を聞いた。


 寧子に、


「それってほんとなの?」


 って聞くと、


「ミチさんが、直接聞いたって!」


 私は、心の底からこみ上げる嬉しさを、必死の

思い出こらえながら寧子にもう一度確認した。


 「じゃあ、間違いないんだ!」


 寧子は、期待を裏切らない答えを、


「うん、もうH’ファミリーも決まったんだって」


 言ってくれた。

それを聞いた瞬間、目の前に抜けるような青空と、

真夏のグランドキャニオンの水しぶきを浴びたような

爽快感が、心の中に広がった。


 寧子が一言、


「よかったね」


 私は、嬉しくてつい寧子に、


「ありがとう!」


 って、返事を返した。


「でも、なんでだろうね?」


 私は疑問に思って、思わず寧子に聞いてみると、

寧子が突然、


「よし、今から確認に行こう!」


 って言い出した。


〈しまった!、寧子はこういう子だった!〉

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